An indomitable spirit in my heart 作:アイリスさん
「なのはマ‥‥‥なのはさん?」
「ぶー」
なのはの機嫌は最悪。頬を膨らませて、顔を真っ赤にして拗ねている。それはそうだろう。フェイトは、(なのはにとって)どこの馬の骨かも分からないヴェロッサと共に海鳴公園内を散歩中。例えフェイト達にその気が無くても、なのはにはデートしているように見える。
「フェイトちゃんが‥‥‥フェイトちゃんが男の子と‥‥‥」
涙目で呟いているなのはには、ヴィヴィオの呼ぶ声は聞こえていない。先程から、「なのはさん?なのはさーん?」と呼び掛けているヴィヴィオも困り顔。
(渡さないもん‥‥‥私のフェイトちゃんとあんなに仲良くするなんて、許さないもん!)
話し込んでいるフェイト達の元へと走り出したなのは。フェイトとヴェロッサが並んで歩いている間に無理矢理割り込み、フェイトの腕に抱きつく。
「なのは、どうしたの?」
「‥‥‥フェイトちゃんとお話、したかっただけ」
不貞腐れたままのなのはに、イマイチ状況を飲み込めていないフェイト。その様子を見ていたヴェロッサにはなのはの不機嫌の理由が直ぐに分かったようで、クスクスと笑いながら話す。
「ああ、成る程ね。僕とフェイトは君が思ってるような関係じゃないよ」
「本当に?」
まだ頬を膨らませて聞くなのはに、「本当だよ。それじゃ、僕はそろそろ失礼するよ」と手をヒラヒラと振りながら背を向ける。
「ああ、そうだ。フェイト、君のバリアジャケットのデザインを変えておいたよ」
去り際そう一言残し、ヴェロッサは帰っていく。ヴェロッサとフェイトの仲をまだ疑っているなのはの気は、そう簡単には収まらない。
「フェイトちゃん、今のヴェロッサって人と、どういう関係なの?」
「どうって‥‥‥そうだなぁ。友達、とは少し違うし。仲間、かなぁ?相談に乗ってくれるお兄さん、とか?」
なのはは、固まる。勿論、フェイトの言葉をフェイトが思っている通りに理解した筈もなく、ヴェロッサが『フェイトにとって大切な人で、ちょっと歳上の頼れるお兄さんポジション』というなのはにとって最大級の障害である、と勝手に思い込んでの衝撃である。
(どうしよう‥‥‥私の、私のフェイトちゃんがあの男の子に盗られちゃう‥‥‥!)
勝手に思考を暴走させるなのはは、フェイトの両手を握って向き合う。(何とか‥‥‥何とかしなきゃ!)と焦るなのはのとった行動は、たったの1つ。
「なのは?どうしたの?‥‥‥‥‥‥ンっ‥‥‥!」
突然のなのはの行動にキョトンとしていたフェイトに抱き付き、その唇に自分の唇を強引に重ねるなのは。「うわーっ!なのはママもフェイトママも、何してるの!?」という、驚愕しているヴィヴィオの失言も耳には入っていない。
暫くして、漸く唇を離したなのは。紅くなって固まってしまったフェイトの手を握ったままで、少し俯いて口を開いた。
「嫌だよ、フェイトちゃん。フェイトちゃんの事、私が一番好きだもん」
そんな二人を、顔を真っ赤にして見ているヴィヴィオは、『なのは』の方にチラリと視線を送る。『テヘッ』とおどけて見せた『なのは』に、「テヘッ、じゃないよぅ‥‥‥なのはママの、ばかぁ!」と言って再びランニングに戻っていった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
一方の未来。夕刻の聖王教会は慌ただしくなっていた。
「済まない、ティアナ。我々が付いていながら‥‥‥」
「謝るのは後よ、チンク。今は兎に角、ヴィヴィオを探さないと」
チンク達、教会一同、ティアナをはじめ、アインハルトやリオ、コロナまで。総出で捜索に当たっている。心当たりは既に潰している。残りの可能性と言えば、家出、若しくは誘拐。ティアナは走り探しながら考える。
(不味いわ。『なのは』さんが付いてるのに、何の連絡も無く家出なんて考え難いし‥‥‥やっぱり誘拐?けど、教会に乗り込んでまでなんて‥‥‥いや、でも)
もし誘拐だとして、相手がヴィヴィオの素性を知っているなら危険を犯してまで教会に乗り込むのも理解できる。ヴィヴィオは聖王のクローン。聖王女オリヴィエが現代に甦った、と知れ渡れば、聖王教会にとってばかりでなく、ミッド自体に大きな影響を与えかねないし、それを悪用しようという輩が居ないとは言い切れない。事実、それが元で起こったのがあの『JS事件』。もう『ゆりかご』は無いが、イクスの時のように別の何かが有るかも知れないし、油断は出来ない。
(あんな思い‥‥‥もう二度としたくない‥‥‥もう二度と、させない)
JS事件のあの時、ティアナ達を救う為に、なのはは『ゆりかご』と共に消えた。今でこそ、なのははレイジングハートとしてヴィヴィオと共に居るが、あの時の悲しみ、悔しさ、なのはが消えるのを見ている事しか出来ない自身の歯痒さは、忘れない。当時、六課の面々が失意に暮れる中、ティアナだけが、歯を食いしばって前を向き立ち上がった。結果、彼女はたったの半年で執務官となった。原動力だったのは紛れも無く、『二度と悲劇は繰り返さない』という彼女の強固な意志。
(ヴィヴィオ‥‥‥無事でいてよ‥‥‥)
そんな走るティアナの元へ、忍が駆け寄ってくる。
「ティアナちゃん、ヴィヴィオちゃんは?」
「それが、まだ見付からなくて‥‥‥」
「あのね、ティアナちゃん。よく聞いて」
ティアナの両肩に手を置き、忍は話し始めた。ティアナにとって、信じ難い話を。
「‥‥‥それじゃ、フェイトさんは過去に居るって事ですか!?」
「多分。だから、きっとヴィヴィオちゃんは、過去に行く方法を探しに行ったんじゃないかしら?」
忍が嘘を言っているとは思えない。『時を越える』など馬鹿げている話かも知れないが、ここは信じて動く事にしたティアナ。
「でも、忍さん。ジュエルシードはフェイトさんの事故の時に全部消滅してますし、他に方法なんて‥‥‥」
悩むティアナ。しかし、忍には心当たりがあるようだ。
「もしかしたら‥‥‥あそこかも知れない。‥‥‥『時の庭園』。フェイトちゃんのお母さん‥‥‥プレシア・テスタロッサの居城。あそこには、アリシア・テスタロッサの‥‥‥‥‥‥時を越える為の研究が眠ってる筈」
「時の庭園へ行きましょう、忍さん。許可は直ぐに取ります」
二人はヴィヴィオを探し、急ぎ庭園へと向かう。
庭園へ転移してみると、ティアナは違和感を感じた。初めて来た筈の場所。だが‥‥‥。
(おかしい‥‥‥私、此処を知ってる‥‥‥?)
まるで、昔に訪れた事が有るような既視感。辺りを見回してみると、地面には靴の跡。丁度ヴィヴィオと同じ位の歳の人物か。
「やっぱり、ヴィヴィオちゃん此処に来たのね」
忍の言葉には、何故か同意出来ないティアナ。ヴィヴィオの足跡、というには‥‥‥何かが引っ掛かる。
(何だろう。この違和感‥‥‥)
そうして、奥へと‥‥‥研究室へと歩く二人。ティアナが研究室の扉に手を掛けると、中で何か音がする。それに、声も。
「誰か居る‥‥‥?ティアナちゃん」
「分かってます、忍さん」
ティアナは彼女のデバイス、クロスミラージュを展開して、慎重に扉を開ける。
中にはヴィヴィオは居らず、代わりに居たのは予想外の人物だった。
「「‥‥‥‥‥‥‥‥‥アミタさん!?」」
ティアナと忍、二人の記憶封鎖が解けて、同時に叫ぶ。その叫びに反応したアミタが振り向き、口を開いた。
「私を知ってる‥‥‥?失礼ですが、お二人は何者ですか?」
◇◆◇◆◇
警戒を含んだ視線を向けるアミタに、忍が静かに話し出す。
「思い出したわ。私は、昔貴女に会った。貴女が、ヴィヴィオちゃんを未来へ連れて帰った時に」
「‥‥‥そういう事ですか。それで、そちらの貴女は?」
忍には納得の行ったアミタ。並行世界か未来かは分からないが、どうやらアミタと会った事があるようだ。だが、ティアナとの接点は分からない。
「‥‥‥貴女は、まさか」
アミタは視線を下に向ける。その視線の先には椅子に座りスヤスヤと眠る、オレンジ色のツインテールの髪の幼い少女。
「そうです。私は‥‥‥未来のその子。お久し振りです、アミタさん。ティアナ・ランスターです」
次元漂流者としてアミタに救ってもらった事を思い出したティアナは、全て悟ったようでアミタに笑みを向けてくる。
「アミタさん。ヴィヴィオを、お願いします」
アミタも笑みを向けて、それに答えた。
「‥‥‥任せてください。必ず、連れて帰りますから」
暴走なのはちゃんの回。またまたフェイトちゃんの唇を不意打ち。
ティアナに予想外の過去が発覚。幼い頃に、フェイトの起こした次元震に巻き込まれてました。