私たちは、改めて武器を担ぎ直す。
目の前にいるドスランポスとドスジャギィ、それぞれ鶏冠と耳を部位破壊することに成功した。これが親玉の象徴であるため、それがない親玉のいうことを子分が聞くこともない。子分たちの邪魔が入ることはないだろう。
だけど…と、そちらの方を見る。ドスランポスもドスジャギィも、お互いとの戦闘により引っ掻きや噛みつきの生傷は増えていると言うものの、決して痛がる様子や疲れている様子が見えない。
加えて、不思議なことに黒ずんでいる個体だったり、このモンスターたちに似つかわしくない大きな咆哮、それに伴う軍隊にも似た子分の量だったりと、とてもじゃないが普通の個体とは考えにくい。一層気合を入れなければならない。
「お姉ちゃん」
唐突にフユが私に話しかける。
「うん?なに?」
私は聞き返す。
「作戦なんだけど、逃げない?」
「…へ?」
突然フユがそんなことを言うものだから、少し変な声を出してしまう。
「僕たちも同じだけど、ドスランポスとドスジャギィもおそらくそこまでスタミナが残っていないと思うんだ。だから、一度相手のスタミナを底つかせて、そのタイミングを伺った方がいいと思う」
フユはそう言う説明をする。
しかしながら、そのような敵前の作戦会議をドスランポスやドスジャギィが待ってくれるはずもなく、ドスジャギィの方がフユに突進をする。
「うわっと!」
ギリギリのところで、フユが自己強化の旋律と共に、突進してくるドスジャギィの顔の下を潜って回避する。
私も前を見ると、ドスランポスが噛みつこうとしていたので、咄嗟に大剣の刀身でガードする。ただの噛みつきなのに、少し重く感じる。
確かに…と、私は考える。今のようにドスランポスやドスジャギィの猛攻は止む様子はない。それを加味しても、一度体勢を立て直すと言う意味で、一度逃げていくのは割と現実的な考えなのかもしれない。
「その話、乗った」
私は、そうフユに返した。
「シュント!」
フユが逃げの体勢に入るべくシュントを呼びだす。シュントはすぐに呼びかけに応じて、こちらに向かってくる。
全速力のシュントの背中にフユはタイミングよく乗る。続いて私もシュントに跳び乗る。それを確認してシュントはドスランポスとドスジャギィに背を向け走る。
「とりあえず、これだね」
シュントの足には追いつかれないと踏んだ私たちは、腰のポーチから携帯食料と強走薬を取り出して、携帯食料を齧り、強走薬を呷る。スタミナ回復には的面のこれら、長い戦いの最中のこれらはとても身に染みる。味に関してはノーコメントだが。
やがて、シュントはこの野原をリングのように囲っていた巨木の群れの一角に飛び込み、茂みの中へと姿を隠す。
「なるべく遠い方がいいんじゃない?」
私は少し気になって聞いてみる。逃げるのだからなるべく離れていた方がいいと思ったのだ。
「いや、モンスターが近隣の村の方に向かってしまったら元も子もないから、なるべくこの辺で仕留められるようにしたいかな…」
と、少しトーンを落とした声でフユが答える。
「そう」
私はフユの意見も一理あると思い、その方針に従うことにした。
「ありがと、シュント」
私はシュントから降りて茂みの中にしゃがみ、シュントに一旦この場を離れさせる。今やったように退却用の足としてシュントはとても大事になってくる。いざという時のためにシュントを安全な状態で休ませておかなければ…。
そうやってシュントを離脱させた直後、
ガサッ…
その物音に反射的に反応して、
「フユ、屈んで!」
声をかけてフユの背中を下に押す。
フユは半分反応できず、されるがままに屈む。
直後…。
私たちが隠れていたであろう茂みを自慢の鉤爪で引き裂き、その場にドスランポスが飛びかかってきた。危なくあの飛び掛かりをもろに受けるところだった。
「フユ、走るよ!」
私はフユを引っ張り、フユはそれに伴って立ち上がる。そしてその場から駆け出す。
木々の群れを交互に避けつつ、ドスランポスを巻けるように工夫して走る。
少ししたところで、一度一本の大きめの木でドスランポスの視界から消えておこうと、木のそばで足を止める。少し走って疲れたのもあり、無意識に2人とも木に背を預ける。そこでひと息つくも束の間、
「危ない!」
フユが叫んで私を横に押し飛ばし、自分は反対側へ飛び込み回避する。何があったのかと驚いたが、それもまた別の驚きに変わる。
ドォォン!
今度はドスジャギィが私たちを大きめの木諸共仕留めようと、体の側面をフルで体重を乗せて突進してきたのだ。流石に木が折れることはなかったものの、鈍く低い音と揺れが木から地面へと伝わっているのを感じる。聞いたこともない音だ。
この逃げて体勢を立て直すという作戦、思った以上にハードだなぁ…、といまさら遅いことを痛感させられる、しかしそんなことに一喜一憂している暇はない。
私たちはその後も倒木の影に隠れたり、大きな岩の影に逃げたりといった行動を繰り返しながら、ドスランポスとドスジャギィをうまく巻きつつ立ち回って逃げ回っていく。
そして、
「ドスランポスとドスジャギィが疲れているようだ…」
フユが見て報告を入れる。
見たところ、ドスランポスもドスジャギィも段々と足取りが重くなっていき、時折涎を垂らすような仕草も見せているようだ。
勿論の事私たちも中々体力を使ってしまったものの、ここでどうにかしないと、このあとどうにもできなくなりかねない。
「よし、これから行くよ!」
私は自らを鼓舞するべく声を張り、大剣を抜刀する。フユも続いて狩猟笛を抜刀し右肩に担ぐ。そうやって攻撃を再開させようとした時だった。
「待って」
フユが私を静止させる。
「なん…」
私が不服を申し立てようとするにも、
「様子がおかしい」
声のトーンは高くないものの力の入った声よフユ。私はなんのことかと気になりフユの視線の先を追う。そこでは、
ドスランポスとドスジャギィは、子分の死体の肉を食べ始めたのだ。