電脳遊戯な剣戟芸術《デジタル・ゲーム・ソード・アート》   作:雪宮春夏

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 新年初投稿となります。
 雪宮春夏です。
 続くかどうかも分からないものが性懲りもなく始まりそうですが、全く後悔はしていません。


 それでは設定上ですら、賛否両論ありそうですが、どうぞご覧下さい。


Ⅰ チュートリアル

 何の前触れもなく、というのはつくづく彼のためにある言葉だった。

「うーん。……確かに面白いのは分かるけど、一万本限定でしょう? 手に入れられる伝手なんて、僕にはないんだけどな……」

 自信なさげに答えた僕に、電話口の向こうにいる相手は強い口調で断言する。

 要約するなら、俺に任せろ!という感じか。

 一区切りをつけてキーボードから手を離した僕が改めて会話の内容に意識を向けると、彼の方で僕の意向は一方的にまとまったこととなったらしい。

 まぁ、こちらは彼と違って自営業のようなものではあるし、このように彼が一押しのゲームにやや強制的に付き合わされるのは初めてのことではないので構わないのだが。……まぁ、その場合、ゲームソフト、ひどいときはハードの料金分、負担額は個別の話し合いで戦うことも多々あるので、そこが面倒ともいえる。

 今受話器越しに会話をする彼は何の柵もなく付き合える数少ない僕個人の友人である分、他の知人とはどこか違った立ち位置にいる人でもあった。

「いや、流石に全部は大丈夫だよ。だいたい、僕の方が年上なんだから、ちょっとぐらいの融通はきかせられるしね。……うん。じゃあ正式サービス開始日にいつものメンバーで、でしょ?……うん。 じゃあね。遼太郎」

 プツリと、通話を終えた子機を片手に持ったまま、ふぅと吐息を零して首を仰向ける。

「……ソードアート・オンライン、か」

 チラリと眺めるカレンダーは未だ八月。

 十一月に始まるという正式サービス開始日に合わせて、仕事を調節しようかと思いながら、いつもいつも一方的なおすすめから始まる彼との関係性をいやではないと思う自分がいる。

「世界初のVRMMORPGなんて、……まるで」

 その根底にあるのはもしかしたら。

「……いや、()()()()()()、違うよな」

 いつまでも、自分から手を伸ばすことの出来ない自分自身。そんな己の狡く、身勝手な本質に気づくこともなく手を伸ばしてくれる彼の側が居心地が良いからだけかもしれない。

 そんな己を自覚して、自己嫌悪になりながらも、彼から距離をとることも出来ずに、友達づきあいを続ける自分がいやになる。

 そう思いながらも、彼は仕事を再開するべくキーボードに向き直った。

 

 ソードアート・オンライン……公式で掲載されている略称はSAO。それは物理学者であり、脳科学の権威、茅場晶彦氏が開発した、脳に直接刺激と判断される特定の信号を送ることで、五感すべてをあたかも己がゲームの世界にいるかのように錯覚させるフルダイブと呼ばれる技術を用いた電子機器、ナーヴギアを使ってのみプレイ出来る、最新鋭……というか、脳科学の権威であった彼が所属するアーガスだから開発できた唯一のゲームと言っても過言ではないだろう。

 間違いなく、特許だけでもこの先一生困らないだけの儲けは出たと思われる。

 無論、そんなハイスペック技術に他の誰かが追いつける筈もなく、このゲームが発表されるまではろくな製品が出ていなかったのだが。

 そこまで事前知識として調べていたところで、僕はある既視感を感じていた。

 まるで、嘗て敵として対峙していた時の、「彼」のようだと。

 後から思えば、すでにこの時から、僕の中の第六感が何らかの警戒を、促していたのかもしれない。

 それともう一つ、インターネット上の、あらゆる場所で歓喜と共に書き込まれる、正式サービス開始からのみ適応されるSAO初の……いや、()()()()()と銘打たれる試みに、僕はあえて目をそらした。

 僕にはもうそれは、何の関係もないことだったからだ。

 

「うぉぉぉぉ! すっげぇなぁ!!」

 それでも、ダイブして早々の彼の驚愕の声にも、僕がただ目を瞬かせるだけで済ませてしまったのは、些か薄情かもしれないが。

「……って、タケルよぉ……おめぇ、ちょっとは感動とかねぇのかよぉ……」

 当然驚天動地を地で表した彼……壺井遼太郎には、不服な反応だったらしく、あからさまに口を曲げて僕をなじってくる。

「アハハハハ……ごめんね。……うん。良く出来てると思うよ?」

 とってつけたような僕の評価に、やや不満そうではあるが、そのまま何も言わずに流してくれる彼は、本当に懐が広い。

 これが嘗ての仲間の一人だったなら、誰かに止められるまでぎょんぎゃんとこちらにかみついてくるだろうに。

 そこまで考えかけて直ぐさま頭を振り思考を変える。

(何考えているんだろう……今更)

 既にそれは、僕にとっては取り返しのつかない、昔のことだ。

 やり直すことも出来ない、どんな後悔があったとしても。

(例の仕様のせいかな? こんなに頻繁にあの頃の事を思い出すなんて……)

 自分には関係ないと思っていても、無意識下では気にしていると言うことなのか、嘗ての仲間とゲーム内で鉢合わせる可能性はかなり低いとしても、彼らと共にいた相棒達……その同種族を見つけてしまう可能性はないわけではないのだと、今更ながらに思い当たる。

「うぉーい、そこのにぃちゃぁぁん!!」

 鬱々と考えに沈んでいた僕の意識を引き戻したのは、まるでナンパでもしているのかと、問いかけたくなるような、気の抜けるような遼太郎の声だった。

(いや、兄ちゃんって、いっている時点でナンパではないのか)

 遼太郎に、そちらの嗜好は無かったはずだしと、本人に話そうものなら流石に怒られそうな事を考えながら、片手で手招きする遼太郎の隣へ駆け寄る。

 見ると、首元まで伸びた、少し癖のありそうな黒髪の青年がこちらを伺うように見つめてくる。

「その身のこなし、兄ちゃん、βテスターだろ? 良かったら、俺らにちょっとレクチャーしてくれねぇか?」

 あって数分で直ぐさまそんな要求が出来る彼は、本当に友好的な……かなり良い性格をしていると思う。

 

 相手も良い性格をしていたのか、若しくは押しに弱かったのか、僕たちは遼太郎の要求通り、最初の基礎と呼べる戦い方……ソードスキルを習うことに成功していた。

「だぁーっ! 全然出来ねぇぇっ!!」

 遼太郎の結果は芳しくはないが。

「こういうところは、確かにゲームなんだって、実感するよねぇ……」

 発動させるためのモーション……その独特の動作が難しいのだろう。体の一部分で不自然にための時間を作る。その動作をしないで振り切っているから、遼太郎はシステムに認識されていないのだ。

「……そういうあんたは手慣れてるよな……本当にニュービーか?」

 教えてくれている青年が疑わしげにこちらを見るのに、敢えて苦笑で誤魔化した。

 同じ初心者の遼太郎と比べられて、発動モーションの動作を一度で僕が出来てしまったからこその言葉だろうが、運動神経が良いからと誤魔化しておく。

 βテスターではないものの、今まで遼太郎とやっていた他のゲームより、現実と近く感じるこのゲームの方が動きやすく感じるのは運動神経だけの問題だけではないかもしれない。

 おそらく大昔の、子供の頃のあの世界での経験が、この世界の何かとうまくかみ合っているのかもしれない。

 そこまで初対面で教える必要も無いが。

「うぉっしゃぁぁぁ!! 倒したぜぇ!!」

 オーバーリアクションとも言える叫び声に、青年と二人目を合わせ、思わず吹き出してしまう。

「おめでとう。……といってもそれ、レベル的に最初に出てくるスライム程度だけどな?」

「な……何でぇ!? 中ボスぐらいだと思ったのによぉ……」

「流石にスタート地点のすぐ側の草むらに、何体も出てくる中ボスがいたら無理ゲーか、雑魚ゲーの二者択一だとおもうよ?」

 ちぇっと舌打ちしつつ、一回の成功でコツをつかんだらしい遼太郎も、コツを忘れないようにと再び周囲にいた一体の同種のモンスターへと向かっていく。

 それを横目に見ながら、僕は今更ながらに、彼にこう尋ねたのだった。

「……所で君、なんて名前だったっけ?」

 どれほど彼に関心がなかったのか分かる一言であるが、何故かその言葉で、彼の表情にあった一種の鋭さがごっそり抜け落ちたように見えた。

「……あ~。確かにあんた、ニュービーみたいだな」

 そこで僕は、カーソルに表示されている情報について、キリトから軽くレクチャーされることとなる。

 

 平穏な時間は、いつも何の前触れもなく、崩れ去る。それを、僕は何よりも知っていた筈だった。

「プレイヤーの諸君、私の世界にようこそ」

 淡々と語られる言葉の中には、隠し切れていない熱があった。その重圧に震えながら、僕はただ気圧されぬように相手を鋭くにらみつけた。

 そのアバターが発する重圧が、気迫、気配と言うべきそれがいみじくも、この存在が単なるNPCではなく、意思を持った存在なのだと証明する。

「これはSAO本来の仕様である」

 最も、語っていること自体はとんでもないものだったけれど。

 彼は淡々と言葉を続ける。

 既に彼の決めた一方的な規約に則り、多くの人々が殺されているという事実を。

 殺すことは目的ではなく、手段であり、目的はそれの継続であること。

 クリア方法と明示する解放手段にどれほどの選択の余地があるのだろうか。

 ゲームと銘打たれた時点でここにいる殆どは命のやりとりの覚悟など、している筈がないのに。

 次々と与えられる情報を咀嚼しながらも、僕がかろうじて呆然とも、混乱をも起こさなかったのは、これ以上の理不尽に嘗て晒された事があったからかもしれない。

 あの時に比べたら明確な手段があるだけましなのかと思う一方で、この数千人規模の人員が、一つの方向性を向いて協力しあう事など不可能だと断言する己の理性がその優位性を否定する。

 元々このゲームは、戦闘だけの一本化でなく、様々な要素を売りに出していたのだ。

 たとえその中でも戦うことを目的として始めたとしても、この一方的に決められ、実行される死の規約こそが、その以前の決意を否定するだろう。

 誰だって、本当の命をかけた戦いなど、したいと思うわけがない。

(だけど……)

 そう時間を置かずに、聡い人間は気がつくだろう。

 安全な場所に……現在それに当たるのはこの始まりの町だろうが……そこに閉じこもっても、遠回りな死の回避にしかならないと言うことは。

 人間の体は、簡単に死んでしまうのだ。

 飲まず食わずでいればその肉体は衰弱し、医療行為で命をつないでも、衰えてくる機能は必ず出てくる。

 その事実に、大人も子供も関係はない。

 沸々と沸き続ける焦燥も困惑も置き去りに、何千人ものプレイヤーを巻き込んだ相手の言葉は続いていた。

 どうやらメニュー画面に何か……彼曰く、プレゼントが送られているらしい。

 最もそれにありがたみを感じる者など、閉じ込められている現状ではいるはずもないが。

 指を振る動作でメニュー画面を呼び出し、操作を続けた僕の目に飛び込んできたその名称に、僕が起こした反応は、周囲とそこまで変わらなかっただろう。

「鏡……?」

 一見は、何の変哲もない鏡に見えた。

 ありきたりな長方形の、掌にのる程度の手鏡であり、そこにはアバターの姿の僕……黒目黒髪の、凡庸な容姿の青年が映っている。

 しかし手に持った鏡から放たれた光を浴びて、その白に覆われた視界の中で、僕はここで見るとは思っていなかった景色を見ることとなった。

 色こそは黒から白と異なるものの、グルグルと回る景色、螺旋を描く光、これは。

(ゲート……!?)

 パンと、視界の中で光が重なった瞬間、反射的に閉じていた目を開いた僕は一変した景色に思わず息をのんだ。

「お前がクライン!?」

「お前がキリトかっ!?」

 だが同時に聞こえた、聞き慣れた声につられて()()()()()、見知った男……遼太郎が、服装はゲームのキャラメイク時と同じであるものの、その顔は現実と同じもので、そして、僕たちにレクチャーしていた青年は僕とほぼ変わらない背丈まで、身長が縮んでしまっていた。

「うん……?」

 そこで違和感を感じた僕は、思わず声を上げていた。

 それは周囲の喧噪からすれば殆ど囁きに近いものだっただろうが、側にいた二人の気をひくには十分だったらしい。

 二人からの視線が向くのにも気づかず、僕は違和感を明確にしようと考えて。

(あれ? 現実の僕の背丈って、遼太郎と同じか少ししか違いがなかった筈……)

 少なくても、見上げなければならないほど身長差はない。絶対に。

「まさか……タケルっ……!?」

 驚きを表す二人の姿に、改めて自分の体を見渡して変容したその姿に……今度こそ僕は悲鳴を上げていた。

 映っていたのは現実の世界で見慣れた僕自身の姿ではなく、それは、今よりも十数年は幼い、嘗ての戦いと同じ服装、同じ背格好の少年の姿をしていた。

「これは……何でこの姿が……」

 その事実に、僕はただ驚愕と混乱に突き落とされた。

 周囲もまた、混乱のただ中にいる中、あまりにもあっけなく、この混乱の原因を生み出した張本人は消えていく。

 諸君らの健闘を祈ると、その言葉だけを言い置いて。

 

「……ケル、()()()! おい、しっかりしろっ!!」

 悲鳴が響く。

 混乱がやむ様子のない広場の中からいつの間に離れたのか、大きな腕で力任せに揺さぶられて、漸く僕の意識はまともに動いたらしい。

 のろのろと視線をあげると、そこは建物の影に隠れたように存在する細道のようだった。

「……遼太郎?」

 恐る恐る確かめるように問いかけると、直ぐさま男は渋い顔を見せる。

「クライン、だよ。全く……これからはあんまり、リアルネームで呼ぶなよな?」

 こんな状況なんだからよと、続けられた言葉に思わず頷いてしまう。

 こんな状況、それが何を指しているのか位は、今の僕の鈍った頭脳でも判断が出来た。

 ゲームと現実が一体となった……言うなれば「ゲームこそが現実となった」世界。

 それは想像上では楽園に見えるかもしれないが、実際の所はそんなものではない。

 頼れる相手も、安全な居場所もない絶望は、嘗ての僕はいやというほど体験した。

 方法すら定かでなかったあの時に比べれば、明確な条件が提示されている分、光明が見えるのかもしれないが、同時にそれに対して意欲を持ち続ける事が出来るものがどれほどいるか。

「大丈夫か?」

 再び思考に沈みそうになった僕の意識を現実に戻したのは、心配そうな表情で僕の顔をのぞき込む少年……キリトの声だった。

「うん。……僕は大丈夫だよ」

 僕の答えに軽く息をついただけのキリトに対して、遼太郎……クラインは眉間に皺を寄せている。

 嘘をついているつもりはないが、顔色が悪いのだろうか。衝撃は受けたものの、現状ではこの姿から元に戻ることはどうにも難しそうなものなのだから

気にしないようにするしか方法などないだろうに。

「クラインには話したが一応伝えておく。俺はこれからすぐ次の町に向かおうと思う。」

 張り詰めた声音のまま、続いた彼の話はこうだ。

 生死をかけたゲームとなった以上、これから先、レベルを上げようとするならば単純にリソースの奪い合いとなること。

 当然このゲームに詳しくない大多数は近場の狩り場に密集し……結果として、ここら辺のリソースは直ぐさま底をついてしまう。

 だからこそ、キリトのようなβテスター経験者は安全且つ迅速にリソースを獲得するための手段として、一足先に次の町を拠点にすると言うのだ。

「うん。理屈としては合ってるよね」

 そこまでの説明をなんとか飲み下し、先を促すように返答すると、キリトは何故か複雑そうな顔で続けた。

「一人か二人くらいなら連れて行ける……と思う。だから、一緒に行くかって、クラインには聞いたんだ。断られたけど」

「へぇ……」

 心なしかしょんぼりしているような気がするキリトの様子に思わず批難のまなざしで仰ぎ見ると、遼太郎……クラインの方もばつが悪そうに頬をかく。

「しょうがねぇだろ。あいつら、見捨てていく事なんて出来ねぇし」

 その声音に、僕も彼のいう面々に思いをはせる。

 彼らの事は、僕としても知らない仲ではない。

 現実でこそあったことはないが、今までやってきたオンラインゲームでは良く連んでいたし、今回も遼太郎も含め、共に行動しようと思っていた、が。

「うん。じゃあ僕はキリトと一緒に行こうかな?」

 上目遣いで見た彼は、どこか複雑そうな表情で遼太郎へと視線を投げた。

 

 基本的なレクチャーを頼まれた時から、妙な組み合わせだと思っていた。

 クラインと名乗った彼のような典型的なコミュニケーション能力が高いと言うわけではなく、かといって、俺のように人見知り……を通り越して、コミュニケーション皆無と言うわけではない。

 彼の場合は、能力はあるものの、その能力を使おうという気がないと言うべきだろう。

 それで困らなかったのかと思うものの、二人の会話はかみ合っているし、こちらへの会話回しも上手い。

 多分、要領が良いのだ。

 そして、相手が望むものが何か、瞬時に理解して会話を合わせる。

 だけどその笑みは、どこか作り物めいて見えた。

「……い、いいのか?クライン」

 そんな彼の現実の姿が、まさか俺と殆ど変わらないほどの背丈の幼い少年だとは思わなかったが、如何せん俺も大人のアバターを使っていただけあり、その心情は理解できなくもなかった。

 だからそこは良い。

 だがそれを考慮して見ると、友人だろうと思っていた彼らの関係は違うものではないかと再考せざる得なく、それ故のクラインに対しての問いかけだった。

 そう、俺は彼らが現実での保護者と被保護者……最も、見た目からして、本当の親と言うよりは、ゲーム仲間兼保護者代理では無いかと思ったのだ。そんな俺の内心に対して、クラインもどこか焦ったようにタケル……アバターネームだと思うが二人の会話からもしや本名でもあるのかもしれない。……を俺から離し、そこでコソコソと内緒話を始める。……が。

「え?……ああっ……そりゃ、そうだけどよぉ」

「……はぁ?! いや、でもそりゃあ……ううむ」

 腕を組み、ついには考え込んだクラインに、タケルはとどめを刺すように言い放つ。

「まぁ、全部忘れた方が良いよ? その上で、僕がログインしたことも忘れてくれたら嬉しいかな?」

「そんなこと出来るかぁ!!」

 一歩引いたところから聞いていた俺からしてもとんでもない要求に、即答でクラインも否定を入れる。

 その後、半ば自棄を起こしたかのように、「分かったよ!」と声を上げた。

「お前がこのゲームに巻き込まれていることは他の連中には言わねぇ。俺とお前だけの秘密だ。これでいいだろ!?」

「おい!??」

 クラインの言葉に咄嗟に俺も声を上げた。

 βテスターで有りながら他の大多数のビギナーを見捨てて旅立とうとしている俺に言える事ではないかもしれないが、クラインの言葉は実質的に目の前にいる少年を見殺しにすると言っていることと同義に感じたのだ。

 だが、彼の言葉はそこで終わりではなかった。

「だがなぁ、俺は、俺のギルドをぜってぇ強くして、おめぇらに追いつく! そしたらおめぇは俺のギルドに入れっ!! 良いなぁっ!!」

「……それは、僕に選ぶ権利があるんじゃないの?」

「今の時点で好き勝手しようとしてるてめぇに後の権利なんざ誰がやるか! くそっ!!」

 心底、納得が出来ないと吐き捨てながらも、それでも送り出そうとするクラインに、俺はどうすれば良いのか分からなくなる。

 そんな俺に苦笑をもらして、タケルは俺に手を伸ばした。

「じゃあ、行こうか。……これからよろしくね。キリト君」

「……良いのか?」

 その問いは、クラインに対してか。タケルに対してか。どちらに向けてかは指定しなかったのに。

 ……二人は同時に頷いた。

「悪ぃけど、タケルのこと、よろしく頼むわ」

「大丈夫だよ。遼太郎は、何だかんだ言っても、嘘ついたことは一度も無いんだ」

 これが、俺達の物語の始まりであり、俺……後に「黒の剣士」と呼ばれるキリトと、一風変わった少年、タケルの道中の始まりだった。

 

 

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