電脳遊戯な剣戟芸術《デジタル・ゲーム・ソード・アート》   作:雪宮春夏

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 待っている人はいないかもしれませんが、己を鼓舞する為も含めてあげていきます。
 お久しぶりです。雪宮春夏です。
 ……小説は書き続けないとどんどん下手になると言う話もありますが、個人的にその通りだろうなと感じることの多いこの頃です。

 今回も賛否両論あるかもしれませんが、とりあえず読んでいただけると嬉しいです。




Ⅱ 「森の秘薬」クエスト その一

 遼太郎ではなく、キリトについて行こうとした理由はいくつかある。

 その内の最たる物は、彼が率いるいつものメンバーが、僕の現実の素性を何も知らないと言う状況を保つこと。

 その理由は、知っている事で、何らかの危険が及ぶ可能性があるからだ。

 普通のゲームならばまずそんなことは思わない。 

 確かに、僕を含む、最初にあの世界に関わった十二人、「選ばれし子供達」と特に呼ばれている面々は、未だに特別視されることは多いが、それはあくまで現実の世界の話で有り、更にこのゲームのような匿名性の高いオンラインゲームでは素性を知ることの方が難しい。

 よしんばそれがばれて騒ぎが起きたとしても、僕がそのゲームをするのをやめれば良いだけの話だし、そこから現実の僕に対して何らかの介入をしようとするならばそれこそ現実の世界でけりをつければ良いだけだ。

 それが同じ人間ならば、尚更。

 しかしそれらの選択肢は、このゲームにおいては役に立たない。

 まず、ログアウト不可能の生死をかけたゲームとなった以上、厄介事になったときに容易にやめることなど不可能だし、下手をしたら殺されてしまう可能性だってある。

 流石に殺されるほどの恨みを人から買った覚えはないものの、他のメンバーの恨み辛み妬み等等が飛び火しない可能性はないとは言えない。

 そんなドロドロに面倒そうな厄介事に彼らを好き好んで巻き込みたくはなかった。低レベルの間は、尚更だ。

 だがそれ以上に、危惧すべき事がある。

 それは、僕のアバターが()()姿()に変わったこと。

 僕以外のプレイヤーは全て、衣装は変わることなく、体つきや顔立ちという、敢えて作った部分が、現実の物に同期された。

 その仕掛けはキリト曰く、設定の当初に行ったキャリブレーションではないかと言う。

 頭から顔全体を高密度の信号素子で覆う形となっているナーヴギアならば成る程、顔の造形すら写し取れていて当然だろう。

 何故わざわざ現実の姿と同期させたのか、それはゲームマスターにして、この事件の首謀者である茅場晶彦氏も言っていたことであるのだからここで僕が再び言うことではないだろう。

 他の面々はそれで十分説明に足るが、僕の場合はそうはならない。

 これは遼太郎しか知らない事実であるが、この姿は僕本来の物ではないのだから。

 この姿は嘗ての僕の姿だ。

 今から20年近く前、2003年に、あの世界で……現実世界とも異なる、データで作られた異世界、デジタルワールドで仲間達と過ごしていた時の僕の姿。

 服装までそっくりそのままの状態でここに存在しているのだ。

 まるで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

(茅場晶彦が、この姿を知っていた? たとえ知っていたとしても、どうしてこの姿にする必要がある?)

 何より、鏡を手にしたときに見た「ゲート」のような何か。

 それが、僕の持つ不安を増大させていた。

(考え過ぎなら、いい)

 これが単なる茅場晶彦の単独犯で、僕をこの姿にした理由に、特に意味など無ければ良い。

 けれど。

(嫌な、予感がする)

 僕が「この姿」に変えられた理由。

 話題となっていたあの()()

 その裏に。

(何も……いなければ良いのに)

 否定できるほどの材料も、根拠も、今の僕は持ってなかった。

 

 

 あの後遼太郎と別れた僕たちはホルンカと言う村まで向かった。キリト曰く、ここで片手直剣を使うプレイヤーにとっては、数層に渡り重宝される、使い勝手のよい稀少武器を手に入れる事が出来るらしい。

「その前に……その服と、装備、どうにかしないとな」

「……ごめんね」

 チラリとこちらを見るキリトに思わず謝る。

 フィールドに出てから気づいたことだが、僕の服装にはまともな武装がなかった。

 当然と言えば当然だろう。

 あの世界では常に相棒であるパートナーが守ってくれていたし、第一、このゲームと異なり、人が剣を使って何かを倒すような要素などどこにもなかった。

 キリトからすれば、始めの始めに買ったはずの武器がどうしてないのだろうと言う話になるだろう。

 茅場晶彦によるチュートリアルが起こる前は普通に使っていたのだ。

 いきなり壊れたなどという言い訳もきかない。

 だから真っ正直に言うしかないだろう。

 服が変わった事で全部無くなったと。

 バグか何かかもしれないねと、笑って押し通したが、お金までなくなっていたことは地味に泣いた。

 経験値もなくなっているかもしれないが、このゲームの仕様上、表示される物ではないので確認のしようもない。

「……謝ることないさ。どうせ俺は、次の村ですぐ装備を変える予定だしな」

 話の調子を合わせてくれるキリトに、もう一度小さくお礼を言う。

 

 

 

 バグか何かかもしれないねと、その一言ですまされた異常事態に、思わず絶句した。

 ついで彼は大物なのか馬鹿なのかどちらだろうと真面目に考えた。

 普通、フィールドに出る前に確認しなければならない事を、彼は平然と抜かしていたことは、それほど内心の動揺がひどかったのかもしれない。

 しかし、武装が悉く消失していると気づいた当初、さして動揺するでもなく、眼前に向かってきたモンスターをひょいとよけたのは、思わず口を半開きにした。

 普通は襲ってくるモンスターの現実感の高さに恐怖から動けなくなったり、初見の動きに対応できずに、一撃は貰う。

 そうでなくても、現実の世界とVRの違いから俗に言うVR酔いに陥る人や、アバターの体躯の変更によって高低差の違いに対応できずに、目測などを誤る場合もある。

 俺自身は経験はないものの、βテスターもβテスト時には多くが悩まされていたらしい。

「……本当に、VRMMORPGは、初めて何だよな?」

 もしかしたら、単に肝が据わっているだけなのかもしれない。……いや、しかし。

 それだけですませるには動きにぎこちなさが何もないのだ。まるで、何年もその姿で過ごしているかのような。

 だからこそ、これ以上の違いがないことに、柄にもなくほっとした。

 予備で持っていたスモールソードを装備できている事実に、ひそかに胸をなで下ろしたのだ。

 まぁもし任意の装備そのものが不可能なレベルのバグであった場合は、直ぐさまタケルだけを始まりの町へ閉じ込めるつもりだったということもあるが。

 たとえモンスターに臆さない度胸があったとしても、武装を持てなければまともに戦うことは出来ない。

 本当に単に初期装備一式がロストしただけなのだとしたら、何故購入済みであった武器まで消えるのかは気になるところだが、購入できなくなっている訳ではないのだから良いだろう。……一応確認のためにポーション一式の買い物をさせてみて成功したため、武装の類いも可能な物としておく。

「……後そうだ。今のうちにスキルスロットも埋めておくか」

 その一言から、再び頭の痛くなる問題に直面すると言うことをまだ俺達二人は知る由もなかった。

 

「……読めないな」

「……読めないね」

 ほぼ同時に同じ言葉を呟いた僕とキリトは、顔を見合わせて、何とも言えない表情を浮かべた。

 目の前にあるのはキリトに教えられた操作によって可視化状態になっている僕のステータスウィンドウ。そのスキルスロット欄である。

 ……そう、スキルスロット欄である。

 ホルンカでクエストを受ける前にと、キリトの説明に合わせて現在のレベルにおいては二つ選択可能なスキルを修得しておこうと、僕達はスキルスロット欄を表示させ……そこに()()()()()()()()スキルスロット欄を確認し、目を見合わせた。

 例のチュートリアルが行われる前、遼太郎が「曲刀」スキルを修得した際に、僕はキリトと同じ「片手用直剣」スキルを修得した。

 そこが埋まっているのは、まだ良い。

 顔立ちや服装が全て変わっているのに何故スキルスロット欄だけそのままなのかと疑問は出来るが、そんな物は()()()()()()()()()もう一つのスロット欄に比べれば、どうという問題でもなかった。

「何のスキルだと、思う?」

「読めないから分からないよ……でも、この文字」

 顔を見合わせた二人はどちらともなく乾いた笑いを漏らした。どう見てもおかしいとしか言いようがなかった。

 いや、今までも十分異様ではあったがこのように目に見える形で突きつけられれば自然とため息をつきたくなるという物だ。

「デジ文字に、見えるよな」

「デジ文字に、見えるよね」

 二人ぴったりに揃った声に、喜ぶよりも先に呻き声を上げていた。

 そう、埋まっていたスロット欄はデジ文字、らしき物で何かが書かれているのだ。 

 場所がスロット欄であることを考えれば書かれていることはおそらく何らかのスキルの筈、なのだが。

「……ダメだ。全然わかんねぇ」

 デジ文字、と思われる記号……最早模様のようにも見えるそれを指でなぞりながらブツブツと何事かを呟いていたキリトが音を上げて、二人は現状の整理を始めることとなった。

……と言っても、決めることはあるようでいて、実際はないのだが。

「スキルスロット欄が全て埋まっている場合、上書きという形で別のスキルを修得する事は出来る。でもその場合、上書きされた方のスキルは消失扱いで、また新しく取得し直さないといけなくなる。そうすると当然、それまでスキルを使用することでたまっていた熟練度なんかは0に戻る訳なんだが……」

 チラリと、未だに可視化状態のままの僕のウィンドウを見たキリトに僕は首を横に振った。

 おそらく、キリトも分かっていただろう。

「消さないよ。……だいたい、もう一度修得出来るように見えないし」

「……だよなぁ。……確証は持てないけど、どう見ても普通のスキルじゃ無さそうだもんな。……βテスト時の情報には間違いなくなかったし」

 書いてある言語がデジ文字……デジタルワールドで使われているデジモン達の言葉である以上、例の()()と関わりのある可能性もある。 

「……下手したら、……………スキルか……いや、…………の可能性も……」

「キリト君?」

「……いや、じゃあそのままやろうか」

 なおも何事かを呟いていたようだが、小声過ぎたのか、僕の耳までは届かなかった。

 重要な何かかと問いかけるとどこか慌てたようにパタパタと手を振っていた。

 

「森の秘薬クエスト」……それが第一層にある片手用直剣の中でも最上位に位置する稀少武器、アニールブレードを入手できるクエストの名称である。

 設定上の概要は病弱な少女の為に森の秘薬……正確にはその材料となるとあるモンスターの一部を採ってきてほしいという物。

 採ってきた親切な人にお礼代わりに渡されるのが家宝としてその家に置かれてある長剣、アニールブレードである。

 まぁ、実際は単なる採取系のクエストであり、とあるモンスター……ネペントと呼ばれる種類の中でも、「花つき」と呼ばれる個体を倒した際にドロップされる「胚珠」を手に入れることで、武器を入手できるというイベントに過ぎないのだが。

「このクエストでの注意点は、ネペントの「実付き」……こいつらは、花の代わりに掌大の赤い実がついているのが特徴なんだが、その実を間違って割ってしまうと、大量に同種のモンスターを……要するに仲間を呼び寄せる、凄く強い匂いを出すんだ」

 スタスタとネペントのいるフィールドへ向かいながら説明するキリトに頷きながら、僕は今し方、キリトと共にクエストの受注をした際に見たNPCの女性の姿を思い出した。

 頭上に表示されていたカーソルの色で、彼女がNPCであることは分かっていたし、このゲームのNPCのリアリティの高さは始まりの町で見たから理解できていると思っていた。

 だけど。

(何だろう……何か気になるというか)

 既視感と、言うべき何かを感じるのだ。ここでも現実の世界でも、今の自分の周りには、病弱な人間などいないというのに。

「タケル、おい、聞いているのか?」

 顔をあげるとどこか困り顔のキリトがこちらを伺うように見つめている。

 どうやらまた思考の中に沈んでいたらしい。

 その視線にどこか咎めるような色を感じて僅かに苦笑う。

 流石によそ見が過ぎている。

 一言謝罪の言葉を添えると、小さく頷いてそのまま歩みを進めた。

 

 目視したその標的は、人食い花という言葉が似 合うような、何とも言えない見た目をしていた。

 ネペント……正式名称、リトル・ネペントと呼ばれるそれを見ながら、やや場違いながらも、作り込まれたその見た目に僕は感嘆の声を上げていた。

「花つきと実付きとそれ以外で、これだけ密集するものなんだね」

 思わずこぼれた言葉に、キリトは訝しげな顔をする。

「集まっている量はまだ普通な方だ。まともに数を減らしてもない現状で実が弾けたら、奴らの体で一面が覆われる。それこそ地面が見えないぐらいにな」

 その言葉はどこまでも淡々としており、逆にそれが、誇張や言い過ぎの類いでないことを実証する。

 チュートリアル前に教わったことを思い出しながら視線を向けると、ネペントのカーソルの色はプレイヤーである僕達とは異なり少し紫がかった赤い色をしている。

 道中で補足としてキリトが話してくれた説明によれば、あのカーソルの濃淡は視認する相手とのレベル差を表しているらしい。

 紫がかっている時点であの標的が僕らよりも高レベルであることは間違いはない。

 それなのにキリトに臆する様子や気負う様子がないのはβテスターであったが故の慣れか、若しくは、あまり考えたくないがこちらと違いキリトと相手の間にはあまりレベル差がないのか。

 通常ならば前者と言えるが、僕のアバターが変容した際にレベルの上昇に必要な経験値すらもリセットされている可能性がある以上、あり得ないことではない。

 レベルの表示を見ればはっきりするのかもしれないが、知ることによる怖さもある。

 装備の着脱を気にしていたキリトは気づいていないかもしれないが、これでレベルアップの機能そのものが()()()()()()()()()()()、真面目に攻略など不可能だと言われてしまうだろう。

 この姿の基盤を作った()()()()には、レベルの設定がそもそも無かったから、そんなことを考えてしまったのかもしれないが。

 そんな一抹の不安を打ち明けないまま、キリトに促され、僕は剣を構えた。

 

 

 後から思えば、この戦いが僕がこの世界の思惑に触れる、最初の切欠だったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

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