「ふんふぅー、ふふんふぅー、ふーんふふぅーんっと」
鼻歌交じりにハンバーグを焼き続けること2時間弱。換気扇をかけているにも関わらず、我が家のキッチンには腹を刺激する肉の良い香りが充満している。
キッチンのコンロを全てフル活用して何十枚ものハンバーグを焼いてきたが、まだまだこれからだ。この程度のハンバーグの山、オグリが息を吸えばすぐになくなってしまう。まだまだ焼いていくぞ……と気張ってはみるが、スーパーで買ったお惣菜やらオードブルもたんまりある。よっぽどのことがない限り足りるだろう。なんたって、今回かけた食費は俺の給料3か月分だからな。足りなきゃ嘘だぜ。
腕時計を確認すると、現在時刻は午後6時30分。みんなには7時集合と伝えてあるし、早い奴ならそろそろ来そうだな。
……今、俺の心に不安はない。そう断言できるほどの自信とゆとりが心にある。ルドルフは約束を絶対に破らないウマ娘だ。『幸福な未来を約束しよう』と確かにアイツは言った。だから必ず、みんなと楽しく食卓を囲める未来が来ると俺は信じている。
信じているのはルドルフだけじゃない。へし折っちゃう系ウマ娘と化したテイオーも、君の膵臓を食べたい系ウマ娘と化したオグリも、妹のライスも、みんな信じている。己の欲望に打ち勝って、必ず俺のもとに戻ってきてくれると信じている。
俺たちチームの絆は絶対だ。そこに疑いの余地はない。
だから俺はただ信じて、もう少しだけハンバーグを焼いて待とう。
「ソースはデミグラスとケチャップと……人参ソースもあればいいかな。どう思うタキオン?」
『————』
「……返事がない。ただの屍のようだ」
『————』
料理を作り始めてから間もなく、タキオンからの通信が途絶えた。ボケても返事がないし、お手洗い中か? それにしては長いが……ああでも、やりたい実験があるとか言ってたし、その準備中かな。
よし。懇親会が無事終わったら、差し入れに料理を持って行ってやろう。アイツは研究や実験に集中すると飲まず食わずで2、3日徹夜することも珍しくないからな。その辺はトレーナーとして、ちゃんと健康管理をしてやらないと。
ピンポーン!
タキオン用のハンバーグを一枚ラップで包んだところで、運命のインターホンが鳴り響く。ついに誰か来たようだ。
「鍵は開いてる。入って来てくれー」
「…………」
「……ん? 入っていいぞー?」
「…………」
?? なんだ? いつもなら遠慮なくズカズカ入ってくるのに、一向に入ってくる様子がない。もしかして、チームメンバーじゃない別の誰かが来たのか?
俺は不審に思いながらも玄関へ向かい、未だ開かれない扉に手を掛ける。
『アカン! アカンて! 開けたらアカン!!』
『悪いことは言わへん! 今からでも居留守と決め込むんや!』
『うまぴょいがそこまで迫っとる! ああ、もう逃げられへん!』
ドアノブに手を掛けた瞬間、俺の中の天使と悪魔と生存本能が何かを伝えようと必死に訴えてくる。が、『そんなことあるわけないやん』と俺は一蹴して、その扉を開く。
そこにいたのは、サングラスとマスクで顔を隠した、勝負服姿の4人の愛バたちだった。
…………え゛っ。
「……お、お前たち? 一体何をして」
「テイオー、オグリ、ライス。やっておしまい」
「「「ハッ!!」」」
「おぶぅ!?」
ルドルフが3人に指示を出すと同時に、俺は
何が何だかさっぱりわからないまま、俺はなされるがまま4人に担がれて、えっほえっほと何処かへ運ばれていく。
頭陀袋の中で、俺は後悔した。
信じるべきは、己の直感だったと。
*————————*
10分ほど経っただろうか。目的に到着したのか、俺は頭陀袋に入れられたまま、優しく降ろされた。縄が解かれ、視界も開ける。連れて来られたのは、意外にも見慣れた場所だった。
一つのチームに一部屋ずつ割り振られる、トレセン内のミーティングルームだ。よくチームメンバーとここに集まっては、ミーティングや勉強会、小さな祝勝会などを開いている。例のおにぎりもここで配ったものだ。
「手荒な真似をして済まないトレーナー君。君を連れ出すのに、この方法しか考え付くことができなかった」(70)
マスクとサングラスを取り、最初に謝罪の言葉を繰り出したのはルドルフ。いやいや、もうちょっとマシな方法あったでしょ。ゴルシじゃないんだから。
ルドルフの頭の数字は安定の70。
最悪の状況を覚悟していたが、好感度に変わりはないようだ。
「お兄さま、痛くなかった…? ライス、やさしく縄を結んだつもりだけど……痕とか付いてないかな……?」(72)
「あ、ああ。大丈夫だ。ちょっと驚いたけど」
ライスも変わらず普通だ。好感度も様子も、おやつタイムに会った時となんら変わらない。人攫い一歩手前の所業をしでかした直後とは思えないほど普通だ。
考えても埒が明かないし、目の前に張本人たちがいるんだ。説明を求めよう。
「ルドルフ、状況説明を頼む。俺にはもう何が何だかさっぱりわからない。ドッキリか?」
「ドッキリではないし、状況が吞み込めないのも無理はない。何も理解できていない状態の君を、この場所に連れてくることが目的だったからね」(70)
「この場所……って、ミーティングルームにか?」
「ああ。トレーナー君の部屋は刺激が強過ぎて、話し合いが難しいと判断したんだ。何より、彼女たちの要望もあってね」(70)
ルドルフはそう言うと、視線を俺からとある2人へと移す。
「……トレーナー」(74)
「と、とれーなー……」(102)
そこには、不安と後悔で押しつぶされそうな顔をしたオグリと、今にも泣きだしそうなテイオーがいた。
……なるほど。ようやく察しがついたぜ。
テイオーは100とちょこっとオーバーしているが、それでも午前中と比べれば良心的な数値に下がっているし、ハイライトもしっかり戻っている。ルドルフとライスは本当に頑張ってくれたようだ。
先に頭を下げたのは、暴走した食欲により自分を見失っていたオグリキャップ。
俺は黙って、彼女の言葉を待つ。
「……済まなかったトレーナー! あの時の私は、どうかしていた」(72)
俺もそう思う。
「ルドルフとライスに諭され、ようやく気付いたんだ。いくらトレーナーが美味しそうに見えるからって、食べようとするのは間違ったことだと」(71)
俺もそう思う。
「……正直に言うと、まだトレーナーのことは美味しそうに見える。けど信じてほしい。私はもう、自分のこの欲求には吞まれない。これから先の行動でそれを証明して見せる」(75)
そう言って顔を上げるオグリの瞳には、強い意志が宿っているように見えた。まるで『これからは一日三食とおやつだけで我慢します』と宣言しているような瞳。まさかオグリがこんな目をするなんて……。
オグリの思いは、確かに俺に伝わった。
今度は俺が返してやる番だ。
「オグリ」
「っ」(70)
名前を呼ぶと、オグリは肩をビクッと震わせる。
俺に何を言われるか不安なのだろう。しかし、不安を感じているということは、今までの行いに罪悪感を感じ、反省しているということだ。
なら、俺から返す言葉はこれでいい。
「……次のレース、買ったらご馳走だ。期待してるぜ」
「…っ!ああ!まかせてくれトレーナー!!」(82)
よし、これでオグリは完璧に正気に戻った。
残りは一人、オグリの後ろに隠れている帝王様だけだ。
テイオーはこちらの様子を伺っては、オグリの後ろに隠れるのを繰り返している。その様子だけで、言いたいことがあるけど言いだし辛いって気持ちが手に取るようにわかる。ここは背中を押してやるのが吉と見た。
「らしくないぞテイオー。言いたいことはスパッと言うのがお前だろう」
「……と、トレーナー……ボクのこと、怒ってない……?」(98)
「怒らせるようなことした記憶でもあるのか?」
「……ううぅ………」(94)
オグリ同様、テイオーもかなり自責の念を抱えているようだ。反省しているようで何よりだが、あんまり自分を責めすぎるのも良くないことだ。
「テイオー、ゆっくりでいい。俺は怒ってないし、怒るつもりもないよ」
俺はテイオーに近づき、そう言っていつものように頭を撫でてやる。
「……ボクね、自分のことしか考えてなかった」(94)
そうしてやると、ポツリと、テイオーが言葉を零し始めた。
「トレーナーの一番はボクだってずっと思ってた。……ううん、ちょっと違うかな、トレーナーの一番はボクじゃないとダメだって思ってたんだ」(93)
「他の誰かがトレーナーのそばにいるとね、心がドロドロに熔けちゃうような、そんな気持ちでいっぱいになって……そんなの絶対に許さないって思うボクがいて……」(96)
「でも、カイチョーとケンカしてわかったんだ。トレーナーの隣に立ちたいのは自分だけじゃないって。ボクの気持ちに負けないぐらい、みんなトレーナーのことが大好きなんだって」(102)
「それなのにボク、トレーナーを独り占めしたくて、みんなにもトレーナーにも酷い事言って……ごめんなさい……ごめんなさい……っ!」(99)
「謝らなくていい。言ったろ、怒ってないって。寧ろ嬉しいよ、テイオーがそう思えるほど精神的に成長したことが。……大人になったな」
「ど、どれーぇなぁー……うわあぁぁん!!」(98)
俺の胸でワンワン泣くテイオーを、あやす様に背中をポンポンしながら慰める。今だけ父親になった気分だ。
ふぅー…と、心の中で大きなため息をつく。テイオーもオグリも正気を取り戻したし、これで安心して明日を迎えられそうだ。ルドルフとライスには足を向けて寝られないなこれは。
そもそも今日は何でこんなことになったんだっけか……ああそうだ、タキオン作のこのメガネが原因だった。軽い気持ちで引き受けた実験が、まさかこんなことになろうとは思わなんだ。
皆の気持ちを知る良い機会だー、とか思ってたなぁ俺。知った結果散々な目にあった気がしないでもないが、終わりよければなんとやらだ。皆との絆もより深まった気がするし。
「これで一件落着だな。さぁ皆、俺の家に戻ろう。料理の支度はできてる。今夜は無礼講だ、パーッと楽しもうぜ!」
よっしゃあ! 誰がどう見てもハッピーエンド!
最終話、完ッ!!
「その必要はないよトレーナー君」(14800)
「……………えっ?」
ガチャ ガチャガヂャ ガギャゴン゛
ルドルフのセリフと頭の数字にあっけにとられたその一瞬、唯一の出入り口である扉の方から物凄く鈍い音が鳴り響く。
「南京錠の締め方はこれでよかっただろうか」(12000)
「だいじょうぶですオグリさん…説明書通りやれていました…! 」(3200)
そこには南京錠……南京錠? いや、俺の知ってる南京錠はあんな形をしていない。南京錠ではないが、妙にゴツくてメカメカしい南京錠のような何かを扉に取り付けているオグリとライスがいた。
出入り口の扉だけじゃない。窓にも同じようなものが取り付けられており、ご丁寧に窓の外には防犯シャッターまで降りている。
つまり、今この部屋は完全な密室となっている。そして、あの南京錠のような何か。仮に俺がペンチを持っていたとしても、あれを壊して外に出ることは叶わないだろう。
「……うぅ……ぐすん……くんくん……ふへへ……アハッ」(13500)
俺の胸で号泣してたはずのテイオーは、泣き止んだにも関わらず一向に俺を離そうとしない。それどころか、狂気に満ち溢れた笑顔をしながら、その小さい身体を俺に擦りつけてきている。
ふむ。ここまで冷静に状況を把握してきたが。
そろそろ限界かもしれん。叫んでいいかな?いいよね??
「誰か助けてぇえええええええ!!!!!」
それは魂の叫びだった。
俺は地球の裏側にいるゴルシにも届ける勢いでSOSを叫んだ。というか、叫ばずにはいられなかった。
「ふふっ、何を怯えているんだトレーナー君」(15000)
「ひっ!? るどっ、ルドルフ! お前おままおま、何だその数値!??」
回らない
さっきまで70から微動だに変動しなかったルドルフの好感度が、15000という桁違いな数字にワープ進化を遂げている。ハイライトのなくなったルドルフの目は、獲物を視界に捉えた肉食獣のそれだ。
俺の生存本能はもう白旗を振って諦めているが、俺の魂はまだ諦めるなと死に物狂いで俺を応援してくれてる。そうだ、まだ諦めちゃいけない!
「数値? ……ああ、今のトレーナー君は私たちの好意を視認できていたのだったな」(16200)
「っ!? 何故それを!?」
「タキオンから聞いてるよ。しかし、その眼鏡のお陰でとても苦労した。君と2人きりの間、平常心を保つの正に
そう言うと、ルドルフの好感度がまた跳ね上がり、遂には20000を超えた。助けて。
だがちょっと待て。メガネのことをタキオンから聞いていた、だと? 俺に対しては口酸っぱく口止めを強要していたのに?
『何故、私が会長にメガネの事を教えたか。気になってしょうがないようだねぇモルモット君』
「た、タキオンか!? 助けてくれタキオン! いまミーティングルームに拉致監禁されて」
『みなまで言わなくてもわかっているよ。何故なら』
「既に私は、ここにいるからね」(17000)
眼鏡から聞こえていたはずのノイズ交じりの声が、まるですぐそばで喋ってるかのように鮮明に聞こえた。
振り向くと、そこにいたのは俺が直前まで助けを求めていたウマ娘、アグネスタキオンがいた。が、頭の数値を見て俺は悟った。助けを求める相手を間違えたと。
ちょっとまってちょっとまってちょっと待て!
お前がこの数値はおかしいだろぉ!
「どういうことだタキオン! 目が合えば挨拶する程度の好意って、自分で言ってたじゃないか! なのにその数値って……!」
「私が会長に立てた仮説を覚えているかい? つまりそういうことさ。実に名演だったろう、フジキセキくんとオペラオーくんに頭を下げて教えを請うた甲斐があったというものさ。はっはっは!」(17200)
「なにわろとんねん!!」
つまりなんだ。タキオンもルドルフも、鋼の意思で俺への好意を抑えていたって言うのか? いったい何のために……って、このタイミングでタキオンが姿を現した時点で答えは出てるじゃねぇか!
「ま、まさか……俺は今日一日、ずっとお前の掌の上だったってことか……!?」
「ふぅむ、その答えは半分正解だね」(17400)
「半分?」
「正解は、私たちの掌の上だよトレーナー君。さて……そろそろかな?」(21000)
「そろそろって何を……うっ!?」
ルドルフが意味深にそう呟くと、俺の身体に異変が起こる。
一言でいえば、身体が熱い。頭も足もクラクラするほど全身が熱いが、特に下半身にある俺の7人目の愛バ(意味深)が高熱を帯びているのを感じる。
瞬間、走馬灯のようなものが頭をよぎる。
今日、生徒会室でルドルフと会話したときの場面。ルドルフの冗談とは思えないセリフを聞いて、気持ちを落ち着かせるためコーヒーを一杯飲んでるなぁ俺。盛られちまったなぁ俺。
「トレーナーの身体、すっごく熱い……なんだかボクも熱くなってきちゃった。えーいっ!」(13800)
「いっ!?」
熱のせいで足がおぼついていた俺は、いとも簡単にテイオーに押し倒される。背中に強い衝撃が走る…と思ったら、何故か床には俺が使っているハズの布団が敷かれており、痛みはほとんど感じなかった。
俺の身体にウマ乗りになって、舌なめずりをしながら俺を見下ろすテイオー。まずいですよ! こんなんレ〇〇゜じゃないですか! えっちなのはいけないと思います! 純愛以外認めんぞ俺は!
「降りろテイオー! お前、自分が何してるのかわかってるのか!」
「何って、うまぴょいだよトレーナー。へっへっへ、安心して。やり方はカイチョーに教えてもらったから! 」(14000)
「ルドルフぅ!? 」
ヤル気満々なテイオーの発言に驚きを隠せない。
ルドルフさん!? 中等部の娘にナニ教えてるの!?
「うむ、流石に説明不足が過ぎるかな。テイオー、一旦待てだ。私が良しと言ったら続行を許可する」(22000)
「はーい!」(15300)
「俺の意思は!?」
「モルモット君に拒否権などあるわけないだろう」(17200)
ルドルフとタキオンは俺のそばにしゃがみ込む。南京錠(仮)の設置を終えたオグリとライスも同様に俺の周りに集まった。
傍から見たら集団強漢一歩手前のこの状況。
ここからハッピーエンドへと向かう道、ある?
_人人人人人人_
> ※ない <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y ̄
「事の発端は3日前、タキオンがこのメガネを発明したことから始まった」(26000)
そう言うと、ルドルフは俺のメガネを指さして説明を始めた。
「『担当ウマ娘の好意を数値化するメガネ』……非常に恐ろしい発明品だ。このメガネをかけてしまえば、幾ら鈍感なトレーナー君でも私たちの好意に気づいてしまう。私たちの愛の大きさを知ったら、今まで通り接してくれなくなってしまうかもしれない。私はそれを恐れた」(27000)
「私がこのメガネを作ったのは、ただの興味本位だよ。しかし会長には多大な恩があるからねぇ、実験前に一応報告したのさ」(16200)
「トレーナー君が私たち誰か一人を選んでくれるなら、最悪それでも良いと思った。だが、きっと君は誰も選ばない。君は私たちの誰よりもチームの絆を大切にしていたからね。かといって、私たちがトレーナー君を取り合う事態に発展してしまうのも回避したかった。だから、一度みんなで話し合いをしたんだ」(28000)
その話し合いって言うのが、ライスとオグリが生徒会室に召集されたあの時だったんだな。どうして”みんな”の中に俺を入れてくれなかったんですかねぇ……。
「話し合いは難航したよ。全員でトレーナー君への愛を、思いの限り打ち明けあったからね。特にテイオーの愛の深さは、私も開いた口が塞がらないほどだったよ」(30000)
「えー、カイチョーも大概だったよー。だってもう2回もうまぴょいしたんでしょ、抜け駆けはずるいよー」(16400)
「仕方ないだろう。元はと言えばトレーナー君が無意識に私たちを誘惑するのが悪いんだ」(32000)
「……えっ? 2回? えっ??」
「話を戻そう」(32400)
いや勝手に戻さないで。
えっ、ちょ嘘だろおい。俺うまぴょいされてたの!? しかも2回!? 知らん間に卒業してたの俺!? 何が鋼の意思だ! 全然我慢できてないじゃないか!
「私たちは話し合いの末、みんながどれほどトレーナー君の事を愛しているかを相互理解することができた。そして、一つの結論に至った」(35000)
「け、結論……?」
「トレーナー君には、私たち"全員"を1番として見てもらおうってね。だが安心してほしい、君との約束は守る。私たち全員で必ず、君に幸福な未来をプレゼントすることを誓おう」(42000)
そう言うと、ルドルフは優しい手つきで俺の頬を撫でる。勝負服姿のルドルフは手袋をしているが、今だけはそれを外していた。
ルドルフに言われるまでもなく、俺にみんなのことを一番に思っている。だが、ルドルフの言っている意味はそういうことじゃないのだろう。おそらく、恋愛対象として、愛バ関係としての一番と言う意味だ。
ルドルフの指は次第に俺の口元に近づき、人差し指が俺の唇に触れる。彼女はその人差し指を軽く眺めた後、ペロリと舐めた。
「……ふっ、ふふふっ。やはり君の唾液は実に甘美だ。今日もたっぷり堪能させてもらうよ」(56000)
「会長。私はもうお腹が減って待ちきれない。食べて良いかな?」(17000)
「良いだろう。味見は大切だ」(57000)
「待て待て待て待て! オグリ、お前はダメだろ! お前の食べるは命に関わるやつだろ!」
「問題ないトレーナー、身体は食べない。会長から教えてもらったのだが、男の人には舐めたり吸ったりすると濃厚なお粥を出す部位があるのだろう。それを頂きたい」
下ネタが過ぎる!
というかそっちも命に関わるっての! テクノがブレイクするっての!
「ら、ライス助けて!お兄さまがピンチだ!その腰の短刀を使う時が遂に来たぞ!」
「だいじょうぶだよお兄さま……会長が言ってたの。これは、みんなが家族になるための準備だって……。ライス、それってとっても幸せなことだと思うの。ライスの幸せはお兄さまの幸せって、昔よく言ってたよね……?」(5400)
「そんな記憶な……いや……えっと……やっぱねぇわ! そんな記憶なかったわ!」
やべぇよやべぇよ、マジどうすんだよコレ! ルドルフがみんなに要らん知識を植え付けた上で協力体制を取ったせいで、もう俺の味方が誰一人居ねぇ! しかも薬を盛られたせいか『このまま快楽に流されても、いいかな?』と、俺に『いいとも!』と言わせようと理性が語り掛けてくる!
「諦めたまえモルモット君。私としても、君にはうまぴょいしてもらわないと不都合だ」(16600)
「な、何だと……!?」
「いつかは試そうと思っていたことだ。君のフェロモンはウマ娘を狂わせるが、同時に身体能力を底上げる効果がある。うまぴょいは君のフェロモンを極限まで体内に取り込む行為だ。もちろん私も参加するよ、実験データは大いに越したことはないからね」(17000)
つまりタキオンは、遅かれ早かれ、俺はこうなる運命だったと言いたいようだ。くそったれ。
……もう、詰みだな。この状況を打開する術はもうない。ルドルフもテイオーにかけた『待て』の指示を解こうとしている。そうなれば最後、俺はみんなとうまぴょい伝説だ。ははっ、いったいどこで間違えたんだろうな俺……。
俺は諦めて目を閉じる。
その時だった。地面から妙な音が聞こえたのは。
「………むっ?」(16600)
「何の音だ? 今のトレセンは生徒会長権限で私たち以外使用禁止にしてあるはずなのだが…」(60000)
どうやら俺の幻聴ではないようで、ルドルフたちにも聞こえているようだ。と言うことは、この音はマジで下から聞こえている?
全員の頭にクエスチョンマークが浮かぶ。謎の音はどんどん大きくなり、そしてその発生源は、ミーティングルームの床に人一人通れるほどの穴をドカンと開けて現れた。
「天元突破ゴルシちゃん、ここに見参ッ!! アタシは毎日が空色デイズだぜッ!」(のりしお)
「ご、ゴルシぃいいいい!!!」
意味の分からないことを言いながら穴から出てきたのは、ブラジルまでボンボヤージュしたはずのゴールドシップだった。その手にはどこかで見たことあるようなドリルを持っている。
ツッコミどころ満載の登場だが、ここにきて希望が見えた! ゴルシならワンチャンあるぜオイ!
「
「いやさぁ。水陸両用セグウェイでブラジルまで行くつもりだったんだけどよー、ふと閃いたんだよ。『海を渡るより地面掘っていた方が距離近くね?』って。マジ天才だと思ったわ私、今年のノーベル賞はゴルシちゃんに決まりだぜ」(かたつむり)
ノーベル賞を
「でさー、ブラジルまで到着したタイミングでゴルシちゃんレーダーがまた反応してさ。引き換えして来てみれば、おもしれーことになってんじゃんか!」(きりたんぽ)
「理由は兎も角よく来てくれたゴルシ! 頼む助けてくれ!!」
「任せな! オイお前ら!トレーナーの言いたいことわかってんのかぁ!?」(ほたて)
ゴルシは俺にグーサインを出して、5人に対して牙を向ける。
おお! まさかゴルシがこんなにも頼もしく見える日が来るなんて……! 流石俺の愛バの一人だ! さぁ言ってやれ! お前の言葉ならみんなに届くかもしれない! あとは託した!
「トレーナーはなぁ!『日本での重婚は認められてない。するならナイジェリア辺りに移住してからだぜハニー達』ってことを言いたいんだよ!」(つくね)
「違ぁう!違ぁあう!!」
あ゛あ゛あああああああっ!!
う゛あ゛あああああああっ!!
やっぱゴルシはゴルシだった!
そりゃそうだ! だってゴルシだもん!
「む……確かに、それはトレーナー君の言う通りだ。私としたことが、そこまで考えていなかったよ」(63000)
「ふっ、だが安心しな。この穴はナイジェリアにもつながってる、入れば5分で到着さ。アフリカ大陸は一夫多妻制の国が多いことで有名からな。野郎ども、ゴルシ様に感謝しな!」(ねぎま)
「わぁ…! ありがとうゴールドシップさん…!」(5500)
「感謝する、ゴールドシップ。君もトレーナーを味見していくか?」(18800)
「病気になりそうだからいいわ」(うめぼし)
も、もう突っ込む気にもなれない……。
誰が病気持ちだこの野郎…。
一瞬だけ希望の光が灯ったように見えたが、別にそんなことはなかったぜ。せっかく俺の愛バ6人が全員揃ったのに、全員が医者が匙を投げるレベルに手遅れだったなんて……。
「ハァ……ハァ……ねぇカイチョー。もういいかな? ボクもう……ね?」(30000)
「ああ。待たせて済まない。念の為確認しておくが、一回うまぴょいしたら交代だぞ?」(75000)
「うん!」(42000)
俺の上で涎を垂らし、息を荒げながらルドルフに催促をかけるテイオー。その表情は中等部の女の子がしてはいけない程に発情しているように見える。
テイオーだけじゃない。ルドルフも、オグリも、ライスも、タキオンも。全員が顔を赤く染めて息を荒げている。ゴルシは無言でビデオカメラを構えながら、俺に親指を立てている。
………もう、俺が言えることはこれしかねぇや。
「……や、優しく、してね?」
「えへへ、むり☆」(530000)
*————————*
その後、トレーナーを姿を見たものは誰もいない。
彼だけではなく、彼が担当していたウマ娘たちもトレセンから姿を消した。彼女たちが見つかったのは、行方不明になって3日後の事。トレーナーとウマ娘たちは、日本から遠く離れたナイジェリアに国籍を移し、活動の場をも海外に移したのだ。
トレーナーがトレセンに戻ることはなかったが、ウマ娘たちはトレセンとナイジェリアを行き来している。2点は遠く離れているが、彼女たちには片道を5分で行き来する術を持っていたので問題なかった。
彼女たちは海外でも活躍を続け、彼女たちの名と、彼女たちのトレーナーの名はあっという間に世界に轟いた。しかし不思議なことに、トレーナーの姿を見たものは誰一人としていない。
彼女たちが新しく建てたナイジェリアの新築からは「
B A D E N D