An indomitable spirit in my heart   作:アイリスさん

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一難去って‥‥‥

 

結局、涙に震えながらも月村邸へと辿り着いたフェイト。重々しい空気にたじろぎながらも、ゆっくりとその門を開け、中へと入っていく。

 

中はやけに静か。激戦が繰り広げられているとはとても思えない。それに。

 

(ベルカ式の結界が無い‥‥‥)

 

襲撃最中ならば有るであろうベルカ式の封鎖結界が張られていない。それはつまり、襲撃前か、若しくは事態が終息しているかどちらかである事を意味する。

 

(もう、終わった後‥‥‥?そんな‥‥‥。私のせいだ)

 

溢れそうになる涙を堪えて必死に庭を探すと、グリーンのシールドに守られ木の幹に寄りかかって座る忍と、その膝を枕に横になっているなのはの姿が目に入る。

 

「間に合わなかった‥‥‥なのは‥‥‥忍さん‥‥‥」

 

その場で膝をつき、堪え切れなくなって涙を流すフェイト。その彼女の後ろから、「フェイト?」と呼ぶ声に振り向く。

 

「ユーノ‥‥‥?無事だったの?」

 

「僕は、何とか。けど、二人は‥‥‥」

 

悲痛な表情のユーノ。忍もなのはも、やはりリンカーコアを奪われているようだ。

 

「ごめん、フェイト。二人を守りきれなかった。‥‥‥フェイト、まさか君も?」

 

フェイトから殆んど魔力が感じられない事に気付いて、ユーノは言葉に詰まる。フェイトは右手で涙を拭いながら、震える声で答えた。

 

「ごめん、ユーノ。力になれなくて‥‥‥。ごめんね、私、駄目な子で」

 

フェイトは何とかそう言い終えると、我慢できずに嗚咽を洩らして鳴き始める。ユーノは少しだけ躊躇したが、フェイトをそっと抱いて「フェイトのせいじゃない。だから、泣かないで」とその頭を撫でる。

 

「う゛っ、う゛っ‥‥‥ごめんね、ユーノ。ごめんね‥‥‥」

 

フェイトはユーノの胸を借りて、暫くの間泣き続けた。

 

◆◇◆◇◆

 

管理局本局にある医務室内。

リンディが海鳴に戻り、事態は動き出した。彼女はやはり、闇の書事件で呼び出されたらしい。魔導師及び魔法生物襲撃事件が97管理外世界周辺で起きている事を受けて臨時作戦本部を海鳴に置く、という決定を当にしてきた所だったようだ。

 

「ごめんなさいね、忍さん。局の決定がもう少し早ければ、皆さんを助けられたんですが‥‥‥」

 

申し訳無さそうに話すリンディ。「いいえ」とその首を横に振る忍がそれに答える。

 

「終わってしまった事は仕方ありませんし、管理局のせいでもありません。魔力は兎も角、みんな無事だったんですし大丈夫ですよ」

 

隣では、なのはが眠っている。なんとか無事だったユーノはマリエル技官と共にレイジングハートの修復、バルディッシュの再調整を行っている。

フェイトはと言えば、ベッドに横になって窓の方を向いたまま『寝ているように』見える。

 

「それでは、私はこれで。海鳴に戻ってやることも有りますので」

 

そう言って、リンディは部屋を出ていく。彼女が遠ざかったのを確認して、忍はフェイトに念話を送る。

 

《起きてるんでしょう?この事件、思った以上に厄介そうね》

 

《‥‥‥ごめんなさい、忍さん。私が油断してたばっかりに、忍さんまで巻き込んでしまって》

 

弱々しく、悲しそうに答えたフェイト。《私が、駄目だったから。役立たずだから、みんなに迷惑ばっかりかけてるから‥‥‥》と、その発言は後ろ向きなものばかり。

 

《そんな事無いわ。守護騎士の襲撃だって予定よりも早かったんだし、防ぎようなんて無かったわよ》

 

慰めを口にはしているものの、塞ぎ込んだままのフェイトに悩む忍。(やっぱり、目の前で『なのは』ちゃんを失ったのが大きいのね。どうしたものかしら‥‥‥)と、あれこれと思案していた。

 

と、寝ていたなのはが目覚める。なのはは初め事態を飲み込めないようだったが、両隣に横になっている忍とフェイトを見て理解してその上体を起こし、静かに口を開く。

 

「忍さん、私達‥‥‥負けちゃったんですね」

 

「そうね。お医者様の話だと、暫くは魔法は使えないみたいだけと、回復するから心配は無いそうよ」

 

天井を見上げたままのなのはは、忍の言葉を聞いて何か物思いに耽っているよう。暫くボーッと考えていたなのははベッドを降りて、隣で毛布を被って泣いているであろうフェイトのベッドに腰掛けて、微笑を浮かべながら語りかけるように話す。

 

「ねえ、フェイトちゃん。私、あの人達を止めたいんだ。確かに襲われたんだけど、あの人達、何だか悲しそうに見えたの。魔力は奪われちゃったけど怪我も大した事無いし、悪い人達じゃないと思うんだ」

 

フェイトは被っていた毛布から少しだけ顔を出し、なのはの方に向ける。(やっぱりなのはは‥‥‥強いな‥‥‥)とその表情を緩めた所になのはの顔が近付いて、頬に柔らかい感触。

 

「だからね、フェイトちゃん。あの人達を止められるようにもっと強くなって、一緒に頑張ろう?」

 

キスをされた事に驚いて少しの間固まっていたフェイトだが、やがて止まっていた涙が溢れ出す。

 

「うん‥‥‥うん」

 

何度も頷いて、なのはにすがり啜り泣くフェイト。もはや空気となっている忍は、そんな二人の様子を静かに見守っていた。

 

◆◇◆◇◆

 

魔力は兎も角、体調は回復した翌日の12月1日から、なのは達と同じ聖祥小に通い始めたフェイト。容姿は9歳当時の姿だが、フェイトは本来22歳。当然小三の授業が分からない筈はない。それに、すずか迄とはいかないが、元から運動神経抜群。更にその容姿の綺麗さもあって、直ぐに校内のアイドルとなっていく。そうなれば、当然面白くない人物がいる。言うまでもなく、なのはである。

 

それは、聖祥小からの帰り道の出来事。

 

「ねえ、フェイトちゃん」

 

「何?なのは、どうしたの?」

 

なのはは頬を膨らませ、不機嫌そうな表情を浮かべている。フェイトはその理由を理解出来ずに、首を傾げる。

 

「‥‥‥だめ」

 

「え?」

 

突然なのはに「だめ」と言われて、更に混乱する。フェイトには何かなのはの機嫌を損ねるようなことをした覚えがない。

 

「なのは、何が?」

 

「‥‥‥みんなのアイドルになっちゃ、だめ。やだ」

 

「そっ、そんな事、ないよ?私、アイドルなんて‥‥‥」

 

変わらずプクッと頬を膨らませているなのは。「なってるもん。駄目だもん。フェイトちゃんは、私のだもん」と他の人に聞かれたら色々と誤解を生みそうな発言をしている。

 

「あっ、あのね、なのは?」

 

フェイトが慌ててフォローしようとした所で、アリサがなのはの頭をペチン、と掌で叩く。

 

「なのはのものじゃないでしょ!」

 

「違うもん!私のものだもん!大人になったら一緒になろうねって約束したもん!」

 

「そんな事言う訳無いでしょ!ね?フェイト?」

 

とんでもない台詞を叫んだなのはと、それを否定するアリサ。どちらの言葉を否定してもややこしい事に成りそうで、フェイトは「えっ‥‥‥えっと‥‥‥」と言葉に詰まる。

 

「駄目だよ、喧嘩しちゃ。仲良くしないと、ね?」

 

すずかが仲裁に入って何とかその場ではうやむやになって。分かれ道迄来てアリサ、すずかと別れる二人。

 

「それじゃ、明日ね、なのは。フェイトの事苛めちゃ駄目よ?」

 

最後にそう付け加えたアリサに、なのはが「する訳ないもん!」と対抗。そうして帰り道を歩くなのはとフェイト。

 

「ねえ、フェイトちゃん。一緒になろうねって約束したもんね?」

 

二人っきりとなって手を繋いだなのはが、再確認してくる。フェイトが困り果ててどう返事を返そうか悩んでいる時、それは起きた。

 

「‥‥‥え?」

 

突然、目の前が真っ白になる。一瞬視覚や感覚を奪われて、意識を失う。そうして次に意識が戻った時、フェイトは絶望的な状況にあった。

 

「うぁぁぁぁぁ!!」

 

(不味い‥‥‥不味い!!)

 

フェイトは叫び声をあげながら、必死に思考を巡らす。

フェイトが居たのは、遥か上空。隣には、先程手を繋いだままのなのはが気を失って一緒に落ちている。

 

離れないようなのはを抱き締めた迄は良いが、助かるために次に打つ手が見付からない。リンカーコアは回復には程遠く、魔法は全く使えない。パラシュートでも付けていない限り、この距離では間違いなく助からない。

 

(嘘‥‥‥嘘‥‥‥!何か、何か考えないと‥‥‥)

 

そうしているうちに、地上との距離は近付いてくる。その地上は、地球とは少し違う、砂漠と湿地帯のような場所の斑模様の地上。それに、所々どす黒く濁った色がある海。

 

(別次元!?どうして!?‥‥‥助けて‥‥‥誰か助けて!!)

 

死への恐怖に、思わず目を瞑る。フェイトそのまま再び意識を失う。

 

◆◇◆◇◆

 

「‥‥‥ト。フェイト、確りしてください、フェイト」

 

自身を呼ぶその声に、フェイトは意識を取り戻した。視界は未だぼやけていて、声の相手はシルエットしか分からない。

 

「気が付きましたか。大丈夫ですか?フェイト」

 

「‥‥‥なの‥‥‥は?」

 

焦点は合っていないが、その声は間違いなくなのはのもの。いつもとは違う話し方に疑問を持ちながらも、フェイトはゆっくりと手を伸ばす。

 

「なのは‥‥‥?良かった、無事だったん‥‥‥‥‥‥誰!?」

 

視界がはっきりしてきて、フェイトは伸ばした手を引いた。目の前には、確かになのはと同じ顔がある。だが、その格好は、なのはのバリアジャケットと同じデザインではあるものの、漆黒のジャケット。それに、なのはとは違ってその髪はショートカット。

 

「どうしました?落ち着いて下さい。私です、シュテルです」

 

その事態がフェイトに当然理解出来る訳もない。フェイトは本能的に後ずさる。リンカーコアは回復していなくとも、シュテルと名乗った少女が溢れんばかりの魔力を持っているのは分かる。

 

(敵!?なのはのクローン?‥‥‥まさか、スカリエッティの!?)

 

今のフェイトではまず勝ち目は無い。逃げようにも、足に力が入らず、思うように動かない。

 

「フェイトの様子はどうだ?シュテル」

 

「はい、ディアーチェ。どうやら少し混乱しているようで‥‥‥落ち着ける場所まで移動した方が良いかと」

 

次に現れたディアーチェと呼ばれたその少女は、はやてと瓜二つ。悪い事に、ディアーチェは気を失っているなのはを抱きかかえている。

その姿を見て「はやても!?」と思わず声をあげて、フェイトは絶望に震える。

 

(に、逃げなきゃ‥‥‥けど、なのはが‥‥‥どうすれば‥‥‥どうすれば‥‥‥)

 

 

 

 

「やれやれだ。シュテル、フェイトを運んでやれ。研究所へ行くぞ」

 

「はい、ディアーチェ」

 

シュテルは動けなくなったフェイトを抱え、「行きますよ、フェイト」と静かに口にして、ディアーチェと共に飛び立った。

 




なのはちゃん嫉妬に狂うの回。

そりゃあ、フェイトちゃんはモテます。フェイトちゃんが視線を浴びる度に、なのはちゃんの機嫌は悪くなるんでしょうね。‥‥‥全くもって面倒です。

次回は、というか、今回末にディアーチェとシュテル登場。あの舞台のあの話なので、皆様揃って次回登場します。
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