An indomitable spirit in my heart 作:アイリスさん
「ぶー」
なのはの機嫌は良くない。まるでポッと出のヒロインに想い人を奪われた幼馴染みの気分である。目の前で訓練に励むヴィヴィオとフェイト二人の息は、申し合わせたかのようにピッタリである。そう、まるで、仲の良い親子のように。
(忍さんと仲がいいと思ってたら、ヴィヴィオちゃんとまで‥‥‥)
なのはは焦っていた。歳も離れていて、恭也という恋人がいる忍ならまだしも、もしもヴィヴィオがフェイトに『お付き合いして』と頼んだら『うん』と言ってしまいそうに見える位、目の前の二人はピッタリに見えてしまう。
(ヴィヴィオちゃんがフェイトちゃんと‥‥‥?ヤダヤダ、絶対ヤダ!)
なのはは立ち上がると、二人に向かって駆けていく。
「ヴィヴィオちゃん!こっ、今度は私が相手になるから!」
「え?なのはマ‥‥‥なのはさんが?」
突然で少し困惑気味のヴィヴィオに、クリスが何やら話している。やがて納得したようで、「分かった。宜しくお願いします!」とヴィヴィオは改めて構える。
「うん、行くよ、ヴィヴィオちゃん!」
なのはは複雑な起動を描きながらヴィヴィオに向かい飛んでいく。
「『アクセルシューター、シュート!』」
拳でシューターを冷静に撃墜していくヴィヴィオ。なのはは更にシューターを展開。自身はヴィヴィオの周りを旋回しながら攻撃を続ける。
(負けない‥‥‥ヴィヴィオちゃんなんかに、負けない!フェイトちゃんは、渡さないんだから!)
訓練半分、嫉妬による逆恨み半分。手加減を忘れ、籠る魔力が大きくなるなのはに、心配したフェイトから念話が来る。
《なのは、最初なんだから、もう少し手加減しないと》
ハッとして我に返ったなのは。一度攻撃の手を止める。
(これは訓練、訓練‥‥‥分かってるけど、でも)
「なのはさん!そのまま続けて!私は、大丈夫だから!」
戸惑っていたなのはに、ヴィヴィオが叫ぶ。ヴィヴィオがなのはの気持ちに気付いている事など、この時は分かる筈もない。
(‥‥‥あんなに息もピッタリで、ヴィヴィオちゃんが羨ましい)
改めて少しムッとして膨れて、なのはは再び魔法陣を展開。自分の気持ちをぶつけるかのように、シューターを放っていく。
◆◇◆◇◆
「ごめんね、ヴィヴィオちゃん。私‥‥‥」
自己嫌悪に苛まれ、トーン低く話すなのは。「大丈夫!こうでもしないと強くなれないから!」とフォローしてくれているヴィヴィオに余計に申し訳なくなって、視線を合わせられずに下を向く。
「ちょっと力が入っちゃったんだよね?なのはは何時でも一生懸命だからだよね?そんな時もあるよ、ね?」
フェイトもフォローをしてくれて、なのはは「うん、ありがとう」と答えて思わずフェイトに抱き付く。感動の余り涙ぐんでフェイトの胸に顔を埋めるなのはには、その時なのはに飛び掛かろうとしているクリスとそれを必死に抑えているヴィヴィオの姿は見えなかった。
◆◇◆◇◆
「シャマル。お鍋持っていってくれへんか?」
「はーい」
所変わって、八神家の何時もの夕食時。はやて特製の寄せ鍋を食卓へと運ぶシャマル。
最近は皆が揃っているのは朝と夕飯時くらい。後の時間は‥‥‥誰かしらが魔力収集に出ている。
「みんなやる事があるのはエエ事やから」と信頼してくれているはやてには申し訳無く思う反面、心優しいはやてを闇の書の侵食から何とか助けたいと思っている守護騎士の面々。
「出来たよ、ヴィータ。シグナムとザフィーラ呼んできて」
「うん、分かった!」
美味しそうな匂いにテンションをあげ、はやての言葉に嬉しそうに返して二階へと上がっていくヴィータ。そんな二人を笑顔で眺めながら、シャマルは料理をテーブルへと運んでいく。
そうして全員が揃い、「いただきます」という綺麗に揃った声と共に食べ始める。そんな中、一人だけ、ほんの、ほんの一瞬だけ浮かない表情を見せたシャマルに気付いたはやてが、「どうしたんや?」と声を掛けると、真実を誤魔化すようにして答えた。
「‥‥‥いえ、大した事じゃないんです。その‥‥‥私、なかなか料理上手くならないな、って」
「エエか、シャマル。料理は1日にして為らず、や。毎日練習して少しずつ上手くなっていくんよ?味見ならみんな喜んで協力するし、頑張ろう?な?みんなも応援してくれるよな?」
シャマルの料理の味見、と聞いて「いえ‥‥‥は、はい」と表情をひきつらせるシグナムと、箸を持ったまま固まるヴィータ。
「いや、はやて。でもシャマルの料理はさぁ‥‥‥」
「ヴィータちゃん酷~い!」
ヴィータが『不味い』と口にする前に言葉にして拗ねるシャマル。「みんな初めは下手なんよ?」と、はやてもフォローしてはいるがもう『シャマルは料理が下手』と言ってしまっている。
「も~うっ。はやてちゃんまで!私だって昔に比べたら上手く作れるように‥‥‥」
そう言いかけて、シャマルは口を閉ざし俯く。
「昔って程昔じゃねーだろ」
「そう‥‥‥なんだけど」
ヴィータに言われて目が泳ぐ。はやてが「そんな言うたらあかんよ、ヴィータ。シャマルかて頑張っとるんやから」とやんわりと叱る。
いつもと少し違うシャマルの様子。シグナムがはやてに気付かれないよう平静を装いながら、密かに念話を飛ばす。
《どうした、シャマル。何かあったか?》
《ううん。別に‥‥‥。ねえ、シグナム。ヴィータちゃんが会ったっていう格闘タイプの子の事だけど》
《ああ。確か、虹色の魔力光と紅と碧の瞳、だったか。映像も見せてもらったが、まるで聖王だな。だが、この間の砲撃魔導師達程の魔力は無いようだし、そこまでの脅威でも無いだろう》
《その事なんだけど‥‥‥》
シャマルは再び言いかけで黙る。疑問に思い《どうかしたのか?》と問い掛けてきたシグナムに、言葉を選びながら返す。
《その‥‥‥砲撃魔導師の子達、悪い子じゃないと思うの。はやてちゃんの容態の事で、何とか協力出来ないかしら》
《‥‥‥確かに悪い人間では無いのかも知れん。だが、あの子達がそうだとしても、後ろに管理局がいると分かった以上、信用はできん。過去の主が闇の書と共に蒸発させられた事すらあるのだ。管理局に知られるのは、危険だ》
シャマルは《そう‥‥‥よね》と返して黙り込んだ。はやてがその微妙な変化に気付き、「ホラホラ、早く食べんとヴィータに全部食べられてしまうよ?」と気を紛らわすべく笑顔を向けてくる。
「ヴィータちゃんだってそんなに食べられ‥‥‥」
シャマルがヴィータの方を見ると、口一杯に頬張りつつ、取り皿にも大量にとっている姿。
「ほうはほ、ひゃはう。はやふぇのめひはひはうはははらは!」
口に食べ物を入れたままで喋っているので、最早何を言っているのか分からない。その行儀の悪さに、流石のはやても呆れている。
「全く‥‥‥あかんよ、ヴィータ。口に食べ物入れて喋るなんてお行儀悪いよ?」
口の中の物をゴクン、と飲み込んで、「エヘヘ、ごめんなさい、はやて」と謝りつつも笑顔のヴィータ。「ヴィータはしゃあないなぁ」と苦笑いを向けているはやてを見て『作り笑い』を向けるシャマルは、独り密かに思っていた。
(あの子は確かに‥‥‥私だけでは今の状況は理解出来ないけど、何とかリーゼ姉妹に気付かれずにヴィヴィオちゃんと連絡取れないかしら‥‥‥)
ヴィータは「そうだぞ、シャマル。はやてのメシはギガウマだからな」と言っています。口の中の物のせいで何言ってるか分かりませんが。
なのはちゃんが自己嫌悪を覚えました!劇的な進歩です。
フェイトちゃんの最後の助っ人は、シャマル先生。今回の闇の書事件はどうなっていくのか‥‥‥