照明が点いていない部屋で一人の幼いウマ娘がテレビ画面を虚ろな目で見ていた。
『来週のプリファイもお楽しみに!』
その言葉が流れ終わると画面が停止しメニュー画面に戻る。
彼女は今朝に録画していたプリファイのアニメを何度も見返していた。
今日は日曜日であり、親は二人とも出かけている。したがって今日はプリファイ見放題デーでウッキウキの気分でプリファイを堪能するはずであったが、
『プリファイなんてアニメだけの話じゃねーか。だっせー』
と同年代の男子に突きつけられて落ち込んでいたのだ。
「違いますもの。プリファイは、姫は実在しますもの…」
長年プリファイのような姫になることを夢見てきた彼女にとっては受け入れきれない言葉であった。
プリファイはテレビ画面から来ない。それはわかっていた。だからこそ自分がプリファイの姫になってみせると意気込み努力を重ねてきた。
だが、いまだに彼女は姫になり切れていなかった。それどころか、本当にプリファイの姫になれるか、という疑念を無意識に持つようになっていたのだ。そのため先ほどの言葉は彼女の胸に強く突き刺さった。
「プリファイなんて、姫なんて、ただの夢なんですの…?」
切り換えよう。彼女はそう思い、膝を抱えながらテレビのチャンネルをポチポチと切り替えていく。
そして少女は出会った。
『さあ次は四番人気キングヘイローの入場です』
テレビ画面に気品があふれ出たウエーブのかかった茶髪のウマ娘が映された。緑色の勝負服を身に着け入場してきた。だが、彼女の入場には歓声が上がらず、幼いウマ娘でもキングヘイローと言われた彼女が期待されていないことが分かった。勝てるわけがないと。
だが、少女はキングヘイローの表情が目に焼き付いた。キングヘイローの表情には一切の弱気が読み取れなかったのだ。むしろ闘志を燃やしているようでもあった。
(どうして?なんでそんな顔ができるんですの?)
幼いウマ娘の心に疑問が生まれる。なぜ周りから馬鹿にされてもそんなに堂々としていられるのか?と。
その後、一番人気のウマ娘が入場し会場は大いに盛り上がっていた。しかし少女の耳にはその名前は入らなかった。その時の少女の中にあった名前はただ一つ、キングヘイローであった。
『さあ寒風を吹き飛ばせ!春一番G1シリーズのスタートです!』
そしてゲートが開き、一斉にウマ娘たちが駆けていく。実況は一番人気のウマ娘の名を主に伝えているが、そこにキングヘイローの名はない。テレビ画面にすら映らなくなった。少女は失望の眼差しでそれを見つめていた。
(やっぱり無理なものは無理なんですの。できっこないことはあるんですの…)
だが、ゴール直前。
『大外から!大外からキングヘイローが飛んで行った!』
画面の左端から緑の勝負服がいきなり現れ、先頭にいたウマ娘たちをグイグイと追い抜いていく。少女は一瞬たりとも目を離せなかった。離すことなどできなかった。
『キングヘイロー来た!キングヘイローが撫で切った!』
勝った。勝ってしまった。周囲から疎まれていたウマ娘が。
『キングヘイローがまとめて撫で切った!恐ろしい末脚! ついにG1に手が届いた!』
G1勝利がどの程度すごいのかまだ少女にはわからなかった。だが、
『ワァァァァアアアア!!!!』
会場の歓声が、絶叫がキングヘイローを包んでいた。レース前には全くなかった歓声が。
少女は理解した。キングヘイローは覆したのだ。周囲の評価を。周囲の蔑みを。
テレビ画面に勝利をもぎ取ったウマ娘、キングヘイローが姿を現す。その体は泥まみれの汗まみれであったが品は損なわれておらず、むしろ増しているようであった。
『……ふふっ、みんな驚いているのかしら。それとも歓喜に震えすぎてるのかしら。でもこの結果が示したのはただ1つ』
『私には……才能があった……!そうでしょう、トレーナー……っ!』
キングヘイローに呼びかけられた男性が一瞬画面に映った。満足げに涙を流しながら笑っていた。
彼らは信じ切ったのだ。キングヘイローの才能を。キングヘイローの力を。
「……」
少女は目の当たりにした。信じ続けることの困難さ。そしてそれが叶うことを。
「私も……姫になれるのでしょうか?信じ続ければ、努力し続ければ、あの方たちのように……」
少女は勢いよく立ち上がり、拳を勢いよく天に突き上げ叫ぶ。
「私は姫になってみせますわ!何があろうとも決して挫けません!―――そして」
少女は拳をひっこめ再度突き出す。
「キングヘイロー。キングさんと走ってみせますわ!あの舞台で!」
少女、カワカミプリンセスは生涯の目標を掲げた。高松宮記念でキングヘイローと走るという目標を。