「これは…随分と成長しているんですね…」
フユが少し感動した様子でそう呟く。
私たちが調査をするこの雪原地帯は針葉樹林になっていて、それぞれの木がすっぽり雪を被っている。割と間隔を開けて生えている針葉樹たちの間を、ポポの群れが行き来しているようだった。人間の道のようなものは作られていないようで、雪原なだけあり獣道もあまり判別がつかず、結果完全な自然の状態が出来上がっていた。
私たち一行は、まずこのポポの群れがいる地帯で、肉食の大型モンスターの出没しないうちに、植物の調査から始めることにした。恐らく銀嶺ガムートの主食にもなっているだろうし、もしかしたら痕跡を発見できるかもしれないからだ。
ちなみにこういう系統の調査はフユが1番乗り気のようだ。
「これがふきのとう…こっちはシダみたいな葉っぱをしてますね…」
道端の植物それぞれに目を向けて、注目している。その植物の雪を払い、手を添えたりしながら、手持ちのノートに記録している。
「ポポとかはフユ君が見ているような植物を食べているみたいだな」
辺りのポポに刺激を加えないように遠くから観察する一行、双眼鏡を手に持ちつつそんなことを操虫棍使いの青年が言った。
「となると、銀嶺ガムートの方はこの木々の葉っぱとかを好んで食べている…ということなのかしらね」
近くの木に手をかけつつ穿龍棍使いの女性がそう続けた。
ちなみに私はかなり退屈で、シュントを執拗に撫でまくっていた。シュントはやはり嫌そうな顔をしていた。
そんな風に植物の調査をしつつ、ガルクを走らせ銀嶺ガムートの居場所を探す。周辺の村の人々の話だと、人間を襲う程獰猛な銀嶺ガムートではないらしく、村の人々もここに立ち入ったところで時々目にするくらいなので、あまり詳しく位置を知っているわけではないらしい。
「そういえば、この辺ではなぜ銀嶺ガムートが信仰の対象にされているんですかね?」
私はガルクで移動をしている時に気になってそんなことを質問する。
「うーん、シンプルに強大な力を持っているというのも理由にはなると思うんだけどね……」
隣でガルクを走らせる操虫棍使いの青年が首を傾げながら答える。
「まぁ確かに、銀嶺という名前がつくだけあって、山の神もしくは山そのものみたいな扱いを受けてますもんね」
後ろのフユがそれに続けてそう呟く。ちなみにガルクを走らせそれに乗っているにも関わらず、器用にノートを記録していた。このような雪の積もるような地帯は初めてなので、初めてのことが多く記録が追いつかないらしい。
「帰ってきた後にまた住民に話を聞いてみるのもアリかもしれないわね」
操虫棍使いの青年の横でガルクを走らせる穿龍棍使いの女性がそう提案するのだった。
そんなことを議論しつつ、近くにある雪山の中腹あたりに差し掛かってきた。先程よりも針葉樹がまばらになっていて、曇り空と言えどその白く覆われた山肌がはっきりわかる程度には視界が開けている。
「あ!」
突然後ろのフユが声を上げる。
「どうしたの?」
私はその声に反応して尋ねる。その声に気づいたガルクたちは足を止めて、主人の命令を待っている。
「すみません、本を落としてしまって……」
そう言ってフユは、シュントから降りると、後ろの方に雪を掻き分けながら歩き出す。私が積雪に付けられたガルクたちの足跡を目でなぞると、その先にフユの本が落ちている。
「そうかい、大丈夫だよ」
と、操虫棍使いの青年も笑って応えた。
「ふう……、ごめんね、落としちゃって」
フユがおよそ50メートル程度向こうの本のところにたどり着いた。フユが本を拾い、雪を払って本に話しかけている。ガルクも含むみんながフユの方を向いてちょっとした安堵の息を漏らしていた。
その時だった。
ゴゴゴ…という蠢く音がする。みんながその音に気づいてキョロキョロしだす。
「なに?」
「なんだ?」
そばの二人も何が起こっているのかわからない様子だ。
段々その音が大きくなっている。徐々に迫るこの感じ、明らかにおかしい。
「まずい!」
突然フユが声を上げる。
「え?」
私がそれに反応して聞き返そうとした時、フユは叫んだ。
「雪崩だ!」
フユの声に瞬時に反応する三人が、山の上の方を見る。山の斜面を滑り落ちるように、もくもくとした雪煙がフユに向かって迫っていた。
「みんな、にげて!」
フユがこちらに叫ぶ。私は躊躇してシュントをフユの方に走らせようとした、が、
「逃げるぞ!」
青年の掛け声で三匹のガルクが走り出す。フユとは反対の方向に。
「待って、ねえ!」
私はたまらず声を上げるも、誰も聞いてくれない。
「お姉ちゃん逃げて!」
それを聞き取ったのか後ろから聞こえるフユの声。それに反応してパッと後ろを振り向くと。
そこは真っ白な雪煙の領域となっていた。
「フユ!!」
私は悲痛の声を上げた。