An indomitable spirit in my heart 作:アイリスさん
「ジュエルシード、シリアルⅩⅥ、封印!」
桜色のバインドで固定された犬の化物に向かって、なのはの封印砲が走る。菱形の石が分かたれて、ジュエルシードの力に巻き込まれていた犬が元の姿に戻る。
フェイトがジュエルシードに近付いて、それをバルディッシュに収納した。
「今の、どうだった?フェイトちゃん!」
訓練後の、初めての一人での実戦。なのはフェイトに駆け寄る。
「うん。良かったよ、なのは」
不安そうだったなのはの顔は、フェイトが向けた笑顔で満面の笑みに変わる。
「ありがとう、フェイトちゃん!」
嬉しそうにフェイトの元へと駆け寄り、思わずなのか態となのか抱き付いてくるなのは。
(フェイトちゃん大好き‥‥‥私のフェイトちゃん‥‥‥)
フェイトはフェイトで、そんななのはを抱き寄せて、まるで我が子を慈しむようにその頭を撫でる。
「なのは、今日はもうすぐ夜になるから、もう帰ろう?」
「‥‥‥うん」
もう少しだけ抱き付いていたかったなのはだが、晩御飯迄には家へと帰らなくてはならない。仕方なくフェイトから離れる。
「それじゃ、フェイトちゃん。また明日ね!」
「うん、なのは。また明日」
なのはは家へと向かいながらも、名残惜しそうに何度もフェイトの方を振り返る。その度に笑顔で手を振るフェイトに、何度も何度も手を振り返しながら、見えなくなるまで続けながら帰って行く。
「なあ、フェイト。なのはってさ、フェイトの事好きなんじゃないか?」
不意にアルフが口を開いた。キョトンとして「え?だって友達なんだから、好きなのは当たり前だよ?」と答えるフェイトには、アルフの言葉の意味が理解出来ていない。
「いや、そうじゃなくてさ、何て言うか‥‥‥ホラ、男と女の間の好きって言うか‥‥‥」
「もうっ。アルフ、そんな訳ないよ。だって、なのはも私も女の子だよ?同性同士でなんて」
少し呆れたような笑みを溢して、言葉を返すフェイト。「いやいや、けどさぁ」となかなか引き下がらないアルフを「ほら、もう行くよ?」と無理矢理マンションへと引っ張っていく。
◇◆◇◆◇
一方の、神社から帰ってきたなのは。部屋のベッドに横になる。
帰って早々に、ユーノは美由希に捕まっている。今部屋に居るのは、なのはとレイジングハートだけ。
「ねえ、レイジングハート。フェイトちゃんって、どうしてアルフさんと二人だけで住んでるのかな?お父さんとかお母さんとか、どうして一緒じゃないのかな?」
『そっ‥‥‥それは』
天井を見上げながら、「うーん」と悩みながら聞いてきたなのは。『なのは』は当然理由を知ってはいるが、現時点で答える訳にもいかない。どうにか誤魔化そうとして言葉を発しようしたが、何か思い付いたらしいなのはの「そうだ!」という一言に遮られた。
「フェイトちゃんもウチで一緒に住むっていうのはどうかな?ホラ、そうしたらフェイトちゃんも寂しくないし、私もフェイトちゃんと一緒にいられるし‥‥‥」
『フェイトちゃんにだって都合があるんだよ?』
今一緒に住むのは、プレシアの事を考えると得策とは言いにくい。なのは自身にもプレシアの目が向いてしまう可能性もある。
『だから、その案は一先ず保留、ね?』
「レイジングハートは、女の子、だよね?」
『え?う、うん‥‥‥』
なのはは一見、『なのは』との話の内容とは結び付かないような質問を投げ掛けてきた。しかも、その表情は真剣そのもの。その頬が紅いのが少し気になる所だが‥‥‥。
「じゃあ、じゃあ、私の気持ち、分かってくれるよね?好きなの。フェイトちゃんの事。だから‥‥‥一緒に居たいの。駄目‥‥‥なのかな?」
(『嘘‥‥‥だよね?』)
他人からの好意にめっぽう疎い朴念仁の『なのは』にも、これは流石に分かった。今まで、目の前のなのはの、フェイトに対する感情は憧れや姉妹間のそれに近いものだと思っていた。懐き方が少々過ぎるとは思っていたが、まさか恋愛対象だったとは。
『えっと‥‥‥Likeじゃなくて、Loveって事?』
「うん‥‥‥」
『なのは』にそう答え、なのはは恥ずかしそうに真っ赤になって俯く。一方の『なのは』はと言えば‥‥‥。
(『嘘、うそうそっ‥‥‥フェイトちゃんの事を!?過去のとは言え、私が!?』)
忙しそうに桜色に点滅しながら、この時代のなのはの今迄の行動を振り返る『なのは』。もし生きていれば恐らく恥ずかしさで真っ赤になって狼狽しているであろう彼女は、人生(?)で初めて『穴があったら入りたい』という言葉の意味を真に理解していた。
『じゃあまさか、フェイトちゃんが溺れた時に人工呼吸教えてって言ってきたのも、単純にキスしたかったから‥‥‥なの?』
その質問には答えなかったが、耳まで紅くなったなのはのその表情が、其れが真実である事を物語っていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
『ヴィヴィオ、どうかな‥‥‥?』
少し恥ずかしそうに訊ねる『なのは』。
「なのはママ、カワイイ~!」
ヴィヴィオは駆け寄り、目の前でフワフワと浮く、二頭身のなのはの縫いぐるみを抱き締める。
「似とるやろ?外装はシャマルが作ったんよ」
ニコニコと笑顔を見せるはやて。彼女は『なのは』を1週間程借りて、外装の作成に着手した。マリエルやシャーリーの手を借りつつ出来上がったのが、目の前のなのはの縫いぐるみ。
「本体と外装はリンクしとるから、動きも表情も自由自在や。これならコミュニケーションも取りやすいやろ?」
ドヤ顔で説明しているはやてと、満面の笑みで『なのは』に頬擦りしているヴィヴィオ。しかしながら、当の『なのは』だけは少々不満気だった。
『はやてちゃん。どうして二頭身なの?別に等身は普通にして10分の1サイズの私、とかも出来たよね?』
「それは、やな‥‥‥私より大きい胸を再現するのが許せなかったんやぁ!」
『はやてちゃん!!!』
『なのは』の表情が怒りを孕んだそれになり、クスクスと笑うはやてを追いかけ回す。庭をグルグルと走りながら、はやては答えつつ謝る。
「アハハハ、ごめん、ごめんな、なのはちゃん。ホンマはちゃうねん。顔が大きい方が表情が良く分かるやんか。今だって、『怒っとる』って表情でちゃんと伝わっとるやんか。それに、なのはちゃんは亡くなっとる筈なんよ?小さいなのはちゃんが居ると知れたら大混乱やんか」
『もうっ。まあ、それならいいけど』
はやての言い分を半々に信じる事にした『なのは』。ヴィヴィオが寄ってきて、そんな『なのは』を再び抱き上げる。
「此方の方が良いよ、なのはママ!カワイイもん!」
『ありがとう、ヴィヴィオ。フェイトちゃんにも、見せたかったな‥‥‥』
「‥‥‥うん」
フェイトの事を思い出して、少し表情を曇らせる『なのは』とヴィヴィオ。そんな二人の肩を、はやてはポン、と叩く。
「フェイトちゃんはきっと生きとる。信じて待つしか、ないんよ」
『そう、だよね。この姿ならきっと、今度こそフェイトちゃんと‥‥‥!』
何やら決意を新たにしている『なのは』。ヴィヴィオが不思議そうに覗き込んでいると、はやてと『なのは』が思わぬ発言をする。
「なんや、フェイトちゃんの事まだ諦めてなかったんか?」
『だって、はやてちゃん。フェイトちゃんは運命の王子様なんだよ?初めての出逢いでピンチの私をジュエルシードから助けてくれたんだから!』
興奮している『なのは』を「ハイハイ。それ何度も聞いたわ」とあしらっているはやて。どうやらそれは二人には何時もの光景らしかったのだが、ヴィヴィオは一人疑問を膨らませていく。
(どうして?確かフェイトママは、なのはママとは初めての出会いでは戦って倒しちゃったって‥‥‥)
「あのっ、二人とも!確かフェイトママは、すずかさんの家の庭で、ジュエルシードに取り込まれた猫と対峙した時になのはママと戦ったって‥‥‥」
『え?初めてフェイトちゃんと会ったのは動物病院の時だよ?それに‥‥‥すずかちゃんの家の時は取り込まれたのは猫じゃなくて忍さんだよ?』
「ああ、大変だったって言うとったやつやね?」
『そうそう。あの時のフェイトちゃん、格好良かった‥‥‥』
目の前でウットリしている『なのは』と、遠くを見るようなはやての二人を見て固まっているヴィヴィオ。フェイトから聞いていたのと全く違う。それどころか、実はヴィヴィオはフェイトにジュエルシード事件の資料をコッソリ見せてもらった事さえある。
(なのはママだけじゃなくて、八神司令まで‥‥‥何が起きてるの‥‥‥?)
変わり始めた歴史の歯車。フェイトとヴィヴィオの行き着く先は‥‥‥。
フラグを1本建てて、次回へ。