An indomitable spirit in my heart 作:アイリスさん
「フェイトちゃん!」
お腹の負傷部分を押さえるフェイトに、なのはが慌てて近寄る。立ちはだかるように忍との間に立って、シールドを展開しつつレイジングハートを構える。
「大丈夫だよ」
屈んでいたフェイトは、本来であればこの時代ではまだ使えない筈の、回復魔法で腹部を治癒しながら立ち上がる。その瞳は忍を見据える。
「私は大丈夫。それより気を付けて、なのは。忍さんの魔法、普通じゃないよ」
恐らく、最近魔導師になったばかりのなのはには良くは分からないだろう。しかし、レイジングハートには‥‥‥『なのは』になら。
『分かったよ、フェイトちゃん。マスター、気を付けよう?』と答えているレイジングハートを見る限り、フェイトの意図は充分伝わっているようだ。
「二人共。そろそろ、いいかしら?」
決して笑っていない、赤く光る冷たい眼差しを此方に向けて、不敵な笑みを浮かべている忍。再び赤黒い数多の魔力弾を展開して二人に撃ち出す。
なのはのシールドに守られつつ、ある程度傷を塞いだ所で、フェイトは『なのは』にチラリと視線を送り、忍に向かい飛び出す。なのはも散々練習してきたディバインシューターを数発放って援護する。
「『アークセイバー!』」
フェイトの放った魔力刃が忍に迫る。忍はフェイトの方へと飛行しながらそれを素手で弾き、ガラス張りの壁に当たって硝子が崩れ落ちる。
「修理だってタダじゃないのよ?そうね‥‥‥代金は身体で払って貰おうかしら、フェイトちゃん?」
高速で迫るフェイトを迎え撃ち、右手を振う忍。その一撃を高速で避けて崩れた所から外へと出るフェイトと、それを追って外へと移動する忍。
『マスター、私達も行くよ!』
「うっ、うん!」
フェイトのほうが強敵と踏んだのか、それともなのはが初心者と見抜かれたのか。幸い放って置かれているなのはも外へと出る。そんななのはの正面から、再びナイフが数本飛んで来る。
「御嬢様の邪魔立てはさせませんよ、なのは様」
プロテクションでナイフを防いだなのはの前には、矢張りノエルの姿。レイジングハートを握り締め、なのはが叫ぶ。
「どうして!ノエルさん!」
『ノエルさんで充分、って思われたみたいだね。心外だね、マスター?』
◆◇◆◇◆
外へと出た事で、タチの悪い『弾幕ごっこ』を展開している忍と、その弾幕の雨の中を縫うように避けながらランサーで応戦するフェイト。
(このままじゃ‥‥‥)
思うように近付けない。忍から一度離れて距離を取る。
(忍さん、ごめんなさい)
心の中で謝りながら、魔力を集中する。フェイトの足元に魔法陣が展開。忍の頭上に雷鳴が轟き、光が走る。
「『サンダーレイジ!』」
この為に忍に硝子を割らせて、敢えて外へと出た。吸血鬼ならば、光と熱を伴う攻撃ならば効くかも知れないと踏んでの雷撃。
雷鳴が止み、辺りを照らしていた光が収まる。だが忍の姿が無い。雷で消し炭になった訳では無いようで、周囲からは彼女の魔力を感じる。
「!!」
忍を探して辺りを見回していたフェイトは左手を掴まれた感覚に驚き、慌ててそれを振りほどこうと手を払う。だが忍の有り得ない程の握力の為にそれは叶わず。バルディッシュを奪われて背中で左手を押さえられ、後ろから抱きつかれて拘束される。
「うっ‥‥‥はっ、放して‥‥‥」
「やっと捕まえた‥‥‥速いのね、フェイトちゃん」
ニヤリと笑みを浮かべて牙を覗かせる忍。その口がフェイトの首筋にゆっくりと近付いていく。必死に離れようとフェイトも抵抗するものの、拘束している力の強さに逃れられない。
と‥‥‥フェイトは不意に抵抗を止める。諦めた訳ではなく、逆に忍の腕を掴み、ライトニングバインドで自分ごと忍を拘束する。
「フェイトちゃん、気でもふれ‥‥‥これは‥‥‥?」
予想外のフェイトの行動に、忍は近付けていた牙を止める。そうして気付いた。
「霧が‥‥‥?」
忍達の周りばかりでなく、月村家の敷地周辺一帯の霧が無くなっている。流石に上空は残っていて薄暗いのは相変わらずだが、周りはすっかり視界良好となっていた。
そうして作戦通り自分もろとも忍の動きを封じる事に成功したフェイトは、ある一点を見据えて叫んだ。
「後はお願い‥‥‥‥‥‥なのは!!」
◆◇◆◇◆
フェイトの視線の先。大規模魔法陣を展開し、頭上に桜色の太陽を輝かせているなのは。ノエルはどうやら拘束したようである。
「フェイトちゃん‥‥‥やっぱり、出来ないよ」
いくら非殺傷設定と言えど、フェイトに撃たねばならない事に躊躇していた。
『マスター、フェイトちゃんの行動を無駄にするの?』
「でもっ!」
『マスター』
レイジングハートの説得で、ギリギリまで迷っていたなのはは意を決する。
《ごめんね、フェイトちゃん》
《大丈夫。だから、なのは!》
念話の後に、「ごめんね」ともう一度呟き、なのははレイジングハートを降り下ろした。
「『スターライト・ブレイカー!!』」
桜色の極光がフェイトと忍を飲み込む。暫くの間輝いていたそれが撃ち終わると、真下の地面に倒れている二人の姿。フェイトも忍も立ち上がる気配は無い。
「フェイトちゃん!」
なのはは慌ててフェイトの元へと飛ぶ。その場に座り込んで、気を失って倒れたままの彼女をそっと抱き上げる。
「‥‥‥う‥‥‥なの‥‥‥は」
「フェイトちゃん‥‥‥ごめんね、フェイトちゃん」
フェイトをボロボロにした罪悪感で、瞳に涙が滲む。そんな悲しそうな表情のなのはを、フェイトは弱々しく抱き締める。
「私は‥‥‥大丈夫だから。封印、お願い‥‥‥」
「うん」
フェイトを静かに地面に寝かせ、なのはは忍の方へと歩く。倒れている忍にレイジングハートをゆっくりと向ける。
「‥‥‥本命はなのはちゃんだったか。私の負けね‥‥‥‥‥‥殺すなら、早くし‥‥‥」
「『リリカル・マジカル。ジュエルシード・シリアルⅩⅤ、封印』」
瞳を閉じている、話途中の忍の言葉を遮り、封印を施すなのは。忍の身体からジュエルシードが浮かび上がり、レイジングハートに収納される。
「‥‥‥殺さないの?」
封印が終わり、なのはは驚いている忍を抱き起こす。
「私達は、ジュエルシードを封印しに来ただけです」
自身の勘違いだった事に気付いて、忍が微かに笑みを溢す。
「それなら、そうと言ってくれれば良かったのに」
「だって、忍さん聞いてくれなかったし」
「‥‥‥そうだったわね。ごめんね、なのはちゃん。あの石を取り込んでから、負の感情が大きくなっちゃって‥‥‥」
「そうですか‥‥‥」
悲しそうななのはの元へ、立ち上がりヨロヨロと歩いてフェイトが合流。彼女はまだフラつく身体をなのはに支えられ、その場に座ってなのはに寄り掛かる。
「二人共、仲良いのね」
忍の言葉に頬を染めて笑顔になるなのは。そんな事には気が付かないフェイトは、まだ寄り掛かったまま、肩で息をしながら口を開く。
「忍さん、『取り込んでから』ってどういう事ですか?」
「私の力を増幅する為に自分で取り込んだの。ちょっと厄介な事が起きちゃって」
話しながら、屋敷に視線を送る忍。今一状況を掴めないフェイトだが、ある事に気付く。
「霧が、まだ晴れない‥‥‥?」
「それはそうよ。この霧は、『あの子』の仕業だもの」
言い終わった忍の瞳が、いつもの柔らかいものから先程迄の鋭いものへと戻る。フェイトとなのはも空気が変わった事に気付き、身構える。
「フェイトちゃん、この感じって!」
「凄い魔力‥‥‥なのは、気を付けて!」
3人の視線の先。屋敷をバックに佇む、少女の姿。忍がふらふらながらも立ち上がり、少女を睨んだ。
「すずか‥‥‥貴女どうやって」
忍の問いには答えず、狂気を孕んだ瞳を向け、薄笑いを浮かべながら、すずかがゆっくりと口を開く。
「酷いよ、お姉ちゃん。あんな所に閉じ込めるなんて‥‥‥」
ニヤリと開いたすずかの口元からは、吸血鬼のそれである牙が覗いている。
「なのはちゃんにフェイトちゃん‥‥‥二人とも来てくれたのね。私のお友達なら‥‥‥血、くれるよね?」
各々デバイスを構え直し、忍を支えながらすずかと対峙する二人。すずかから感じる威圧感と魔力に圧倒されながらも、「来るわよ、二人共!」という忍の声でリンカーコアをフル回転させ、魔法陣を展開する。
「すずかちゃん!」
「やめて、すずか!私もなのはも、ジュエルシードを封印しに来ただけ!」
すずかは自らの首に掛けてあった、ロザリオに繋がれたジュエルシードを掴む。その手が「ジュウゥゥゥ」と火傷する音を立てながらもそれを引きちぎり、フェイトの方へと投げつける。
「ジュエルシードって、此れの事?」
変わらず狂気に満ちた瞳で睨んでいるすずか。ジュエルシードが離れたにも関わらず変わらないすずかの様子に、額に汗を滲ませてフェイトが叫んだ。
「すずか!」
ジュエルシードでドーピングしていた忍を排除し、対吸血姫戦開始。
フェイトちゃんは『なのは』さんとアイコンタクトで囮作戦を成功させました。
ここからが月村邸ステージ本番、という事で。