カワカミプリンセスの決心から時が経ち———
「やって参りましたわ!ここがトレセン学園!」
桜が舞い散る校門前、栗毛長髪のウマ娘のカワカミプリンセスは両手を腰に当てながら大声でそう叫んでいた。
周囲から奇異の視線を向けられるが彼女は意に介さない。
「っしゃあ!バリバリぶっとばしますわよーーー!!!」
元気百倍力強いダッシュで門をくぐり校舎へ向かっていく。
彼女の物語はここから始まるのだ。
入学式の後、カワカミプリンセスたち新入生はジャージに身を包み、トラックに集まっている。
「はい、皆さん集まりましたね。それではさっそく模擬レースを行ってもらいます」
教員が新入生を見渡しながら説明を行っていく。
トラックの周囲にはトレーナーが大勢詰めかけており、新入生ウマ娘たちと書類を交互に見ながら品定めを行っている。どの娘をスカウトするべきかを見極めるため、このレースは行われる。
トレーナーにとっても大事なレースだが、それ以上にウマ娘たちには大事なレースである。下手をすればこのレースで才能なしと烙印を押され、スカウトされずにトレセン学園を去ることにもなるからだ。
「では走りたい距離を申告してください」
「はいはいはいはーい!私は短距離を走りたいですわ!!」
教員の言葉が終わると勢いよく1人のウマ娘が手を上げながら申告してきた。
「ええと、あなたは……」
「はい!カワカミプリンセスですわ!」
カワカミプリンセスはもう待ちきれないのか足踏みをしながら今か今かと待ちわびている。
「元気があって大変よろしい。他に短距離を走りたい子はいますか~?」
数人が手を上げ、とりあえず申告順でレースを行うこととなった。
カワカミプリンセス、そして他8名のウマ娘が一直線に並ぶ。
「ふっふっふ~伝説の姫物語が今始まりますわ!」
意気揚々とカワカミプリンセスはスタート位置につく。
他のウマ娘もそれぞれ位置に着き準備ができたようだ。
全員スタート姿勢をとり、
「それでは……用意……スタート!!!」
教員の声とともに一斉にスタートした。
「うおおぉりゃああぁぁ!!!!」
気合いの入った声を出しながら走り出したカワカミプリンセス。すぐに先頭には行かず後方で力をためる。
カワカミプリンセスが得意とする走り方は差しである。彼女の爆発的な末脚を生かすには最適な走り方であるのが主な理由だが、
(プリファイは物語の前半でピンチになって後半に大逆転するのが鉄則ですもの!)
彼女の好きなプリファイ原則に倣ったものであった。
そうこうしているうちにカワカミプリンセスたちはトラックを走り抜けていく。カワカミプリンセスはいまだに最後方。
(あと2ハロン走ったらスパートをかけてごぼう抜きしてやりますわ!)
と考えた直後、前方のウマ娘たちが一斉にスピードを出し始めた。
(え!?皆さんもうスパートをかけるんですの!?)
カワカミプリンセスは出遅れた。見る見るうちに距離が開いていく。
(わ、私もスパートをかけませんと!)
カワカミプリンセスは遅れながらもスパートをかけた。だが、
(お、追い付けませんわ!)
ラストの曲線、いまだに5バ身以上の差がある。
(ぬおおおおおおお!!)
ラストの直線、カワカミプリンセスは末脚を爆発させ、前方集団まで後1バ身まで追いついた。が、
(ま、前が見えませんわ!)
前方のウマ娘たちが群がり、壁のようにカワカミプリンセスの視界をふさぐ。とても間隙をぬって走り抜けられそうにはない。
ならば大回りで外側を走ればよいが距離はその分伸びてしまう。
(わ、私はどうすれば……)
そう悩んでいるうちに前方のウマ娘たちは次々にゴールラインを通過していく。そして、
「最下位、カワカミプリンセス」
ゴールラインを最後に通過したのは彼女であった。
「こんなはずじゃ…こんなはずじゃありませんもの……」
周囲を見渡すと一緒に走っていたウマ娘たちが次々にスカウトを受けていた。
カワカミプリンセスの周りにはそんな者は誰もいない。
誰も自分を必要としていない。自分の足には価値がない。カワカミプリンセスはそう思い、
「っ!!」
声にならない悲鳴をあげ、カワカミプリンセスは走っていった。これといった目的地もなく。キングヘイローと走るという目標を失いかけている彼女の気持ちを体現するかのように。
姫物語は始まった。その始まりは敗北であり、
「ん?大丈夫か、あの娘」
パートナーと出会うきっかけでもあった。