An indomitable spirit in my heart   作:アイリスさん

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聖王、走る

 

 

トランク内で揺られていたフェイト。車が漸く止まり、扉が開く音が聞こえる。

 

(チャンスは、きっと1度だけ。慎重にいかなきゃ)

 

トランクが開いて相手が見えた瞬間を狙い、両手で電気を浴びせるしかない。後ろ手に手錠をされているので後ろ向きで。距離を確り計り慎重に慎重にやっても上手くいくかは分からない。それに、例えそれで上手く行ったとしても、相手が二人以上居たら逃げられない。

 

(‥‥‥このままじゃ何をされるか分からないし、どうにかしてなのは達と合流しなきゃ)

 

一か八かに限りなく近い賭けだが、フェイトは息を飲んでチャンスを待つ。

 

耳を澄ます。足音が近付いてきて、フェイトは身構える。鍵がガチャリ、と解除されて、トランクがゆっくりと開く。

 

(あと‥‥‥あと少し)

 

だがその時。フェイトは急激な眠気に襲われる。麻酔を射たれたとか、スプレーされたとか、先程のようにクロロホルムを嗅がされたとかではなく、本当に不意の眠気。

 

(うそ‥‥‥だめ‥‥‥ここ‥‥‥で‥‥‥ね‥‥‥た‥‥‥ら‥‥‥)

 

必死に睡魔に抵抗するものの、瞼は重くなって、やがて眠りに落ちたフェイト。今度は目隠しまでされて、抱えあげられて運ばれる。

 

◆◇◆◇◆

 

「う‥‥‥‥‥‥」

 

フェイトが再び目を覚ますと、視界は真っ暗。暫く状況を飲み込めなかったが、漸く目隠しをされている事に気付く。

 

(不味い‥‥‥どうしよう)

 

車からは下ろされたようで、何処かに座らされている。何も見えないのでどんな場所なのかは分からない。

 

(兎に角、先ずは視界を確保しなきゃ)

 

目隠しを何とか外そうとしたフェイト。だがフェイトが動く前に、目隠しが勝手に外れてスルスルと床に落ちる。

 

(へっ?こんな簡単に外れた‥‥‥?)

 

一先ず辺りを見回す。狭い部屋の中のようだ。小さなベッドが1つと、テーブルが1つ。良く見てみれば、足に付いていた手錠は外されていて、代わりに床に鎖で繋がれている。後ろで拘束されていた両手は前での拘束に変わっていて、先程迄よりは多少動ける。

 

(これなら、何とか逃げられ‥‥‥‥‥‥これって!)

 

フェイトの両手を拘束していたのは、管理局製の手錠だった。思い当たるような犯人は、グレアム達しか居ない。

 

(やられた‥‥‥これじゃ魔法は使えない。私がはやてを知ってる事を知られた‥‥‥?)

 

ベッドに座り、周りを見回す。使えそうな物は一切無い。あるのは、これで寒さを凌げるか分からないが取りあえず置いてある毛布と、ご丁寧にテーブルの上にある水と少しの食糧(栄養補助食品)。フェイトの命を奪うつもりでは無さそうだが、しかし。

 

(最悪クリスマス迄拘束されたとしたら‥‥‥3日に1つかな‥‥‥)

 

闇の書の魔力収集が終わるクリスマス迄は、まだ20日程有る。仮にこのまま此処で足止めされるのだとすれば、目の前のたった7箱しかない食糧で過ごさねばならない。3日に一箱はかなりキツいが、こんな所で死ぬ訳にはいかない。

 

(最悪ナハト戦に参加出来なくても‥‥‥なのはを助ける迄は死ねない)

 

時計が無いので推測だが、時間は恐らく夕飯時。お腹は空いてきたが目の前のそれはまだ食べるわけにもいかない。お腹を押さえ空腹を我慢しつつ再び辺りを見回して、もう1つの重大な事に気付く。

 

(そういえば‥‥‥お風呂はもう仕方無いとしても、トイレはどうしよう‥‥‥)

 

そう気付いてしまうとしたくなってくる。足に付いている鎖が部屋の長さよりも長いのを確認し、(漏らすのは‥‥‥嫌だな)と祈るような思いで扉に手をかける。

 

幸運にもガチャリ、とノブが回る扉。恐る恐る開いて見ると、目の前にはW.C.と書かれた扉。鎖はどうやらそこまでは届くようだ。

 

その扉を開け、それがトイレである事を確かめて胸を撫で下ろす。他にも幾つか扉は見えるが、今はどうやっても届かない。その場に座り込んで遠くの扉を恨めしそうに睨みながら、フェイトは考える。

 

(クリスマス‥‥‥長いな‥‥‥。出来たら、何とかその前に脱出したいな‥‥‥寒いな‥‥‥お腹、空いた‥‥‥)

 

どうやって脱出したものか。管理局製の手錠をどうにかしない限り、フェイトのリンカーコアが回復しても魔法は使えない。その辺の小学3年生と変わらない今のフェイトでは、出来る事は限られる。

 

(せめて、足の鎖が外れれば)

 

金属のようだが明らかに鉄製では無い鎖。水をかけても錆びるかは不明。貴重な飲み水を消費しての賭けには出られない。

 

やがて寒さに耐えられなくなり、ブルブルと震える身体に毛布を巻いてベッドの上で小さく踞る。

 

(さっきよりは暖かい‥‥‥‥‥‥助けて‥‥‥忍さん‥‥‥ロッサ‥‥‥)

 

少しは暖まってきた毛布を頭迄被って、フェイトは瞳を閉じる。凍える夜に無駄な体力を消費しない為に、翌日までの暫しの眠りに落ちていく。

 

◆◇◆◇◆

 

‥‥‥所変わって。

 

《もし私の記憶の通りなら、‥‥‥フェイトちゃん、リインフォースさんとは戦ってないんだ》

 

「へっ!?なのはママ、どういうこと?」

 

胸に抱えている『なのは』の言葉に驚きつつも、ヴィヴィオは道路沿いを走る。海鳴では流石に飛んで移動するのは目立つ。

 

《うん。フェイトちゃんね、監禁されてたんだ。闇の書事件の間中、ずっと。見付かった時、フェイトちゃん凄く衰弱してて‥‥‥》

 

ヴィヴィオが教わったのとは、これまた違う。またしても歴史が変わっている。最終決戦にフェイトが居なかった、というのは信じ難い事だが‥‥‥フェイトが過去へと遡ったのだとすれば、理由は何となく分かる。

 

「ねえ、なのはママ。それってもしかして」

 

《あの時は確か、『聖王教会に干渉されたら厄介だから』だったと思うけど。フェイトちゃんの後見人は聖王教会だから。でも‥‥‥もしフェイトちゃんが未来から来たのなら‥‥‥フェイトちゃんが誘拐された理由は‥‥‥はやてちゃんを、闇の書の主を知ってたから、かな?フェイトちゃんが話してくれたらいいんだけど。それより、相手はあのリーゼ姉妹だよ。ヴィヴィオ、慎重にね?》

 

現役のリーゼ姉妹が相手では分が悪い。下手をすればヴィヴィオまで拘束されるかも知れない。

 

「でも、もしリーゼさん達と会っちゃったら?」

 

《二人ははやてちゃん達の監視とかユーノ君の手伝いとかもあるし、大丈夫だとは思うけど、その時は‥‥‥何とかするしかないよ》

 

ヴィヴィオ自身の事も詮索されたくはないし、出来る事なら交戦せずに終わらせたい所。フェイトの身を案じつつ、『なのは』の示すフェイトの監禁場所へと急ぐ。

 

‥‥‥勝てる見込みは多くない。だが、ヴィヴィオだって『大好きな人を守りたい』為にストライクアーツを始めて、此処まで来た。

 

(待ってて、ママ。今、助けに行くから)

 

密かにその心に決意して、ヴィヴィオは走る。

 

◆◇◆◇◆

 

そのリーゼ姉妹は猫の姿で、八神家を望む丘の上に居た。

 

《ロッテ、やっぱり父様に報告した方が良くないか?》

 

《大丈夫さ。今の魔力収集ペースなら、あの子の監禁だって長くてもきっと1週間位だし、死にはしない。それに‥‥‥聖王教会に動かれたら厄介だ。あの子はその保険だよ》

 

《それは、そうだけどさぁ》

 

渋るアリア。やはり闇の書の主と守護騎士以外の犠牲は心苦しいようだ。

 

《魔法も使わず、現地の人間と同じ方法で誘拐したんだ。私達がやったなんてバレやしないさ》

 

ロッテも、心が痛まない訳ではない。だがそれ以上に闇の書に対する憎しみが大きく、グレアム以上に冷徹となっている。

 

《分かったよ、ロッテ。その代わり、必ず闇の書を‥‥‥八神もろとも‥‥‥!》

 

 




フェイトちゃん監禁の回。このままだと闇の書事件に参加出来ない事に‥‥‥。ヴィヴィオの干渉によって更に過去が変わっていきます。
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