An indomitable spirit in my heart 作:アイリスさん
「いい加減に説明してくれないか?何があった?」
フェイトは俯いたまま、答えない。その表情は、深い悲しみを湛えている。
「バルディッシュも、レイジングハートも映像提供を拒否しているんだ。フェイト、君も見ていたんだろう?」
やはりフェイトは答えない。俯き、今度はその瞳に涙を浮かべる。
「参ったな‥‥‥まあいい。君が不利になる事でも無いだろうし、その気になったら聞かせてくれ」
「はぁ」と溜め息をついて、クロノは部屋を後にする。
(『なのは』‥‥‥ごめんね、『なのは』)
未だに悲しみに暮れたまま。クロノが居なくなり部屋に一人になると、フェイトはベッドに座ったまま、声をあげて泣き始める。
(『なのは』‥‥‥私のせいで‥‥‥私、そんなに強くないよ‥‥‥)
「『なのは』‥‥‥」
その名を口にし、ベッドに突っ伏して泣きじゃくる。
そのフェイトの様子を、モニターで見ているエイミィ、リンディ、クロノの3人。
「あーあ、女の子泣かせちゃって。デリカシーないなぁ、クロノ君」
「なっ‥‥‥僕が泣かせた訳じゃない!それに‥‥‥」
クロノはチラリとリンディの方を伺う。首を横にフルフルと振るリンディ。
「やはり、プレシアが起きない事には真実は分からないか‥‥‥」
クロノ達は時の庭園の魔導炉を破壊後、直ぐにフェイト達の所に合流。玉座の間に突入してみれば、プレシアは無理をしたのとかなりの魔力ダメージを受けて疲労困憊で動けず。気絶しているなのはは兎も角、フェイトはレイジングハートを抱き締め泣いていた。全く状況を理解出来なかったクロノ達。
バルディッシュ、レイジングハートのデバイス組は非協力、フェイトはダンマリ、プレシアは張っていた糸が切れたのか、今の今まで眠り込んでいる。
「仕方無いわ。幾つか気になる点は有るけど、プレシアが起きれば分かるでしょう。それよりクロノ、プレシアの容態はどうなのかしら?」
リンディの言葉に、真剣な表情で「‥‥‥長くて、あと3ヶ月だそうです」と答えるクロノ。「そう‥‥‥」と一言発して、リンディはモニターのフェイトに視線を向ける。
「フェイトさんは、この事知ってるのかしら‥‥‥」
◆◇◆◇◆
翌日。フェイトは独房として用意された今居る部屋から出される。アースラはフェイトとプレシアをミッドチルダへ護送するため、夕方には海鳴を離れるという。
「本来なら被疑者を一時的にでも外に出したりはしないんだがな。君の場合は事情が事情だ。それに、なのは達とも暫くは会えない。別れの挨拶くらいなら、構わない」
「‥‥‥ありがとう、クロノ」
前回経験したPT事件と違い次元震が起きておらず、空間が安定している為に1日早い帰還。
フェイトはクロノに笑顔を造り答えるが、『なのは』を再び失ったその心は晴れない。
「‥‥‥クロノ、忍さんは?」
「彼女なら、動けるくらいに回復してる。心配は無い」
「そっか」
忍が無事な事に胸を撫で下ろしつつ、転送ポートへと歩くフェイトとクロノ。今のフェイトには魔力リミッターが付けられ、バルディッシュも手元に無い。当然アルフやプレシアにも会えないが、それも護送が済む迄らしい。‥‥‥と、ここまでは前回経験したPT事件と同じ。
大方の取り調べはクロノとリンディが済ませたが、裁判が始まる迄に細かい手続きや別の取り調べが有るらしい。
それが、前回と違う点。とは言っても、プレシアが生きているのでその辺の話だろうとフェイトもそこまでは気にしていない。裁判が長引きさえしなければ、それで充分。
(12月2日迄に裁判が終わるんなら、大丈夫。なのはが襲われるのに間に合いさえすれば)
次の事件は早期に介入という訳には行かない。夜天の魔導書が完成する以外には、はやてが生存する道が無い。歯痒い事だが、それまでは彼女達‥‥‥ヴォルケンリッターの行動を見過ごすしかない。
「時間が余り取れなくて済まないが、永遠に会えない訳じゃない。裁判が終わるまでは辛抱してくれ」
話すクロノに再び「ありがとう」と返事をして、転送ポートから海鳴公園へと出た。
◆◇◆◇◆
「フェイトちゃん‥‥‥待ってるから‥‥‥会えるの、待ってるから!」
「うん、なのは。必ず、会いに戻って来るから」
フェイトは忍、ユーノに別れを済ませ、なのはとの別れを惜しむように抱き合う。強く抱き付いているなのはは感極まって涙を流している。
(なのは‥‥‥貴女は、せめて貴女だけは、助けてみせるから)
別れの辛さも勿論有るが、フェイトはそれとは別の、決意の涙を流していた。『なのは』の犠牲は無駄には出来ない。これから約半年も離れるのは心配ではあるが、今回はユーノの他に忍も付いている。前回よりは上手くやれると信じて、フェイトはその手を離す。
「なのは、もう時間みたい。手元に何もなくて、こんな物しか渡せないけど‥‥‥」
フェイトはその髪をツインテールに結っていたリボンをほどいて、なのはに渡す。なのはも「私も。フェイトちゃん、絶対帰って来て」と口にして自分のリボンを渡し、再び抱き付く。
「うん。必ず戻る。そして、必ずなのはを守ってみせるから」
フェイトもなのはをもう一度強く抱き締める。
「済まない、時間だ。そろそろ、いいか?」
別れを惜しむ二人に向かい、クロノが気を使いつつ話す。なのははフェイトの腰に回していた手を仕方無く離す。
「フェイトちゃん‥‥‥」
「うん、なのは」
涙に濡れつつも、笑顔を向けるフェイト。クロノの方に戻るために後ろを向いた所で、なのはに手を掴まれる。
「フェイトちゃん!」
「なのは、どうしたの‥‥‥!!」
振り向いたフェイトの顔はなのはに引き寄せられて、その唇になのはの唇が触れる。咄嗟の事で一瞬理解出来なかったが、フェイトの顔は直ぐに真っ赤になる。
「な、な、なのは!?」
「大好きだよ、フェイトちゃん。必ず、戻って来て。そしたらお返事、聞かせて欲しいな」
恥ずかしそうに、しかし笑顔を向けるなのは。フェイトがどうしていいか分からずにしどろもどろしているうちに、その足元に魔法陣が展開される。
「きっと、きっとだよ!」というなのはの言葉を残して、アースラへと転移した。
◆◇◆◇◆
「え?フェイトちゃん、なのはちゃんの気持ち、気付いて無かったの!?」
「えっ!?う、うん‥‥‥」
エイミィですら分かっていたようで、どうやら気付いていなかったのは自分だけだったらしい事に気付くフェイト。未だにその頬は紅いまま。
「あらら。そりゃなのはちゃんも大胆に出ざるを得ないよね。残念だったね、クロノ君。なのはちゃんみたいな可愛い子、好みでしょ?」
「なっ‥‥‥違うっ!断じて違う!」
エイミィにからかわれているクロノ。なのはが自分を好きという、意外すぎる真実をどう受け入れていいか分からずに未だにキョトンとしているフェイトは、二人のやり取りをボーッとして聞いている。
「えっ?クロノ君、違うの?じゃあ、好みのタイプはフェイトちゃん?」
「えっ!?わ、私!?」
「エイミィ!だから、それも違う!」
フェイトは不意に自分に振られ、思わず声が上擦った。だが、それはクロノが自分を好きかも、という動揺では無く、ただ単にボーッとしていたから。なのでフェイトは直ぐに復帰して、ふて腐れているクロノに念話を送る。
《エイミィも、私の事言えないよね?クロノはエイミィが好きなんだもんね?》
《ち、ち、ち、違う!違うっ!》
辛うじて念話で返しはしたものの、クロノは今までと違ってあからさまに動揺している。そんなクロノに「今、念話でフェイトちゃんに好み当てられたよね?誰っ?クロノ君の好みって、誰?」と詰め寄るエイミィ。
「何でもない!何でもないからな!」
「良いじゃない、クロノ君、教えてよ!」
そんなベタな、端から見ればイチャついているようにしか見えない二人を眺めながら、リンディが静かに口を開く。
「フェイトさん、お母さんにはまだ会わせてあげられなくてごめんなさいね。それから、管理局での取り調べの前に会って欲しい人が居るんですが、大丈夫ですか?」
プレシアは兎も角として、前回のPT事件の際は会って欲しい人物など居なかった。嫌な予感を感じつつも、フェイトはそれに「はい‥‥‥」と答える。
「あの、リンディ提督。会って欲しい人って‥‥‥?」
恐る恐る聞いたフェイトに、笑顔を崩さないままでリンディは答える。
「聖王教会、知ってますよね?クロノの知り合いなんですけど、カリムって子とヴェロッサって子に」
「‥‥‥‥‥‥ヴェロッサ!」
驚愕、それに焦り。カリムは兎も角、ヴェロッサは‥‥‥彼のレアスキルは‥‥‥。
(どうしよう。不味い‥‥‥不味い!)
フェイトちゃんの時間遡行によって、少しずつ変わっていく事態。
無印編は次回くらいまでかな?