私たちは今一度武器を構え直す。
私たちの目の前に見えるのは、私たちの狩猟対象である黒ずんだトビカガチ、そして、ここを縄張りにしていると思われるゴゴモア。それらは対峙しており、互いに威嚇しあっている。
開幕はゴゴモア。高い木々の枝に糸を絡ませ、体ごと木を揺さぶった。すると頭上から丸い物体がボタボタと落ちてくる。
それらが私たちの頭上からも落ちてきた。私は素早くフユによって、大剣でガードをする。
「……虫…?」
その中からはぞろぞろと小さなブナハブラのような虫がたくさん出てくる。どうやらこれらは毒を持つ虫の巣のようだ。
トビカガチはというと、これを直接当たらないようスルスルとしなやかに避けていく。避けつつも確実にゴゴモアの方へ歩みを進める。
ゴゴモアはそのトビカガチの両横に2本ずつ白い糸をくっつけた。トビカガチが目線を落とし、はっとした顔ですぐに視線をゴゴモアに戻す。
そのタイミングで、その糸の伸びの力を最大限に活かし、ゴゴモアは地面スレスレを飛ぶようにトビカガチの方に跳躍する。
トビカガチはそれを真っ直ぐ上に跳躍し、滑空膜で滞空時間を稼ぐことでなんとか回避する。ゴゴモアはトビカガチの真下を通る。
ゴゴモアはトビカガチにかわされ、その勢いを抑えられぬまま私たちの方へ飛んでくる。
私たちはそれぞれ私が左、フユが右の方に回避を入れる、危なかった……。
ゴゴモアは私たちのいたところに着地。すぐさま振り返り、そのまま糸を前方上方向の木にくっつけて、ゴムの要領でその方向へ跳躍。
そのまま、トビカガチの上に豪快に全身を使ってプレスをかけに行く。
トビカガチはそれを下をくぐり抜けるように回避、そのまま傍に生えていた木に乗り移り、螺旋状にスルスルと登っていく。
ゴゴモアの方はというと、トビカガチくぐり抜けて回避したところまでは見ていたようだが、そこから先を完全に見失い、辺りをキョロキョロとしている。
「あれが、トビカガチが得意とする戦法…」
回避した体を起こしたフユがつぶやく。
「というと……?」
同じく体勢を立て直した私が質問する。
「トビカガチはゴゴモアと同じく樹上で生活するモンスターなんだ。素早く木々を飛び移って、視覚から攻撃をするといった行動は、トビカガチの十八番とも言える……」
フユがそう言って、武器を再度構え直す。私もとりあえず武器を構えて、こちらに飛び火が飛んできた時のために用心する。
トビカガチは木から飛び降り滑空膜をばっと広げる。そしてそのままゴゴモアの真上まで滑空し、ゴゴモアの背中に尻尾を縦回転で叩き込んだ。
いや、正確には、ゴゴモアの背中に張り付くココモアに尻尾が叩き込まれた。
ゴゴモアが痛恨の一撃を被りゴロゴロと転がる。思わぬ衝撃にまともに受け身も取れていなかった。そしてそれと同時に、ココモアの方も宙を舞っている。
そんなココモアを、トビカガチが見逃すわけもなく、その黒ずんでいながらも青白い体に相反する赤い目を獲物に向け、更なる一撃を加えようと飛び込む。
そんなトビカガチを、ゴゴモアはなんとか体を起こし、精一杯の力で横っ腹を殴る。
しかしトビカガチは想定内だったようで、近くの木の幹に着地し、ゴゴモアに視線を向ける。すぐさま体勢を整え、ゴゴモアに飛び込んで噛み付く。
ゴゴモアは痛がるように声を上げる。左肩をがっちり噛んで離さないトビカガチ。
とにかくそれを引き剥がそうとブンブンと腕を振り回し、なんとか噛みついていたトビカガチを振り解く。トビカガチは二回転ほど転がってすぐに体勢を立て直した。
そんなことを繰り返しつつゴゴモアとトビカガチが格闘する。しかしどう見てもゴゴモアの方が部が悪い。
「ゴゴモアはココモアが落ちると、その付近でしか戦闘をせず、自らの武器である糸を使ったりしない」
フユがそう呟いている。そんな最中にも、ゴゴモアが殴り、それをかわしてトビカガチが突進。ゴゴモアの攻撃はほとんどかわされ、トビカガチは攻撃の手を緩めない。
「ココモアを守ろうとする習性によるものなんだ、このままじゃゴゴモアは……」
見るに堪えないという顔をするフユ。ゴゴモアの左肩からは鮮血が垂れ、トビカガチの突進を受けた腕や腹はトビカガチの電気を纏った電極針による更なる激痛を帯びているようだ。
「……グッ!」
歯を食いしばるようにガリっと歯軋りを込めて、私は走り出す。
「お姉ちゃん!?」
フユがそれに驚いてる声が聞こえる。それに止められるほど私は冷静になれなかった。
簡単な話、あのゴゴモアの姿に私たちの実状を重ねたのかもしれない、今は亡き父のためだとか、そんな理屈くさい話では済まない衝動だった。
〜〜〜♪
後ろから音が聞こえた。
「お姉ちゃん!」
フユがその後に呼びかける。体がスッと軽くなった。攻撃強化の旋律を、フユが演奏したようだ。
私は大剣を握る。走りはゴゴモアへどんどん攻撃を加えるトビカガチへ向ける。大剣を抜刀、縦に空振りしながら一回転、二回転。
トビカガチがそのタイミングで視線をやっとこちらに向ける。気づいた頃にはもう遅い。
私は大剣の反動を生かし体を浮かせる。重力の力も借りて私は大剣を振り下ろす。
「ムーンブレイク!」
トビカガチが逃げの体勢に入っていたが、なんとか尻尾から後ろ足にかけてにヒット。尻尾には大きく切り傷が入り、トビカガチは大きく仰反る。
トビカガチがこちらへ向けて軽く唸る。そのまま足を引き摺るように向こうのほうに逃げていった。
「まて!」
私が追いかけようと足を踏むが、
「お姉ちゃん、深追いはダメ!」
フユに止められて一旦足を踏み止める。
トビカガチはそのまま木々の中に消えていった。私たちがそれを見送っていると、後ろでゴゴモアが倒れる音がした。