その諺に則って題名をつけました。雪宮春夏です。
まさかの今年新作第二弾。
他の作品に比べてさらっと進めていきたいなぁと思っていますが、結果はどうなるかは……(以下略)。
それでは、長文失礼しました。
どうぞご覧下さい。
依頼人 夜桜四怨
「ちょっと、依頼を頼みたいんだけど」
何の前振りもない発言に、目の前の画面に視線を向けていた俺は、ピタリと手を止めた。その直後に壮大な音響と共に俺の操作していた分身は星の彼方に飛んでいったようだが。
「……? どうした? カズ」
首を傾げる相手を見つめながら、俺はようやく口を開いた。
「……珍しいと思って。いつもなら結構ごり押しで手伝わせるのに、今回に限って「依頼」なんて言ってるだろ? なんか厄介事なのか?」
コントローラーすら置いた俺に、相手も目を細めて……苦笑う。
「……ご名答。……とりあえず話を聞いてくれや」
「……んで? 何の調査だよ?」
そう問うたのは、彼女が行う仕事で俺が手伝うのが、主に様々な場所の情報の収集や、鑑定と言った彼女を主体とした上での補助的な役割が多かったからだ。いきなり専門外の仕事をやらせる可能性はないだろうと考えれば、今回も同様なことなのだろうと思っていた。
「SAO」
そんな俺の考察に対して簡潔すぎる一言は、最近巷で噂の最新型のゲームの名前。主体として扱うのがレトロゲームと呼ばれる古風ゆかしい機器が多い彼女から聞くとは思わなかった代物だった。
パチクリと、目を瞬くと補足するように詳細な説明が入ってくる。
「これは非公式な情報なんだが、どうもあのゲーム、色々ときな臭い」
「何が?」
続きを促すように問えば、ぐぬぬと擬音をつけるような形相で相手は続けた。その上、何故かとてつもなく言いづらそうに。
「自己学習能力を含む完全独立型自動制御システムのカーディナル。それに付属するカウンセリング用のAIプログラム。それだけなら単に人員削減やら、効率化やらですむかもしれないが」
ジッと、手元の、自身で冷蔵庫から持ってきたお茶の水面を見つめた。
「……ナーヴギアの三割以上はバッテリーだ。加えてあのソフトのどこを探っても、正規のログアウト方法以外の如何なるログアウト手段も設定されていない」
「……つまり、正規のログアウトが使えなくなった場合、閉じ込められる可能性があるって事か?」
どこか半信半疑という風に、俺が呟くと、その非現実感の強い考えに同意しているのか、本当になと、俺の出す結論によっては、これから依頼人となるだろう少女は言う。
「信じられないかもしれないけど、その危険性があるのは確かだ。だからお前に頼みたい」
「いや、何がだよ? 発売元の企業の視察とかなら頼む相手を間違えてるぞ? そう言うのは俺よりも警察関係に融通が利くりんさん……「ヒナギク」だろ?」
「いや、確認したんだがちゃんとした証拠がない、疑惑の段階な以上、突発的な視察とかは出来ないらしい。あっちは公的な組織だからな。それにこっちがつかんだ情報も、正規的な方法で手に入れた訳じゃないから使えない。だから現場でなんとかするしかねぇ」
「おい待て。……現場って……まさか」
ヒクッと、俺は思わず己の顔が引き攣るのが分かった。猛烈に嫌な予感がする。時折このどこかネジが数本ばかり緩んでいる少女は時にとんでもないことを言い出すのだ。
「とりあえず三日だ」
「だから、待て……」
「三日。お前は連続でフルダイブしろ。お前の体の面倒はこっちで見る。その間に、こっちで中の問題点を洗い出して、無事に正規以外にログアウト出来る方法を探してやる」
一息で出された案に、ヒクヒクと唇が震える。
連続でそこまでのフルダイブが出来ると思っているのかとか、その時間、眠らないで……肉体的には眠っているのだろうが、脳の活動的にはと言う話だ……不眠不休で動き続けろと言うことかとか。
言いたいことは色々あるけれど。
「学校は、どうしろと?」
「別に休んでもどうってことないだろ? まともに行ってもないくせに」
まっとうな事実を述べられ、もう言い訳のしようもなかった。現に、平日である今日も、俺は中学校の制服姿で、ここ……彼女の部屋の中に入り浸っているのだから。
「……成る程。VRMMOな時点でハイテク機器との相性関係なく動きたがらない四怨が、実際にプレイ出来るわけないもんな。……それで俺に白羽の矢を立てたって、とこか?」
しかしながら、言われるがまま言いなりになるには、俺にもスパイとしての僅かばかりのプライドがあった。
そこには所有するスパイ免許の級など関係はないし、生まれ育ちもまたしかりだろう。
己がスパイとなれた背景も、未だここの長兄に命を狙われていない理由も分かるから、彼らに「守られている」ことも分かっている。
だが同時に誇りを持つことを教えてくれた師である彼女に、少しのしっぺ返しでもしてやりたいところでもあった。
なとなどと理由を並べてみるが、実際は少しばかり小間使いのような扱いをされている事に腹が立ったのが一番の理由である。
「おい待て……どういう意味だ?」
並べ立てた嫌味の言葉の、何が琴線にかかったのかは分からないが、目を据わらせた四怨が鋭い眼差しで睨みつける。
「そのままの意味だけど……結局、内部で独立しているカーディナルを外部から遠隔で弄れないから正規のルートで俺をダイブさせてからセキュリティとの繋ぎにしようとしているってとこだろ? セキュリティシステムの外縁にも踏み込めなかったんじゃないのか?」
どうよと問いかけた言葉に、返ってきたのは、随分と長い溜息だった。
ガリガリと苛立たしげに頭を掻きむしった四怨が頷くことでその予測は事実と証明される。
「……成る程。じゃあいざとなったら俺はそのまま生きて出られなくなる可能性もあるわけか」
普通なら断るのがこの世界で長く生きるためのコツなのだろう。四怨には大恩はあるものの、最初に他ならない彼女が言ったようにこれは依頼だ。
当然こちらにも断る権利というものが存在する……が。
「オーケー分かったよ。その依頼、確かに引き受けよう」
たとえ単なる疑惑だったとしても、ここまで聞いた以上、関わらずにすますのは目覚めが悪いというものだ。
その分謝礼はしっかりふんだくろうと思ったのが2022年10月の第三月曜日。
そして、それを後悔するのは、あのチュートリアルが終わった直後だった。
「……自分を責めるなよ」
そう言ったのは、長兄の同級生という、
「……お前の早急な対応のおかげで、
「……それが、何の慰めになる? あたしが組み立てきるまでに、解決策を見いだすまでに、一般人が200人近く死んでんだぞ!?」
どこまでも淡々とした男の声にらしくもなく声を荒げる。こんなのはらしくないとはわかっていた。
いつもならばもっと冷静であれただろう。
私が巻き込んだあいつが、それに入っていなければ。
「癪だがそいつの言うとおりだ。お前が出来なければ、数千人……いや、下手をすれば全滅していた可能性もある。……そうだろう?」
そこに割って入ったのは見慣れた自分の長兄で。
彼が最後に発した確認したは馴染みである仏山に対して。
口を挟んできた夜桜凶一郎を前に、男は緩く頷くに留めたが、凶一郎は、緩んだ空気を破壊するかのように、爆弾を投げた。
「それに、他の有象無象で心を痛めるならばともかく、あれにそこまで心を寄せる必要はない。あれはそこまでお前が気にかける価値もないだろ。たとえ命をかける、本物の殺し合いになったとしてもな」
嘲るように、そう言い切った。
ピシリと、その空気に音が宿るとしたら、そう聞こえただろう。
息を飲んでなんとか言葉を返した仏山は、後にそう述懐した。。
「縁起でもないな。本当にそんな物になったらこっちは大騒ぎだ」
「ハッハッハ……一番頭を痛めているのはりんかもなぁ。ざまあみろ」
ケケケと笑う顔はどこまで本気なのかは読めない。しかし、その言葉の中に確かに感じた、ある一人の相手に対する明確な棘に、キッとその妹、四怨は当人をにらみつけた。
「良くもそんな風に言えるな」
バチバチと、一触即発となった兄妹を前に、今度こそ、仏山は逃げ出したくなった。
逃げられないのならば誰か道連れにほしいほどである。
「当たり前だ。かわいい弟と妹達が全員で止めたものだから保留としたが、本音で言えば今すぐにでも直にこの手にかけたいくらいだからな」
ククと、口元を歪める姿は、彼にしても珍しい。
単なる怒りではないそれに、仏山は僅かに眉を寄せるが、四怨は怒りをこらえるように、唇を歪ませる。
「あの事件に和人の咎なんてない。それはあの当時、あんたも納得したことじゃないのか? 蒸し返すんじゃねぇよ」
「納得させた、の間違いだろう? 蒸し返しているとは人聞きの悪い。ただ俺は、
まるで聞き分けの悪さを咎めるように。
「あの男の、危険性をな」