An indomitable spirit in my heart 作:アイリスさん
「チッ‥‥‥」
仮面の男‥‥‥リーゼロッテが舌打ちをする。まさか、目の前の少女が自分と張り合えるとは思っていなかったのだろう。その目の前の少女‥‥‥大人モードに変わったヴィヴィオは、いつも通りに身体を軽く動かしながら、冷静にロッテを見据える。
『ゴメンね、ヴィヴィオ。相手が相手だし、今回だけは私にリードさせてもらうから』
「うん、なのはママ。大丈夫、分かってるから」
本来ならば、ヴィヴィオはロッテ相手に自分の力が何処まで通用するのか試したい所。だが現状はそうもいかない。ヴィヴィオの魔力が収集されれば、それはリインフォースが『セイクリッドディフェンダー』を使えるようになるという事。只でさえ強力な相手に、更にアドバンテージを与える訳にはいかない。それに、ヴィヴィオの聖王としての資質がコピーされないとは限らない。そうなれば、未来にどんな影響があるか分からない。近い将来、まだ幼いはやてがあの次元犯罪者に狙われる事にも成りかねない。‥‥‥それから、理由はもうひとつ。
緊張した表情を見せつつも、『なのは』は実に楽しそうである。自分の力を試したいのは、実は『なのは』も同じであった。エースオブエースであると同時に、有能な教導官としても有名だった『なのは』。その『なのは』の魔法戦の理論が、『管理局最強の攻撃ウェポン』とまで言われたリーゼ姉妹の片割れ、ロッテに何処まで通用するか。
「なのはママ‥‥‥楽しそうだね」
『うん、ゴメンね、こんな時に』
ヴィヴィオは笑みを浮かべながら強敵の動きを見る。『なのは』も不敵な笑みで、ロッテを分析している。
『来るよ、ヴィヴィオ!』
「うん!」
ロッテが放った蹴りを避けて、その足を手で払う。体勢の崩れた所へアッパーを放つが、ロッテは身を捩りそれを避ける。そのロッテが避けた先に、待機させていたシューターが一斉に浴びせられる。その全てを防いだロッテに向かい、ヴィヴィオが上から回し蹴りを浴びせる。
「『リボルバー・スパイク!』」
ヴィヴィオの蹴りを右手一本で受け止めたロッテ。左手でヴィヴィオの足を掴み投げ飛ばして、距離を取る。
『いいよ、ヴィヴィオ。このまま攻めるよ』
『なのは』の言葉に答えるように、ヴィヴィオは体勢を立て直してロッテに向かっていく。と同時に、右手を中心に魔法陣を展開する。
仮面で見えはしないが、「収束砲‥‥‥?」と口にしているロッテは驚いているようだ。ヴィヴィオは笑みを浮かべたまま、左拳に魔力を籠める。
「『アクセルスマッシュ!』」
慣れない左でのスマッシュは、当然ロッテには通用しない。上手く捌かれ、ヴィヴィオの身体が右に流れて、左脇腹に蹴りを食らう。
大きく飛ばされるものの、ヴィヴィオにダメージは無い。セイクリッドディフェンダーが上手く機能し、ロッテの攻撃を綺麗に防いだ。
「チッ」
再び舌打ちしたロッテに、ヴィヴィオのバインドが襲う。それを避けるように空に上がったロッテが、設置されていた多重バインドに掛かる。
『ヴィヴィオ!』
右拳の魔力収束が一層早まり、溢れんばかりの魔力が右手に集まる。ヴィヴィオは改めて構え直し、ロッテを見据える。
「行くよ、なのはママ!『抜剣!』」
◇◆◇◆◇
そんな様子を遠くから見ていたシャマル。騎士達の引き際を冷静に見極めながら、ある人物を探していた。
(‥‥‥居た)
「クラールヴィント!」
クラールヴィントが伸びて、何もない筈の空間に当たる。魔力によって弾かれたその位置に、その人物‥‥‥もう一人の仮面の男が姿を現す。
「何故分かった」
「守護騎士を舐めないで頂戴。貴女『達』に言いたい事は一つだけよ。虹色の魔力のあの子‥‥‥あの子には手を出さないで」
シャマルの思いも同じだった。ヴィヴィオの魔力だけは収集される訳にはいかなかった。睨み話すシャマルに、仮面の男、アリアが答える。
「何故だ、魔力が必要なのだろう?」
「それは私達が必ず集めるわ。だから、貴女達は手を出さないで。そうでなければ‥‥‥ここでバラしてもいいのよ?」
表情は窺いしれないが、アリアの雰囲気が変わる。先程よりも重い口調で「どういう意味だ」と答えたアリアに、流れる冷や汗を誤魔化しつつ口を開く。
「言葉通りの意味よ。局にバレたら困るでしょう?」
「‥‥‥チッ」
アリアが静かに姿を消す。分かってもらえたかは分からない。ただ、この場はお引き取り願えたようだ。何とか上手く収められた事にホッと胸を撫で下ろして、激動を繰り広げている守護騎士達に視線を戻す。
(さてっ、と。収集した魔力を消費したくはないけど、やっぱり夜天の書を使うしか無さそうね)
シャマルは騎士達に念話を送る。
《今から闇の書の魔力を解放するわ。みんな、それに乗じて散開して。集合は、何時もの場所で》
《心得た》《分かった》《おうよ!》と、各々からの返事を確認して、シャマルは闇の書を開く。
「ごめんなさい、夜天の書。はやてちゃんは、必ず私達で救ってみせるから。今だけ力を貸して」
夜天の書と呼ばれた事に驚いたのか、少しだけ震えたように見えた闇の書。シャマルは前方を向いて、魔法陣を展開する。
「『夜天の書よ、守護者シャマルが命じます。眼下の敵を打ち砕く力を、今ここに。撃って、破壊の雷!』」
巨大な魔法陣が上空を覆い、強大な魔力が辺りを包む。目が眩む程の魔力が解き放たれて、辺り一面が光に包まれた。
◇◆◇◆◇
静寂の後の現場。抜剣を放つ事無く終わったヴィヴィオが、空を見上げる。
「今回は引き分けだね、なのはママ」
『そうだね。決着をつけてみたかったけど、また次の機会、かな』
二人の元へと、忍が慌てて降りてくる。心配そうな表情だった忍は、胸を撫で下ろす。
「良かった。無事だったのね、ヴィヴィオちゃん」
「はい。忍さんも」
所々打ち身や擦り傷はあるものの、今回は無事だった忍。シグナムとの一戦をどうにか凌ぎ切った彼女は、自身のデバイスを見つめる。
「そうね。何とか。でも‥‥‥私は暫くは戦線離脱かしら?」
忍のデバイス『グングニル』は疲労であちこちに亀裂が入っていて崩壊寸前だった。唯一、新たに付けられていた魔道具だけが無事な状態。
「私の力でシグナムと打ち合うのは、ちょっと辛かったわね」
苦笑いを浮かべる忍に肩をポンっ、と叩かれて、ヴィヴィオが顔を見上げる。
「口には出してないけど、ヴィヴィオちゃんの事フェイトちゃんも凄く心配してるから。よく頑張ったわね」
「ママ‥‥‥フェイトさんが?」
思わず「ママ」と口に出してしまったヴィヴィオ。不味いと思いつつも、フェイトが自分を心配してくれているのが嬉しく、頬を緩ませる。
「ええ。得体の知れない相手とだもの。フェイトちゃんだって心配するわよ。フェイトちゃんにとって、ヴィヴィオちゃんは‥‥‥」
そこまで言って、慌てて口を閉ざす忍。その言葉に「‥‥‥え?」と驚くヴィヴィオ。
「どういう意味ですか?忍さん」
「いえ‥‥‥何でもないわ‥‥‥」
無理矢理誤魔化した忍の様子に、ヴィヴィオの中で想いが強くなっていく。やはり今いるこの時代のフェイトは、ヴィヴィオの大好きな母親のフェイトなのではないか、という想いが。
「ねえ、忍さん。私に隠してる事とか、無いですか?」
「‥‥‥無いわよ。どうしたの、ヴィヴィオちゃん?」
「‥‥‥何でも、ないです」
『なの』ヴィヴィvsロッテはシャマルの介入で引き分け。アリアもシャマルの意味深な言葉で撤退。
次回は来年ですね。翌年も読んでいただけたら幸いです。