次の日のことである。
僕、フユはゴゴモアの昨日の治療の薬草などをしっかりとって、代わりの薬草に取り替える作業に勤しんでいた。
「これはまた随分綺麗になったね」
僕はそんなふうに驚いていた。薬草は僕たち人間にもかなり効果があったが、これがモンスターにも変わらず効果があるとは思わなかった。これもまた研究の結果として僕の本に記録しておかねば…。
対するゴゴモアの方も、打ち身の方はかなり痛みが引いたらしく、右手でココモアをぶら下げてゆらゆらと揺らしてやったりと遊ばせていた。ココモアの方も昨日ハルお姉ちゃんと遊んだ時のように嬉しそうにキーキーと鳴いている。
昨日のトビカガチとの戦闘とは打って変わって平和な日常のようだ。ハンターという大自然を相手する職業でそんなものを求めるのはどうかとも思わなくはないが、こういう時間も大事である。
とりあえず一連の工程を終了する。ゴゴモアの左肩の噛み付かれた痕は流石にまだ痛々しかったため慎重に手当てしたのだが、思っていた以上に軽傷で済んでいたらしくゴゴモアのためにもなんとも嬉しい話である。
さて、一通りの作業が一段落した。何をしようか。今まで一切話に出ていない時点で察するかも知れないが、ハルお姉ちゃんとシュントは昨日と同じく買い物をしている。理由は手当てを僕に任せている…正確にはハルお姉ちゃんに任せられないからである。今はゴゴモア親子を除くと僕一人である。スケッチも一段落しているし、何をしようか……
ギギャァァァァァォ!!
辺りに咆哮がこだまする。僕はパッと立ち上がり狩猟笛を構えた。今のうちに自己強化の演奏を入れておく。弦を叩くような音が僕の狩猟笛から聞こえる。
そして、一応咆哮の聞こえた先の方に、ゴゴモアを庇うように立つ。トビカガチは樹上も活動圏内、このように高い木々が多くはあるここでは、どこからトビカガチが飛んできてもおかしくない。
ふと、左前方の木が少し揺れる。ガサッと音が鳴り、少し葉っぱが落ちてくる。それを確認しつつ、僕は病み上がりのゴゴモアの方に意識が向かないように、ゴゴモアから離れるように一歩ずつ歩みを進める。
一歩。
まずその木の葉が落ちてきた木。そこはまずいないだろう、移動しているはず…。
一歩。
そこから木の葉が茂るところを視界にとらえつつゆっくりと右前方の方も確認する。狩猟笛を少し握り直した。
一歩。
右前方の方、おかしい。じっと目を凝らすと、赤い目が浮いているのが見えた。目が合う。
刹那。
僕の視界の先から、トビカガチがバッと飛びかかる。飛び掛からんと滑空膜を広げるのは、小さな体躯を大きく見せる威嚇のようである。
それをなんとか左に回避。その僕がいたところには、滑空膜で位置調整をした上で滑空膜を閉じて加速して噛み付かんとしたトビカガチが、こちらの方を見て牙を剥いている。
体は青白い体が全体を通して黒ずんでいて、傷だらけ。加えて、尻尾に大きな切り傷が見える。あれはハルお姉ちゃんの「ムーンブレイク」によってつけられた傷だろう、間違いない。
意を決して先に動いた僕。肩に乗せている狩猟笛を脳天に叩きつけるよう上から振り下ろす。
もちろんトビカガチに左に回避され、そこから頭から突っ込んで来まいと突進体勢に入る。
私はその狩猟笛の勢いのまま前の方に回避。トビカガチの突進は空を切ったものの、そこから180度方向転換して、さらに僕に向かおうとする。
僕はギュッと向きを変えて肩に狩猟笛を構え直す。狩猟笛は重量のある武器、トビカガチの俊敏さに追いつけるわけもなく、次の攻撃はもう避けられない。
一種の賭けをした。僕は、突進のタイミングに合わせて上から振り下ろす。
トビカガチの突進と、僕の振り下ろし攻撃が目の前で合致した。
トビカガチはそれに怯んだらしく、大きく声を上げて仰け反った。今がチャンス……!
僕はさらに追撃を加えんと振り下ろした狩猟笛を左に構え直し、左から右にぶん回す。右に慣性で飛んで来た狩猟笛をその位置で構え、演奏をする。これは、攻撃強化の演奏だ。
流石にそのぶんまわしを後方回避でくるっと避けてみせたトビカガチは、顔をブルブルと振って気合を入れ直すついでに、電極針の静電気を貯める。
僕も攻撃強化の演奏を完了して、定位置である右肩の上へと構える。
そこで二者はじっと、相手の出方を伺った。
正直なところ、この戦いは自信がない。
と言うのも、僕はあまり狩猟は得意でない。座学の方は僕の方が秀でているが、狩猟など体を動かす局面になると、どうしてもハルお姉ちゃんの方が頼りになる。
その証拠に、昨日の戦いで使用された「ムーンブレイク」などの狩技をハルお姉ちゃんは扱えるが、僕はそれらの狩技を一つも扱えなかった。
ハルお姉ちゃんは狩技の習得が人一倍早かった。あまりのそのスピードに父も驚いていた。それと相対するように僕はまるで狩技が扱えず、教えていた父も苦い顔をしていたのを覚えている。
僕は首を横に振って気合いを入れる。
だがそれでも、そのようなハンデを背負っていても、今は僕がトビカガチと戦わないといけない。ハルお姉ちゃんが戻るまでに、ゴゴモア親子を守る、狩猟依頼をしっかりこなす。……狩猟を得意としない自分をどうにかする。
僕は今一度狩猟笛を握る手に力が入る。いつまでも弱いままの僕ではいられない……。
トビカガチと対峙する。二人とも攻撃を開始した。