An indomitable spirit in my heart 作:アイリスさん
「ノエルさん、おはようございます」
「おはようございます、ヴィヴィオ様。お早いですね」
「走るの、日課なんです」
まだ朝の5時。ヴィヴィオは日課となっている早朝ランニングに出掛ける。いつもと違うのは、此処がヴィヴィオが住んでいる聖王教会では無く、過去の月村家だと言うこと。
「おや、ヌイグルミと一緒に、ですか?」
ヴィヴィオの手には、『なのは』。知らない者からみれば、ランニングに行くのにヌイグルミを持っていくという何とも不可解な光景。
「はい。‥‥‥私の相棒なんです」
「そういう事ですか。お気をつけて」
ヴィヴィオの言葉で、それが『デバイス』だと理解したらしいノエルは、さも当然かのように振る舞う。月村家で魔法を知らない(秘密にしている)のは、すずかのみ。ヴィヴィオも少しホッとして、「行ってきます!」と言って月村邸を出る。
因みに、まだ半人前のファリンは兎も角、メイド長のノエルはフェイトの時間遡行の事を知っている。次期当主である忍の行動は当然把握している訳で、ヴィヴィオがデバイスと言ったヌイグルミが恐らく『なのは』である事も忍から聞いている。その上で白々しく「ヌイグルミ」と知らないかのような発言をしているわけで、(あれが未来のなのは様ですか。何とまあ、一段と可愛らしくなって‥‥‥)などと考えながらヴィヴィオと『なのは』を見送っていた。
そんな事とは露知らず。いつもとは違うコースを走るヴィヴィオは、これからどうすべきか悩んでいた。
「ねえ、なのはママ。帰る方法ってあるのかな?」
『私も考えてたんだけど‥‥‥ジュエルシード以外の方法思い付かないよ。でも、あれは正しく願いを叶えてくれる訳じゃないし‥‥‥』
「だよねぇ‥‥‥」
悩みながら、海鳴公園を走り抜ける。と、そこで意外な人物を発見する。
「あれ?なのはママと、フェイトママ?」
二人の視線の先には、この時代のなのはとフェイト。二人は竹刀を持って打ち合っている。まだリンカーコアは回復していないが、身体面での鍛練だろう。あまり迂闊な事は言えない『なのは』が、釘を刺すように話す。
『ホントだ‥‥‥ヴィヴィオ、ここはそっとしておこう?ほら‥‥‥』
「なのはさ~ん、フェイトさ~ん!」
『なのは』の意思とは裏腹に、ヴィヴィオは呼びながら二人の方へと走っていく。ちゃんと意識して『さん』付けして。『なのは』は『もうっ』と洩らしながらも、微かに笑みを浮かべる。ヴィヴィオにとって、なのはとフェイトの二人が揃っている事は特別なのだ。『しょうがないなぁ』と洩らし、ヴィヴィオに抱えられて二人と面会する。
「おはよう、ヴィヴィオちゃん!」
満面の笑顔で挨拶を交わしたなのはとは違い、ぎこちない笑みで「おはよう、ヴィヴィオ」と話すフェイト。未来のフェイト本人から、『昔は極度の人見知りだった』と聞いているヴィヴィオは(まだ慣れないのかな)とそこまで気にしていないが、『なのは』はそうではなかった。
『ねえ、ヴィヴィオ。フェイトちゃん少し変じゃないかな?』
「え?恥ずかしいだけじゃないの?」
『何か隠してるって言うか、嘘言ってるって言うか‥‥‥そんな時のフェイトちゃんなんだよね』
流石は『なのは』である。長年フェイトを見てきただけの事はある。ヴィヴィオも「そう言えば‥‥‥」とフェイトの怪しい様子に漸く気付き始める。
「ねえ、ヴィヴィオちゃんはどんな魔法使うの?」
そんな折、なのはに突然話題を振られて思考を遮られて、「ふぇっ?」と抜けた声をあげるヴィヴィオ。
「えっと‥‥‥私はストライクアーツ‥‥‥格闘技やってるから、それと砲撃やシューターを織り混ぜた感じで‥‥‥」
「どんな砲撃なの!?教えて、教えて!」
なのはの言葉に慌てるヴィヴィオ。フェイトを怪しむ処ではなくなった。ヴィヴィオの得意な砲撃と言えば、『ディバインバスター』。加えてデバイスであるヌイグルミがなのはソックリとくれば、関連性を疑われるのは間違い無い。
期待の眼差しを向けてくるなのはに、どうしたものかヴィヴィオは悩む。
「なのは、だめだよ?ヴィヴィオは来たばっかりなんだから。ほら、困ってるでしょ?」
そう言うフェイトに、「フェイトちゃんが言うなら‥‥‥」と素直に従うなのは。そのなのはとフェイトの姿に、『なのは』は更に疑惑を深める。
『やっぱり‥‥‥おかしいよ。ヴィヴィオの記憶だと、改編前だと私はフェイトちゃんにLoveって意味の好きとは違うんだよね?何て言うか、私が体験してきた過去を見てる気がするんだよね。それに‥‥‥さっきのフェイトちゃん、ヴィヴィオの事を庇ったように見えたよ。本当に、ヴィヴィオの事知らないのかな‥‥‥?』
そうして『なのは』はフェイトに視線を送る。フェイトの方は『なのは』から視線を逸らすように俯く。‥‥‥やはり、怪しい。
‥‥‥が、そんな、再び怪しみ始めた二人をまるで妨害するかのようなタイミングで、ヴィヴィオと『なのは』には信じられない人物が現れた。ヴィヴィオよりも少し歳上であろう少年。それが誰だか直ぐに分かった『なのは』が驚き警戒して、ヴィヴィオに念話を送る。
『ヴィヴィオ、気を付けて!アコース査察官だよ‥‥‥』
《嘘‥‥‥どうして?》
ヴェロッサは、「やあ」と何時もの調子で挨拶をしてきた。当然ヴィヴィオ、『なのは』とは初対面。ヴェロッサがフェイトの記憶を見ていてヴィヴィオを知っている事は二人はまだ知らない。
ヴェロッサが態々海鳴まで来た意味を理解しかねていたヴィヴィオと『なのは』。それと、誰だか分からずにポカン、としているなのは。‥‥‥だが、当然フェイトだけは別の反応で、ヴェロッサの方に嬉しそうな表情で駆け寄り、声を掛けた。
「ロッサ!どうしたの?海鳴まで遠くなかった?」
「今日はお使いでね。君達にデバイスを届けに来たんだよ。それに、君が元気にしてるか気になってね」
本当の意図は分からないが、どうやら嘘は言っていないようだ。事実、ヴェロッサの手の中には、レイジングハートとバルディッシュ。
「ありがとう、ロッサ。紹介するね?この子が、なのは。こっちの子が‥‥‥ヴィヴィオ」
「初めまして、二人とも。僕はヴェロッサ・アコース。聖王教会の使いだよ」
ヴィヴィオの名を出した時だけは少し影があったが、それ以外笑顔のフェイト。フェイトにしてみれば、ヴェロッサは忍以外の唯一の理解者、味方。その味方に向けた安心感の笑顔であって、他意は無い。要は、忍と同じレベルである。だが‥‥‥そうは思っておらず、驚愕と焦りと危機感、それと嫉妬の眼差しを向けている人物が二人。
『アコース査察官‥‥‥フェイトちゃんと仲良さそう‥‥‥』
「誰!?あの男の人、フェイトちゃんの何なの!?あんなにフェイトちゃんと仲良さそうにして!」
当然、『なのは』もなのはも、仲良さげに会話をしているフェイトとヴェロッサの様子が面白く無い。
「ありがとう」と言って笑顔でデバイスを受け取っているフェイトを見て、嫉妬で頬を膨らませるなのは、それと嫉妬でワナワナと震えている『なのは』。
「あの人、渡すフリしてフェイトちゃんの手触ってる!‥‥‥ズルい!」
『私のフェイトちゃんに触らないで!』
そんな二人を後目に、表情は変えず密かに念話を交わすヴェロッサとフェイト。
《フェイト、あの子、まさか‥‥‥》
《うん。私の‥‥‥娘。どうしてかは分からないけど、この時代に転移してきたみたい》
少し悲しそうに表情を歪めたフェイト。《君に会いに来たのかも知れないね》と微笑むヴェロッサは、フェイトのその頭にポンポンッ、と手を乗せる。
『あーっ!許さない!アコース査察官でも、許さない!』とか、「フェイトちゃんに馴れ馴れしくしないでぇ!」と喚く『なのは』となのはを他所に、ヴィヴィオだけは別の事を思っていた。
(見たことある‥‥‥ママのあの表情‥‥‥見たこと、ある。本当に、私の事知らないの?ママ‥‥‥フェイトママ)
フェイトちゃんに他意は有りません。仲間に向ける笑顔です。なのはちゃん&『なのは』は暴走しそうですが。