An indomitable spirit in my heart   作:アイリスさん

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真の想いは、胸の奥に

 

 

(寒い‥‥‥)

 

目を覚ましたフェイトは寒さにその身を震わせながら、顔をあげる。やはり、聖祥小の制服と備え付けの毛布だけでは夜の寒さには耐えられそうもない。

 

(何か、何か無いかな‥‥‥そうだ、私のコート)

 

忘れていたコートの事を思い出し、無造作に転がっていたそれを前後逆に袖を通し、その上から毛布を被る。これなら、かなり暖かい。

 

(これで、夜は何とかなるかな。どうやって此所から出ようかな)

 

足首に繋がれた、頑丈そうな鎖。9歳の、魔法無しのフェイトに素手で壊せる訳は無い。床との接合部を何とか出来れば、或いは‥‥‥。

 

(引っ張って取るのは無理だろうし‥‥‥テコになるような物、無いかな)

 

勿論、そんなものが有るのなら先程見付けている筈である。溜め息をついて項垂れる。

 

(どうして‥‥‥。私はただ、なのはを助けたかっただけなのに‥‥‥やっぱり、私じゃ無理なのかな‥‥‥)

 

後ろ向きの思考が顔を覗かせて、その瞳に涙が滲んでくる。九歳に戻ってから、心無しか涙腺が弱くなった気がする。

再びベッドの上で、膝を抱えて踞るフェイト。肩を震わせ、遂に嗚咽を洩らして泣き始めた。

 

「う゛っ‥‥‥う゛っ‥‥‥」

 

泣いていたフェイトの耳に、扉の開く音が聞こえてくる。ハッとして泣き止み、ベッドを降りる。

 

(どうして来たんだろう。私が逃げないか監視しに来ただけかな‥‥‥それとも‥‥‥私が邪魔になった‥‥‥?)

 

普通の一般人相手でも厳しいのに、魔導師の、しかもリーゼ姉妹が相手では逃げるのはほぼ不可能。それでも‥‥‥。

 

フェイトは静かに扉の前に移動。その影で息を潜める。武器になるような物は無い。強いて言うなら、足に繋がれた鎖位か。

 

(これが、最後のチャンスかも知れない。何とか、これで)

 

涙を拭って、足の鎖を掴み身構える。ゆっくり近付いてくる足音に耳を澄ませる。‥‥‥‥‥‥が。直ぐに鎖から手を離す。良く知った、愛娘の魔力を感じる。

 

「ママ!!」

 

ヴィヴィオが叫び飛び込んで来て、凍えるフェイトを抱き締める。

 

「無事で良かった‥‥‥ママ‥‥‥ママ‥‥‥」

 

感情が高ぶっているようで、涙を流すヴィヴィオはフェイトの事を『ママ』と呼んでいる事に気付いていないらしい。

 

「ありがとう、ヴィヴィオ」

 

フェイトは抱かれていた手を静かに離し、ベッドに腰掛け、手錠は兎も角鎖を外してもらう。ヴィヴィオに手を引かれて、共に出口へと走る。

 

「こっちだよ、フェイト『さん』!」

 

今度は意識しているようで、『さん』付けで呼ぶヴィヴィオ。フェイトは自分の力の無さに心を沈ませながらも、助けてくれた愛娘の暖かい手の温もりを確かめるように強く握る。

 

(強くなったんだね、ヴィヴィオ)

 

感慨を覚え、ヴィヴィオを抱き締めたい衝動を、フェイトの中の後悔、懺悔の気持ちが押し留める。

 

(私には‥‥‥ 抱き締める資格なんて、無い)

 

悲しそうな表情を浮かべ走るフェイトは聞こえない程微かに、ほんの微かに小さな声を洩らす。

 

「ごめんね、ヴィヴィオ‥‥‥駄目なママで」

 

◆◇◆◇◆

 

それから。「自分で歩けるから」という言葉は退けられ、大人モードのヴィヴィオにハラオウン家迄おんぶされて戻ったフェイト。クロノやリンディ達と共に心配そうに待っていたなのはに抱き付かれて盛大に泣かれる等ひと波乱あったり、精密検査を受ける等々あって、その日の夜中。

 

(クロノやリンディさんに嘘、ついたゃった‥‥‥ごめんなさい)

 

自室のベッドの上。フェイトは心の中で謝る。二人についた嘘。管理局の手錠をされていたフェイトに心当たりを聞いてきたクロノとリンディに、ひたすら「分からない」と繰り返した。フェイトが嘘が苦手な事は自分自身分かっている。もしかしなくても隠しているのを気付かれたかも知れない。それでも、今は言えない。夜天の主、はやてが覚醒する前にアースラ勢に知られる訳にはいかない。例え「本当に心当たりは無いんだな?また狙われるかも知れないんだ。今度は、もしかしたら命まで」とクロノに凄まれても。

 

(ごめんね、クロノ。心配してくれてるのは分かってるんだ。でも)

 

窓の外を眺めながら、想いに耽る。再びフェイトの思考を侵す、『果たして、こんな自分に本当に救えるのか』という後ろ向きな想いに。

 

と、そんなフェイトに念話が聞こえてくる。それはなのはの声で、確かにフェイトを呼んでいる。

 

(こんな時間に‥‥‥?)

 

時計を見れば、深夜の3時になろうか、という時間。《こんな時間にどうしたの?なのは》と念話を返して、ふと半年前を思い出す。確か、前にもこんな事があった気がする‥‥‥。

 

コンコン、と窓を叩く音。音の方を見たフェイトは言葉を失い、息を飲んだ。

 

『開けて欲しいな、フェイトちゃん』

 

「クリス‥‥‥?どうして」

 

窓を叩いていたのはなのはではなく、ヴィヴィオのデバイスの『クリス』。ある1つの可能性が頭を過る。

 

まさか、と思いつつ窓を開け、クリスを招き入れたフェイト。「ヴィヴィオは?」と質問すると、クリスは真剣そうな表情で答えた。

 

『ぐっすり寝てるよ。でもヴィヴィオは早起きだから、あんまり時間は無いけどね』

 

「そっか。何かあったの?」

 

クリスは睨むような視線を向けてくる。フェイトは後ろめたさに思わず視線を逸らす。

 

『どうして視線逸らせるの?何か隠してる事でもあるの?』

 

「それは‥‥‥」

 

徐々に罪悪感に侵される。その瞳に涙が滲み、視界が潤む。

 

(言えない‥‥‥私は、ヴィヴィオを捨てたんだ。いっぱい寂しい思いさせちゃったのに、今更抱き締めたいなんて、言えない‥‥‥)

 

そんなフェイトを見ていたクリスの表情が緩む。今にも泣き出しそうに俯くフェイトの頭を、静かに撫でる。

 

『そんなつもりじゃ無かったんだ。ごめんね。確かめたかっただけなんだ。フェイトちゃんお願い。本当の事、聞かせてくれないかな?それと‥‥‥私、『なのは』だよ?フェイトちゃんが助けてくれようとした‥‥‥』

 

クリスの言葉にハッとして顔をあげる。そのフェイトの表情でクリス‥‥‥『なのは』は確信を得たようだ。

 

『やっぱり。昨日までは、半信半疑だった。けど、さっきヴィヴィオが助けた時に呟いたよね?『駄目なママでごめん』って。あれで、確信に変わった』

 

今日はよく泣く日だ。またしても涙腺は限界を越えて、止めどなく涙が溢れてくる。「ごめんなさい‥‥‥ごめん‥‥‥なさい‥‥‥」と小さな声を絞り出すのが精一杯のフェイトに、『なのは』は優しく笑みを向ける。

 

『謝らないで、フェイトちゃん。フェイトちゃんが私を助けてくれようとしてくれてるのは、凄く嬉しいよ』

 

「けど‥‥‥ヴィヴィオには‥‥‥それに‥‥‥」

 

断片しか口に出来ない。伝えようとしても溢れる涙が邪魔をして言葉を紡げない。こうして未来の『なのは』がヴィヴィオと共に現れているという事は、今のままでは『なのは』を救えないという事。それに。

 

(ヴィヴィオに謝りたい。「独りぼっちにしちゃってごめんね」って。抱き締めたい。でも‥‥‥)

 

涙に邪魔をされて喋れないフェイトの頬に、『なのは』は軽くキスをする。

 

『自分を責めないで、フェイトちゃん。こうしてまた会えたのはフェイトちゃんのお陰なんだよ?それに、まだ間に合う。ヴィヴィオに、会ってあげて?本当の事を、ヴィヴィオに‥‥‥』

 

《出来ない。今更言えないよ‥‥‥私にそんな資格‥‥‥もう無いよ》

 

嗚咽で言葉を発する事が出来ず、念話で答えるフェイト。『なのは』は暫くの沈黙する。

 

『‥‥‥‥‥‥分かった。今はヴィヴィオには言わないよ。でも、フェイトちゃん。必ず伝えてあげて。ちゃんとフェイトちゃんの口から』

 

コクン、と小さく頷いて『なのは』を抱き締める。ヴィヴィオには伝える。いつか、必ず。けれど、今はまだ‥‥‥。

 

(ごめんね、『なのは』。ごめんね、ヴィヴィオ‥‥‥)

 

 

 

 




クリス、もとい『なのは』にバレました。愛娘に真実を話せるのは、まだまだ先です。
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