An indomitable spirit in my heart   作:アイリスさん

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再会と

不安と緊張を感じながらも、フェイトはその廊下を歩く。魔力リミッターをつけられた今のフェイトは、辛うじて念話が使えるくらいで、その辺の魔力を持たない普通の少女と大差無い。ヴェロッサのレアスキル『思考捜査』に対向する手立てはゼロ。

そんなフェイトが考えている事はたったひとつ。

 

(もし、もしも未来を変えようとしてる事を危険因子って判断されたら‥‥‥)

 

未来を、本来在るべき姿から変えようというのは決して良いこととは言えない。例えそれが聖人君子を死の運命から救う事だったとしても。些細な事で人の運命は変わってしまう。ある人を助けたが為に別の人が死に、更に他の人の運命も変える、などという事も有りうる為だ。

 

そこまで分かっていて尚、フェイトはなのはを救う事を願った。それは間違いなく、プレシアがアリシアの運命を変えようとしていた事と同じ。歴史に対する冒涜とも言える。

そんな事を知ったら、果たしてカリムは、聖王教会は黙って見過ごしてくれるのだろうか?最悪、このままずっと軟禁なんて事も‥‥‥。

 

そんな事を考えながらクロノの後ろを歩いていたフェイトは、見慣れた扉の前でふと立ち止まる。

 

(ここ‥‥‥ヴィヴィオの部屋になる所だ‥‥‥ごめんね、ヴィヴィオ)

 

瞳が微かに滲む。フェイトが立ち止まった事に気付いたクロノが「フェイト、どうした?」と声を掛ける。

 

「‥‥‥なんでもない」

 

そうしてフェイトは、何とか涙を堪えて再び歩き出す。

 

「フェイト、ここだ」

 

かつて‥‥‥機動六課時代にはやて、なのはと共に開いた扉。それをゆっくりと開くと、中には3人の人物。一人は修道女。と言ってもまだ幼い見習いだろうか。あのシスターシャッハもこんな時代があったのかと懐かしむ。一人は落ち着いた感じの少女。フェイトよりも少し歳上だろう。まだあどけないが、確かにカリムの面影がある。それと、もう一人は少年。彼は、恐らくヴェロッサだろう。

 

「やあ、クロノ。待ってたよ」

 

「すまないな、ロッサ。それと、時間を取らせて申し訳ない、カリム」

 

「いいえ。呼び立てしたのは此方ですし」

 

クロノは二人と会話を交わしている。未来のクロノ本人から幼い頃からの付き合いとは聞いていたが、まさかこんな昔からだったとは。

 

「話は聞いています。貴女がフェイトさんね?」

 

「‥‥‥はい」

 

フェイトはカリムの言葉に、少し俯きながら答えた。その表情は不安を隠しきれず、緊張で手が震える。

 

「ごめんなさい、クロノ、ロッサ。少しの間、外で待っていてくれるかしら?」

 

カリムは男性陣を部屋から追い出す。シャッハがカーテンを閉めて外から見えないようにしている。

 

「あの‥‥‥一体何を?」

 

何が始まるのか予想もつかないフェイトの元へと、二人はゆっくりと近付いてくる。

 

「シャッハ、分かっていますね?」

 

「はい、騎士カリム」

 

何かを確認したシャッハが、フェイトの両手を後ろ手に拘束。カリムがフェイトの履いているスカートの裾に手をかける。

 

「え?え?」

 

嫌な予感がして抵抗を試みるも、今のフェイトにはその力は無い。カリムにそんな趣味があったのかとか、このまま慰み者にされちゃうのかとか、兎に角貞操の危機を感じたフェイトは必死に逃げようと藻掻く。

 

「やっ、やめて‥‥‥」

 

やがてスカートが太股まで捲られる。覚悟して震えながら瞳を閉じたフェイトだが、それ以上何も起きない。

 

「‥‥‥‥‥‥あれ?」

 

恐る恐る瞳を開けたフェイト。カリムの視線が捉えていたものは、フェイトの太股に残っている、鞭の痕。

 

「可哀想に‥‥‥プレシアにやられたモノですね。フェイトさん。聖王教会で貴女を預かりたいと思っているのですけれど、どうでしょうか?」

 

呆気に取られていたフェイトだが、カリムの言葉を理解するとそれを否定する。

 

「ごめんなさい。私は‥‥‥それでも母さんの傍にいてあげたい。今は駄目でも、きっと母さんは分かってくれる。ううん、分かってもらえなくても、母さんの力になりたいから」

 

涙を溜めて言葉を紡ぐ。今回は、今回はプレシアを助ける事が出来た。時間はある。ゆっくり分かってくれれば。そう思い話すフェイト。

 

「フェイトさん‥‥‥クロノからは何も聞いていないんですね。プレシアは‥‥‥持ってあと三ヶ月。ですから、貴女の為にも」

 

「そんな‥‥‥折角‥‥‥折角今回は助けられたのに」

 

余りの衝撃に思わず言葉を洩らすフェイト。『なのは』の力もあってプレシアは生きているというのに。もう時間が無いなんて‥‥‥。

 

その瞳から涙が流れるフェイトに、カリムは慰めるでもなく冷静に詰め寄る。

 

「フェイトさん、『今回は』とは?貴女には不明瞭な点がある、とクロノから聞いています。何を隠しているのです?」

 

その言葉で、しまった、と気付き涙を拭う。自身の失言さえなければ、このまま丸く収まったかも知れなかったのに。フェイトの視界に、扉が開かれヴェロッサが入ってくるのが映る。

 

「だめ‥‥‥やめて‥‥‥やめて!」

 

逃げようにもシャッハが片手を拘束したまま。目の前まで来たヴェロッサが、フェイトを覗き込むように見る。

 

「いたいけな少女の記憶を覗くのは趣味じゃないんだけどね。我慢してくれよ?」

 

そう言葉を吐いたヴェロッサに、フェイトの記憶が探られていく。

 

「‥‥‥‥‥‥これは‥‥‥‥‥‥!」

 

「ロッサ、どうしたの?」

 

思った以上に驚いているヴェロッサと、その大きなリアクションに驚くカリム。フェイトはその場にへたり込んでしまった。

 

「‥‥‥‥‥‥いや、特には何も。余りにも何も無いから驚いてしまってね」

 

予想外のヴェロッサの言葉。彼のレアスキルで、フェイトの記憶を覗けない訳はない。「‥‥‥へ?」と言葉を洩らしたフェイトに、ヴェロッサが密かに念話をくれた。

 

《後で話すよ。今はみんなも居るし、悟られると不味いだろう?‥‥‥未来の、クロノの妹さん?》

 

◆◇◆◇◆

 

《僕はね、君を信じてみようと思ったんだよ。確かに未来を変えるというのは良くない事かも知れない。けどね、未来の僕らの親友‥‥‥「はやて」だったかな?その親友を救い、ミッドを救う事になる君をここで拘束する訳にもいかないだろう?》

 

《ヴェロッサ、ありがとう‥‥‥ありがとう‥‥‥!》

 

《止してくれ。将来君に御礼を言うのは僕の方なんだ》

 

ヴェロッサは自室から念話を送ってくれている。フェイトはポロポロと泣きながら、教会の廊下を歩いている。クロノ達から見ると、母プレシアが余命幾ばくも無い事を知って涙を流しているように見えている。

 

「気を確かに持つんだ。ここ聖王教会も、僕も艦長‥‥‥母さんも、君の味方だ。なのは達だって、君の力になってくれる」

 

真意に気付かずに慰めるクロノに、「うん‥‥‥うん」と涙のまま答えるフェイト。そうしてフェイトは、クロノ達と共に裁判に臨む事となった。

 

◆◇◆◇◆

 

そうして、1ヶ月後。プレシアとの面会を特別に許可されたフェイトは、クロノと共に管理局の病院に居た。

 

「本来なら許可は出ないんだがな」

 

「うん、分かってる。クロノ、会わせてくれてありがとう」

 

二人は厳重に管理された、ある一室の扉を開く。中にいるのは、勿論。

 

「母さん」

 

「‥‥‥何しに来たの?」

 

プレシアはフェイトの方は向かず、窓の方に顔を向けたまま。

 

「母さん‥‥‥あの‥‥‥」

 

「もう、あの子の、アリシアの元へ静かに逝かせて頂戴」

 

フェイトが必死に言葉を絞り出すも、プレシアは聞こうとしない。

 

「でも、私は!」

 

「私の事は、忘れなさい。貴女の好きに生きればいいわ‥‥‥」

 

尚も窓の方を向いたままのプレシア。フェイトは我慢出来ずにプレシアに抱き着く。

 

「‥‥‥嫌だ!忘れない!貴女は‥‥‥私の母さんだから!」

 

抱き着いたまま涙を流し、嗚咽を漏らして泣くフェイト。漸くフェイトの方を向いたプレシア。泣いているフェイトからその表情は伺い知れないが、「馬鹿な子ね‥‥‥」と一言だけ洩らし、その頭を静かに撫でた。




無印編でした。

ヴェロッサいい奴過ぎる。プレシアさんは‥‥‥冷静になればフェイトも娘と認識出来る筈。

次回からは闇の書編となります。フェイトちゃんにとって、PT事件以上に難しい事件になるでしょうね。
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