とある新キャラが登場します。
カワカミプリンセスとトレーナーがパートナーとなって1ヶ月。メイクデビューに向けて着々とトレーニングを積み重ねていた。
そんなある日のこと
「トレーナーさん!私の記事が載っていますの!」
カワカミプリンセスがいつも通りバーンと音をたてながらトレーナー室に入って来た。当初はおっかなびっくりしていたトレーナーであったが、今では慣れてドア破壊をしなくなったことを安堵しているほどである。
「ん~?どれどれ」
枚数にして10枚程度の新聞だ。
見出しは『今年メイクデビューに挑むウマ娘!』であった。
ざっと見ると今年のメイクデビューに出走するウマ娘たちのプロフィールが掲載されている。出身地や所属チーム、目標や意気込みなどなどが書かれており、ダービー勝利やクラシックに挑む、ティアラ路線で女王を目指すなど様々であった。
「ここ!ここに私が載っていますの!」
ビシ!ビシ!ビシ!と紙を突き破ってしまいそうな勢いである一点を指し示すカワカミプリンセス。そこは5ページ目の端っこでありガッツポーズを力強く決めたカワカミプリンセスの小さな白黒写真が掲載されている。その目標は
『キングさんのような可憐で美しい姫になりますわ!』と書かれていた。
「……」
他のウマ娘の目標を見ると彼女以外はレースに関する目標であり、1人のウマ娘を目標としているのはカワカミプリンセスだけであった。
「……カワカミ、こういうのは走りたいレースを書くものだぞ」
「え?ダメなんですの?私は心のありのままに書きましたのに……」
頬に手を添えながら困惑するカワカミプリンセス。それを取り繕うためトレーナーは言葉を紡いだ。
「あー、すまん言い方が悪かった。カワカミには目標とするレースはないのか?」
そう問いかけるとカワカミプリンセスは腕を組みウンウンとうなり始めた。
「以前の私なら『キングさんと同じクラシック路線に挑みますわ!』と言っていたかもしれませんわ。でも今は迷っていますの。キングさんと私は違うと以前の模擬レースで思い知りましたので……」
「まぁ、キングヘイローのようになりたいからと言ってもキングヘイローと同じレースを走る必要はないんだ。まだ時間はあるしゆっくり考えればいい」
カワカミプリンセスは申し訳ないような表情で苦笑いを浮かべた。そして一息つき、
「ひとっ走りして頭をスッキリさせてきますわ」
そう言ってカワカミプリンセスはいつもと違って静かな音でドアを開閉し出て行った。
それを見送ったトレーナーは
「カワカミ、お前は何にも縛られていないんだ。だから好きに選べ」
とぼやき、天井を見上げた。
「ハッ、ハッ、ハッ、ハァ~」
カワカミプリンセスは芝コースを一人で走っていた。時間はもうすぐ日が暮れる頃であり周囲には他のウマ娘は見当たらない。
「フッ、フッ、フッ、フゥ~」
走るといってもそのペースはゆったりしたものであった。まだカワカミプリンセスは本格化を完了していない、だからカワカミプリンセスの有り余るパワーでトレーニングを積むとカワカミプリンセスの体を壊してしまうかもしれないとトレーナーから指摘されたためである。
「あー思いっきりぶっ飛ばしたいですわ~」
愚痴を吐きながらストレッチを始める。もやもやした頭をモヤっとした走りでスッキリさせることはできずにいた。
今まではキングヘイローのようになりたいということだけ考え猛進し、それ以外の選択肢を知らなかった。今はそれ以外の選択を知りどれも魅力的であるように見えてきたのだが、
「あー!どうすればいいんですの!?」
決定打がなかった。自分の性格上『これ!』という目標を定めれば一直線で突っ走っていける。しかし今はそれがない。だから決めることができずにいた。高松宮記念には出たいものの、現段階では短距離にはあまり適していないという矛盾もありこれも決め手にはならない。
スッキリしない、はっきりしない、自分らしくない。
もやもやしながらハァとため息をつき気分転換に上を向くとハロン棒が目に入った。番号は『16』距離にして1600m。その距離は以前の模擬レースと同じ距離、そして
「桜花賞の距離ですわね……」
この距離を思いっきり走れば何かが変わるのではないか?そんな気がしてきたカワカミプリンセスは
「っしゃあ!やりますわよ!」
と呟いてスタートの構えをする。以前は知っても問題はなかった距離だ。だから一度くらいぶっ飛ばしても大丈夫だろう。
そう考えスタートを切ろうとすると、
「もしかして君がカワカミプリンセスだったりする~?」
背中越しから軽いのんびりとした口調で話しかけられた。
「あ、はい。どちら様で―――」
そう言って左に首を回し振り向こうとしたカワカミプリンセスであったが、
「じゃあ試しちゃおっかな~」
と突如右耳から声が聞こえ、ゴウ!と轟音が鳴り、1人のウマ娘が走り出していった。低姿勢で走っているためカワカミプリンセスからでは髪色すら確認できない。何者かもわからないが、
(姫たる者、売られたケンカは買わないと!ですわ!!)
そう頭を切り換えたカワカミプリンセスも地面を蹴り上げ、駆け出した。
500mを走りいまだ頭が見えないが距離は離されなくなっていた。気になるのは走る距離だが、
(先ほど私がハロン棒を見ていた後で話しかけられました。そして試すなどとおっしゃっていましたわ。ということは)
1600m。とりあえずそのようにカワカミプリンセスは結論付けた。となればスパートをかけるのはまだ早い。このコースは模擬レースしたものとほぼ同じであるため以前のように最終直線でスパートをかければ、
「勝てますわ!」
そう檄を飛ばして走り続ける。勝てる見込みができ、思考に余裕ができたので改めてこの勝負相手のことを考える。
(それにしてもあの方はどなたなのでしょうか?)
トレセン学園に入学し幾人か友人ができたがあのような口調の人は身に覚えがない。赤の他人だ。自分が期待の新入生ということならば力試しに来るというのは理解できる。
しかしながら、認めたくはないが、今の自分は良い結果を出してはいない。最初の模擬レースでは多くの人の前で醜態をさらしてしまったこともあり自分を強いと思っている方はほぼいないだろう。
つまり今の自分に勝負を仕掛けてもほとんどメリットはないのだ。どちらかと言えば併走をお願いする立場である。
(それなのに何故?)
そうこう考えているうちに最終コーナーに差し掛かった。相手との距離は十分巻き返せるほどである。
(まあ相手がだれであれ、ラストスパートでぶっちぎりですわ!)
最終直線に向けて息を整えようとしたその時、
「!?」
相手のウマ娘が加速した。
(まだ加速しますの!?)
先ほどの距離でギリギリ追い抜ける距離だ。これ以上離されては負けは確実―――
「とは限りませんわ!!!」
最終直線に入るや否やカワカミプリンセスはラストスパートをかける。その足は勝つことを疑ってはいない。勝利を信じて加速を続けていく。6バ身、5バ身、4バ身とその距離は縮まっていく。
「ハアアアァァァアアア!!!!」
そして残り2バ身まで近づいたその瞬間、
「え?」
ぐらりと体が傾き、カワカミプリンセスは転倒した。
勢いは殺しきれず地面に叩きつけられ、ずざぁぁと音を立てながらコース上を滑っていく。
「ッ!いったぁ~いですわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
芝のクッションのおかげで軽傷で済んだが、それでも痛いものは痛くカワカミプリンセスは思わず悲鳴を上げる。
うつ伏せに倒れ顔を上げたカワカミプリンセスの方へ足音が近づき、
「あちゃー、ちょーっとやりすぎちゃったかな~大丈夫?」
カワカミプリンセスの頭上から声を掛けられた。
「い、いえいえ、た、大した怪我ではありませんわ…」
カワカミプリンセスの目に入ったのは屈みながら手を差し出すそのウマ娘の姿。青めの芦毛で短髪、空のように青い瞳、左側にタンポポの髪飾りを付けているこのウマ娘は、
「あなたはたしか―――」
「やっほー、セイウンスカイだよー」
憧れのキングヘイローと同期であるセイウンスカイであった。
時間が空きましたがどうにかできました。ある程度頭の中では話が固まってきましたので次は早く出せるよう努力します。