銀嶺ガムートが、連続の踏みつけの最後の大きな一発を踏み込む、同時に、勝鬨とも思える咆哮をして見せる。その強靭な足と轟音の咆哮の両方によって揺れる大地は、まるで大きな地震が発生し、どこかでまた雪崩が起きたのではないかと思ったほどである。
銀嶺ガムートはその一連の動作を終えると、なにかを考えているのか、ドラギュロスを見てその場にじっと立っていた。
辺りは打って変わって静かな雪原地帯へとなった。先程まで視界を白く染めていた吹雪もいつのまにか消えていて、動けば大きく音のなる銀嶺ガムートの足跡も全くしなくなっていることもあり、若干自分の耳を疑ったほどである。
僕は身につけている狩猟笛や本を確認して起立し、銀嶺ガムートの足元、基ドラギュロスを見に行った。
その時銀嶺ガムートとは最初に邂逅を果たした時と同様の至近距離になる。まるで一つの雪山のようにも感じるが、そこには生物としての体温なのか母の温かみなのかがあるように感じる。そのせいで、初めて会ったにも関わらず、二つ名個体というにも関わらず、まるで以心伝心し何も話さないでいるような静かな時間が二人の間に流れている。
視線を銀嶺ガムートの足元のドラギュロスに向ける。周りには銀嶺ガムートに投げ飛ばされた時の木々の残骸が転がっており、先程の銀嶺ガムートの踏みつけで粉々になっているものもある。肝心のドラギュロスはというと、なんとか原型を留めてはいるものの、あの銀嶺ガムートが最後に放った連続踏み付けはドラギュロスの体にはまるで耐えられないほどの衝撃だったことが窺える。
ふと、隣に佇む銀嶺ガムートが動き出した。今までドラギュロスへと向けていた視線を移し、おそらく銀嶺ガムート自身が元々進もうとしていたであろう方向に向き直す。辺りにまた大きな銀嶺ガムートの足音が響く。どうやらここから立ち去るようだ。
僕はそれを見て、遅れて来た思考に従い後について行くことにする。本来の僕たちの目的はこの銀嶺ガムートの調査だったことを思い出した。他のみんなとは別れてしまっているが、ハルお姉ちゃんたちも銀嶺ガムートを探してこちらに行き着くだろう、それを待った方が良さそうだ。
僕は数度攻撃を入れようとしていた相手であるドラギュロスへの敬意を示すべく剥ぎ取りを手短に行い、走って銀嶺ガムートについていった。
銀嶺ガムートは足を進める。僕はそれに置いていかれないように走ってついて行く。雪によりいつもよりうまく歩けないのもあり、銀嶺ガムートの足取りについて行くのがやっとである。この中をあれだけ早く走れるシュントなどのガルクはとてもすごいんだなと、少し感動する。
銀嶺ガムートはどうやら目的地があるようで、自らの進む道の方向以外はあまり見向きをすることもなかった。とは言ってもあまり急ぐこともなく、着実に足を運んでいるようにも見えた。
時折銀嶺ガムートの通る道の脇で、積もった雪を泳ぐように進むウルグたちが確認できた。ウルグは、雪原地帯に生息する肉食の小型モンスターで、外見は白と黒、毛が厚く生えていて、雪と木々にカモフラージュしている。僕ももちろん初めて見た。
そんなウルグたちは、銀嶺ガムートに警戒しつつも、すぐにその警戒を解いていた。こんな雰囲気のモンスターには襲われないと思ったのだろう。
銀嶺ガムートの方も、ウルグたちには全く興味を示さず、視線を向けることはなかった。そういえば、ガムートは縄張りを犯す外敵に敏感だが、小型モンスターにはあまり襲ったりしないらしい。そういうふうに本に書いてあった気がする。
また、時折ウルグたちが僕と銀嶺ガムートが進んでいる方向と反対の方向へ進んでいったのを見て、先程銀嶺ガムートが仕留めたドラギュロスも、このような肉食小型モンスターの餌となるのだろうかと、少し考えていた。
しばらくして、少し針葉樹の密度が上がって来た。どうやら、出発した場所に標高が高くなったらしい。自分の中ではそれほど上下のある道ではなかったが…、やはり雪崩のせいだろうか…。
ここまで考えて、僕はハルお姉ちゃんのことを思い出した。
「今頃何してるかな」
そんなことをポツリと呟く。
正直僕が雪崩に巻き込まれて、ひどく焦っていると思う。ハルお姉ちゃんはきっと僕のことを探しているだろう。なんだか悪いことをしている気分になる。
ふと、視線を感じて前を見る。そこには、今まで周りに目をくれずずっと歩いていた銀嶺ガムートが、いつの間にか足を止め、僕の方を振り返って見ていた。というか、今まで僕がついて来ていたことをわかっていたのかと、少し驚く。
銀嶺ガムートは、僕の方をじっと見ている。やはり落ち着いた感じで、それでもちょっとやそっとでは揺るがない強い目をしている。少し目を細めているように見える。
僕と銀嶺ガムートの間に、ちょっとした静寂の時間が流れた。