ドスランポスとドスジャギィは、それぞれの子分の死体の肉を食べ始めたのだ。
「え……」
私たちは絶句する。
ドスランポスとドスジャギィがあまりに強いから、それを疲れさせると言った作戦を取ったのは私たちだ。間違いなくそうだし、現実成功したといえる。
また、大型モンスターが疲労状態になった時、近くの小型モンスターなどを襲ってそれを自らの糧とすることでエネルギーの補充を行うという行動もよくある。ここまでは間違ってない。
しかし、なぜドスランポスがランポスの死体を、ドスジャギィがジャギィやジャギィノスの死体を食しているのだろう。いくら疲れようとも、ドスランポスやドスジャギィはこんな共食いにも似た行いをするようなモンスターではない……。
いや、
「今はとりあえず、攻めるよ!」
私はぐるぐるしていた思考を一旦切り上げ、大きな声で気合を入れ直す。私たちはモンスターの食事をのうのうと眺めにきた訳ではないのだ。
「う、うん!」
フユも遅れて反応する。見たところ、少し血の気がひいていて、唇の血色が悪い。もしかすると、モンスターの生態を深く知っているが故のショックがあったのかもしれない。
「フユ、大丈夫?」
私はフユのことが心配になり一応聞く。
「大丈夫、多分…」
生返事にも聞こえるフユの声。私としてはあまり安心できない返事だが、今はフユを信じよう。
私はドスランポス、フユはドスジャギィの方へそれぞれ駆け出す。
私は大剣をブンと振り上げ背負うような体勢に構えて、食事中のドスランポスの頭に容赦なく叩き込む。
その一発で、ドスランポスは食事どころではなくなり、大きく鳴き声をあげてフラリとよろける。
よろけて体幹の不安定な状態のドスランポスにさらに追撃を加えるべく、私はその振り下ろした大剣の重みを操り、体重を使って大きくぶん回す。大剣が、私の周りに大きな円を描くように残像を残す。
そしてその一撃も、ドスランポスに重く加わり、その勢いに飲まれ吹っ飛ばされる。
私はそのぶん回した大剣をそのまま背負って、ステップでドスランポスの方へ位置調整。
「最後の一発!」
気合を入れて振り下ろす。
まず大剣を降り下ろし、その反動で自分自身の体が持ち上がる。その体が着地した瞬間にその体の反動を大剣に乗せて、さらにもう一発大剣を縦回転させて叩き込む。
これにはドスランポスもたまらず雄叫びをあげ、その場に倒れ込み、ついには動かなくなる。大剣の一発一発のダメージが大きいのもあるが、流石にドスランポスとドスジャギィでの戦いでかなり消耗していたようである。
「……ふぅ」
一先ず安堵の息を零しつつ、大剣を背中に納刀する。少しばかりドタバタがあったものの、なんとか狩れてよかった。
「こっちも行けたよ」
フユの声が聞こえる。声の方を向くと、フユが狩猟笛を納刀し、小型モンスターの無数の死体を踏まないように此方へと歩いてきていた。フユもなんとかドスジャギィを仕留められたようだ。
しかしながら、フユの顔を見ると、やはりどこか迷いや戸惑いが見られる。血色も良くない。だが、どうしてと聞くのは野暮である。
「……剥ぎ取りをしてから帰ろうか、フユ」
私は必要以上のことを話さないように声をかける。
まずはこの依頼の達成を村長に伝え、ここの小型モンスターたちの死体をなんとかしてもらうようにしなければ。流石にこれほどモンスターの血が流れていては、イビルジョーを始め大型モンスターたちがどれだけ寄ってくるのかわかったものではない。
「……うん、わかった」
フユも返事をする。フユも頭の中を整えられたらしく、少し表情が変わった。いつも通りで、しかしながらいつも以上に真剣なモンスターの研究をする者の顔、まぁやっぱり少し暗く曇っていはするものの。
こうして、私たちの今回の狩猟は、後味の悪い形で幕を閉じた。
村長への報告を終わらせてから、私たちは二手に分かれて行動をした。
私は、村の人々に向けて聞き込みをする。
「最近この村や周辺で、何かなかなか見かけないモンスターとかいたりしませんでしたか?」
色々な人々と話をする機会の多そうな雑貨屋さんの店主などに話を伺うも、
「そうだねぇ…、特にないんじゃないかなぁ…」
と腕を組んで考えながらそう返される。他のところもそういう人々が多かった。
対してフユの方は、この村に書庫があるのを聞きつけて、そこに本を漁りに行った。昔今回のドスランポスとドスジャギィのような事例がなかったか調べたり、今まで身につけられていなかった知識があれば身に付けたり、そういうことをしに行っている。
そして、私がそういう作業を続けていくと、一つ、予想通りと言えるような情報に巡り合えた。
「少し遠方の村が、周辺の森ごと嵐に襲われた」
まぁ、これが何に関係するのかと言われると微妙なところである。嵐なんて通常の気象の中でもあるし、仮に古龍のようなモンスターの影響だったとしても、それがモンスターの異常につながることは少ない。
しかしながら、この事例は、何を隠そう私たちの故郷における事例と一致する。故郷でのドスジャグラスと、今回のドスランポスとドスジャギィ、外見のみの共通点といえど、私たちの目に狂いがなければの話だが、これが無関係とはとても思えなかった。
調査を終える。私の成果はこれだけで、フユに至っては成果無しだった。まぁ想定通りである。
結局そのような状態のまま、私たちはシュントに乗り、この村を後にした。
その最中の会話である。
「そういえば、フユは共食いだったり黒ずんだ個体の話だったりの成果はなかったんだよね?」
「正確には、僕の知らない情報で有益なものはなかった、だね」
何か含みのある言い方である。
「てことは、知ってることはあるんだ?」
「うん」
そう言って、フユは少し饒舌気味に話し始める。
「まず共食い。これはモンスターの生態では割とないわけではなくて、飢餓状態のイビルジョー同士、縄張り内のライゼクス同士……、それから1番近いのはドスジャグラスかな」
「ドスジャグラス?」
割と私の中でも聞き馴染みのある言葉が聞こえる。
「うん。まぁこれらがドスランポスやドスジャギィに関係するかと言ったらそういうわけではないけどね」
シュントはその話を聞きながら、なのかはわからないが、いつも通り足を動かしている。周りの木たちが飛んでいくように見える程のスピードである。
「それから、嵐の話だけど、古龍による他のモンスターの変化で1番有名なのは、『狂竜化』かな。これはシャガルマガラが飛ばす『狂竜ウイルス』によってモンスターがおかしくなる現象だね」
「あのドスランポスやドスジャギィも、ウイルスなのかな…?」
「どうだろうね……」
私たちはそこで、熟考により会話が途切れる。
そんな不安を残すような会話はシュントの速度にかき消された。