An indomitable spirit in my heart 作:アイリスさん
「ヴィヴィオちゃん、お疲れ様」
ミウラと別れ自分の控え室に戻ったヴィヴィオは、見たことの無い女性に親しげに声を掛けられた。すずかに似てはいるが、そのすずかよりも歳上であろう女性。
『こんにちは、忍さん』
これまた親しげに挨拶を交わす『なのは』。ヴィヴィオは自分が覚えていないだけかも知れないと思い、疑問の表情を浮かべつつも必死に記憶を探す。
(私が覚えてないだけかな?失礼があったら申し訳ないし‥‥‥忍さんって誰だっけ‥‥‥?)
「えっ‥‥‥えっと、こんにちは!」
考え込んだが、どうにも思い出せない。ヴィヴィオは、(せめて苗字も名乗ってくれれば思い出せるかも知れないのに)と思いながら誤魔化して返事を返す。
そんなヴィヴィオの様子を見て、少しだけ眉を潜めた忍。ヴィヴィオは一先ずこの場を乗り切ろうと笑顔を作る。
「忍さん、お久し振りです!」
「うん、久し振りね、ヴィヴィオちゃん。なのはちゃん、調子はどう?少し見せてみて?」
そう言って『なのは』を手に取り、忍は機材を広げて何やら調べ始める。どうやらレイジングハート自体の調子を調べているようだ。ヴィヴィオは『久し振り』と答えたのが正解だった事にホッと胸を撫で下ろし、その様子を眺める。
「でも、何だか懐かしいわね。昔もこうやってレイジングハートの『なのはちゃん』と話したわよね?」
『忍さん、昔って程時間経ってませんよ?私がレイジングハートになったのって最近ですし』
「ううん、昔の話よ、なのはちゃんだって覚えてるでしょ?フェイトちゃんに初めて会った頃のレイジングハート‥‥‥‥‥‥」
『確かに、あの頃のレイジングハートは私の声でしたけど‥‥‥忍さん?』
忍は自らが振った話の途中で考え込んでしまった。「願望器‥‥‥未来から‥‥‥」とブツブツと口にしながら、難しい顔をしている。
やがて、何かを思い付いたらしい忍。ヴィヴィオの両肩をポンッと叩いて、先程迄とはうって変わって真剣な表情で口を開いた。。
「ヴィヴィオちゃん、本当に私の事、覚えてる?」
「へっ?いや、あの‥‥‥」
どうやら覚えていないのがバレたらしい。気不味さでヴィヴィオは思わず目を反らす。
だが、忍にとっては想定の範囲だったらしい。「そっか。そういう事か‥‥‥」と一人納得している。
「あの、忍さん?」
「ヴィヴィオちゃん、落ち着いて聞いて。フェイトちゃんの居場所‥‥‥分かったかも知れないわ」
期待と嬉しさの入り交じった、「『本当ですか!?」』というヴィヴィオと『なのは』の声が揃う。「ええ」と答え、忍は話を続ける。
「フェイトちゃんは、きっと過去にいる。ジュエルシードの力を使って迄、ね」
「そんな‥‥‥時間移動なんて出来るわけ‥‥‥でも」
出来るわけが無い、と言いかけたヴィヴィオだったが、改めて思い直す。死んだ筈のなのはがレイジングハートに宿っているくらいだ。その可能性も、否定出来ない。
「昔ね、そう‥‥‥PT事件の頃かしら。フェイトちゃんに聞いたのよ。フェイトちゃんは、レイジングハートの『なのはちゃん』と一緒に未来から戻って来たって。きっと、あの時の次元震で、過去に戻ったんだと思う」
『なのは』は驚き声も出ない。それは、そうだろう。デバイスだと思って話していた相手は、実は未来の自分だったのだから。
「それじゃ、やっぱり次元震に巻き込まれて‥‥‥」
ヴィヴィオの顔が、少し暗くなる。フェイトはジュエルシードの事故に巻き込まれて過去へと飛ばされて‥‥‥そう思い、涙が込み上げてくる。
忍はそのヴィヴィオの頭を撫でつつ、「そうじゃないの。良い?ヴィヴィオちゃん」と前置きして、『なのは』の方を見る。
「良い?二人とも。フェイトちゃんは、自分の意志で戻ったの。‥‥‥‥‥‥なのはちゃんの運命を変える‥‥‥なのはちゃんを死なせない為に」
漸く理解したのか、黙っていた『なのは』が口を開いた‥‥‥悲しみに震えながら。
『それなら、全て繋がる。初対面なのに私を知ってた事、必死に私を守ろうとしてくれてた事‥‥‥大怪我して入院する事になった時だって、事件が起こる直前まで泣きながら出撃を止めてくれてたのに‥‥‥どうして、私なんかの為に‥‥‥』
『なのは』は俯いて、そこで黙ってしまった。もしも今の彼女がデバイスで無かったなら、大粒の涙を流していたかも知れない。
「でも、なのはママはレイジングハートになってるし、フェイトママには結局助けられなかったって事なんじゃ‥‥‥」
涙を溢しながら言葉を絞り出すヴィヴィオ。全てを犠牲にしてまで過去へと戻って、その結果がこれでは、余りに報われない。
だが、忍の考えは少し違うようだった。真剣な表情のまま、続きを話し始める。
「少し違うと思う。ヴィヴィオちゃん、私を知らない以外に、今までと違う所は無い?」
「いっぱい有ります。なのはママがフェイトママの事好きだったり、過去の出来事が私の記憶やフェイトママに教えて貰った事と違ったり‥‥‥」
涙を拭いながら、必死に思い出すヴィヴィオ。ウンウン、と頷き納得する忍。
「やっぱり。良い?何も起きなかった、フェイトちゃんが過去に戻る前を一周目とするわね。過去に戻って未来を改変したのが二週目とすると、今はきっとその間。1.5周目って所だと思うわ」
「それって、どういう事ですか?」
すっかり涙は止まり、忍の言う事を理解しようとしているヴィヴィオ。その隣に浮いている『なのは』はどうやら理解したようで、ヴィヴィオの疑問に代わりに答える。
『つまり、今は改変途中。だからヴィヴィオの記憶と私達の記憶が違っている訳ですね?今後、私達のこの未来がどう変わって行くかは、過去に戻ったフェイトちゃんの頑張り次第‥‥‥』
「そうよ、なのはちゃん。だからね、ヴィヴィオちゃん。フェイトちゃんが上手く行けば、きっとまた会える」
二人の言葉で理解したヴィヴィオ。「また会える」と言う忍の言葉で、今まで耐えていた思いが決壊して、再びその瞳に涙が溢れ出す。
「本当に‥‥‥また会えるんですね‥‥‥!会いたい‥‥‥ママに‥‥‥フェイトママに会いたい‥‥‥!!」
声をあげ、忍に抱き付いて号泣するヴィヴィオ。「大丈夫。フェイトちゃんなら、大丈夫」と忍に優しく抱き締められて、暫くの間泣き続けた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
一方、その過去。ノエルに手を引かれて月村邸に入り、部屋へと通されたフェイト。着替えるからとすずかと別れ、ノエルに着付けて貰う。
「あの、ノエルさん。さっきのってどういう意味ですか?」
「良いですか?フェイト様。暫くの間は『イギリスに住んでいる月村家の親戚』として振る舞って下さい。詳しい設定は、忍お嬢様が戻ってからで」
「はっ、ハイ」と答えながら、フェイトはドレスを着せられる。
「あの、これって」と戸惑うフェイトに、ノエルは笑顔で答えた。
「歓迎会くらいはしませんと。周りに示しが付きませんから」
「でも、私、ジュエルシードを‥‥‥それに、月村家の皆さんに迷惑は掛けられませんし‥‥‥」
未だ戸惑うフェイトに、「大丈夫です」と言って笑みを溢すノエル。
その夜はなのはやアリサも招待されて、歓迎会は開かれた。なのはがドレス姿のフェイトに、顔を真っ赤にして見とれていたのは言うまでもない。
◇◆◇◆◇
翌朝。ジュエルシード集めに協力させてもらえるよう交渉する為に、忍はユーノを連れて再びアースラへ。
部屋でまだスヤスヤと寝ているフェイトの元へ、忍び足で向かう人物、なのは。昨日そのまま泊まって、この為だけに早起きした。
『駄目だよ、マスター。フェイトちゃん疲れて寝てるだろうし』
「良いの!フェイトちゃんの寝顔‥‥‥綺麗なんだろうな‥‥‥」
『どうなっても知らないからね?マスター』
夜這いならぬ朝這いをかけるなのはに、『なのは』は飽きれ顔。やがて扉の前に着き、そーっと開けて中へと侵入する。
(うわぁ!寝てるフェイトちゃんも可愛い!)
興奮して、なのははベッドに駆け寄る。『駄目だよ、マスター!』と言う『なのは』の制止も聞かずに、毛布を捲って、フェイトの隣に寝そべる。
(フェイトちゃんと添い寝‥‥‥フェイトちゃんと添い寝‥‥‥エヘヘ)
フェイトに抱き付こうとしたなのはは、ふとあるものを見付けて、その手を止める。歳に似合わずベビードールで寝ていたフェイトの太股の辺りに、何かの痕がある。
(あれ?何だろう‥‥‥これって‥‥‥ミミズ腫れ?)
そう。まだ治っていない、プレシアによって付けられた、多数の鞭の痕。
(え?え?え?)
混乱しているなのはに気が付いたのか、フェイトが目を覚ます。
「あれ‥‥‥‥‥‥なのは?」
「フェイトちゃん、その痕って?」
なのはに気付かれて、フェイトは動揺する。何かを隠しているのが分かったなのはは「誰に、やられたの?」と心配しつつも怒りに震えている。
「それは‥‥‥」
口籠るフェイト。今のなのはにはまだ言う訳にはいかない。そう思い下を向いて視線を反らす。その表情は、悲しみを湛えている。それを見て、なのはの表情は怒りの色が濃くなっていく。
(許さない‥‥‥許さない‥‥‥私の大事なフェイトちゃんにこんな事するなんて、許さない!!)
忍の話によって事態を理解したヴィヴィオの回。
なのはちゃんに暴走フラグが立ちました。