結局黒ずんだ傷だらけのトビカガチを取り逃した私たち。依頼をそのまま放置するわけにもいかず、気絶したゴゴモアとそれを心配そうに見つめるココモアを放っておくわけにもいかず、私たちはこの狩猟の場となった高い木々の地帯に滞在することにした。
フユは今回の出来事に関して、ゴゴモアに対して申し訳ない気持ちを抱いていたようだ。尤も、今回私たちがトビカガチを出会った位置で狩猟できずに、ゴゴモアの縄張りに入ってしまったのは私たちの失態である。
そこでフユは、自らの持ち歩いている手持ち(回復薬とか薬草とか)を駆使して、ゴゴモアの治療をしてあげることにした。
「薬草は打ち身とかに効くのかな…」
そんなことをブツブツ呟きながらテキパキとゴゴモアの治療をしている。打ち身の傷はトビカガチの電極針が刺さったりしていたので、それをピンセットで丁寧に取り除きながら治療する。左肩の噛み付かれた怪我に回復薬を使ったところ、染みてしまったのかゴゴモアが気絶から覚めてしまったものの、フユが何をしているのかわかったのかじっとしていた。
フユは私と違い勉学面は異常なほど強い。もちろん医学薬学のような今やっていることも私より遥かに秀でており、こういう面では心強い。私は狩り中にしか私の力を発揮できないので少し羨ましく感じる。ちなみにだが、
「私も何か治療のお手伝いしようか?」
と聞いてみたところ、
「お姉ちゃんには任せられないよ」
と苦い顔をして断られてしまった。むぅ。
結果私の方は依頼を受けた村にシュントに乗って行き、買い物をしに行くことになった。お金の方は今回も含め依頼の報酬などを集めたものになる。今回ゴゴモアや狩猟中に使った回復薬の補充やこれから滞在するにあたっての食糧の確保などを主にした。途中でシュントに頑張りましたで賞でお肉をプレゼントしてあげたら息を荒くして美味しそうに頬張っていた。
元いた場所にシュント共々戻ると、
「あぁ、おかえり」
フユはそんなことを私に声かけながら、近くの木を背もたれにしつつ、ゴゴモアのスケッチをしていた。ゴゴモアの方に時々腕の特殊な糸を出す器官を見せてもらったりしながら、細かく記録していた。フユはこういうのは自分の目で確かめたい性格なのだろう、やはりこういう観察などは父がいた頃から大好きだった。それが、薬草採取などに生かされていると思うと、つくづく努力家というか物好きというか……。
キーキー!
近くから鳴き声がするのでその方向を見る。私の足元にいるのはココモア。トビカガチの尻尾による攻撃をまともに受けたはずなのに、ゴゴモアと違いピョンピョン跳ねたりしている。
「あぁ、お姉ちゃん」
「なに?」
フユが私に話しかけてきた。と言っても、視線はスケッチをしている本に向けたままである。
「ココモアと遊んであげてくれないかな?僕はもうちょっと観察していたいし、ゴゴモアも本調子でないからココモアと遊んでやれないんだ」
「えぇ……」
つまるところ、フユの邪魔をしないでもらいたいという意味合いもあるのだろう。フユはいつからこんなに偉くなってしまったのか……。
私の足元でまたキーキーとなくココモア、ねーねーあそぼーと目で訴えてくる。
「……まぁ暇だし?いいけど」
「ありがとう、お姉ちゃん」
私はとりあえず了承した。実際やることがないし、ゴゴモアの傷がまたひどくなってもらっても困る。運動の方もフユより私の方ができる。これはやれというお告げらしい。
そんなこんなで、フユがゴゴモアのスケッチをしている間に、私はココモアと遊ぶことになった。人間の子供と遊ぶのとは訳が違うので何をすればいいかわからなかったが、戯れ合うように体をくすぐってあげたらココモアがよく喜んでくれた。それと追いかけっこも割と楽しんでくれるらしい。時々私の体に登ったり取ったり忙しないココモアは、なんとなく私もみていて楽しかった。
「ところで、なんで私の方を見ているのかな、フユ?」
私はココモアと戯れながらフユに尋ねる。気がついたら、フユが私の方を見てスケッチしていた。
「ココモアの方もスケッチしてる」
フユはスケッチをする本に目線を集中しつつ答える。
気になって私は尋ねる。
「それって私も描かれてる?」
「もちろん」
「なんでなの…?」
「人間と遊ぶココモアは中々見れないから」
果たして研究熱心なのかなんなのか……。
そんなこんなで一日を過ごし、夜になった。ココモアは遊び疲れたのかゴゴモアの背中に張り付いてすっかり熟睡している。ゴゴモアの方も座りながら寝ているようだ。本来ゴゴモアは木の上で張り付いて寝るのだが、怪我でそういうわけにもいかないのだろう。
私たちもココモアの遊びが終わったら、武器の手入れをして、私の買ってきたものを二人で食べて、そのまま寝ることにした。二人で地べたに寝るのは出発して以来続いていて、もうじきに地べたにも慣れてくる頃だろう。
明日何もなくトビカガチが狩れるといいな、そんなことを思いながら眠りについた。