An indomitable spirit in my heart   作:アイリスさん

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身を焦がす、その想い

 

 

「なのは、なのはってば!なーのーはー!」

 

昼下がりの教室内。アリサの呼ぶ声はなのはの耳には届いていないようだ。

 

「駄目ね、聞こえてないわ。さっきからずっとあの調子よ」

 

「仕方無いよ、アリサちゃん。なのはちゃんはきっと、フェイトちゃんの事考えてるんだよ」

 

そう話すすずかに、アリサも「そうね。全く‥‥‥」と同意しながら呆れる。

なのはは、自分の席に座って頬杖をついて先程からずっとニヤニヤしている。アリサやすずかが見ているのも見えてはいないようだ。

 

(人工呼吸って、チュー!?チューだよね‥‥‥フェイトちゃんとチューして、手を繋いで‥‥‥チュー‥‥‥)

 

時々「フフフっ」と笑みを洩らしたり、イヤンイヤンと悶えてみたり。教室内にも関わらず、なのはの思考は暴走している。

 

「ねえ、すずか。そろそろ止めて良いわよね?アレ」

 

アリサは全く気付いていないなのはの頬をペシペシと数回叩いて呼び掛ける。

 

「そろそろ授業始まるわよ。戻って来なさい、なのは!」

 

「‥‥‥ふぇっ?どうしたの?」

 

漸く気が付いてそんな惚けたままのなのはに、アリサは頭を抱えながら溜め息を付く。

 

「アンタねえ。はぁ。まあ、良いわ。なのは、そろそろ授業始まるわよ」

 

チャイムが鳴り、席に戻るアリサ。

未だニヤついているなのはを見兼ねて、今度はレイジングハートが言葉を掛ける。

 

『マスター、フェイトちゃんとは放課後に会えるんだから、今はちゃんと授業受けないと駄目だよ?』

 

《分かってるよ、レイジングハート。でも、待ちきれないんだもん!》

 

念話で答えながら教科書を広げるなのは。彼女の顔は、放課後が来るまで終始笑顔のままだった。

 

◇◆◇◆◇

 

マンションの一室。ベッドにうつ伏せになって、地図を見ながら悩んでいるフェイト。その地図の、既に封印したシリアルナンバーは潰されている。

 

「なあ、フェイト」

 

「アルフ、どうしたの?」

 

「ジュエルシード、プレシアに渡さなくて良いのかい?なのは達が持ってる4つはどうするんだい?貰わなくて大丈夫なのかい?」

 

フェイトは少し躊躇し、間を置いてから答える。視線はアルフと合わせず。その表情には、少しだけ陰りが見える。

 

「もう少し集まったら、一度戻ろうか」

 

勿論、何とかしてプレシアを助ける気でいるフェイト。最後まで時の庭園に戻るつもりはない。プレシアにジュエルシードを渡してしまったら‥‥‥前回の結末、庭園の崩壊と虚数空間にプレシアが消える結果になるだろう。

 

(母さんを、助けたい。例え振り向いてくれなくても‥‥‥‥‥‥ううん、出来たら振り向いて欲しい。母さん‥‥‥)

 

方法はまだ思いつかない。今は出来る事をするしかない。

 

「そうだよな。まだ6個だし、半分くらいになったら持ってけばいいか」と簡単に納得してくれた狼形態のアルフの頭を撫でながら、フェイトは身体を起こした。

 

「そろそろ時間だよ。行こうか、アルフ」

 

もう学校の下校時刻。今日からなのはの訓練に付き添う予定のフェイトは、本当の思いは心の奥に仕舞い込み、アルフに笑顔を向けた。

 

◇◆◇◆◇

 

なのはの放ったシューターは、目標の、ベンチの上に置いてある空き缶にはかすりもせずに遥か上空へ。やはり昨日の今日ではデバイス無しで操るのは困難なようだ。なのははガックリと肩を落としていた。

 

「ふぇぇ‥‥‥難しいよ」

 

『初めてだし、こんなものだよ、マスター』

 

「でもっ、でもフェイトちゃんは上手く飛ばせてるし‥‥‥」

 

結果に納得がいかないのか、なのはは少し不満気。魔法陣を展開して、再度シューターを発生させる。

 

「『ディバインシューター、シューート!』」

 

しかし、やはり空き缶には当たらず上空へ。「う~」と唸るなのは。

 

『フェイトちゃんは小さい頃から練習してたんだよ。シューターも前方向には飛んでるんだし、初めてにしては上出来だよ』

 

『なのは』に慰められて、なのはは再びリンカーコアに集中し始めた。

 

『なのは』が成すべき事は多い。シューターの完全制御、バスターの練度、精度の強化、ジュエルシードを集め切る前にブレイカーも完全な物にしておきたいし、此れから空戦指導もしなくてはならない。近接戦闘はもはや後回しである。いくら自分自身の事とは言え、半年間で何とか形にしなくてはならない。只でさえスタートが遅れている。

 

(『冬迄には何とかしないと』)

 

焦っている訳ではないが、時間は限られている。幸い完成形は見えている。『なのは』の教導にも熱が入る。

 

『ほら、マスター。集中、集中』

 

「うっ、うん!」

 

その様子を、少し離れて見ているフェイトに、アルフが呆れながら話し掛ける。

 

「あの子さぁ、収束砲撃とかバインドの上位魔法とか使ってたよね?それなのにシューター1つも満足に撃てないって、無茶苦茶じゃないか?」

 

「なのはは才能はあるから。昨日魔導師になったばっかりだし、仕方ないよ」

 

微笑ましいものを見るような視線でなのはの様子を眺めたまま、フェイトは答える。アルフは「いや、だから初めてなのにあんな高度な‥‥‥」と言いかけたが、溜め息をついてヤレヤレと両手を広げる。

 

「考えても仕方無いか。なのはが敵にならない事を祈るよ、全く」

 

「なのはは、そんな子じゃないよ」

 

「分かってるさ。フェイトの友達が悪い奴の訳ないからね」

 

笑みを浮かべて答えるアルフ。そんな会話をしている二人の元へ、休憩に入ったなのはが走って来る。

 

「フェイトちゃ~ん!」

 

「なのは、お疲れ様」

 

頬を染めて「私の魔法、どうだった?」と、恐る恐る上目使いで聞いてくるなのは。その辺の男子ならこれでイチコロなのだろうが、その気の無いフェイトには効く筈もない。

 

「うん。初めてにしては上手いよ、なのは」

 

フェイトが笑顔で答えると、なのはは満面の笑みを溢す。さっきのレイジングハートの時とはまるで違う反応である。

 

「ありがとう、フェイトちゃん!私、がんばるね!」

 

『なのは』に任せっきりにする訳にもいかない。自身の鍛練もそうだが、なのはの前回の結末の二の舞にする訳には行かない。こうなった以上、出来るだけ早く、出来るだけ強く‥‥‥。

そんななのはを、フェイトは抱き締めた。勿論、恋愛感情ではない愛おしさで。

 

(なのは、必ず、必ず貴女の運命を変えてみせるから‥‥‥)

 

 

 

 

そんなフェイトの思いが理解出来る筈もなく、盛大に勘違いを起こしたなのはは、真っ赤になって「ふぇぇぇぇ!?」と思わず声をあげながら(これって、チュ、チューして良いって事だよね!?)と勝手に結論づけて瞳を閉じる。

 

(フェ‥‥‥フェイトちゃん‥‥‥)

 

フェイトの唇に、なのはが近付く。もう少しで触れる、という所で「なのは」と声を出したフェイトに、思わず一時停止して、「ふぁ、ふぁい」と微妙な返事を返す。

 

「此れから頑張ろうね、なのは」

 

「う、うん」

 

期待していた言葉と違うガッカリ感と、キスし損ねた残念感がなのはの表情を少し歪める。それを不安感と勘違いして捉えたフェイトは、もう一度なのはを抱き締める。

 

「大丈夫だよ、なのは」

 

なのはは「うん」と答えて、フェイトに抱き付き返した。(今は、これでもいっか)と、キスは次の機会に持ち越して。

 




暴走がスタンダードになったなのはちゃん。
振り向く気配は無いフェイトちゃん。
交錯する二人の思いが交わる時は来るのでしょうか。
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