私たちは、帰路についている。
正確には、私たちに関しては帰路とは言い難い。本当は、私たちが先ほどまでいたあの瓦礫置き場のようになっていた場所が私たちの故郷であり、今から帰るところは本来出かけ先だったはずである。それなのに、この災禍のせいで、私たちの帰る場所もなんだかおかしくなったのである。
あのモンスターがドスジャグラスを咥えて空に飛んでいったら、風はやみ、あれほど強かった雨は小降りになった。その状況下において、私たちは、何かこみ上げてくるものがある。
……ベチャッ。
2人は揃ってその場に尻餅をついた。力が抜けた。初めての大型モンスター、更にはあれ程強そうなモンスターまで相手にすると思っていなかった、それもあるだろう。しかし、あのモンスターが去ってから、無性にあのことが思い浮かぶ、込み上げてくるのだ。
……お父さんがいない。
私はやっとの思いで立つ。振り返って、フユの目の前に手を差し伸べる。フユは力無くしてその手を掴む。私はそれをヨッと引き上げて、フユを起立させる。
「……シュント、帰ろう」
私が呼びかけると、シュントはすぐ私の元へ来てくれた。シュントもとても悲しそうな目をしている。
「……そんな目しないでよ」
私は力無く笑って見せる。頑張って笑って見せようにも、私の頬は痙攣しているようだ。うまく顔を作れない。
私はシュントに乗った。続いて、とぼとぼ歩いてきたフユも私の後ろに乗る。それに引き寄せられるように、次々と大人のハンターたちがガルクに乗り始めた。おじさんが先頭に立つ。誰も口を開かず、無言のまま、私たちはガルクを走らせる。
その後も、本当に無言だった。誰も話さず、ガルクたちの水気を帯びた足音しか聞こえない。これからずっと、この雨の降る森がずっと続くのだろうかと思ったほどだった。
私たちは帰る家がなくなったので、昨晩泊めてもらったあの部屋にお世話になることになった。とりあえず帰ったらまず、あんな豪雨に晒された体をお風呂であっためる。フユが先に急ぐように入っていき、次いで私がゆっくりと汚れなどを洗い流した。今まで気がつかなかったが、どうやらあの雨で指先はキンキンに冷えていたらしい。低体温症も近かったようだ。
風呂から上がり私はその部屋に戻る。すると、フユはその部屋のベットの横に置いてある机に向かっていた。何をしているのか純粋に気になった私は、フユの横からそれを覗き込む。
「……えっ…」
私は驚愕した。
フユはとあるノートに絵を描いていた。その絵の内容は、あのモンスター、あのドスジャグラスを一撃で仕留めた、私たちの目の前でいたあの灰のモンスターだ。しかもそれは細部までとことん書き込まれたものでヒレや鱗まで再現されている、10歳の絵とは思えない秀逸なものだった。
「…あ、お姉ちゃん」
フユが私に気がついた。
「…僕ね、」
少し驚いていたものの、おもむろにフユは私を見ながら、語り始める。
「お父さんにならって、モンスターの研究をしようと思うんだ。こうやってモンスターの絵を描いて、そのモンスターの特徴を書いていく。せっかくだからモンスターとも仲良くなりたいし、ね」
フユは視線をそのノートに戻す。
「このモンスターを僕の図鑑の最初の1匹目にする。骨格はクシャルダオラやテオ・テスカトルと似ていて、狩に特化した爪や潜水できそうなヒレ、そしてあの豪雨、嵐を連れてくるモンスターだと思われる。名前は僕がつけて、……『フラウデュゴ』とかどうだろう……」
フユはそこで続きを話すが、そこが聞き逃せない内容だった。
「たぶん、あの嵐はフラウデュゴのものだと、僕は推測する」
私はそれを聞いて胸がずきんと痛んだ。
「お姉ちゃんもわかると思う、あの雨や風が偶然フラウデュゴと共に現れたとは思えない。きっと、彼は古龍のような力を持っているんだ」
「と、言うことは……?」
「……きっと、お父さんの仇なんだ」
私はそれを聞いて、やり場のない気持ちを拳に込める。どんな理由があれど、フラウデュゴはお父さんを殺した。そうかもしれないと言う推測に、私はとても辛くなった。
フユは続ける。
「でも、お父さんはモンスターを恨むことを望んではいないと思うんだ。モンスターの研究家としても、それ以前の人間としての考えとしても……」
たしかに、と私は頷いてしまった。私は、弟に諭されてしまっているようだ。
「……だから、せめて調べていこうと思うんだ。これ以上の被害を出さないために、このモンスターに対しても、悲しい未来にならないために……」
……あぁ、と、私は思う。少し憂う。フユは私よりも、残酷なほどに優しいのだ、と。
「……だめかな、お姉ちゃん?」
フユが再度私を見る。私は、その顔を見る。もう家族は失いたくないと、フユの顔を見て再度思う。
「……まぁ、狩りの腕は私の方があるからね、私もついていくよ、ハルお姉ちゃんが守ってあげる」
私は、そうフユに言ってみせた。フユは、少し嬉しそうな顔をして、
「ありがとう、お姉ちゃん」
と笑ってみせた。
こう言うやりとりをして、少し2人で泣いて、泣きつかれた私たちは眠りについた。