翌日、私たちはいつものごとくシュントに乗って、縄張り争いの主戦場へと向けて村を出発した。
出発しようと支度していたところ、村の大勢が私たちの見送りに来てくださった。なんでも、これがこの村の風習らしく、ここではハンターに対して精一杯のもてなしをするのが普通らしい。それでか、昨日の晩御飯が豪勢だったのは。
とはいえ、毎度やっていることながらも、村人は10歳の双子を英雄のように扱うということに対し不服な人もいたようだ。「あんな子供が…」と言った小言も聞こえてきたが、そんなことを気にしていては務まらない。
とにかく、私たちはその村の期待を一心に背負って行くのだ。私たちはシュントを進めつつも、村の人々の応援に対し精一杯手を振って応えてみせた。
今回出向くこの樹海の地帯。雨が多いようで植物の育ちが良く、木々が鬱蒼と茂っており、道は暗く湿っていたりする。巨木に囲まれた大きめの大型モンスターでも縄張り争いを精一杯行えるような広場になっているところがところどころ存在して、そこには低めのシダ植物などが生えている。
そんな暗がりが続く中を私たちを乗せたシュントが風のように駆けていくのだが、突然シュントが急停止した。私たちは慣性により前に大きくつんのめってしまい、私はその慣性と後ろのフユの重みも加わり前に倒れそうになるのをなんとか耐える。
「どうしたの、シュント?」
私は体勢を立て直してシュントに尋ねる。
シュントの方はというと、首を縦にピンと伸ばして辺りをキョロキョロ見回したり、遠くの方を匂いを嗅いだりする仕草をしてみせる。
「…何か見つけた…?」
後ろのフユも気になって私の肩越しにシュントに質問する。
しばらくすると、シュントは前に進み出した。しかしその足取りは先ほどのような俊敏なものではなく小走りで、しかも先ほどのように前だけを見ることなく、辺りを気にしながら走り出した。何かを見つけ、その上でそれを警戒しているようだ。
少し進むと、
「……血の、匂い、かな」
フユがポツリポツリと独り言を漏らしつつ辺りの匂いを嗅いでいる。
「あ、確かに……」
確かに近づくごとにモンスターの血の匂いが濃くなっていっているようだ。なんだか物騒である。
そのまま進むと、何度目かわからない広めの場所にでた。とは言っても、相変わらず日はあまり差していないものの少し明るい場所で、シダ植物の代わりに普段見かける雑草などの方が生えている。巨木に囲まれていて、上の方をツタのようなものが木々を繋いでいるのが見える。
と、ここまでが普通のことである。
「なんで光景……」
「これは、…なかなか…」
2人ともその景色を見て愕然とする。
その光景は、一言でいうと、酷いものだった。
辺りにランポスとジャギィの死体が無数に、本当に無数に散らばっている。全体が噛みつきや引っ掻きの跡に覆われており、見るからに血だらけである。そのせいなのか、最早地面全体が赤く生々しい色に染まっている。まさに地獄絵図のそれである。
私たちはシュントから降りて、ランポスとジャギィの死体を見る。私はあまりに惨たらしいその惨状にとても近づく勇気は湧かず、その場で立ち尽くす。シュントは、それに近づいて、少し匂いを嗅いだり、前足でツンツンと触ったりして、嫌な顔をしていた。
それに対して、フユはすぐにそれぞれの死体に近寄る。私はその行動にびっくりしたが、まぁいつものことといえばいつものことだよな…と自分自身で腑に落ちる。
「傷の主な種類は噛みつきと引っ掻きによる傷、引っ掻き攻撃はジャギィの方しかついていないから、ランポスによる傷か…」
そんなことを言いながら、フユは一つ一つに軽く目を通しながら奥の方に進んでいく。
「噛みつき跡の大きさから見るに、縄張り争いでお互いでつけた傷だ。イビルジョーとかの乱入も考えたけど…」
周りをキョロキョロ見回すフユ。
「…うん、噛みつき跡がそこまで大きくないし、足跡や踏みつけ跡もない…」
そういいながら、首を傾げたりしているフユ。
「ねぇ、フユ?」
私は我慢ができずに呼びかける。つい最近一人で雪崩に巻き込まれたりしたのだ。あまり一人で行動したりしないでほしい。
「あ、うん」
気づいたフユは死体を踏まないように、血で滑らないように走って私の方に来る。
「どう?」
私はわかったことがあったのかとフユに尋ねる。
「あ、えっとね…」
フユは考え込むポーズをとって話を始める。
「とりあえず、ドスランポス率いる群れとドスジャギィ率いる群れの縄張り争いで間違いないと思う。傷もお互いのものだし、乱入モンスターの形跡も見られない……けど…」
そこで少し考え込むフユ。
「けど?」
私はそれを覗き込むようにフユを見る。
「…あまりに数が多すぎる。親玉1体に対して子分が5体とか6体とかは普通だと思う、二桁と少しくらいは少し多いかなって感じ。…でもこの数はおかしい…」
そう言って、フユは視線をその景色に向ける。確かにおかしいのだ、この広い場所全体に敷き詰めるように転がっている無数のランポスとジャギィ。そんな量は見たことがない…。
「こんなまるで軍隊が組めるくらいの量の子分を、親玉1匹でまとめ上げるのは難しいし、生き物の動きとして非効率だ。そんなことをするとは考えにくい…」
そう言って、フユは私の方を向いた。
「なんでなんだろう…」
「なんでなんだろうね…」
私も一緒になって悩んでしまう。
すると突然、シュントがそばで警戒態勢に入る。
「シュント?」
私はそれに気づいてシュントの方を見る。シュントはグルル…と巨木の向こうに向かって唸っている。
「何かモンスターが近づいてきてるのか…」
それを見て悟るフユ。
私は大剣に手をかけた。フユも狩猟笛に手をかける。
私たちは警戒態勢で、その向こうのモンスターを睨んだ。