私はシュントを走らせる。
私たちは、先程発見した銀嶺ガムートのものと思われる足跡、それに続くように残っていたフユのものと思われる足跡を追うようにシュントを走らせる。先程までこのようにガルクを走らせる時は、青年や女性のハンターを横か前に置いて、それについて行くようにシュントを走らせていたが、その足跡を見つけてからはそんなことをしていられる状態になれず、居ても立ってもいられなかった。
シュントの足が速いからか、それとも吹雪が止んでいたからなのか、段々と銀嶺ガムートの足跡がくっきりしているように感じる。段々と針葉樹が密になっていくのが確認できる。
「ハルちゃん!」
後ろから穿龍棍使いの女性の声が聞こえる。
「シュントのスピードを落とした方がいいわ!」
「なんでですか?」
私は思わずそう返してしまう。
「銀嶺ガムートを刺激するかもしれないからだ」
それに食い気味に答える操虫棍使いの青年の言葉。その言葉にあぁと納得した私は、一度冷静さを取り戻し、
「…シュント、お願いね」
と、背中をトントンと叩いて指示した。シュントもそれに答えるように少しスピードを落とす。
そんなやりとりを終え、少し走らせると、見覚えのある影が見える。
「これは…ポポ……」
その群れを見て、ガルクたちが走るスピードを落とし小走りになる。
目の前に現れたのは、4人の時に観察していた時のようなポポの群れだった。大きい個体から子供のような個体まで各々がゆったりと過ごしている。
そして、
「あれが……」
私が見て言葉を止めてしまった。
ポポの群れの奥、周りの針葉樹林の木と比べ一際大きな一本の木の下に、全体が青、先端が白の体毛のとても大きなものが眠っていた。通常個体よりも少し白くなっている頭部の甲殻。今は折っているもそれはとてもずしっとした頑丈そうな足、反り返った牙に長い鼻。何より、私を何倍にも上回るその体躯。間違いない。
「銀嶺、ガムート……」
そこであまりの隙を晒して、それでさえも王者の威厳を示しているかのようなノーガード状態。そんな有様の銀嶺ガムート。
さらにそこにいたのは、
「……フユ…」
銀嶺ガムートの顔のところ、長い鼻の根元の辺りに体を預けて、その銀嶺ガムートの毛並みに手を埋めつつ、すやすやと寝息を立てるフユがいた。私はそのあまりに無防備な寝顔に、なんだか気が抜けてしまった。
「また随分ぐっすりね」
「きっと大変だったのだろうな」
2人も少し安堵の息を漏らしつつそんなことを言った。
すると、銀嶺ガムートの閉じていた目が突然、しかし徐に開いた。少し目だけで辺りを確認し、すぐそばにいる私たちに気がつく。その瞳孔を私たちに向ける。そのとても落ち着いた目を、私たちに向ける。
「あのね、…」
銀嶺ガムートのその目が私たちに何かを問うたように感じた私が、銀嶺ガムートのその図体に少し恐怖心を覚えつつも、なるべく落ち着いて語りかけた。
「そこの子、私の弟なの」
そう言って、フユの方を指差して示す。
銀嶺ガムートは、その目を自らの鼻の根元に寝転ぶフユの方に向けた。すると、銀嶺ガムートは自らの方向へと曲げていた鼻を持ち上げて、寝ているフユを優しく押して揺さぶる。
フユの方もそれに応えて、徐に体を起こす。少し目を擦ってその寝ぼけた目が私と合う。
「あ、お姉ちゃん…」
気がついたフユがそう漏らす。本来雪崩のせいで生き別れにさえなりかけた双子の2人の感動の再会のはずなのだが、お互い気が抜けてしまっていて、なんとも微妙な反応である。
「フユ、どこで寝てるのよ…」
私は呆れたようにそう言って見せた。
フユがその場に立ち上がり、私の方に歩いてくる。銀嶺ガムートはそれを察したのか鼻を邪魔にならないように反対方向に曲げて避ける。
私の目の前まで足を進めるフユ、その場で立ち止まったフユの両頬を両手で押さえて、
「怪我はない?」
そう尋ねる。
「うん、大丈夫だったよ」
フユがニカッと笑って見せた。
それを見ていた銀嶺ガムートは起立する。それだけで、辺りがかなりの大きな揺れに包まれる。
それに反応して、フユは銀嶺ガムートの方を振り返り、
「…ねぇ」
そう声をかける。銀嶺ガムートは直立不動でその落ち着いた眼差しをフユに向ける。
「ありがとう」
その目をしっかり見て、フユはそのように声をかけた。
銀嶺ガムートは、それに低めに鳴いて答えると、重たそうな足を動かし方向転換し、フユに背を向ける。その方向にゆっくりと歩いていくその様を、私たちは長い間眺めていた。
結論から言うと、銀嶺ガムートの調査はそこで一度打ち切りにすることにした。理由としては、フユを休ませるため、ドドブランゴ戦でアイテムの消費が激しかったため、…それから、フユの貴重な体験が聞けたため、だそうだ。
フユがなんとか雪崩から抜け出したところから、ドラギュロスに襲われ、それを銀嶺ガムートが圧倒的な力でねじ伏せて、その銀嶺ガムートについて行って、一緒に寝る、ここまでのフユの一連の体験を聞いて、
「きっと人間慣れしているんだろう、ここは餌となる植物が豊富にあるからそれほど外敵と戦わなくてもいいみたいだし、周りの住民のあまり自然に手をつけない行いもあって、人間と銀嶺ガムートは共存してきたんだろうな」
そういう風に、操虫棍使いの青年は結論づけた。
とは言ったものの、やはりもっと銀嶺ガムートを見ておきたかったという穿龍棍使いの女性のちょっとした我儘も聞き、アイテム等の準備を整えて再度調査に挑戦するそうだ。そのため、近くの村に滞在することにした2人のハンターとは、ここでお別れである。別に私たちも残ってもよかったが、私たちの目的上それほどゆっくりしてられない。
私たちはシュントに乗り、その地帯を背に走り出した。その風は冷たく、身が引き締まる。