An indomitable spirit in my heart   作:アイリスさん

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力の暴走

 

 

「フフフッ」と不気味に笑い、顔をあげたすずかはフェイトに視線を向ける。

 

「私達、お友達だよね?もう我慢できないの‥‥‥血の、匂い」

 

そう言えば背中の傷を治療していなかった事を思い出して、ゾクリとして冷や汗を流しながらもフェイトは魔法陣を展開する。視界の先の、真っ黒な翼を拡げて向かって来るすずかに向けて、金色の砲撃を繰り出す。

 

「『サンダースマッシャー!』」

 

すずかは避けるどころか、それをまともに浴びながら正面突破してくる。多少は効いていると信じたい所だが、スマッシャーに怯む事無く進んで来る。

 

狂気に満ちたすずかの顔が、あと数メートルという所迄近付いた所で、真横から桜色の砲撃が放たれる。それが直撃する前に、すずかは砲撃から離れ、一度距離を取った。

 

《なのは、忍さんは?》

 

《大丈夫。結界の外に避難させてきたよ!》

 

なのはが手負いの忍を避難させた事を確認し、改めて魔力刃を展開する。隣に立ったなのはもレイジングハートを構え、足元に桜色の魔法陣を展開した。

 

「フェイトちゃん、忍さんから伝言だよ。『咬まれても吸血鬼にはならないから』だって」

 

だからと言って、血を吸われる危険は消えていない訳で、致死量の血を失って失血死、なんて事になったら笑えない。普通ならそんなに大量に飲めないだろうが、相手は吸血鬼。用心に越した事は無い。

 

「ちょっと安心したけど、血を吸われるのはちょっと‥‥‥気を付けよう、なのは」

 

「うん!」

 

そんな二人を囲むように、すずかの手から放たれた6つの赤黒い光球が浮かんでいる。

撃墜しようとなのはがシューターを展開した所で、『なのは』が叫んだ。

 

『駄目!離脱して!早く!』

 

その言葉に、なのはは咄嗟にプロテクションを展開、フェイトは高速でその場を離れる。直後、光球は各々が視界を覆い尽くす程に膨れ上がり、中心部に残っていたなのはを巻き込んで爆発。

 

「なのは!!」

 

フェイトのファランクスにも耐える程のなのはの防御が容易く抜かれるとは思えない。しかしながら、プレシアのフォトンバーストを彷彿とさせるその爆発で、なのはが無傷とも考え難い。

 

《大丈夫だよ、フェイトちゃん》

 

煙が晴れてくると、所々ジャケットが破損しているものの、無事ななのはの姿が見えてきた。すずかを睨みつつ横目で確認し、フェイトは胸を撫で下ろす。

 

《良かった‥‥‥なのは‥‥‥‥‥‥!》

 

それも束の間。驚いて左足を見たフェイトの視界には、先程の光球の1つが足首をすっぽりと包んでいるのが映っていた。

 

(動かせない‥‥‥バインド!?)

 

解除しようと足掻くものの、硬くその場に固定されていて動けない。

 

「捕まえたよ、フェイトちゃん」

 

後ろですずかの声がして、フェイトは慌てて振り返ろうと首を動かす。しかし振り返りきる前に、その首筋にプツリと痛みが走り、強く吸われる感覚。

 

「‥‥‥あ゛‥‥‥ぁ゛‥‥‥ぁ゛‥‥‥」

 

チュウチュウと音を立てて吸うすずかに抱き付かれたまま、力無く両手足をダラリと下ろし、ピクピクと痙攣するフェイト。その手からバルディッシュが離れる。

すずかが牙を首筋から一度離し、再び「フフフッ」と笑みを浮かべる。吸うのに邪魔だったのか、フェイトのバリアジャケットの首周りを破き肩を露出させると、今度は左胸の上辺りに牙を突き立て血を貪り始める。

 

「フェイトちゃん!!!」

 

なのはの叫びに反応し、少し吸った所で口を離してそのなのはを見下ろすすずか。抱いていたフェイトの四肢を光球でその場に拘束して、翼を拡げる。

 

「なのはちゃんを大人しくさせたら、もっと沢山可愛がってあげるから。待っててね、フェイトちゃん?」

 

口元からフェイトの血を滴らせ、一層狂気に満ちた表情でなのはに向かっていくすずか。フェイトは全身に力が入らず、それを見ているだけしか出来ない。

 

(身体が‥‥‥痺れて‥‥‥力が‥‥‥‥‥‥なのは)

 

呼吸を乱して力無くなのはを見つめるフェイトの視界には、空中ですずかと向き合うなのはの姿。

 

「いくらすずかちゃんでも、フェイトちゃんを襲うなんて許せないんだから!」

 

怒気を孕んで叫ぶなのはに「なのはちゃんのも後でいっぱい吸ってあげるから。邪魔しないで、ね?」と狂った笑みを向けるすずか。右手に魔力を纏わせて、なのはに向かって羽ばたく。

 

なのはも身構えてラウンドシールドを展開。それを迎え撃つ。

 

(フェイトちゃんとレイジングハートに教わった通りやれば‥‥‥)

 

なのはのシールドに、すずかの爪がガキンと音を立ててぶつかる。直後、桜色の鎖がシールドから延びて、すずかの右腕に絡み付く。

 

「出来た!すずかちゃん、覚悟して‥‥‥‥‥‥えっ?」

 

なのははそこまで言いかけて、固まった。目の前のすずかは右手を拘束されて尚笑みを浮かべると、左手に魔力を纏わせてシールドを一突きする。

バリバリバリッと激しく音を立てて桜色のシールドが崩れ、なのはは呆気に取られて動けない。

 

「だから、邪魔しないでって言ってるのに」

 

すずかは左手に先程の光球を5つ縦に1列に展開。それが先程と同じように大きく拡がって縦に繋がる。

巨大な光の柱の姿となったそれを、すずかはなのは目掛けて降り下ろした。

 

「少しの間待っててね、なのはちゃん?」

 

辺りが一瞬赤黒い光に包まれる。力が入らず叫ぶ事も儘ならないフェイトにも様子が見えるくらいそれが落ち着いて来ると、地面に倒れているなのはの姿が見えた。

 

(なの‥‥‥は‥‥‥?)

 

フェイトが見る限り、なのははピクリとも動かない。強固な防御を誇るセイクリッドのバリアジャケットも大破している。レイジングハートもボロボロで、『なのは』が無事なのかも分からない。

 

(嘘‥‥‥‥‥‥なのは!)

 

驚き、力を振り絞って必死に念話でなのはと『なのは』に呼び掛けるも、返事は無い。絶望感で血の気が引いていくフェイトの元へと、すずかがゆっくりと帰って来て、ニヤリと牙を覗かせる。

 

「ただいま、フェイトちゃん。いっぱい吸ってあげるからね?」

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

St.ヒルデ魔法学院から帰ってきたヴィヴィオ。走りにでも行こうかと庭に出ると、シスター・シャッハと意外な人物が話しているのが見えて、思わず駆け寄る。

 

「あれっ?すずかさん、どうして此処に居るんですか?」

 

「こんにちは、ヴィヴィオちゃん」

 

いつものおっとりとした調子で挨拶を返すすずか。隣に立つシャッハは、何故かヴィヴィオの質問に不思議そうにしている。

 

「すずかさんはいつもの定期検診ですよ、ヴィヴィオ。毎月いらっしゃってるでしょう?」

 

「‥‥‥え?」

 

先日の八神家の一件から、おかしな事が少しずつ増えている。周りの出来事や過去に、ヴィヴィオの記憶と一致しない事がある。目の前のこれも当にそう。管理外世界に住む筈のすずかが聖王教会に月一で通っている等、聞いたこともない。にも関わらず、目の前のシャッハはヴィヴィオも当然知っている口振りで話している。

 

「あの、すずかさん。定期検診の事なんですけど」

 

態々此所まで来ている理由も気になり聞いてみたヴィヴィオ。すずかの口からは思いもよらない答えが帰って来る。

 

「うん。魔力もかなり下方で安定してて、もう大丈夫みたい。いつも心配してくれてありがとう」

 

笑みを溢して答えるすずかに、再び驚くヴィヴィオ。すずかが魔力を持っているのにも驚きだが、『いつも心配してくれて』という言葉も。

 

(教会では初めて会った筈だけど‥‥‥どういう事?)

 

シャッハとの話も終わったらしく、「またね、ヴィヴィオちゃん」と手を振って歩いていくすずかに、慌てて「はい、また」と返事を返したヴィヴィオ。記憶の相違に不安を覚えつつも、彼女は改めて走りに出掛けた。

 

 




vs.すずか前編。
フェイトちゃんは捕まって血を吸われ、なのはは既にやられて絶体絶命の状況です。
次回に続く。
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