私は今、机の上に置いてある一枚の紙とにらめっこしている。その紙とは進路希望調査の紙である。志望校を書く欄が第3までと、就職希望という欄。1ヶ月くらい前に貰った紙だが、3Dのことや配信のことですっかり忘れていた。そして、クラスで私だけ出していない状態になり、さっき先生に早く出して欲しいと言われたところ。
就職って言うところはなんというか、既にしている?というか。ソラカラのVTuberだし。
けど、進学先は全く考えてなかった...いや、今のところ考える暇がないほど濃い高校2年生の生活を送っていたから、志望校なんてものは特になかった。
...しかも、勉強もあまりできてなくてテストやばいし。阿部ちゃんにも心配されるくらいだもんなぁ。相当やばいんだろうなぁ。やりたくないなぁ。もう私ちゃんと仕事して稼いでるし、VTuberやり続ければ良くない?(現実逃避)
まぁ、これで決定ってわけじゃないしまた今度でいいか。
私は適当に書き、それを提出して学校から急いで帰った。
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実は、最近生活の形式が少しだけ変わった。ダンスレッスンが加わったからだ。いつもは学校へ行って、帰ってきたら配信準備をして、夜に配信を始めるという生活だったけど、最近は学校から帰ると直ぐに着替えが入ったカバンと共に電車に乗る。
でも、今日は事務所に行く日だ。阿部ちゃんとミーティングがある。いつもの週一のミーティングは通話で話しているのだけど、事務所でやるって事は何やら重要なことらしい。こんなこと今までにイベントの時しかしたことないくらいになかなかない。
重要なことってなんだろう。やっぱり今度の3D配信のことかな?それともまた何かやらかした!?最近はそんなヘマしてないけどなぁ。
...してないよね?
大丈夫なはず。うん。(?)
そういえばこの前阿部ちゃんにデートしないかとメッセ飛ばしてみたんだけど、なんて言われるかなぁ。まだ返事はないんだよなぁ。もちろん、阿部ちゃん行きたいところある?ということからだけど。(直接『デートしよ!』なんて言えるわけない)
OKだったらどこ行こうか。そんなに遠出はできないだろうし、やっぱりショッピングとか?
レン先輩と行った時もそうだけど、男だったら陽キャでリア充なんだろうなぁ。女の人デートに誘ってさ。まあ、それは仕方がないけれども。
とりあえず、阿部ちゃんに返事を聞いてから考えよう。
駅から歩いていた私はいつの間にか事務所に着いていた。中に入って、すれ違う会社の人やイベントの時に見た事のあるスタッフさんに少しを目線を外して軽く頭を下げながら目的地へ向かう。
傍から見たらどう見えてるんだろう。女子高生が歩いていると変じゃないだろうか。それとも目線合わせてないからただの陰キャに思われてるかな...?さすがに半年ぐらいいたら
そう。今日は会議室でミーティングをする。これもまたなかなかない事だ。
扉を前にすると普通の大きさの扉なのにすごく重そうに見える。ここで間違ってないよな...?と3回くらい扉の文字とスマホのメッセージで目線を行ったり来たりさせる。
「...よし、ここであってるよね?」
私は深呼吸して、ゆっくりと扉を開けて中にな誰もいないことを確認しながら中に入った。
中には会議用の机と椅子が並べてあり、私はその端の椅子にちょこんと座った。
「ちょっと早すぎたかな...」
スマホを開いて時間を見たら、予定よりも1時間も前に着いてしまった。外に出て時間を潰すのもいいけど、今日はこの後レッスンあるから体力使いたくないし、外でなにかするにはお金がいる。残念ながら手持ちは電車乗る用のICカードと小銭入れしかない。
さらに言えば外ふらついて会社の人に迷惑や変な風に思われるのは嫌。前はみかん先輩に誰かの子供だと思われて追いかけ回されたわけだしね。
てことで要するに残される行動は一つだけ。
「座って待つか...」
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○蒼井美海@miumiu32・2分前
今日はミーティング!って張り切って来たら、時間めっちゃ早く着いちゃった...
○ 12 ⇄ 15 ♡ 265
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私は報告ツイをし、しばらくソラカラメンバーのツイートにいいねしたりリプしたりしていると、discordでメッセージが来た。
「...!?」
珍しくみかん先輩からだ。
蒼井美海:会議室です、この後ミーティングするんです。でも、早く着いちゃって少し暇です。
白榊みかん:私も今事務所いるんだー!少し暇だからおしゃべりしに行っていい?
蒼井美海:いいですよ。
陽キャだ。さすがの行動力。ソラカラのトップタレントだ。人と話すのは苦手だけどみかん先輩はそこまで抵抗感じないんだよな。そんなところがここまでみかん先輩が人気な理由かもしれない。
みかん先輩は今日何しに来たんだろう?同じミーティングかな?それとも何か配信関係かな?さすがにあそこまで人気だと忙しそうなのに、すごい人。いずれは私もああなるのかな...。
しばらく椅子に座って待っていると、部屋の扉が開いた。
だけど声がしない。みかん先輩なら多分「みうちゃ〜ん?」って言って呼んでくれるのに。
すると、扉の向こう側から人が入ってきた。やっぱりみかん先輩じゃない!でもそれは阿部ちゃんでもなく、全く別の女の人で、私は姿勢を低くして机から覗くようにする。
その女の人は綺麗で、でも子供っぽさも残るようなかわいい様子。髪の毛はボブで茶髪だ。首に社員証がかかってるから多分ソラカラのスタッフさんなんだろうけど....
しばらくすると、両手で顔を覆いバタバタし始めた。なんというか『っん〜!』って悶える感じだ。
どうやら部屋の隅にいる私には気づいていないようだ。
人見知り発動中の私は話しかけられずにずっと様子を見ていた。なんだか面白い。なんか私が初配信でレン先輩にコラボ誘われて恥ずかしくなった時と似てる気がする。推しに反応して貰えた時みたいな。嬉しさと恥ずかしさの気持ちの交差点。表現しきれずに溢れ出す感じ。
その瞬間、私と女の人の目線はぶつかった。目が合った。驚きの顔をする女の人。
お互いの恥ずかしさがMAXに達する、その瞬間私は顔を逸らし、紛らわそうとする。
その女の人は私と同様に顔を逸らすのは確認したが、その次の瞬間に部屋を飛び出て行ってしまった。
「い、今のは一体なんだったんだ....」
しばらく、ぼーっとする時間が続く。
するといきなり扉が開き、「みうちゃーん?!」とみかん先輩が飛び込んできた。
「こ、こんにちわ、リアルで会うのはお久しぶり、です。」
「やほやほ、みうちゃん!なんか少し痩せた?」
「たぶ、ん?最近ダンスのレッスンが始まったんで。」
「そっかそっか、もうすぐだったね3Dお披露目!」
「はい、と言ってもまだ1ヶ月ありますけどね。」
「1ヶ月なんてあっっっとゆーまだよ!」
「そ、そうですか?あ、でもVTuber初めてから時の流れが早くなった気がします。」
「みうちゃんは最近楽し?」
「っえ...?もちろん楽しいですよ?」
なんでそんなこと聞くんだろ。後輩だから?私がまだ子供だから?まあ、楽しいことに違いは無いけど...
「....ならよかった!たまにね?ほんとたまにだよ?レッスンで頑張ってるとこ後ろから覗いてるんだよ?気づいてないでしょ」
「えぇ!?ほんとですか!?気づかなかった...」
「あのあれ、よく言うじゃん?後方腕組み?ってやつしてるの。『うんうん、頑張ってるねぃ。』って」
「恥ずかしい...。」
「なんか困ったら頼ってよね!先輩だからね!いつもとは言えないけどちゃんと見てるから」
「は、はい!」
「それはそうと、昔を思い出したよー。色々大変だったしね。」
「そ、そっか、先輩って2年くらい前からでしたっけ。」
「そうそう、VTuberっていうジャンルが出てきた当初だったからさ、最初はみんな3Dモデルスタートで普段の生活からすっごく意識したよ。」
みかん先輩は約2年前、VTuber黎明期と言われる時代から活動していて、ソラカラの地位をここまで押し上げた張本人であることに間違いは無い。VTuberの道を作ってきた人だ。私はこの人の作った道の上を歩いていると考えると少し嬉しく思うと同時にそんなすごい人と一緒に仕事をしていることに感動を受ける。
「みかん先輩のお話は聞けるって、偉人の言葉を聞いてるみたいです。まあ、ソラカラの偉人ですけど。」
「嫌だな〜もう、偉人だなんて。まあ、そんなこともあるけどー、やっぱりソラカラがここまで大きくなってとても誇らしい気持ちはあるよ。でもVTuberってまだまだ一般には浸透してないところあるでしょ?だから、そういう私のことをまだ知らない人たちにも知ってもらってライブや配信を楽しんでもらうのが今のところの目標なんだ!」
私だってVTuberになって今の目標はライブで見てくれてる人を笑顔にすることだけど、みかん先輩はまだ知らない人達までに自分を見せようとしている。似てるようで私にとっては遠い目標。
「す、すごい。やっぱり見てない人からするとまだVTuberってなんだ?って感じですもんね。」
「そうそう、リア友でも知らない子はいっぱいいるし。まあ、ソラカラ教えると身バレしちゃうかもだからなかなか布教はしないんだけどね。」
「リ、リア友...(ななちゃん含めて3人しか居ねぇ)」
「ん?どうかした?」
「い、いえ、なんでも...ないですぅ...」
リア友少ない方が身バレしないしいいよね!配信に時間使えるし!外に出なくて済むしね!....うん。
「あ、あ、そうだ!先輩は今日は何してるんですか?」
「あー、えっとね、今日から新しいマネちゃんが就く事になってね?それの挨拶というか引き継ぎというか。なんというか、私って初心者向けらしいし。色々言ってくれるからやりやすいって前のマネちゃんは言ってたよ。」
「へぇ、新しい人はどんな人だったんですか?」
「他のところから異動になってきたらしいんだけどね、最初だからすごい緊張してたよ。初配信の時のみうちゃんみたいにね。」
「っな...!」
今日一日で初配信のことを2度も思い出させられるなんて...
...ん?なんかさっきその状態の人見たぞ...?
「ってか、その人ボブで茶髪の人でした?」
「う、うん?そうだけど...なんで?」
「い、いえなんでもないです!」
やっぱあの人か。みかん先輩のマネちゃんだったか。ま、まあ、私には関係ないし?さっき見た事は無かったことになるよね?
「あ、そろそろ時間だ!戻らなきゃ。じゃあねみうちゃん、楽しかったよ!」
「あ、はい!楽しかったです!ありがとうございます!」
みかん先輩はそう言って部屋を出ていった。話すだけでおもしろいなみかん先輩は。もうソラカラは彼女だけで回せるんじゃないか?
私もあんな感じになりたいなー。そんなビジョン全く見えないけど。
そこでまた、ノックが聞こえ部屋のドアが開く。
今度こそ阿部ちゃんだった。気がついたら時間がミーティングの時間になっていた。そんなに時間は経ってないように感じるけどな。
「こんにちは、美海さん。」
「こんにちは。あの、メッセージ見てもらえました?」
「メッセージ...?ああ、あの行きたい場所ありますかってやつですか?」
「は、はい!」
「どうしてまたそんな質問を...?」
「そ、それは...日頃のお礼にたまには一緒に遊べたらなー...なんて思ったんですよ。」
「はぁ...あのですね?私は仕事で美海さんのことをサポートしているんです。しかも、最近は美海さんはダンスやったのレッスン、配信、学校で忙しいでしょ?スケジュール的にも厳しいものが...」
「だ、ダメってことですか?」
「...いいえ、来週の日曜日だけ確か何も予定無かったはずです。美海さんも私も。」
「ほんとですか!?」
「はい。その日ならまぁ夜遅くならなければいいでしょう。ただこの日はちゃんと休息の日として取っていたのであまり無理な遠出は出来ないですが...」
「やった!!遊びに行ける!」
「ちゃんとレッスンや配信、勉強もしてくださいよ?」
「はーい!わかりました!」
よし、これで阿部ちゃんに日頃心配かけているところを取り返すぞ!
「美海さん、ミーティング始めますよ?」
「は、はい!今日はなんかあるんですか?」
「はい、案件です。」
「案件ですか...へ?案件?」