「さぁ、急ごう!」
操虫棍使いの青年がそう声をかける。
「…はい!」
私は焦る気持ちを抑えつつ、疾走する風に消されないように声を出した。
私たちはフユと雪崩によって離れ離れになった後、早くフユを助け出そうと動いていたのだが、その行手をドドブランゴ一味に阻まれてしまった。それをなんとか3人で撃退することになったのだ。
ドドブランゴの相手は成人ハンターの二人、ドドブランゴはかなり素早く攻撃を仕掛けてくるのだが、二人は穿龍棍と操虫棍というどちらもかなり身軽な武器でありかなり相性は良かったようだ。しかもこの二人、それ以上にとても動きが洗礼されていて、ドドブランゴ相手にかなり有利に立ち回っていて見惚れてしまうほどだった。
私の方はというと、周りで二人の妨害などをしてくる子分のブランゴたちの対処をした。こちらもドドブランゴほどではないがすばしっこい相手のうえ、数の暴力で攻撃してくるため、私は自慢の大剣をブンブン振り回して薙ぎ払い倒すように撃退した。時折成人ハンター側に攻撃を仕掛けるときはそれをガードしつつ、なるべく早く対処。そうやってフォローに回るのが精一杯なほど、数が多かったのだ。
そんなこんなでなんとかドドブランゴの狩猟に成功した。だが、今はそれに構っている暇はない。
「はぁ、はぁ、…急ぎましょう!」
私は息を上げつつも声を張って気合を入れる。
「えぇ、早くしないと危険だからね」
穿龍棍使いの女性がそう答えて見せる。
そんなやりとりをしつつ各々のガルクに乗ると、3人ですぐにガルクを走らせる。
ガルクを走らせつつ、効果の切れかけていたホットドリンクを呷る。ドドブランゴがこの雪原地帯の中でもかなりの強敵だったこと、加えてかなりの数の子分を使役していたということが相まってかなりの時間を消費してしまった。ホットドリンクも狩猟中に2回も消費してしまったし、それ以上に回復薬を消費してしまっている。ここら辺りの探索にはかなり心許ない所持品だが、今はとにかくフユだ。
これは父からの知識なのだが、雪崩の死因として多いのは雪に埋まってしまったことによる窒息死と低体温症だ。低体温症はホットドリンクで防げるとして、窒息死の方はフユだけでは防ぎようがない。加えてここは群雄割拠状態の雪原地帯。仮に埋まっていなかったとしても、1人でここを生き残れるほど優しい環境ではない。あのドドブランゴを見てもそれはよくわかることだ。
「……ん?」
そんな思考を展開しているとき、私は血生臭い何かの匂いに気づく。
「なんか匂いませんか?」
それに対して、
「あぁ、ガルクも反応しているみたいだな」
操虫棍使いの青年がそう返す。見ると、ガルクが3匹とも周辺の匂いを嗅いでいるようだった
「こんなに過酷な環境だから、縄張り争いの一つや二つありそうだけど…」
穿龍棍使いの女性がそう続けるが、
「……そこに向かってみようか、何かあるかもしれない」
操虫棍使いの青年の一言で、ガルクの足がそちらに向く。
この匂いはフユじゃない、もちろんフユが関わっていれば見つけやすいが、この血生臭い匂いはおそらく獣の物だ、と心の中で反復し言い聞かせる。最悪の想定を振り解きつつ私はガルクを走らせる。
しばらく走らせると、
「……ウルグの群れがいるな」
操虫棍使いの青年がそう口を開く。
そこにあったのは、一体の大型モンスターの死体と、それに群がる解体作業中のウルグの群れだった。まだその解体作業は始まったばかりのようで、大型モンスターの全貌はまだ残ってはいる。が、かなり手痛い攻撃を受けているようで、周りに針葉樹の破片が散らばっている。どれもまだ真新しいもののようだ。
「……これって、ドラギュロス、ですよね?」
私が半信半疑でそう質問する。2人も黙って頷いた。
ここに転がる死体は、かなり強いモンスターである冥雷竜ドラギュロスだ。冥雷という黒い雷を使った大規模な攻撃を扱うモンスターで、とてもウルグが単独で倒せる相手ではない。おそらくその冥雷の攻撃で蹴散らされるであろう。加えて、ドラギュロスの状態を見るに、かなり大きなモンスターからの重い攻撃を加えられているように見える。周辺に散らばる針葉樹の破片もウルグ単体で出せるものではない。となると、
「……縄張り争いがあった…?」
そう考えるのが妥当である。つまるところ、ここはハズレかもしれない、そう思って下を向いてしまう。
「ん?」
私は下を向いて何かに気づく。私がシュントに乗ってそこにいるのだが、その周りの部分だけ積雪が丸く少し凹んでいる。見ると、少し吹雪いたのか消えかかっているものの、周りには同じ大きさの凹みが多く見られる。少し離れたところには、均等に同様のものが見られる。
「…足跡?」
均等な部分も垣間見えることから、どこかへ歩いていったのだろう。
「あら、本当ね」
穿龍棍使いの女性が同様の反応を示す。
「しかもこの大きさ…ガルクもすっぽり入ってしまう…」
操虫棍使いの青年が続けて驚いた声を上げる。正直この大きさの足跡となると、考えられる大型モンスターは一種しかいない。
「……銀嶺、ガムート…」
私の口からこぼれる。私たちの調査対象にて、人間の畏怖を表す二つ名持ちの危険生物。
「…ん?ちょっとまて」
操虫棍使いの青年が何かに気づいたようだ。
「なぁに?どうしたの?」
穿龍棍使いの女性が青年にガルクを歩かせ近づく。青年はやはり下の方を観察している。
「これって…」
そう言って青年が指を刺した先、少し下の方向。
「あっ…」
そこにあったのは、私とおんなじくらいのサイズの人間の足跡だ。ここにくる人間で、かつ私とおんなじくらいのサイズ、こんな条件に当てはまる人は間違いなく1人しかいない。
「これって続いてますよね?」
私はそれを確認する。おそらく銀嶺ガムートの足跡であろうものと同じ方向にそれは続いていた。私はその方向にシュントを走らせる。
「ガムートは外敵に敏感だが、小型モンスターや人間相手にムキになるほど血の気の盛んなモンスターじゃない、多分大丈夫だ」
そう操虫棍使いの青年が私に話しかけてくる。2人もガルクを私の後ろを追うように走らせているようだ。
だがやはり心配である。フユは1人で何をしているのだろうか……。
「…フユ……!」
私は静かに心の声を漏らした。