怖がりなアイルー、シュカ(1)
桜色の大剣を担いだ私は姉のハル。
白色の狩猟笛を担いだこの子は弟のフユ。
2人はガルクのシュントに乗って、ハンター稼業をしながら、とあるモンスターについて調べるために旅をしている。
私とフユは、とある目的のためにシュントを走らせていた。
私たちが数日前に旅立った樹海地方のとある村。そこで私たちは、黒ずんで傷だらけのドスランポスとドスジャギィを相手に狩猟した。
あまりに異質な二頭について調べる、基私たちの本来の目的である故郷を襲った災禍と「フラウデュゴ」について調べるべく情報を集めたところ、その村と少し離れたとある場所で、嵐があったという情報が出たのだ。
その場所というのが、今目指している湿地地帯のとある村だそうで、私たちはその数少ない情報にすがるようにその場所を目指しているというわけである。
シュントを走らせているここ湿地地帯。数日前までいた樹海地帯とさほど離れていないながら、その景色は少しばかり変化が見られる。
大きな変化は、周辺に泥色の濁流が流れるところも見られ、標高の低い地帯は浅く水没しているというところだろう。
とはいえ、植物の変化は少々のもので、種類は低めのシダ植物と細めの広葉樹。樹海地帯と比べて密度が下がり鬱蒼とした印象はない。
そんな中を、私たちはシュントに乗って駆けている。シュントをびしょびしょにするのもなんだか気が引けたので、水に浸かっていない程度の標高の方を走らせている。この周りは小さめな崖が多くあり、標高の高さがしっかりと分かれた作りとなっている。視界は樹海地方より良好で、崖の端に立つと下の水の浸かっている地帯の景色がよく見える。
シュントの速度により生まれる風は、やはり近くを水が流れているのもあり、樹海地方のところからさらに一層湿度の増したものとなっている。天気は重苦しい曇天、もちろん太陽が照っているわけではないので蒸し暑いというわけではないものの、少しばかり頰に当たる風に陰気な重さを感じる。
そんな環境に少し慣れ、周りの景色を見ている時だった。
「……ん?」
私は何かに気づく。何か鳴き声のようなものが聞こえる。
私の声を聞いて、若しくはその鳴き声のような音に気がついて、シュントが走っていた足を止め、ズザザと音を立てて急ブレーキをかける。シュントの方も耳をいつも以上にピンと立てて周りの音に気を配っているようだ。
「…モンスターかな?」
同じく後ろに座るフユもそれに気づいたらしい。耳に手を当てて周りの音を目を閉じて聞いている。
「少し近いね、大型モンスターとかかなぁ」
フユは腕を組んで少しばかり考えている。そして、もう一度耳に手を当て聞く仕草をして、あれ?と首を傾げる。
「近づいてきてない?」
確かに、少しずつその鳴き声のような音が大きくなってきている気がする。それも割と早いスピードで近づいてきているような…。何かと追いかけっこでもしているのだろうか。
「シュント、とりあえずすぐ走れるようにしてて」
ひとまずは無益な殺生も無駄な浪費も避けたい。万が一襲われた時のことも考えて、私はそういう風にシュントに指示を出しておく。
「一応肥やし玉も持っておこうか……」
と、フユはその鳴き声の聞こえる方向に注意をしつつ、腰元のポーチをゴソゴソとする。
と、その時。
奥に見える崖と崖に挟まれた細い道の方、そこから何やら白くて小さなものが動いているのが見えた。
「アイルー……かな?」
その体躯だとおそらくその辺だろうと私はそれを見る。ちょうど谷になっていて光の遮られるところからの登場で少し見えずらい。
その白いものが近づいてくると、やがて四足歩行で駆けてくる様子が見てとれた。やはりアイルーのようだ。
「……あれ?」
「…アイルーだけじゃなさそうだね……」
その向こう側から、そのアイルーを追いかけるように何かが出てくる。
その暗がりから出てきたのは、周辺の景色と全く馴染まない、独特な主張を放つ彩りをもつモンスター。それは細長く丸い嘴からギャアギャアと声を出して、翼をバタバタと動かしながら飛び跳ねるようにアイルーを追いかけてきている。
腹や嘴や翼膜が黄色、翼爪や背中のアクセントが青、そして何より目立つ背中や翼の端は赤、周りにアピールするために彩られたような派手な見た目である。
「クルペッコ亜種だね」
フユはそれを見て少し嫌な顔をしつつ話す。
「なんか嫌そうだね…?」
私はそれが気になってフユに尋ねる。
「クルペッコ亜種は自分の攻撃手段として、鳴き袋を真っ赤に膨らませて、モンスターの鳴き真似をするんだ」
「鳴き真似?」
「うん、それで別のモンスターを呼び出すことができる。フロギィのような小型モンスターからイビルジョーみたいな巨漢まで連れて来るんだよねぇ…」
「うわぁ…」
確かにそれは面倒である。クルペッコ亜種も自己防衛のために奇想天外な手段を考えたなぁと少し感心するも、こちらとしてはそんなことされては依頼されていないモンスターの狩猟を避けられない。
「助けてミャー!」
そんなことを話していると、遠くから来ていたであろう白いアイルーがこちらの方へ駆け寄ってくる。
「お願いしますミャ!助けてくださいミャ!」
シュントのそばまで駆け寄って、そこでピョンピョン飛び跳ねながら声を掛けてくる白いアイルー。
「クルペッコ亜種には申し訳ないけど、ここは追い払うことにしよう」
クルペッコ亜種に追いかけられているアイルー、この構図でアイルーに何を頼まれるかなんてひとつしかない。
加えてこちらとしても厄介なことをされる前にどっかに行ってほしい。
そんな考えがありありと滲み出ているフユの一言。
そんなフユは、腰元のポーチからあらかじめ準備していた肥やし玉を取り出す。
「アイルーちゃん、頭下げて」
私は目の前のアイルーに声をかける。アイルーは大袈裟に地面に伏せて応える。少し震えているように見える、怖かったのだろう。
「よっと」
フユは迫ってくるクルペッコ亜種に向かって肥やし玉を投げる。
それは大きな放物線を描いて、クルペッコ亜種のバタバタと動かしている翼に当たり、そこで弾けた。
クルペッコ亜種はそれに反応して、さらにワーギャー騒ぐように飛び跳ねる。効果は的面である。そんなに翼をバタバタしたら余計臭いがひどくなるだろうに……。
そんな仕草をしながらクルペッコ亜種は、くるっとUターンして逃げ惑うように来た道を戻っていった。
私たちと怖がりな白いアイルー…後に「シュカ」と名乗るそのアイルーは、なんとも騒がしい邂逅を果たしたのだった。