次の日の早朝のこと。
「ね、起きてよ、お姉ちゃん」
……叩き起こされた。
眠いなぁと目を擦りつつ、私を起こすフユの方を見ると、なんとも居ても立っても居られないといった様子。
「……どうしたの……?」
私がむくりと体を起こして、横で私を揺さぶっていたフユの方を見る。窓の外はまだ薄暗く、明け方にも差し掛かっていない。そんなことを気にする私を差し置いて、フユは私の目を真っ直ぐ見て、
「今から、行こう」
こんなことを言い出した。
「え?」
流石にこれは耳を疑った。
「だって、僕たち10歳だよ?それなのにモンスターの研究するって言ったら絶対止められる」
まぁ確かに、その通りだ。私たちは、大人としての扱いを受けるにはまだ早く、大人に混ざれるとも到底思えない。
「……そんなの嫌だ。僕は今すぐにでも『フラウデュゴ』や他のモンスターのことを調べたい……!」
しかし、そうやって止められるのがフユは嫌なのだろう。父親の仇、というと少しずれているが、被害を出さないとかそういうことも考えているはずだ。何より、フユはモンスターの研究には至って熱心で、狩りの時はあまり前に出ずサポートに徹しがちだが、モンスターにかける情熱は凄まじいモノだ。
何より、私だって誰にも止められたくなかった。
「わかった、行くよ」
私はそう返す。と言っても私の中でも既に答えは定まっていたのかもしれない。
「…うん……!」
フユが周りを気にしつつ静かに喜ぶ。そうと決まれば早速準備だ。
私たちは身支度を整える。まずは服、とりあえず変えとして持っていた同じ柄の服を着る。武器は昨晩しっかり手入れできているので担ぐだけ。そして、携帯食料や回復薬などもしっかりもつ。フユは一番手元の所に、筆記用具とモンスター研究ノートを身につけた。
そして、私は置き手紙を机に置く。
『ありがとうございました。』
そう書いて、とりあえず置いておいた。
最後に、今まで寝ていた布団をある程度綺麗にしておく。たつ鳥が跡を濁してはならない。
「行こうか」
「そっと、ね」
2人で静かに扉を閉めて、静かに階段を降りた。下の階は誰もいない。そのことを確認しつつ、私たちは抜き足差し足で玄関まで向かう。玄関まで行けば、シュントに乗ってそそくさと出て行くことができる。そのまま誰にも気づかれずに出て行く……はずだった。
「行くんだな?」
2人でビクッと体を縮こませる。玄関を出た直後、後ろから声をかけられる。バレてしまったのかと、2人はシンクロした動きでゆっくり後ろを振り向くと、そこには、あのおじさんがいた。仁王立ちで私たちをじっと見据えている。
「……いえ、あの……」
私は必死に言い訳をしようと試みるも全くいいのが出てこない。
ところが、おじさんは、
「……ついてこい」
そう言って店の奥の方へ歩いて行った。
私たちは顔を見合わせて疑問符を浮かべつつ、とりあえず奥へと歩みを進めるおじさんの方へ小走りでついて行く。何をされるのだろう……、2人で不思議に思いつつ、怒られるのではないかと怖がりつつついて行くと、少々埃っぽさを感じる倉庫の奥の方にたどり着く。
暗くて何も見えないそこで、おじさんが、ランタンに明かりを灯した。
そこには、並べて2つの武器が置いてあった。
1つは、鋼の刀身に桜柄の模様が入ったピンク色の大剣。あかねさすその見た目に、
「わぁぁ…」
と思わず声がこぼれてしまう。
もう1つは、真ん中を白に黒の斑点、外側を青黒い棘のついたカーブ、所々に白い毛を施した弦楽器のような見た目の狩猟笛だ。
「グィラキエース…かっこいい……」
と、フユの方も目をキラキラさせている。
「いいか?」
後ろに下がっていたおじさんが口を開いた。
「これは、君らの父親からの、プレゼントだ」
その言葉に2人は声を失う。今は少し聞きたくなかったかもしれない。
「君らの誕生日のために、彼が準備していたモノだ、もう少しここに置いておく予定だったのだがな……」
おじさんはそのあと、こう続ける。
「大切にしなさい。これは君たちが大切に扱うために作られたモノだ」
そうやさしく語りかけてきた。
「……はい!」
「わかりました……!」
2人は合わせて返事をする。
2人はそれぞれ各々の武器に持ち変える。新品を扱いたくないと言うむず痒さもありつつ、一生そばにいたいと言う抱きしめたい心地もある。そして、父の遺産という、重みも感じられた。
私たちは、その後おじさんに見送られながら、シュントに乗り出発した。当てがない旅となるため、出発は私たちの村と反対側、北西の方に向かうことにした。おじさんは、無言で手を振って私たちを見送った。
これから何があろうと、この武器で、このオトモで、私とフユの2人で乗り越えて行く。どんなモンスターに会えるか、どんな話が待っているのか、少しばかり不安を感じつつも、どこか悲しげな気分も思い出しつつも、今は真っ直ぐ、シュントを走らせた。