An indomitable spirit in my heart 作:アイリスさん
宿に着き荷物を置くなり、フェイトは忍、アルフと散策へと出掛けた。無論、それは表向きの話で、本当は微かに反応があるジュエルシードを探しに出ている訳だが。
それを分かっていて尚、不満に思う人物が一人。他でもない、なのはである。
「‥‥‥ずるい。忍さんばっかり、ずるい」
『フェイトちゃんも忍さんも、マスターの事心配してくれてるんだから。この間すずかちゃんに貰った一撃だって、打ち所が悪かったら危ない所だったんだよ?』
レイジングハート、もとい『なのは』の言う事は間違ってはいない。もし当たった部位が悪ければ、かつて『なのは』が再起不能寸前にまで追い込まれたあの撃墜事件以上の事態になっていた可能性だって充分に有った。が、そうならなかった以上、今のなのはには説得の効果は薄い。恋愛感情がこんなにもなのはを盲目にしている事に、正直『なのは』自身も驚いている。
「分かってるもん。けど‥‥‥私も一緒に行きたかったのに」
不満タラタラのなのはに、自身の事ながらどうしたものか悩む『なのは』。なかなか良いアドバイスが思い浮かばない。恋愛経験0の、『なのは』唯一の欠点と言ったところである。
『きっともうすぐ帰ってくると思うから。ね?』
「‥‥‥私も、探しに行く」
『マスター、駄目だよ』
ここはもう、ジュエルシードが前回と同じ場所に落ちていてくれるのを願うしかない。今にも飛び出しそうななのはを物理的に止める手段は、今の『なのは』には無い。
制止を聞かずに宿のロビーまで走った所で、丁度フェイトと忍の姿が見えた。
「フェイトちゃん!!」
その表情はあからさまに嬉々としたものに変わり、満面の笑みを浮かべてフェイトに走り寄って抱き付くなのは。
「お帰り、フェイトちゃん!」
「うん。ただいま、なのは。ジュエルシード、見付けたよ」
フェイトがその封印したジュエルシード、シリアルⅩⅧを見せる。「うん!」と嬉しそうに答えるなのはの頬は、微かに紅い。その様子を、少し離れて呆れつつ見ている忍。
「あれって、フェイトちゃんは気が付いて無いのよね?」
『はい、忍さん。気が付いて無いみたいです』
もうあれは別のなのは。『なのは』には、無理矢理にでもそう思わなくては恥ずかしくてやっていけそうもない。
なのはに親友として笑みを向けるフェイトの姿と、それに恋愛感情で笑みを返すなのはの姿。そんな二人の交わりそうで交わらない姿を、『なのは』は桜色に激しく点滅しながら眺めていた。
◆◇◆◇◆
時間は進んで。一行が温泉を堪能中の出来事。
「コラ待ちなさい~ユーノ~!アタシが洗ってあげるって言ってるでしょうが!」
「キュッ、キュウ~!」
フェレット形体のユーノが、捕まえようとしているアリサから絶賛逃走中。勿論女湯での出来事である。
(幾ら男って言っても、たかだか9歳の小さな子だし)と気にせずノホホンとお湯に浸かっている忍と、その隣で伸びをしているすずか。美由希はユーノが人間という事を知りもしないし、ノエルとファリンは概ね忍と同じ。フェイトは一人、空を眺めながらボーッと何かを考えている様で、ユーノが追いかけられている現状は視界に入っていないようだ。
只、そのユーノを良しとせず、険しい表情をしている2つの影。
「なあ、なのは。ユーノには躾が必要だと思わないか?」
「奇遇ですね、アルフさん。やっぱり私も『飼い主』として躾は確りしなきゃ、って思ってた所です」
フェイトの姉として参加している、人間形体のアルフと、なのは。二人の表情は引き攣り、逃げ回っているユーノを睨んでいる。
「だよな。アイツ人間のクセにあの形体を利用して女湯入って来るとか‥‥‥フェイトに近付かないように監視しとかないとな。あれ以上近付いたらガブッといっても構わないよな?」
「構いませんよ。フェイトちゃんの裸を見ようなんて、いくらユーノ君でも許せませんから!」
二人共、女湯に入り込んだ事や自分達の裸がどうとかよりも、大きなウェイトを占めているのはフェイトの事。ユーノが女湯に=フェイトの裸を覗く=許せない、という思考になっている。
ユーノも本当は男湯に行こうとしたのを運悪くアリサに捕まってしまい女湯へ強制連行されただけなのだが、二人にとってはそんな事は言い訳に過ぎない。
(ユーノ君でもフェイトちゃんを覗くのは許せない。フェイトちゃんは‥‥‥フェイトちゃんは私のものだもん!)
只、単純に悪い虫から主人であるフェイトを守ろうとしているアルフと、なのはの心情は少し違う。なのはのそれは、独占欲と嫉妬に依るものが大きい。
遂にアリサに捕まりジタバタと藻掻くユーノに、アルフとなのはが不気味な笑みで近付く。身の危険を感じてビクッと反応するユーノをチラリと睨んだアルフが、アリサに向かい話す。
「折角みんなで温泉来てるんだしさ、アリサはあっちでゆっくりしてきなよ。ソイツはアタシ等で洗っとくからさ」
ブンブンと首を横に振り抵抗するユーノを他所に、「そうですか?それじゃあ、お願いしますね」と機嫌良く手の中のフェレットを二人に渡すアリサ。ニヤリと笑ったアルフの牙が、一瞬キラリと光る。
《イヤイヤイヤイヤ、洒落になってないから!直ぐにここから出るから!なのはも何とか言って‥‥‥》
なのはの顔を見たユーノから、血の気がサーッと引いていく。《いや、ホント、女湯入っちゃったのは謝るから!》と必死に命乞いをするユーノに向かって、笑顔で口を開くなのは。
「もう、やだなあ、ユーノ君。そんなにフェイトちゃんの裸が見たかったの?幾らユーノ君がフェレットでも、女湯に入るのは良くないよ?ほら、ユーノ君は『私のペット』なんだから、ちゃんと躾してあげないとね?」
その言葉でユーノは全てを理解した。原因はフェイトが女湯に居る事のようだ。そして、このままでは何をされるか分からない事も。アルフの手の中で必死に逃げようと更に藻掻くユーノ。
が、その日に限って言えば、運命の女神はユーノには微笑まなかった。何故ならば‥‥‥。
「アルフ、なのは。こんな所で何してるの?私、先に上がって待ってるね?」
「あ‥‥‥フェイトちゃん‥‥‥」
運悪くと言うべきか、タイミング良くと言うべきか。お湯から上がって、脱衣所へと向かう途中のフェイトとご対面。アルフもなのはも、ユーノもそのまま暫し固まる。
「二人共、どうしたの?‥‥‥‥‥‥‥‥‥ユーノ‥‥‥?」
どうやらユーノの存在に気が付いたらしいフェイトは、申し訳程度に前を隠していたタオルを目一杯広げてそれに身体を隠して、顔を紅くしながら脱衣所の方へとそそくさと走り去って行く。
「おい、ユーノ。覚悟、出来てるかい?」
《へっ?いや、あの‥‥‥》
ギロリと睨むアルフの姿。この時ばかりは、もう駄目だと思ったユーノ。後に「ユーノにも悪気があった訳じゃないし」とフェイトに助け船を出してもらって、何とか生き長らえる事が出来た。
◆◇◆◇◆
その日の、深夜。宿の外で、夜空を見上げているフェイトの姿。その表情は冴えない。時間も時間なので、周りには人の姿はない。
その手の中には、レイジングハート。
「ねえ、『なのは』。私‥‥‥足手纏いじゃないかな?」
『急にどうしたの?フェイトちゃん』
悲しそうな表情のまま、遥か遠くに光る星空を眺めながら答えるフェイト。声のトーンも、だいぶ低い。
「此処までで集めたジュエルシードは10個。私が苦戦しないで封印出来たものは殆ど無いんだよ?こうして過去にまで遡ってきて、『なのは』の運命を変えるんだ、って頑張って来たけど‥‥‥こんな私なんかに、本当に変えられるのかな‥‥‥」
フェイトの思いも無理はない。前回すんなりと運んだ筈の、ジュエルシードの封印。2度目で慣れている筈の今回は幾度となくやられて、生死を彷徨った事すらある。元々自分を低く見る傾向のあるフェイトが自信を失うには充分過ぎた。
『前回が上手く行き過ぎだったんだよ。ジュエルシードは次元世界に干渉する程のロストロギアなんだし、寧ろ今回が普通なんだよ、きっと。それに、此処までちゃんと封印してきてるんだし、大丈夫だよ』
『なのは』の励ましにも、落ち込んだままの様子のフェイト。今度は『なのは』を見つめ、その瞳に涙を滲ませながら話す。
「でも‥‥‥それは『なのは』が居たから。『なのは』がレイジングハートとしてこの時代に来てくれなかったら。きっと私だけだったら、今頃は‥‥‥」
『今の私は、魔法も使えないデバイスなんだよ?卑屈になっちゃ駄目だよ、フェイトちゃん。フェイトちゃんなら、きっと大丈夫だから。それに‥‥‥私が死ぬまでに、まだ10年有る。それだけあれば、きっと良い方法も見付かるよ。ね?フェイトちゃん』
フェイトは『なのは』に宥められ、涙に濡れる目を擦りつつ立ち上がる。「‥‥‥うん」と弱々しく頷いて、トボトボと力無く部屋へと歩いて行く。
そのフェイトの死角となっていた建物の角。二人の様子を気付かれないように静かに伺っていた忍も、一人密かに部屋へと戻って行く。
(ふぅん。そういう事だったのね、フェイトちゃん。それに、『なのは』ちゃん)
暴走なのはちゃんの回。フェレット君は気を付けないと去勢手術とかされちゃいそうな勢いです。