病み。
6月23日。
アレの日から1日経った。体調は完全に良くなった。前よりも元気になった気分。昨日、私は学校を休んだ。その間にマネージャーの阿部ちゃんに『みこみこ。さんとコラボ配信したいです。』と伝えた。結果的に言うと今は無理らしい。理由としては、みこみこ。さんが個人であり、しかもVTuberでは無いこと。VTuber以外の人とコラボなんてなかなかできないし、今まで前例が少なすぎて、やってもいいのかどうか企業として色々検討が必要だという。
また、もう一つの理由として、私もみこみこ。さんも高校生で同じ学校という点。しかも、一緒に過ごすことが多いので、ボロを出してしまうと身バレ・学校特定に繋がりかねない。せめて、もっと配信に慣れてからでないとダメですと言われた。
あと、もうひとつ阿部ちゃんに言われたことがある。『急だけど、収益化・スパチャ解禁ですよ!おめでとう!やったね!』だそうだ。なんか、流れというかなんというか。もっと重要そうに言ってくれ。私をどれだけ子供扱いしているのか。私は立派な高校生だぞ!
まあ、ともかく収益化は素直に嬉しい。ここまでの努力の賜物だろう。デビューしてからのこの1ヶ月間のことを思い出すと、色々な思い出が蘇ってくる。なんか涙が溢れてきそうだ。1ヶ月しか経ってないのに懐かしい。ん〜でも、辛いことの方が多かったようなそうでも無いような記憶。初配信から本当はやりたくなくて無理やりやらされた感があったし、その他の嫌なこともなんとか乗り切ってきた。でも、それも今となっては楽しかったと思える。
とにかく、収益化・スパチャ解禁嬉しい!
あ、収益化ってことは記念配信しなくちゃ。
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今日は一日ぶりに学校。家に帰ったあとには収益化・スパチャ解禁記念配信だ。
私はいつものように1人で窓の外を眺めている。海が見える風景ってやっぱどっか虚しくなるような気がする。元々海無し県に住んでたからかな?山や森ばっかりの風景が懐かしく感じる。
「ねぇ、青野さん。」
呼ばれた気がしたので顔を教室の方へ向けると、クラスの女子、ギャルみたいな陽キャが数人立っていた。その人たちといつも絡んでいる男子たちも遠巻きにこちらを見ている。一体何事だ?私ここでも何かやらかした?
「な、何?」
「これ見て。」
グループのリーダーっぽい子がスマホの画面をこちらに向けてくる。
そこには蒼井美海の切り抜きが映っていて、大音量で動画が再生される。この切り抜きは今まで私が配信でやらかしたことやデレデレしている所をまとめたやつだ。
「...!?」
「さっきねみんなで話してたんだけど、この蒼井美海って言うYouTuberの声が青野さんに似てるなって。」
「改めて聞くとやっぱ似てるよね〜」
「ね〜。」
「これって青野さんじゃない?」
だめだめ。学校で身バレはヤバいって!そう思い私は否定する。
「ほら〜!やっぱ違うって〜!ていうか、青野さんがこんなこと言わないって〜。」
「だよね〜。青野さんがこんな声出すとは思えないもんね〜!」
そう言って彼女が再生した動画はASMR配信の最後の方の切り抜き。
教室中に私の喘ぎ声のようなものが響き渡る。
クラスの人達がこちらを見たり、目を背けてたりしている。
やだやだやだ。
「恥っず〜!恥ずすぎん?これw」
「それな!w」
「キモイオタクとかこういうの見てそ〜!w」
私のリスナーをそんなふうに言うな!
「てかさ、こういうのってVTuberって言うんだっけ?絵を動かして喋ってさ。それで、お金もらえるんだよ?しかも、それでもてはやされて、デレデレしてばいいじゃん。そんなんだったらせめて顔出したらどう?って私は思うんだよ。」
やめてくれ。
「だよね〜。なんというか自己満というか。ちょっとキモイまであるよね〜。」
やめてくれ。やめてくれ。
「「ね〜。」」
「青野さんもそう思うよね?」
「青野さん?」
どうしてもこの話から逃れたくて、
自分で言ってはいけないことを言ってしまった気がする。
ここまでやってきたことをすべて否定され、自分でも否定してしまった。
「そうだよね!あ、ごめんね、騒がしくしちゃって。」
「だ、大丈夫。」
「じゃね!また話そ〜!」
そう言って女子たちは男子の元へ歩いていった。
私は涙が溢れそうなこの思いをグッと我慢した...
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【祝!】収益化・スパチャ解禁記念配信!!【蒼井美海】
5267人が待機中#ソラカラ #大きい海 #Seaart
「こんみう〜!!ソラカラ3期生の蒼井美海だよ〜!!!」
私は配信前もずっと考えていた。こんなことをしていいのか、リスナーからお金を貰ってもホントにいいのか。そんなことを考えるとまた泣きそうになる。
だが、今日のあったことをみんなに知られてはいけない。なんて言ったって、今日は記念配信だから。と思い、空元気で配信を始めた。
コメント:こんみう〜
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コメント:ようやくここまで来たか
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「早速みんなありがと!ってええ!?みんな投げすぎだよ!ちょ、ちょま!?あ、赤色ばっかりなんだけど!?私が困っちゃうよこんなに貰ったら!お金は自分の趣味に使うとか楽しいことに使わなきゃダメだよ〜!」
コメント:V見るのが趣味やw
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コメント:驚いてるみうちゃんかわいい
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「そ、そーなんだ。すごい速度でチャットが流れてく...カラフルで面白いな。みんなのをひとつひとつ読んで行こうと思ってたのに、これじゃあ読めないじゃん!」
チャット欄が今までにないくらい爆速で流れている。しかも色付きで。前に先輩たちの配信を見たら、ちょこちょこ流れているくらいだったので、そのぐらいなら、優先的にひとつずつ読めると思ってたのに、なんだこれは。読むどころか文字がギリ認識できるか出来ないかぐらいの速さで流れていく。読むのなんて無理じゃん。私はそんなことを思いながらなんとか嬉しそうな雰囲気を作る。
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みんな優しいな。私のためにこんなにお金を投げてくれるなんて。でも、こんなに貰ってもいいものなの?
「こんなに貰っちゃっていいのかな。私には勿体ない気がするな。」
こんなに貰ったらまた何か言われるかもしれない、そんなことを考えてしまう。別に身バレした訳では無いのだから、そんなことはありえないのだが。
コメント:今までみうちゃんが頑張ってきた証だ
コメント:ファンは応援してるぞ!
コメント:
コメント:みうちゃんのためのお金だ!
コメント:努力の結晶
「あ、ありがと。みん、な。う、うっ...」
コメント:どうした!?
コメント:大丈夫?
コメント:泣いてる!?
コメント:嬉し涙か?w
私は知らぬ間に泣き出していた。とても胸がぎゅっと締め付けられるように感じる。配信前に心の奥に押し込んだのに。我慢しきれずにその想いが溢れてしまった。ヤバい。泣いちゃダメだ。スパチャをもらえて嬉しいはずなのに。苦しい。
「う、うっ、ごめん、ね?今日あったことを思い出しちゃ、った。」
コメント:大丈夫?
コメント:泣くなよ
コメント:俺たちがついてるぞ
コメント:これからもついてくぞ
コメント:涙拭いてやるよ
コメント:何があったかは知らないが俺らはみうちゃんのこと好きだぞ
チャット欄を見てまたさらに涙が溢れてくる。泣くな泣くな。みんなが心配するだろ。
「っん〜、ひっく、んっ...うっ、うっ」
そんなこと考えても涙は止まらない。上手く喋れないほどに。
コメント:ほんとに大丈夫?
コメント:配信出来そうにないな
コメント:無理しないで
コメント:
コメント:配信終わっていいよ
「配信、をっ、おわ、っていいの?」
コメント:大丈夫だよ
コメント:
コメント:無理すんな
頭の中で学校で言われた、自分で言ってしまった『きもい』が頭の中でループする。
マネージャーの阿部ちゃんからメッセージが届いた。
『今日はもう終わりにしましょう。気持ちが落ち着いたらまた配信しましょう。』
終わりたくない。けど、涙が止まらない。これ以上配信したら色んなものが崩れてしまいそう。
「う、うん。わかった。やっぱり、今日、は、終わりにしても、いい?ご、めんね?記念配信な、のに...うっ」
コメント:いいよ
コメント:みうちゃんのことの方が大事
コメント:しっかり休んでもろて
コメント:待ってる
「ありがと、みんな、おつ、みう...」
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【祝!】収益化・スパチャ解禁記念配信!!【蒼井美海】
3.2万回再生#ソラカラ #大きい海 #Seaart
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私はベッドの中に潜り込んだ。
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○蒼井美海@miumiu32・2分前
ごめん
○ 253 ⇄ 965 ♡ 8,563
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挿絵っていります?実現するとは限りません
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別にいらない
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あった方がいい、いる
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絵を描け
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小説書くのに集中しろ