ドラギュロスが、まずは翼を広げて咆哮する。辺りが吹雪いているというのに、その声は辺りによく響いた。
それに対して、宣戦布告と捉えたであろう僕の目の前の銀嶺ガムートも、強靭な足で足踏みをすると、
パオォォォォォォン!!
勢いよく咆哮する。その声は、周辺に響くに留まらず、辺りを大きく揺らした。音で体が震えるのを感じて、僕は不思議に思った。
僕の目の前に現れた銀嶺ガムート、その目はとても落ち着いた目をしていた。今敵対しているドラギュロスには向けていない、優しい母のような目。
僕のことを鼻で持ち上げた時もだ。その鼻は雪に覆われていてトゲトゲとしていたのに、なんだか少し暖かく、柔らかさを感じるものだった。
その一連の行為を受け、僕の目の前に立つ銀嶺ガムートを見る。今銀嶺ガムートはドラギュロスに向けて戦闘の意を示している。僕を見つめていたような目ではない。されどそれは似ているもので、……そう、子供を守る親の目だ。
僕が少し感動しているところで、最初に動き出したのはドラギュロス。
空に螺旋状に飛び、銀嶺ガムートの上空に来たところで空中で翼を広げる。すると、ドラギュロスの下の方に数多もの黒い雷が発生する。それは巨体である銀嶺ガムートを取り囲むように発生し、黒く光った。
銀嶺ガムートはそれをあまり動かずに真正面から受ける。少し怯むように目を細めたが、それ以上の反応は見せない。
銀嶺ガムートはそれを受けつつ、鼻を地面に突っ込んだかと思うと、そこから本人の顔面ほどの大きさの巨大な氷塊を取り出す。その時に明らかに地面が揺れ、周りの木々の雪も落ち、僕も立とうとしたところよろめいてしまう。
銀嶺ガムートはそれをドラギュロスのいる真上にぶん投げる。
ドラギュロスは、放電の後隙で上手く避けれなかったのか、少しよろめきつつ足でなんとかその氷塊を受け流す。
銀嶺ガムートはその攻撃をそのまま手を緩めず、なんと豪快に降ってくる氷塊に体を持ち上げ頭突きをする。するとその氷塊は大小さまざまな氷の粒となり、辺りに降り注ぐ。
僕の辺りにもかなりの数飛んできて、僕はそれを手で頭を覆いつつなんとか避ける、今起こっている吹雪と相まって辺りが白く煙立っている。
ドラギュロスは銀嶺ガムートの氷塊によって、空中での体勢維持がまるでうまくいっていなかった。その状態での無数の氷塊の破片による攻撃を立派な翼ごともろに受けてしまい、よろよろと地面に倒れてしまう。
銀嶺ガムートは地面に叩き落とされたドラギュロスに向かって、着実に一歩一歩と足を進める。その一歩が辺りを揺らすが、銀嶺ガムートの目は揺るぎない。
ドラギュロスはなんとか体を起こすと、もう一度飛び立つ。今度は両方の鉤爪のような器官を銀嶺ガムートに叩きつけてくる。
この攻撃は知っている……と、僕は予感する。僕がまともに受けてしまった、あの攻撃だ…。そして、その通りの光景が目に見えた。
ドラギュロスはそこを中心に冥雷を放電。そこを中心に赤黒い球体が膨れ上がり、バチバチと音を立てて光っているのが見える。
銀嶺ガムートは、それを意にも介さず着実に足を進める。
すると、急にドラギュロスの放電が止まった。何があったのかと僕が驚いてみると、ドラギュロスの両鉤爪が、銀嶺ガムートの鼻で巻き取られている。
銀嶺ガムートは少し吠えると、両鉤爪をガッチリ掴んだ鼻をブンブンと振る。左に、右に、と体ごと使って思いっきり振る。
僕はその光景に呆気に取られていた。それもそうだ。銀嶺ガムート相手だからあまり感じないものの、ドラギュロスも人間と比べればかなりの大きさである。それが思い切りブンブン振られているのを見て、驚かない人もなかなかいないだろう。
右に、左に、容赦なく銀嶺ガムートは振った。ドラギュロスは左右に生えている木々に体を打ちつけられて、ギャァと弱々しく声を上げている。
銀嶺ガムートは、その勢いのままドラギュロス左側にぶん投げる。ドラギュロスはされるがままに地面に打ちつけられ、木を数本折って巻き込みながら転がってしまう。
ドラギュロスは、まともに地面に足を踏むことさえままならない状況である。雪に半分自分の体が埋まってしまいつつ、翼や足をジタバタさせている。
銀嶺ガムートはそれを目で見据えると、体を大きく仰け反らせた。後ろ足だけの二足歩行になった銀嶺ガムートは、未だ地面で倒れているドラギュロスへと帳尻を合わせるように体の向きを変えた。
僕はこの攻撃を予感し、そして戦慄した。
銀嶺ガムートはその仰け反らせた巨体をもって、容赦なく地面に踏みつける。
ドォォン!と、今までで1番の揺れを感じる。地面が崩れて、クレーターでもできるのではないかという衝撃が走る。
銀嶺ガムートはそれを一回には留まらず、右、左と足踏みする。銀嶺ガムート自身の巨体を生かしたスタンプ攻撃という豪快な大技に、ドラギュロスは何もできていない。
最後に銀嶺ガムートは、ダメ押しの一発を両足で叩き下ろす。それと同時に、
パオォォォォォォン!!
勝鬨とも思える咆哮をして見せた。
銀嶺ガムートの攻撃が止んだのを確認して、見てみたところ、その部分は大きなクレーターのようになっており、ドラギュロスに巻き込まれた木々はあれだけ丈夫に生えていたというのに粉々に砕かれていた。肝心のドラギュロスはというと、見るも無残な姿だった。
これが、この雪原地帯を統べる者なのかと、僕は足に力が入らなかった。その地を、子供などを守るためにその巨体で全力を振るうと言われるガムート。そして、その強大さから人間から畏怖の念を込めてつけられる二つ名「銀嶺」。その圧倒的な力を、目の当たりにした気がした。