*————404 Not Found————*
妹の幸せは、兄の幸せ。
これが俺の座右の銘。
ライスシャワーは少し気弱な面もあるが、誰かのために一生懸命になれる優しさを持つ、俺の自慢の妹だ。
昔、ライスがまだランドセルを背負っていた頃。『自分の夢をキャンパスに描く』という宿題をライスが取り組んでいたのをたまたま見かけたことがある。
後ろから絵を覗こうとする俺に気づいたライスは、恥ずかしそうに絵を隠す。しかし、俺の目はライスの絵をバッチリと捉えていた。青いバラをモチーフにした勝負服を身に纏う少女が、大歓声の中で一着を勝ち取る絵を。
『ライスは絵が上手いなぁ。最強のウマ娘になるのがライスの夢なのか?』
俺が冗談交じりにそう聞くと、ライスは首を横に振った。そして小声ながらも力強く、自身の夢を語ってくれた。
『ライスね、青いバラのようなウマ娘になりたいの。お兄さまも、お母さまも、お父さまも。ライスの走りを見てくれるみんなを幸せにできるような、そんなウマ娘に…!』
そのライスの夢を聞とき、やはり俺たちは兄妹なんだなぁと改めて実感した。何故なら、俺もライスと同じような夢を持っていたからだ。
俺とライスがまだ幼き頃、両親に連れて行ってもらった有マ記念。その頃の俺はライス以外のウマ娘に興味はなかったが、レースを観戦して価値観が180度裏返った。2500mを全力で駆け抜けるウマ娘たちの姿を見て、心の奥底が熱くなるのを感じたのだ。
ウマ娘たちの力になりたい。見るもの全てを魅了し、勇気づけ、幸せにするような、あの走りの手助けをしたい。それが、あの日からの俺の夢だった。
ライスの夢と俺の夢。立場は違えど、向かうべき場所は一緒だ。俺は自分の夢を叶えるため、そしてライスの夢の手助けをお兄さまとして全力で遂行するため、苦手だった勉強にも必死で取り組み、見事トレーナー試験に合格したのだった————。
*————404 Not Found————*
「そして俺は今に至るってわけだ。良い話だろう?」
『記憶の捏造はよしたまえトレーナー君。君の夢は本物だろうが、君が大阪のタコ焼き屋夫婦の一人息子であることは、シャカールくんがトレセンのデータベースをハッキングして得た個人情報から確認済みだ。ライスくんが妹だった過去なんて存在しないよ』
「うるさい。俺はお兄さまだぞ」
『うーん、これは重症だねぇ』
タキオンが何を言っているのか、俺にはさっぱりわからない。俺とライスが仲良し兄妹であることは周知の事実だろうに。なぁ?
心に余裕を取り戻し、精神的にも元気になってきた俺は、タキオンと駄弁りながらカフェテリアへと足を運んでいた。
ここに足を運ぶのは今日で二度目。お昼時と比べてると閑散として見えるが、探しウマ娘がいる今は好都合。すぐにライスを見つけることができた。
「うぅ……やっぱりライス、悪い子だ……」(68)
……のだが、何やらライスの様子がおかしい。ショートケーキを食べているハズなのに、瞳には涙が溜まっている。好感度が普通に高い数値で安心してる場合じゃねぇぞオイ!
「どうしたんだライス! いったい何があった?!」
「お、お兄さま……ライスね、イチゴさんを最後に食べようと取ろうとしたら、床に落としちゃって……。イチゴさんに悪いことしちゃった……」(67)
ショートケーキが乗ったお皿の隅っこにポツンと置かれた苺。よく見ると、少し埃が付いている。見た目的には3秒ルールを大きく違反してしまったようだ。
ライスは苺を食べられなかったことに対して泣いている訳じゃなく、苺を食べてあげられなかったことに慈悲の涙を流しているのか。なんて優しさ、地上に舞い降りたエンジェルとはライスの事だったんだな……。
しかし、いくら優しいからとは言え、泣いている姿をそのままにはできない。お兄さまが何とかせねば。
「ライス、ちょっと待ってろ」
「お兄さま……?」(68)
俺はすぐにカフェテリアの受付に向かい、ライスと同じショートケーキを注文。頼んで間もなく出てきたケーキを片手にライスのもとへ戻る。
「ちょうど俺もショートケーキの気分だったんだ。ライス、苺を交換しよう。あむっ」
「ふぇっ!? お、お兄さま!?」
俺は自分のケーキの苺をライスのケーキに乗せ、代わりにライスの苺を口へを放り込む。少しジャリジャリするが、苺特有の甘酸っぱさは損なわれていない。
「お兄さま、 イチゴさんぺってしないと! お腹こわしちゃうよ!」(67)
「大丈夫大丈夫、俺の胃袋は頑丈だから。意外と美味しかったし」
「で、でも……」(68)
「苺さんも美味しく食べられて喜んでる。だからもう泣くのは禁止な。ライスは笑顔の方が似合う、次からは落とさないように気を付けようぜ」
「お兄さま…!! うん! ライス、もう泣かないよ!」(76)
帽子を落とさないよう、気を付けてライスの頭を撫でてやる。昔も今も変わらず、ライスが泣いたときはこうやって慰めるのが俺流だ。好感度は変動こそあれど、全然許容範囲内。ルドルフ同様、ライスも正常のようだ。やっぱり前半2人がおかしかったんや。
『ふむ、ライス君のデータは疑う余地もなく正常だ。時間の問題だろうけど』
「(なんでタキオンはそう俺を不安にさせるようなことばっか言うん??)」
『事実を述べたまでだよロリコン』
「(ストレートな罵倒やめて。せめてシスコンと言って)」
『どっちでもいいよそんなの。それよりも本題に入らなくていいのかな? そのケーキが最期の晩餐になるかもしれないのに』
なんだかタキオンの言葉に棘が多くなってきた気がする。何か機嫌を悪くさせるようなことを言っただろうか。心当たりがなさすぎる。
だがタキオンの言うことはもっともだ。まだ命の危機が回避できた訳ではない。もうちょっとライスを撫でていたいが、相談に入らせてもらおう。
「ライス。食べながらで良いんだけど、ちょっと頼みがあるんだ」
「お兄さまの頼みなら、ライス…がんばって力になるよ…!」(77)
「オグリについて少し相談があってな。アイツの相談に乗ってやってほしいんだ」
「オグリさんの……?」(75)
「私がどうかしたかトレーナー」(620)
「ふぁ!?」
「あ、オグリさん。ふあぁ…とってもたかい……」(76)
急に声をかけられたせいで変な奇声を上げる俺。
後ろを振り向くと、そこにいたのはシュークリームを頬張るオグリキャップ。ライスが高いと言っているのは、オグリが右手に持つお皿の上にあるシュークリームで出来たエベレストのこと。人間なら間違いなく糖尿病待ったなしのボリュームだ。
しまった。この時間はオグリもモグモグタイムだったか。というか待って。オグリの奴、何か食べてる状態なのに620とか見えるんだけど。この短時間でめちゃくちゃ悪化してるだけど!
『当然だね。オグリはトレーナーフェロモンの中毒者。我慢すれば我慢するほど、トレーナー君を欲する思いも強くなる。彼女はもうトレーナー君なしでは生きられない身体さ』
「(……俺の身体は麻薬か何かなの?)」
『一度吸ったら二度と手放せないタイプのね』
人間ドックの予約をしよう。
俺の身体は一度、骨の髄まで精密検査するべきだ。
突然のオグリ襲来で焦る俺。しかし待て。これは逆に好機だ。
オグリは好感度こそ高いが、話は通じる。ルドルフを待たなくても、今ここで俺とライスで諭すこともできるんじゃないか? それにここはトレセンのカフェテリア、周りの目もある。いくら好感度が高かろうと妙な真似はしないはず。
ピンチをチャンスに変えてこそ、一流のウマ娘トレーナーと言うものだ。まずは平静を装って、オグリの出方を見よう。
「……よ、よぉオグリ。お前もおやつを食べに来たのか?そんなに食べると晩飯が入らなくなるぞー?」
「問題ない、まだ三皿目だ。それにメインディッ……トレーナーを見ていたらもうお腹が空いてきたよ」(5100)
オイ待てェ。
今の言い間違えで済ませられるレベルじゃなかったぞオイ。
「オグリさん、お兄さまを見るとおなかすくの…?」(73)
「ああ。最近のトレーナーは美味しそうだからな。ライスもトレーナーを見てお腹が鳴ることはないか?」(4900)
「……じーっ……ううん、ライスのおなかはならないよ…?」(75)
ライスは俺をまじまじと見ながら、お腹を不思議そうに
やり取り自体はホッコリしているのに、会話内容がおかしい。最近の女子高生ウマ娘の会話は、20代おっさんにはついていけねぇや。
だが諦めちゃだめだ俺。ここは意地でも会話に喰らいついていかなきゃいけない場面だ。好感度は想像の3倍高かったが、言っていることは昼の時と変わらない。ハイライトさんも薄っすらとだが存在している。諭すなら今しかない!
「オグリ、ライスの反応が正常だ。狂ってるのは俺を見て鳴っちまうオグリのお腹の方だ。お願いだから正気に戻ってくれ。ほら、俺のショートケーキやるから」
「しかし、トレーナーの指は実際に美味しかった。舐めただけであれだけ美味しかったんだ。実際に食べたらもっと美味しいだろうし、他の部位も……」(6300)
「食べたら…お兄さま無くなっちゃうよ……?ライス、そんなのいやだよ…」(79)
「————ッ!?」(3000)
身体に電流が走ったように、オグリが目を見開く。とても驚いているようだが、驚きたいのは俺の方だ。オグリの奴、マジで俺の事食べる気だったのか……ひえぇ……。
しかし、ライスの言葉はかなり効いている。好感度もいきなり3000近く減った。まだまだ油断できない数値だが、この調子で好感度を下げられれば死亡フラグは回避できる!
「 食べたら、トレーナーがいなくなってしまう……ッ!? それじゃあ私は……これからいったい何を食べれば……!?」(2500)
「俺を食べる前提で話を進めるのやめて」
「おいしいものならたくさんあるよ…?ケーキのイチゴさんとか…ハンバーグのにんじんさんとか…だからね?お兄さまを食べるのはよくないことだよ…?」(82)
「た、確かに……トレーナーの手作りならあるいは……しかしあの味を忘れることは……!!」(1200)
頭を抱えて葛藤するオグリ。好感度も初期テイオー並みに減ってきた。喜ぶのはまだ早い数値だが、大きな進歩だ。ライスよ、もっと言ってやれ。
「もしお兄さまを傷つけたら、たとえチームのみんなでもライス……」
そう言ってライスの瞳が蒼く光りかけた時、俺のポケットから音楽が流れた。
音源であるスマホを取り出すと、画面には『シンボリルドルフ』の文字。準備ができたらこっちに来ると言っていたが、トラブルでもあったのだろうか。
ライスとオグリの視線もスマホに集中している。とりあえず出てみよう。
「どうしたルドルフ。何かあったのか?」
『ハァ……ふぅ……もしもしトレーナー君。すまない、連絡が遅れてしまって』
「? いやそれは構わんけど……妙に息が荒いが大丈夫か?」
『ああ……問題ない。少しテイオーと話をしてね。少しヒートアップしてしまっただけさ』
「テイオーと!? 本当に大丈夫か!? テイオーは!?」
『少なくとも今は落ち着いているよ。筆舌に尽くしがたい
ちょっと何言ってるかわかんない。
とりあえず、どうにかなったってことでいいのか?
『本題に入ろう。トレーナー君は今どこにいる? ライス君とは会えたかい?』
「ああ、カフェテリアでな。ついでにオグリとも一緒にいるよ」
『それなら丁度良い。2人に生徒会室へ来るように伝えてくれないか? 済まないが至急だ』
「………任せて、大丈夫なんだな?」
念を押して、俺はルドルフに問う。
2人を生徒会室に呼ぶということは、テイオーとオグリ、2人を同時に諭すということだ。テイオーも今は大人しいようだが、ルドルフの声色から察するに、まだ危険域内なのだろう。
『君の皇帝を……いや、君の”愛バ”を信じてくれ。夜の懇親会までには話を付ける。トレーナー君には必ず、幸福な未来を約束しよう』
「……わかった。みんなを頼む、ルナ」
そう言い残して、通話を切る。ルドルフの覚悟は受け取った。ならば俺はみんなを、愛バを信じて待つだけだ。
「2人とも。ルドルフからの伝言だ。至急、生徒会室に集合せよってな」
「わかった。このシュークリームを食べ終わったら行くよ。10秒待ってくれ(モグモグ)」(460)
「あとライス、ルドルフはお前の味方だ。迷った時はルドルフを信じろ。だから無理せず頑張ってくれ、頼む」
「…?よくわからないけど……お兄さまがそう言うなら、ライス、がんばるね!」(93)
フンスと意気込むライスと、シュークリームの山を一瞬にして更地にするオグリの頭を優しく撫でて、
こうなった以上、もう俺にできることは何もない。みんなを信じ、にんじんハンバーグを作りながら自宅待機するだけだ。大丈夫、みんな無事に戻ってくる。今晩は全員で笑いながら食卓を囲むんだ。ゴルシとタキオン欠席だけど。
「なぁタキオン、やっぱり今日の懇親会来ないか?みんなで摂る食事も悪くないもんだぞ」
『…………』
「……ん? タキオン、どうかしたか?」
『……む、すまないモルモット君。私としたことが、少しボーっとしていたようだ。ええっと、何の話をしていたっけ? ああ、夜のうまぴょいの話だったか』
「それはもう回避した未来だ。懇親会への参加、どう?」
『言ったはずだよ、やりたい実験があると。これだけは今夜しか行えないんだ。悪く思わないでくれ』
俺は何度も誘うが、タキオンの意思も硬いようだ。
まぁ、無理強いはしないでおこう。
「あとタキオン。このメガネって何時までかけてればいいんだ?」
『懇親会とやらが終わるまで、かな。数値の変動を最後まで確認したい。できればもっとイレギュラーなデータが欲しいなぁ』
「そんな物欲しそうに言われても……もう1000を超える好感度はないと思うぞ。みんな正気に戻りそうだし」
『実験結果は最後の最後までわからないものだよ。夢の10000超えの可能性も0%じゃない』
「そうなる確率が0%に決まってるだろ。絶対来ないから、そんな悪夢のような未来」
※100% 100% 100%
おまけ
☆最終回に向けて簡単な人物紹介☆
トレーナー
・死亡フラグを立てる天才。存在しない記憶を保持している。手や汗から特別なフェロモンを発しており、これをウマ娘が長時間浴びると狂ってしまう。もう助からない。
シンボリルドルフ
・トレーナーの最初の担当ウマ娘。故にフェロモンを浴びている時間も一番長いため完全に手遅れ。普段は我慢しているが過去に2度限界を超えており、その度にあらゆる薬を混ぜたブレンドアイスティーで昏睡したトレーナーとうまぴょい伝説している。グルーヴが後輩に盛った薬は彼女が貸したもの。
ゴールドシップ
・2番目の担当ウマ娘。もともと狂っているためフェロモンの効果を受けない唯一のウマ娘。いろんな意味で手遅れ。太平洋横断中。
アグネスタキオン
・3番目の担当ウマ娘。唯一フェロモンの存在に気付いている。フェロモンには研究対象として興味を持っているが、なるべく浴びないように気を付けている。しかし実は手遅れ。
オグリキャップ
・4番目の担当ウマ娘。三大欲求を食欲に全振りしていたためフェロモンを浴びても問題なかったが、おにぎりの一件で大量のフェロモンを体内に取り込んでしまったことで手遅れになる。トレーナーを食べたい(物理)なので、現在だと一番危ないウマ娘。
トウカイテイオー
・5番目の担当ウマ娘。中等部特有の思春期中にフェロモンを大量に浴びてしまったので、誰がどう見ても手遅れ。トレーナーがウマ娘と話している分にはまだ我慢できるが、雌の人間と話しているのを見ると何かをへし折りたくなる衝動に駆られるやんちゃな娘。
ライスシャワー
・6番目の担当ウマ娘。トレーナーをお兄さまと呼んでいるが、血が繋がっているわけではない。まだトレーナーのチームに入って日が浅いため、フェロモンの効果をあまり受けていないが、最終回で手遅れになる。
☆次回、