An indomitable spirit in my heart 作:アイリスさん
新暦65年の、11月30日の事。
「フェイトちゃん!会いたかったよ、フェイトちゃん」
「なのは‥‥‥!」
約半年振りの再会。かつて二人が別れた海鳴公園。なのはは感極まって涙を流しながら、フェイトに抱き着く。フェイトは柔らかな笑みを浮かべてはいるが、少し戸惑いつつなのはをそっと抱き締める。
フェイトが遠慮気味な理由は簡単。半年前別れた際に受けた、なのはからの告白の返事をしなくてはならない。なのはが傷付かないよう、これからも友達でいられるよう、その返事は慎重に慎重を期さなくてはならない。ジュエルシード集めより余程神経が磨り減る。
フェイトが心の準備をし、意を決する前になのはがそれをねだる。
「ねえ、フェイトちゃん。この前のお返事、聞かせて欲しいな」
「‥‥‥あのね、なのは」
フェイトは気持ちを落ち着けようと深呼吸をして、話し始める。
「なのは。なのはの事は好きだけど、今は友達じゃ駄目かな?ほら、私達まだ9歳だし、そういう関係は早いって言うか‥‥‥大人になったらまた改めて考えよう?ね?」
それを聞き、暫く呆けた顔で停止していたなのは。やがて笑みが戻り、それに答える。
「うん。分かったよ、フェイトちゃん。そうだよね、今はまだ早いよね」
フェイトは笑顔ながらも、(‥‥‥あれ?)と心の中で首を傾げる。フェイト本人的にはあれでも遠回しに断ったつもりだったのだ。例えなのはのそれとは意味が違うとしても、『好き』と言ってしまったのが不味かった事とか、大人になったらO.K.という意味にとれる、という事には全く気付いていない。
問題を先送りにしただけなのだが、取りあえずこの場は乗り切った。フェイトはそれで(まあ、いいや)と思ってしまった。これが原因となって、この先大人になっても迫られる事になるとは、この時は想像も出来ていない。二人は笑顔で、手を繋いで公園を後にする。
聖王教会の尽力もあって、裁判は一周目よりも早く終わった。結果は、前回と同じ実質無罪と同じ保護観察処分。現在は長めの休暇を取ったリンディと共に、海鳴に滞在中。
プレシアは、もう居ない。3ヶ月前に管理局の病院で息を引き取った。やり取りは不器用ではあったが、フェイトを拒否するような事は無くなっていた。あれだけの仕打ちをしてしまって、フェイトにどういう顔をしていいのか分からなかっただけだったのだろう。毎日会えれば打ち解ける事も出来たのだろうが、プレシアもフェイトも被疑者。そうそう何回もは会えなかった。
それでも、フェイトにとっては一周目のPT事件の時よりは遥かに良い結果だった。少ない時間で、不器用ではあったが、プレシアからの愛情を確かに感じられたのだから。
聖王教会の申し出はやはり断ったフェイトは、一周目同様にリンディの提案を受け入れるつもりでいた。リンディやクロノは自分を家族として大切にしてくれるし、『テスタロッサ・ハラオウン』という名はやはりシックリ来る。
「フェイトちゃん、明日からウチの学校に通うんだよね?」
「うん。アリサやすずかとも一緒に通える」
学校の編入手続きももう終えている。不安になるくらい順調。あとは。
(あとは‥‥‥闇の書事件‥‥‥いよいよ来月)
そうして一周目と同じ、翠屋から目と鼻の先のマンションの一室に着いたフェイトとなのは。まだ終わっていない引っ越しを手伝おうと、なのははその中へと入っていく。
◆◇◆◇◆
その日の夜。部屋のベッドに横になり、一人物思いに耽るフェイト。
(私は‥‥‥どうしたら良いんだろう。はやての事を知らない振りをして、シグナム達が魔力を収集するのを見逃す?それも何だか違うような気がするけど、夜天の魔導書が完成しないと、はやてが‥‥‥)
こればかりは、どうして良いか分からない。魔導書の完成以外にはやてを救う方法が有るのなら、前回あれだけ苦労はしていない。
(だめだ。何も考えつかない。まだ時間はあるし、明日また考えよう。『なのは』なら、上手くやれたのかな‥‥‥)
ちっとも良いアイデアが思い浮かばない思考を打ち切る。フェイトは瞳を閉じ、その日はもう寝る事にした。事態が動き出している事も知らずに。
‥‥‥更に時間は進み、深夜、月村邸。
「ノエル、事後処理は頼んだわ」
「はい。御嬢様」
忍は緊張した表情で窓の外を見ながら話している。返事をしたノエルは部屋から離れ、事態に備える。
「ファリン、すずかの方は?」
「念のため御部屋の回りに結界を張りました。外から絶対に分からない筈です」
「ありがとう。もう下がって休んで」
ファリンは自室へと戻っていく。外を見たままの忍の額には、冷や汗。感じられる魔力が、段々大きくなって、近付いて来ているのが分かる。
(さて、誰が来るのかしら)
覚悟を決めて忍が外へと出た所で、エンシェントベルカの結界が展開される。忍の目の前に降り立つ女性。
(長身にロングヘアー、剣型デバイスの騎士‥‥‥烈火の将、か。‥‥‥最悪)
心の中では動揺しているが、それは表面には出さずに、忍は襲撃者と向かい合う。
「『アタリ』を引いたみたいね。我が屋敷へようこそ、守護騎士」
「なぜ私を知っている?管理局の手の物か?」
まだ剣に手を掛けず、シグナムが忍を睨む。
「違うわ。少し知ってるだけ。私の魔力なんてくれてあげても構わないけど、タダで、っていうのもね?」
努めて余裕の表情を作る忍だが、嫌な汗は止まらない。管理局によれば、忍の推定ランクは精々AからBの間くらい。なのはどころか、ユーノにも及ばない。ザフィーラ辺りなら何とか、と思っていたのだが、運悪く相手はシグナム。ハッキリ言って、勝てる見込みは無い。それでも。自身を犠牲にしてでも、妹のすずかだけは隠し通さなくてはならない。
「知っているのなら話は早い。我が主の為、その魔力、奪わせて貰う」
シグナムがレヴァンティンに手を掛ける‥‥‥と同時に、忍は魔法陣が展開する。
「言った筈よ。タダでは渡さない、と」
瞬間、シグナムの目の前に忍の姿が現れて、その手に持った短めの六角棒型デバイスがレヴァンティンと交錯する。
「何っ!?早い‥‥‥!」
シグナムの目にも捉えられなかった程の速度。改めて構え直したシグナムから一度距離を取る忍。
(出来れば退却して欲しい所だけど‥‥‥無理よね。さて、どうしたものかしら)
忍が使っているのは、幻惑魔法。つまりはハッタリである。シグナムには超高速で移動しているか、瞬間移動しているように見えている。まだ見破られてはいないようだが、いつまで持つかは分からない。
その手に持ったデバイスはなんと自作。レイジングハートにアドバイスをもらいながら作成した、ストレージデバイス(因みに凍結属性は無い)。
再び、忍の姿がシグナムの目の前に現れ、魔力を纏わせたデバイスを降り下ろす。
「瞬間移動か?いや‥‥‥」
ギリギリでそれを受けたシグナムは、その瞳を閉じる。バシュン、とカートリッジが炸裂する。
「紫電‥‥‥一閃!」
デバイスで防ぎはしたものの、その威力に押されて吹き飛ばされる忍。
「‥‥‥くっ」
「幻惑魔法か。成る程、タダでは行かないようだな」
幸いダメージは少ない。直ぐに立ち上がった忍だが、今のままではやはり分が悪い。その手に持った試作デバイスも、いつまで持つか分からない。
(なのはちゃんとフェイトちゃんが気付いてくれれば‥‥‥)
更にバシュン、とカートリッジを炸裂させたシグナム。忍も改めて魔力を練り直し、デバイスの先に長い魔力刃を展開させる。
「成る程、槍か。悪くないな」
「ありがとう。褒めても何も出ないけどね」
闇の書事件編開始。フェイトちゃんの介入の影響で、事件開始日が前倒し。皆様の予想通り、忍のデバイス名はグングニルです。