ジュラトドスとの戦いは、明らかに劣勢だった。
「やぁ!」
私はジュラトドスの攻撃をいなしつつ大剣をブンと振り回す。
しかしながら、そのタイミングをわかっているかのようにジュラトドスは地中に潜行する。
そこの水の揺れが収まり、辺りが急にシンと音量が下がる。
数秒後。
私の足元の泥水の水面が不自然に泡を立てながら揺れる。
私はそれを察知して、横に大きく跳び離れる。
そして、ザバンという豪快な音を立てつつジュラトドスがそこから飛び出してくる。飛び出し、そして着水する時に、周辺に柔らかい泥の塊がボタボタと飛び散る。
私は回避直後で苦しい体勢の中なんとかその泥玉たちを避けつつ、間合いを維持するようにジュラトドスを見やる。
私たちはさっきからずっとこんな調子の苦しい戦いを強いられている。
まず私の大剣といいフユの狩猟笛といい、どちらかと言うと一撃の重さに重点を置いた武器とこのジュラトドスは相性が悪い。割と太い体型でありながらかなり泳ぎや潜りが素早く、高頻度で私たちの攻撃を避けられてしまっている。
また、この地面の状態も相性が悪い。足元に少なからず水が流れていて、地面も少しぬかるんでいるようで、思った以上に足を取られてしまう。
それに加えて、ジュラトドスが飛び散らせる泥の塊が辺りの地面に残り、それが私たちの行動を大きく制限させていた。これにハマれば間違いなくジュラトドスの一撃を受けてしまうだろう。
おまけにここは完全に水の流れる地面を泳ぐモンスターであるジュラトドスのホーム、その十八番とも言える地中潜行による戦闘を遺憾無く発揮できる。私たちがここの環境に適応できていないのもあり、このジュラトドスとの戦闘はかなり辛いものがある。
そして、
「これは不味くなってきたなぁ……」
フユは苦虫を噛み潰したような顔で呟く。私もそれの意図を想像できて、それを不安に思う。
フユが心配しているのは、先ほど観察していたあの天然ダムだ。崖崩れの残骸によって出来上がった不完全なダムなのだから、ジュラトドスと会敵していないあの時点でも壊れてはおかしくなかった。
それなのに、今はその至近距離でジュラトドスが暴れている状態である。ただでさえ脆い天然ダムが、ジュラトドスの動きの拍子に崩れてしまってもおかしくない。あの向こうにはおそらく泥水が溜まっているだろうし、あれが崩れてしまっては、いよいよ私たちの生存も危ぶまれて来る。
ジュラトドスが身を翻し、畝り、しなやかな動きでこちらへ向かってくる。彼奴は唇を噛む間さえ与えてくれない。
シュント様の上に乗せてもらって、私は戦線を逃れているミャ。
あまりに急にジュラトドスが跳んで出たものだから、私は腰が抜けてしまったミャ。シュント様が咄嗟に私を口で掴んで離れてくださったおかげで、私はなんとか怪我は免れたミャ。来た道をシュント様が全速力で戻り、近くにあった崖上へと登れるところに逃げ込み、近くのシダ植物で茂みが鬱蒼としているところに私たちは身を隠しているミャ。
しかしながら、まだこちらと合流していないハル様とフユ様は、おそらく未だジュラトドスと戦っているはずミャ。ご主人様方ら私みたいに腰が抜けるようなことはないだろうけど、あまりに不意打ちだったし、もしかすると苦戦しているかもしれないミャ…。
シュント様の方も、ジュラトドスや他の敵が近づいてこないかしっかり耳を立てて周囲に目配りし警戒しているミャ。きっとハル様やフユ様に邪魔が入らないように気をつけているんだろうミャ。
私は今、シュント様の上でビクビクしているミャ。腰が抜けて下半身が使い物にならないわけではもうないけれど、それでもまだ震えが止まらないくらい怖いミャ。
私の目指しているオトモはこんな姿ではないミャ。ご主人様を助けられないオトモはオトモじゃないミャ。
そうわかっているものの、もっと本能の部分で恐怖を感じている私がいるミャ。まるでトラウマから逃げ惑っているようでとても惨めだミャ。
一欠片の思い出がよぎるミャ。
『オトモになりたいミャ!』
私は、村のおじ様にそう話したことがあるミャ。元々私がモンスターを怖がる性格を知っておきながら、おじ様は馬鹿にすることなく、それで尚笑いながら答えたミャ。
『いいじゃあねぇか!カッコいいオトモになれるさ!』
……あの言葉は、とても嬉しかったミャ。
だから、おじ様も、ハル様とフユ様も、裏切っちゃいけないミャ……!
私は一度ハル様やフユ様が今どんな状況か確認するべく、徐にシュント様から降りて、茂みの明るみの方に歩みを進めるミャ。さっきほどではないけど、やっぱり足に力が入っていないミャ。ただ、それでも行かないといけないと自らを奮い立たせつつ私は足を進めるミャ。
すると、急に体がフワッと浮いて、投げられたミャ。気がついたら、シュント様の背中に乗っていたミャ。
シュント様が低く唸って見せましたミャ。
「シュント様…」
私にはその気遣いがとても沁みるものでしたミャ。心強い限りだミャ。
シュント様の歩みにより、茂みからひょこっと顔を出すミャ。丁度この崖はジュラトドスと会敵した場所の上に位置しているようミャ。
先程までいた小さな泥水の流れ、そして、倒木の多く混じった土砂の反対側にはフユ様が言ってた通り泥水が溜まっていて、今にも溢れ出しそうな量だミャ。
そして、その近場で懸命に武器を振るうハル様とフユ様が見えるミャ。この環境に適応しフルパワーを出せているジュラトドスになかなか攻撃が当てられていないようで、息が荒くなり肩が上下に動いているのがここからでも見えるミャ…。
目を瞑りたくなるほどの劣勢、もう勇気と無謀の違いとかそんな御託を並べている場合ではないと反応でわかるミャ。
ここから飛び込んだら危ないとか、とにかく猛攻をするジュラトドスの意識を逸らさないととか、いろんな思考がよぎるも、全部素通りしてしまい、頭が白くなってくるミャ。
そんな中でも、その辛そうなハル様とフユ様の顔を見て、飛び込まずにいられなかったミャ。
「せめて一太刀ミャーー!」
私はジュラトドスとハル様やフユ様がいる崖下へと飛び込んだミャ。