An indomitable spirit in my heart   作:アイリスさん

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すれ違い

一見しただけでは分からない。まだ知らされていないだけで、なのはの墓も移動したのかも知れない。兎に角、確たる証拠が必要である。『街の方へ降りてみようか』という『なのは』に同意して、ヴィヴィオは歩き出した。

 

「取りあえず、年が分かる所を探さないと‥‥‥えっと」

 

周りの人間に不審がられないよう、ヴィヴィオは『なのは』を抱えて歩く。『なのは』も極力動かないようにして、ヌイグルミを演じている。

 

『日付の分かるものだよね‥‥‥そうだなぁ』

 

ヴィヴィオと『なのは』はキョロキョロして辺りを見回しながら歩く。

 

「なのはママ、あそこは?」

 

ヴィヴィオの指指した先には、本屋。

『なのは』を抱えて走って中に入り、カレンダーを探す。

 

そうして、二人が見付けたのは、『来年のカレンダー』のコーナー。そこにあったのはやはり、ヴィヴィオの時代から遡る事、13年前のカレンダー。

 

『この時代の私はまだ9歳だね。やっぱり、闇の書事件の‥‥‥』

 

『なのは』の言葉で現実を突き付けられたヴィヴィオの表情が沈む。

 

「じゃあ、私達、ホントに過去に来ちゃったんだね‥‥‥どうやって帰ったらいいのかな?」

 

『そうだね‥‥‥そうだ、ヴィヴィオ。忍さんなら、力になってくれるかも知れない。ほら、あの時の忍さんの言葉、覚えてる?』

 

ハッとして、ヴィヴィオはその言葉を思い出す。忍はあの時確かに言っていた。『昔、PT事件の頃に、フェイトが未来から戻って来た』と。固かったヴィヴィオの表情が少し和らぐ。

 

「じゃあ‥‥‥ここにママが‥‥‥フェイトママがいるかも知れないんだね」

 

『もしかしたら並行世界かも知れないし、忍さんが言ってた『改変前の世界』かも知れないけど‥‥‥忍さんならきっと、受け入れてくれるよ』

 

フェイトが居る筈の、ヴィヴィオ達の世界線の過去という確証はない。だが、未来から来たフェイトの話を信じ、力になった忍なら、きっとヴィヴィオの力になってくれる筈。そう信じて二人は月村邸へと歩き出す。

 

「でも‥‥‥今のこの時代ならママが居るんだよね」

 

『そうだね。私達の知ってるフェイトちゃんかどうかは分からないけど』

 

そうは言っても、二人とも嬉しそうに笑みを溢す。フェイトの顔を見るのは、実に久し振り。まあ、この時代のフェイトなので、9歳の姿の、だが。

 

笑顔で歩いていた二人だったが、『なのは』があることに気付く。

 

『ねえ、ヴィヴィオ。私の名前、どうしようか?』

 

「え?名前って?」

 

合点のいかないヴィヴィオは、首を傾げる。『なのは』はそれに、出来る限り丁寧に答える。

 

『忍さんには本当の事も話さなきゃならないかも知れないけど、私達が未来から来た事は出来るだけ話さないほうが良いと思う。この時代の私に悪影響があるかも知れないし、ヴィヴィオの存亡にも関わるから』

 

「‥‥‥うん、分かった」

 

この時代のなのはに知れて、死への恐怖からミッド行きを断念、なんて事になったら笑えない。もっと言えば、今のヴィヴィオが、この時代に聖王が居るという事になったら、将来オリヴィエのクローン作成がされなくなるかも知れない。そうなれば、ヴィヴィオの存在は消えてしまうかも知れない。

 

そんな訳で、なるべく他の人には知られないよう、偽名を使うことにした。『ヴィヴィオ』だけなら兎も角、『テスタロッサ・ハラオウン』なんて名乗ったら目も当てられない。

 

「それじゃ、なのはママの名前、何にしようか‥‥‥」

 

歩きながら、「うーん」と考え込むヴィヴィオ。やがて何か思い付いたようで、表情がパッと明るくなる。

 

「そうだ!『クリス』ってどうかな?セイクリッドから取って、クリス」

 

『良いね。じゃあ、デバイスの制式名称は『セイクリッド・ハート』ってところだね』

 

なかなかしっくり来る名前に「うんうん」と満足気に頷くヴィヴィオ。自分の偽名も考えないといけない事はすっかり忘れている。

 

『ヴィヴィオの名前はどうする?』

 

「‥‥‥あ、そっかぁ。忘れてた」

 

テヘッ、と舌を出しておどけるヴィヴィオ。『もうっ、ヴィヴィオったら』と腰に手を当てて膨れている『なのは』。そんな和やかな二人は、後ろから接近してきた二人の人物に全く気付けず。その一方の人物に声を掛けられた。

 

「貴女‥‥‥エイミィちゃんの言ってた魔導師ね?」

 

突然の忍の声に、ヴィヴィオは驚く。振り返り、その視線に映ったもう一人の少女を見て思わず「うわっ!ママ!?」と口走ってしまう。後ろから近付いてきた二人の姿を確認した『なのは』は、飛んで行って抱き付きたい衝動を必死に抑え、ヴィヴィオにどうにか念話で語る。

 

『不味いよ、ヴィヴィオ!この場は何とか誤魔化さないと』

 

『なのは』が振り返った視線の先に居たのは、忍とフェイト。この世界が『フェイトが時間遡行した過去の世界』という確証がまだない為、フェイトには迂闊に話せない。

 

「‥‥‥ママって、フェイトちゃんが?」

 

疑念を向けている忍の隣、フェイトの表情は少し優れない様子だった。

 

◆◇◆◇◆

 

《フェイトちゃん、あの子がフェイトちゃんが言ってた‥‥‥》

 

表情の優れないフェイトに念話を送る忍。フェイトが再会に喜ぶのかと思っていた忍だが、フェイトの方はそうではなかった。

 

《忍さん。‥‥‥ヴィヴィオには、何も言わないで貰えませんか?》

 

《知らない振りをしろって事?それで良いの?フェイトちゃん?》

 

悲しそうな表情で《はい》と答えたフェイト。忍の気遣いは分かるし、今すぐヴィヴィオを抱き締めたい。だが‥‥‥。

 

(私には、きっとその資格は無い。私は‥‥‥ヴィヴィオを捨てたんだ。約束、守れなかった‥‥‥)

 

なのはを救う、という一心で過去へと飛んだフェイト。それは結果的に、『ヴィヴィオを独りにしたりしない』と自らが口にした約束を破った事になる。ヴィヴィオを裏切ってしまった自分には、抱き締めてやる資格など、無い‥‥‥。フェイトは自分を責めながら、必死にその場で耐えていた。

 

「あ、あの‥‥‥」

 

重苦しい状況を打開しようと、ヴィヴィオが口を開く。

 

「私は、そろそろ行っても良いでしょうか?」

 

「待って。貴女、さっき襲われた魔導師でしょう?管理局が探してるわよ?」

 

フェイトに『知らない振りを』と言われ、仕方無くそう振る舞う忍。そんな忍に続いて、暗い表情を残したまま口を開きヴィヴィオに話しかけるフェイト。

 

「キミ、名前は?」

 

フェイトの言葉に、ヴィヴィオの表情は明らかに落胆が見える。偽名を考えていた事も忘れて「‥‥‥ヴィヴィオです」と答えたヴィヴィオと目を合わせずに、「ヴィヴィオって言うんだね」と白々しく口にするフェイト。

 

「はじめまして、ヴィヴィオ。私は、フェイト。フェイト・テスタロッサ」

 

笑顔を作って話すフェイト。忍は心配そうに《本当にそれで良いの?》と念話をくれたが、《はい》と返しただけ。

 

(良いんだ、これで。私には、ヴィヴィオを抱き締める資格は無い。今更‥‥‥)

 

◆◇◆◇◆

 

フェイトの「はじめまして」という言葉に落胆を隠せないヴィヴィオ。『なのは』も確かに残念ではあるものの、そんなヴィヴィオを心配して念話を送る。

 

『ヴィヴィオ‥‥‥大丈夫?』

 

《うん。ありがとう、なのはママ。私達の知ってるフェイトママじゃないみたい》

 

もし、今ヴィヴィオが居るこの世界が一周目の、改変前の世界だとしたら、忍が魔法に関わっている筈はない。フェイトがヴィヴィオを知らないのだとしたら、つまり今の世界は、並行世界、という結論になる。一筋の、『フェイトに会える』という期待が打ち砕かれて心の沈むヴィヴィオは、「失礼します」と口にして、その場を離れようと歩き出す。

 

「待って」

 

‥‥‥と、後ろから忍に手を掴まれて呼び止められる。浮かない顔のままヴィヴィオが振り返ると、心配そうな表情の忍。

 

「ねえ、ヴィヴィオちゃん。貴女、行く宛とかあるの?」

 

まるで全て見透かされているような忍の言葉に驚いたヴィヴィオ。(まさか‥‥‥知ってる訳無いよね)と思いながら、落ち着く為に深呼吸をしてから答えた。

 

「私‥‥‥ママを探さなきゃ行けないんです。私のママ、次元震に巻き込まれちゃって、何処かに飛ばされちゃって‥‥‥。だから」

 

何故、それを口にしたのかはヴィヴィオ自身にも分からない。強いて言うのであれば、『言わなきゃいけない』気がしたから。

 

「そっか。それで、行く宛、あるの?」

 

質問の答えになっていないヴィヴィオの言葉。忍が再び同じ質問をしてくる。ヴィヴィオは(どうして‥‥‥どうして私を引き留めるの?)疑問を持ちながら、「いいえ」と正直に話す。

 

「ありません。私も飛ばされちゃったみたいで‥‥‥」

 

余りに語りすぎるヴィヴィオに、思わず『ヴィヴィオ!』と声をあげてしまった『なのは』。しまったと狼狽している『なのは』を見ながら、忍が更に言葉を発する。

 

「ヴィヴィオちゃん、その子は?」

 

「ママの、形見のデバイスです。‥‥‥セイクリッド・ハート」

 

「‥‥‥‥‥‥そっか。ヴィヴィオちゃん、落ち着くまでウチに泊まるといいわ」

 

忍は静かにそう話し、ヴィヴィオの頭を優しく撫でる。今まで内に秘めてきた感情が溢れだしたヴィヴィオは、忍に抱き付いて大声で泣き始めた。

 

「会いたいの‥‥‥私‥‥‥ママに会いたい‥‥‥!う゛っ、う゛っ‥‥‥」

 

そんなヴィヴィオを見ているのが辛いのか、フェイトは後ろを向いて空を見上げている。その肩が、微かに震えていた。

 

 

 




すれ違う母娘と、それを心配する忍の回。二人の行く末は、果たして‥‥‥。
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