An indomitable spirit in my heart 作:アイリスさん
「あ゛っ‥‥‥‥‥‥あ゛っ‥‥‥‥‥‥」
牙を突き立てられ、血を一吸いされる度にビクン、ビクンと反応して震えるフェイト。バインドの拘束が無くとも全身に力が入らず、両手足をダラリと下ろして、抱き付いているすずかにされるがまま。
そんなフェイトの青ざめた表情を見つめながら、すずかが「フフッ」と微笑んで口を離す。
「いっぱい吸ってあげる。可愛いよ?フェイトちゃん」
フェイトは瞳だけを動かして、狂気を湛えた表情のすずかを何とか睨む。その表情に更に興奮したのか、すずかはニヤリとして牙を剥く。
(何とかしなきゃ‥‥‥このままじゃ)
すずかを振りほどこうにも、全く力が入らない。その牙がフェイトの胸元に再び触れようかという所で、よく知っている電撃を帯びた魔力が走る。
隠蔽魔法でギリギリまで接近し飛び出してきたアルフの突撃を反射的に避けたすずかが、その手を離す。空中で拘束から解かれたフェイトは、飛行魔法すら展開出来ずに落下していく。
「ごめんね、フェイトちゃん。大丈夫?」
フェイトを激突寸前で空中で受けとめたのは、黒い翼を拡げた忍。それに二人の壁となるように立ってすずかを睨むアルフ。
「お前、よくもフェイトを‥‥‥!」
フェイトは言葉を発しようと口をパクパクと動かすが、声が出せない。『何か』に魔力結合を疎外されていて、やがてそのバリアジャケットの構成も解けて、私服姿に戻る。
(アルフ‥‥‥忍さん‥‥‥)
忍に抱かれて安堵の表情を見せるフェイト。地面に降り立った忍がフェイトを静かに壁に寄り掛からせて座らせると、フェイトを守るようにその周りにグリーンのシールドが張られる。
(‥‥‥ユーノも)
弱々しく息をしながら、人間の姿に戻ってなのはに治癒魔法を施しているユーノを視線のみで見つめる。
「あの子の魔力に侵されてるわね。直ぐには無理だけど、暫くしたら動ける筈だから。フェイトちゃん、今は休んでて」
そう話してフェイトから離れて、アルフと共にすずかと対峙する忍。『食事』を邪魔され、あからさまに不機嫌なすずかの様子に冷や汗を流す忍を、フェイトは(ごめんなさい、忍さん)と心の中で思いながら眺める事しか出来なかった。
◇◆◇◆◇
アルフも忍も、スピードでは決して劣ってはいない。問題は、二人の攻撃がすずかに通らない事。
「止めなさい、すずか!」
「忍、どうするんだい。あいつの攻撃、鬱陶しいったらありゃしない」
「この霧を晴らす事が出来れば‥‥‥」
嵐のように放たれる魔力弾を避けつつ、隙を突いてすずかに迫るも、片手で止められて集中砲火を受ける。埒が明かない。
ユーノが治癒魔法を終えて、意識の無いなのはを抱き上げてフェイトの方へと飛んで来る。一度シールドを解除して、フェイトの隣になのはを寝かせる。
「フェイト、大丈夫?」
漸くほんの少し力が入るようになって、フェイトはコクン、と弱々しく首を縦に動かす。
「‥‥‥なの‥‥‥はは‥‥‥?」
微かに声を発したフェイトに、「気を失ってるけど、大丈夫」と静かに答えるユーノ。
「僕はこれから二人の援護に向かうから、フェイトはなのはと休んでて」
「う‥‥‥ん」
真剣な表情のユーノに頷く。すずかに向かって行くユーノの後ろ姿を見送ったフェイトは、バルディッシュを落としていた事を思い出す。
(そうだった。バルディッシュは、何処‥‥‥?)
自身の視界が段々ぼんやりとしてくる中、座ったまま視線だけを動かす。バルディッシュ自体は直ぐに分かったものの、フェイトの視界にあるものが映る。
(青白い‥‥‥光‥‥‥?)
ボーッとしてきて頭が働かないが、何かが光を放っている。暫くそれを見つめていたフェイトは、やがてそれがすずかの投げたジュエルシードである事に気が付いた。
《逃げて‥‥‥!》
やっとの思いで絞り出したフェイトの念話にアルフ達が気が付いた時には既に手遅れで、ジュエルシードは輝きながら大気を震わせてその魔力を解き放ち、辺りに次元震を起こし始めた。
ジュエルシードの力に吹き飛ばされながらフェイトが目にしたものは、次元震によって大きく揺れる景色、それによって吹き飛ぶ魔力の霧と日光を浴びて苦しむすずか。それと‥‥‥月村邸の敷地を覆う程巨大な、ミッド式でもベルカ式でもない積層型立体魔法陣。
「今よ、ノエル、ファリン!」という忍の言葉と共にそれが起動するのが見えた所で、フェイトは意識を失った。
◇◆◇◆◇
フェイトが目を覚ましたのは、その日の夜。
「う‥‥‥ん‥‥‥」
まだ重い瞼をゆっくりと開け、上半身だけを起こして、寝ているベッドの周りを見回す。内装からして、どうやら月村邸の一室のようだ。傍で狼形態のアルフが丸くなって眠っている。
起きて、足を下ろして降りようと立ち上がるが、フラフラとバランスを崩してベッドに尻餅を着く。
「あ、あれ?」
思わず声を発する。それでフェイトが起きた事に気が付いたようで、扉が開いてノエルが入ってくる。
「目を覚まされましたか。まだ安静にしていて下さい」
「はっ、はい」
フェイトは再びベッドに横になる。その身体にはあちこちに包帯が巻かれている。首筋と胸元に残る牙の痕が、すずかに血を吸われたのが夢では無かった事を物語っていた。
ノエルが何かの合図でも送ったのか、忍が部屋へと入って来る。
「フェイトちゃん、起きたのね。身体の方は、大丈夫?」
「はい。少しフラフラしますけど、大丈夫です」
フェイトは努めて笑顔で答える。対する忍の方は心配そうにはしているものの、真剣な表情をしたまま。
「大体の事はユーノ君と、なのはちゃんの杖‥‥‥レイジングハート、だったかしら‥‥‥に聞いたわ。フェイトちゃんも、異世界の人間なのよね?」
フェイトは「‥‥‥はい」と答えて口を閉ざす。ユーノは兎も角、『なのは』が何処まで話しているのか分からない以上、迂闊に口にする訳にもいかない。
「そっか。フェイトちゃん達の居る世界なら、すずかの力を消したり出来るのかしら?」
「分かりません。けど、相談に乗ってくれそうな所なら‥‥‥」
自身の事や目的を聞かれなくて内心ホッとしながら答えるフェイト。忍によれば、月村家の先祖には真性の吸血鬼が居て、何代かに一代はその力を持って産まれて来るそうだ。とは言っても、せいぜい忍くらいの強さが限度の筈で、すずかのそれは完全にイレギュラーらしい。昼間に見た巨大な魔法陣はその力を封印する為のものだそうだ。
「それでね、フェイトちゃん。あの子‥‥‥すずかには覚醒してる時の記憶は無いの。だから‥‥‥あんな事されて無理なのかも知れないけど、できたら今まで通り友達として接してあげてくれないかしら?」
少し悲しそうな表情で話す忍。フェイトは再び精一杯の笑顔で、「はい」と一言答える。
忍もそれに「ありがとう」と笑顔で答え、フェイトの頭を撫でる。少し恥ずかしそうにしているフェイトに「まだすずかの魔力が抜けてないみたいだから、ゆっくり休んでいってね?」と言って睡眠を促す。それに甘える事にしたフェイトは、ウトウトと眠りに落ちていく。
眠っているフェイトを優しい眼差しで見ながら、忍はクスッと笑みを溢して呟いた。
「なのはちゃんの王子様、か」
◇◆◇◆◇
「忍さん、ありがとうございました」
次の日の朝。フェイトは忍に礼を言って、学校へ行くすずかと共に月村邸の門をくぐる。
「フェイトちゃん、また遊びに来てね」と笑顔で話すすずかに「うん」と頷く。そんな二人の元へと駆け寄って来る、なのはとアリサ。
「すっ、すっ、すずかちゃん!フェイトちゃん、昨日お泊まりだったの!?」
狼狽しながら話すなのはに、キョトンとしながらすずかが「え?うん」と答える。
「すずかちゃんだけズルい!私もフェイトちゃんとお泊まりしたいのに!」
もはや隠そうともしないなのはの発言に、呆れて見ているアリサと笑顔のすずか。それと、その意味を全く理解出来ていないフェイト。
「今度はうちにお泊まりしに来てね、フェイトちゃん!」
「えっ?うん。分かったよ、なのは」
なのはの剣幕に驚きながらもそう答えたフェイトの手を握って「やったあ!約束だよ!」と満面の笑みのなのは。フェイトはそんな3人と別れ、テクテクと歩いて帰っていく。
(聖王教会なら、力になってくれるかも知れない)
レジアスの居る地上本部では、すずかの力が悪用される危険もある。ここはやはりカリムやシャッハに‥‥‥と真剣な表情で考えながら帰るフェイト。一方のなのははと言えば、そんなフェイトとは対照的に「フェイトちゃんとお泊まり‥‥‥いっぱいお喋りして、一緒に御飯食べて、一緒に、おっ、お風呂入って、一緒に‥‥‥ねっねっ、寝て‥‥‥」と朝から終始ニヤけっぱなしだった。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥次元震を起こしたジュエルシードを封印したのがアルフや忍達でも、ユーノでも、勿論なのはでもない事にフェイトが気が付くのは、もう少し先になる。
月村忍が仲間になった!
月村邸ステージをどうにかクリアのフェイトちゃん。
すずかとフェイトちゃんの絡みなので作者は危うく暴走しかけました。
最後まで悩んだ結果、次元震で幕引き。
含みを持たせつつ、暴走するなのはちゃんと共に次回へ。次は温泉かなぁ‥‥‥