場所は変わってとある村……。
私ハルは昨日に引き続き依頼を受けた村に買い物に来ている。
というのもフユがゴゴモアの治療にあたって思った以上に回復薬や薬草を消費したらしく、それの補充をしてほしいと私にお願いしてきた。つくづく私はパシられている気分でシュントと買い出しを行う。
昨日と同じ雑貨屋さんに顔を出す。
「おぉ、昨日のお嬢さん、いらっしゃい」
と、昨日あった店員さんににっこりとした笑顔で語りかけられるので、
「すみません、回復薬が思った以上に足りなくて……」
と私は申し訳なさそうに…する必要はないのだろうが、そんな仕草で返しておく。
「おぉ、わかった…」
なんて言いながら店員さんが回復薬を店の奥の方に入って行って準備しているのを台の反対側から私とシュントで眺める。
実際のところ私たちは10歳ということもあり、こういう仕事をしている大人の姿は興味がある。私たちももしかすると未来こんなことをするのかな……なんて考えることもなくはないのだ。
ふと、そんな風にぼーっとしていた私の服をぐいぐい引っ張られるのを感じた。シュントかな……と思って私はその方を見る。
あれ?と首を傾げる。シュントは少し離れたところで丸くなって寝ていた。なんだと思うと、目線の下の方から、キーキーと鳴く声が聞こえる。
私はその視線を下に落とした。
「キーキー!」
そこにはついてきていないはずのココモアがいた。少し驚いて、私はうわっと声を上げる。
「ココモア、どうしたの?」
私は気を取り直して、少し不思議に思いつつそのことを尋ねる。それでもなお、ココモアはキーキー鳴きながら服を引っ張るのをやめない。
私は少し考える。なんでついてきていないはずのココモアが、そもそも親から中々離れようとしないココモアがなぜここにいるのか、ずっと服を引っ張るのはなぜなのか……。
私はココモアを見る。ココモアは服を仕切りに引っ張っている。そっちは村の出口、あの高い木々の地帯へと伸びる方向である。……まさか、と、私は不穏な気配を感じる。
「はい嬢ちゃん、回復薬だ」
いつのまにか準備を済ませた店員さんが回復薬を台におく。
「うん!ありがと!」
私はそれをばっと急いで取る。お、おぅ、毎度あり、と少し驚くように店員さんが声をかけるも、それを聞く余裕が私にはなかった。
「シュント!急いで!」
私はそう言ってシュントを起こしつつココモアを背中につけて走り始める。シュントは何かを察したようですぐに体を起こし並走するように走り出した。私は走り出すシュントに飛び乗って、
「フユのところに、急ぐよ!」
と、シュントに声をかけた。呼応するようにシュントが加速していく。
シュントの走る間、ものすごく単純に、深刻に、フユの身を心配した。
僕はトビカガチと一旦距離が離れ、そこで睨み合って対峙する。
先程から一進一退の攻防を続けている。
と言っても、どう見ても僕の方が不利になっていた。何を隠そう足取りがだんだんと重くなってきて、息もどんどん上がり、狩猟笛の重さが増したように感じている。攻撃の手数が段々と少なくなっていき、明らかに僕の動きが鈍くなっていた。
対するトビカガチは、ついさっき帯電状態に移行したばかりで、今からが本気モードといったところだろう。心なしか僕が回避する回数も増えているというのに、トビカガチの方は鼻息が荒くなってはいるものの呼吸が苦しそうであるわけではない。
加えて、僕は今ゴゴモア親子を背に戦っている。第一にこの本調子の出ない病み上がりゴゴモアに無理をさせないために……
そう思ってゴゴモアの方に視線を向けて、初めて気づく。
……ココモアが、いない…?
僕はこの光景にかなり動揺した。ゴゴモアが動けないなりに辺りをキョロキョロして、ココモアを探していた。本来ココモアは、必要がない限りゴゴモアから離れることはない。それなのに、今ここには、ココモアがいないのだ。
非常にまずいことになった……と思った、集中力の一瞬削がれたその矢先。
ドン!!と体全体に横から大きな衝撃を受ける。
そのまま僕は5メートルほど吹っ飛んで、ゴゴモアの方にゴロゴロと転がる。まともに着地態勢を取れず、着地時に必要以上の衝撃を受けた。
「…ぐぅ……」
僕から唸るように声が漏れる。後ろでゴゴモアの心配そうな鳴き声が聞こえた。
視界を、歪み痛む体をなんとか動かしてトビカガチの方に向ける。
おそらく今のは、トビカガチのタックルだろう。この攻撃はトビカガチの多用する技で、今まで何回も注意して避けてきた技である。本来の力に加えて帯電での火力増強が入り、より強固なタックルが出来上がっている。僕の横っ腹にも、電極針が数本刺さっているようだ。
僕は痛む体に鞭を打ちつつ、なんとか立ち上がろうとする。とにかく立たなければ、ゴゴモアを守ることができない。
そんなことに懸命になってる間にも、トビカガチは追撃に入っている。その場からジャンプして、滑空、そこから縦回転で尻尾を叩きつける技。
受けきれない…そう思って目を瞑ろうとした。
「うりゃぁぁぁぁぁ!!」
トビカガチの横っ腹に何かが飛んできた。そこには、少女が空中を飛び、その勢いのまま桜色の刀身の大剣が振り下ろされる。
その一撃は、滑空中のトビカガチの無防備な横っ腹にクリーンヒットする。そこに大きな切り傷が入れ込まれた。その攻撃を受けたトビカガチは横に転がり、なんとか立ち上がりその正体を睨む。その細めは睨んでいるのか、はたまたあまりの一撃に痛がっているのか。
飛んできた少女は僕の前に立ってその大剣を構える。その状態で少し僕に視線を送った。桃色のハンター着を身に纏うその少女、僕の憧れ、救世主。
「フユ、怪我はない?」
「…お姉ちゃん……」
目の前に、凛々しい姿で立つハルお姉ちゃんがいた。