「フユ!!」
フユのいた一帯が雪煙に包まれて飲み込まれていく様を、私は目の当たりにする。とても正気を保てる光景ではなかった。
「ねえ!二人とも、止まってください!」
私は同行している二人に対して必死に叫ぶ。二人と私を乗せるガルクたちは、フユの「逃げて!」を聞いてずっとフユがいたところから真反対に走る。まるでフユを置いていくかのように。
「少し山を下るように走ってくれ」
操虫棍使いの青年がガルクに命令する。ガルクはそれを聞いて少しカーブして下へと向かう。私の言うことは誰も聞いていなかった。
「お願いです!フユが、フユが!」
私は必死に懇願する。
「落ち着きなさい」
穿龍棍使いの女性が口を開いて私を制する。
「私たちが雪崩に巻き込まれてはフユ君どころの騒ぎじゃないわ。まず私たちが生き残らないと、フユ君を探すのはそのあとよ」
少し語尾の強い女性の発言に私は声が出せなくなる。絞り出した声は、
「……絶対見つけますからね……!」
という決意とお願いだった。
「この辺までは雪崩は起こってないみたいだな」
操虫棍使いの青年はそういうと、
「そろそろ山を下って雪崩の方に行こう。急いだ方がいい」
そう言ってガルクに命令する。ガルクの走りはやっとフユの方向に向いた。
「なるべく早く着くようにしないとね、フユ君は僕らで助け出そう」
青年が私に向かってそう言った。
「……はい……!」
すっかり焦りも消えた私はそう答えた。
段々と下っている山の傾斜がなだらかになってきた。ここと同じ傾斜のあたりにフユは雪崩によってたどり着いているだろう。私たちはその方向にガルクを進めていく。
「止まって」
唐突に穿龍棍使いの女性がガルクを静止させた。ガルクらもそれを聞いて急停止する。
「どうしたんですか?」
私はそう訊こうと声を出そうとすると……
ドン!!
私たちの目の前で大きな雪煙が上がった。まるで傾斜の上の方から何かが降ってきたような、そんな雪煙だった。
「なんだ!?」
操虫棍使いの青年が声を上げる。
「モンスターよ!」
穿龍棍使いの女性がそう答える。気がついたら、二人ともガルクから降りて、各々の武器を構えていた。私もそれを見て、シュントから降りて大剣を構える。
段々と雪煙が消えていき、その姿が露わになってくる。発達した四肢、特に腕が発達している、真っ白な毛皮、顔の赤い立派な髭と大きな牙。
「…ドドブランゴか……!」
青年が声を上げる。雪獅子ドドブランゴも私たちに気付いたらしく、こちらを向いてグルルと唸っている。
「……子分もたくさんね……!」
続いて女性の方も声を上げる。気がつくと、周りがドドブランゴの子分であろうブランゴに囲まれている。およそ20匹にも及ぶその群れが、各々私たちに威嚇している。
「これじゃ…フユのとこに行けない……!」
完全に足止めを食らってしまったと理解した私はそう唸る。しかしながら、今はここを処理しないことには始まらない。
ドドブランゴが腕を持ち上げて咆哮する。この雪山ではよくやつの咆哮が大きく響いた。
「フユ……!」
今はここにいない私の弟のことが心配になり、そう口にした。
どれほど下ったのだろうか。
僕はホットドリンクを飲みながらそんなことを考える。
僕はつい先程雪崩に巻き込まれてはどんどん山の下へと流された。その後勿論のこと雪に埋まって動けなかったのだが、通りすがりのバフバロもこの雪崩に巻き込まれたのか、バフバロの怪力で僕ごと雪を掘り起こしたらしく、僕はなんとか雪崩から生きて脱出することができたのだ。正直色々な意味で死ぬかと思った。
僕の武器である狩猟笛と、雪崩の直前に落とした本もなんとか無事であり、それの安否を確認できたところで移動をしつつあたりを確認する。なんせ僕はこういう雪の降る地帯は初めてで土地勘もない。とても今自分がどこにいて、ハルお姉ちゃんたちがどこにいるのかもわかったもんじゃない。
周りは先程と同じく針葉樹がまばらに生えていて、他にも小さめの植物が点々と生えてはいるものの、それ以外は真っ白な雪だけとなっている。先程から景色が変わっていないから、これ以上話すことがあまりない。
他に特筆すべきことがあるとすれば、空を一匹の飛竜が飛んでいるということくらいだろうか……まずい。
それを視線に捉えて、僕は危険を察知した。
僕はそれを見た。その影は明らかにこちらに向かって飛んできていた。どんどん影が大きくなっていく。僕はとにかく落下地点であろう今僕がいる位置からすぐに離れようと走る。
ドン!!
僕は飛び込んでなんとか回避した。
辺りに衝撃と地鳴り、そして黒い稲妻が迸る。
衝撃と地鳴りはまだしも、黒い稲妻というあまりに異質なものを目の当たりにした僕は、落下地点を確認して固まった。
そこにいたのは大型飛竜。全体的に白っぽい。頭に一本ツノが生えていて、大きな翼には後ろに伸びる鉤爪のついているような特異な器官が見える。尻尾も一本ではなく、副尾と呼ばれる2本も確認できた。
明らかに普通の飛竜でない、そう確認できた僕は狩猟笛を構える。僕はこのモンスターを本で見たことがある。正直僕の手に余る。
やつは冥雷竜ドラギュロス、冥雷と呼ばれる龍属性の赤黒い電気を操る大型飛竜だ。
ドラギュロスは律儀に僕の方に体を向けると、羽を広げて大きく咆哮した。