An indomitable spirit in my heart 作:アイリスさん
《‥‥‥!‥‥‥‥‥!》
念話が聞こえた気がして、フェイトは眠りから覚める。といってもまだ微睡みの中。意識もはっきりとはしておらず、瞼も開いていない。
「ん‥‥‥だれ‥‥‥?」
《‥‥‥!‥‥‥!‥‥‥‥‥‥ト‥‥‥》
その念話が、アルフからのものだと漸く気付いたフェイト。寝惚けながら「あるふ‥‥‥?」と口にして瞳を開けようとする‥‥‥が。その声は聞こえなくなる。
(なんだろう‥‥‥寝言かな?‥‥‥眠い‥‥‥)
念話と寝言の区別がつかないくらい寝惚けているフェイトは、再び眠りに落ちていく。
‥‥‥が。ガタンッ、という音がして、フェイトの頭が漸く少しずつ覚醒してくる。そう言えばリンディが管理局に急遽呼ばれたとかで夜中に出ていった。帰って来たのかな、と思い、漸く重い瞼を開いた。
「‥‥‥えっ?」
「あらら。起きちゃったのね、小さな魔導師さん?」
そう話し掛けてきた人物は、フェイトの手足をクラールヴィントで完全に拘束していて、その左手に闇の書を携えている。
「あのまま起きなければ苦しまなくて済んだのに」
決して穏やかとは言えない表情で、フェイトを睨み話すシャマル。
闇の書がフェイトのリンカーコアを捉えて、抵抗する術もなくその魔力を奪っていく。
「う゛ぁぁぁぁぁ!!」
辛そうに声をあげるフェイトに、「安心して。殺したりはしないから」と呟くシャマル。フェイトは魔力を奪われながらも、バルディッシュに手を伸ばそうとする。
(どうして‥‥‥まだ‥‥‥早すぎる‥‥‥)
前回よりも数日早い襲撃。やはり自分が歴史を変えてしまっている影響かと思いつつ、シャマルを睨む。
(不味い‥‥‥知らせなきゃ‥‥‥忍さん‥‥‥)
「なの‥‥‥は‥‥‥」
フェイトの意識がそこで途切れる。一見すればベッドでスヤスヤと眠っているのと変わらないフェイトに、「ご免なさいね」と呟いて、シャマルはその場を後にした。
◇◆◇◆◇
ガキン、と音をたてて交錯する剣と槍。その威力に、忍が後方へと押される。
(不味いわ‥‥‥これ以上は)
ここまで何とか持ちこたえてはいるが、忍自身の限界は近い。なのはやフェイトが駆けつけてくれるのを期待するしかない。
「良くやったほうだ。だが‥‥‥レヴァンティン!」
バシュン、とカートリッジを炸裂させて、焔に包まれるレヴァンティン。
「『紫電一閃!』」
一撃目の時は様子見だったらしく、その時よりも明らかに大きな威力が忍に迫る。(ここまでか‥‥‥)と瞳を閉じた忍だが、吹き飛ばされはしたものの、受けた一撃は思っていた程では無かった。というより、忍自身はその直撃を免れて、それを代わりに食らった人物が吹き飛ばされるのに巻き込まれた程度で済んだのだ。
「ゲホッ、ゲホッ‥‥‥大丈夫ですか?忍さん!」
「なのはちゃん!」
間一髪シグナムに立ちはだかったなのは。全力でシールドを展開して紫電一閃を受け止める筈だったのだが、脆くもそのシールドは破壊されて、忍もろとも吹き飛ばされた。
「なのはちゃん、フェイトちゃんは?」
「分かりません。でも、必ず来てくれます!」
なのはが立ち上がり、レイジングハートを構え直す。忍も体勢を立て直し、翼を拡げて再度グングニルを構える。
(聞いていたのより随分早い襲撃だけど‥‥‥フェイトちゃん‥‥‥)
こういう時の忍の勘は良く当たる。12月にならないうちに守護騎士襲撃に備え準備をしておいたのも、彼女の勘である。
嫌な予感がしてならない。たった今ユーノも合流して、これで3対1。一見すれば、一撃の威力の大きいなのは、防御に秀でたユーノ、小回りのきく忍と、シグナム一人ならどうとでもなる状況。守護騎士が4人揃ったとしても、フェイトとアルフが合流さえすれば、数の上では有利。‥‥‥合流さえすればだが。
数的不利を悟ったのか、シグナムは深追いしてこない。なのはの魔力と砲撃型のデバイスを見て警戒しているのだろうか。
「なのはちゃん、ユーノ君。今のうちにあの騎士を叩くわよ」
「はい!」と答えたなのはと違い、「いや、待って」と別の方向を睨むユーノ。案の定、残り3人の守護騎士も現れた。
「大人しくしていろ。命までは奪わん」
3人に剣を向けるシグナム。なのはが「負けない!フェイトちゃんが来てくれるもん!」と叫び、足元に桜色の魔法陣を展開して魔力を集中し始める。
「なのは、気を付けて。あの人達の魔法‥‥‥ベルカ式だ」
「うん、ユーノ君!」
と、ユーノが「なのは」と呼んだ事にシャマルが反応する。
「貴女があの子の言ってた‥‥‥。その子なら、来ないわよ」
「嘘だよ!フェイトちゃんは来てくれるもん!」
声を張り上げ叫ぶなのはに冷たい眼差しを向けながら、答えるシャマル。
「その子って金髪の、金色の魔力光の子でしょう?あの子なら、来れない。今頃はきっと‥‥‥」
「嘘だよ!嘘だもん!フェイトちゃんは絶対来てくれるもん!」と尚も認めず引かないなのはと違い、忍は勘が当たってしまった事に顔を顰めた。
(最悪ね)
ユーノもそれが何を意味しているのか気付いて、冷や汗を流している。
《忍さん、勝てなくてもいい。退却させる策は有りますか?》
《有るには有る。けど、ユーノ君。発動まで持ちこたえられるかしら?》
《何とか、やってみます》
努めて冷静にやり取りする忍とユーノ。それとは対照的に、頭に血が上っているなのはがヴィータに向かってバスターを放ったのが、開戦の合図となった。
◇◆◇◆◇
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
少し身体はフラフラするものの、魔法が使えないだけで、身体は普通に動く。フェイトは深夜の海鳴を走っていた。
(急がなきゃ‥‥‥!)
今のフェイトは9歳の少女。こんな深夜に出歩いているのを見付かれば、即補導である。おまけに魔法も使えず、危険。
深夜で迷惑かと迷った挙げ句電話してみたものの、忍は出なかった。
なのはも携帯に出ない。一周目と同じ場所か、はたまた別の場所で戦闘を行っているのかは分からない。だが、なのはと忍はきっと一緒にいると確信して、フェイトは走る。
と、遠くに赤い光が飛んでいくのが見えた。光が向かっているのは、月村邸の方角。その光がヴィータだと直ぐに分かったフェイトは、方向を変えて月村邸へと走る。
(何とか伝えなきゃ。力にはなれないけど、何とかみんなの力に‥‥‥‥‥‥助け‥‥‥?)
走っていたフェイトは、その場に立ち止まった。どうしていいのか分からずに、悩む。
(なのは達は助けたい。でも、今なのは達を助けたら‥‥‥はやてが助からない。はやての居場所をリンディ義母さんに伝えて‥‥‥それもだめだ。今の本局や地上本部じゃ、はやてが殺されちゃうかも知れない。けど、黙ってなのは達がやられるも、耐えられない。私は、一体どうしたら‥‥‥)
どっちも選べない。いくらなのはを助けたいと言っても、その結果はやてが犠牲になってしまうなんて許される筈がない。その場に座り込んで、フェイトはやるせなさと辛さ、それに何も出来ずに魔力を奪われた悔しさと自身の不甲斐なさで泣き出してしまった。
(どうしたら‥‥‥どうしたらいいの?やっぱり私‥‥‥役立たずなのかな‥‥‥。ねえ、『なのは』。私は、どうしたら‥‥‥)
星の輝く夜空を見上げ、大粒の涙を流しながらフェイトは呟く。
「どうしたらいいの?教えてよ、『なのは』‥‥‥」
フェイトちゃん、なんと初戦は寝込みを襲われて不戦敗。
ジュエルシードであれだけ苦戦して、いざ闇の書編でこれ。そりゃ泣きたくもなります。