An indomitable spirit in my heart 作:アイリスさん
『ずるいっ!ヴィヴィオだけズルいっ!』
「あの‥‥‥なのはママ?」
月村家。部屋で寛ぐ、居候中のヴィヴィオと『なのは』。
『そうだっ!魔力でコーティングすれば、この身体でも濡れないよ!』
「ミッドなら兎も角‥‥‥此方じゃ目立ち過ぎだよ。うっすらだけど桜色に光っちゃうし」
先程から、『なのは』は只管駄々を捏ねている。言うまでもなく、『フェイトとお風呂に入りたい』という下心丸出しな理由からである。
自宅ならまだしも、ヴィヴィオ達が入りに行こうとしているのはスーパー戦闘の『スパラクーア』。公共の風呂にヌイグルミ持参、というのはあからさまに不自然。それが、仄かに桜色に光ってお湯を弾きでもしたら言語道断である。
「今回はなのはママはお留守番しててね?」
『じゃ、じゃあせめて更衣室まで‥‥‥』
必死の形相で、『なのは』は尚も食い下がる。ヴィヴィオも終いには呆れ果て、「はぁ‥‥‥」と溜め息をつく。
「仕方無いなぁ。じゃあ、更衣室までだよ?なのはママ、言っておくけど、この歳で銭湯にまでヌイグルミ持って来てるって思われるの恥ずかしいんだからね?」
『ごめんね、ヴィヴィオ。ありがとう!』
口では謝っているが、満面の笑みで答える『なのは』。恐らく、反省はしていないだろう。その証拠に、『なのは』の口から邪な思考が駄々漏れしている‥‥‥。
『ウフフフ‥‥‥フェイトちゃんの着替え姿‥‥‥フェイトちゃんの着替え姿‥‥‥フェイトちゃんの‥‥‥フフフ‥‥‥』
そんな情けない姿を見ながら(なのはママってこんなだったっけ‥‥‥?)とガックリと肩を落とすヴィヴィオ。
そんなヴィヴィオの様子に気が付いたらしく、『なのは』はハッとして慌て焦りながら言い訳をしている。
『ちっ、違うからね!?これはその‥‥‥そう!シグナムさん達が襲ってきた時に備えて近くに待機してなきゃいけないからだよ!『今の私はデバイスだからフェイトちゃんのあられもない姿をバッチリ記録しておける』なんて思ってないんだから!!』
「‥‥‥なのはママは私のバッグの中で待機しててね?」
無表情で釘を刺したヴィヴィオに、『そんなぁ!』と情けない姿を晒す『なのは』。
『それじゃあ折角一緒に行っても何の意味も無いじゃ‥‥‥‥‥‥あっ』
フェイトの事となると、『なのは』はどうにも情けない。とてもではないが、『エースオブエース』『教導隊若手No1』等様々な二つ名を持つ人間とは思えない。
「な~の~は~マ~マ~?」
そんな『なのは』の失言を聞き「今日は、お留守番ね?」と、ヴィヴィオは眉間をヒクつかせ、表情にもそのオーラにも怒りが滲み出ている。その様子に焦る『なのは』。
『いっ、今のは無しっ!ねっ?ヴィヴィオ?』
「だーめ。なのはママはお留守番!」
コンコンッと扉を叩く音が鳴り、そんなやり取りをしていた二人の元へとノエルが現れる。
「ヴィヴィオ様。そろそろ準備を」
「忍さんも来るんですか?」
「いえ、お嬢様は用が有りまして外出されております」
最初は来ると言っていた忍が来ない事に疑問を感じつつも、ヴィヴィオは支度を始める。『なのは』がベッドに座ってそれを見守っていると、ノエルに抱き上げられる。
「‥‥‥クリス様は留守番、という事で宜しいですね?」
『なのは』はショックで固まり、「ガーン」という擬音がピッタリな表情。生きていれば涙目であったろう。少し可哀想かとも思いながら、ヴィヴィオが纏めた荷物を持って部屋を後にする。
「それじゃ、クリス。行ってくるね?」
『‥‥‥行ってらっしゃい』
残念そうにノエルとヴィヴィオを見送った『なのは』。仕方無く留守番で我慢しようと椅子に乗った所で、再びコンコンッ、と扉を叩く音。
「入っても良いかしら?」
『‥‥‥忍さん?』
忍は、もう用事とやらから帰って来たらしい。こんなに早いなら忍も一緒に行けば良かったのにと思いながら答えた『なのは』だが、次の忍の一言に表情を一変させる。
『ヴィヴィオならさっき銭湯に出掛け‥‥‥』
「それじゃ入るわね、『なのは』ちゃん」
『フェイトちゃんに聞いたんですね?』
忍が微かな笑みを湛えつつ頷く。どうも二人でゆっくり話す機会が欲しかったようだ。
「それじゃ、何から話そうかしら、『なのは』ちゃん?」
忍は『なのは』の隣に腰掛け、「ふぅっ」と軽く息を吐き出す。そうして『なのは』を抱え上げて、視線の位置を合わせ話し出す。
「先ずは、確認。『なのは』ちゃんは私の知ってる『あの』なのはちゃんの未来の姿なのよね?」
暫しの間を置き、『なのは』はコクンと頷きながら『‥‥‥はい』と答える。「そう‥‥‥」と口にして悲しそうな表情を見せる忍。
『そんな顔、しないで下さい。私はフェイトちゃんに感謝してるんです。こんな形かも知れないけど、1度亡くした命をもう1度貰って、みんなと再会できて、ヴィヴィオの成長も見守れる。抱き締めてあげられないのが残念ですけど』
「‥‥‥それでも、フェイトちゃんはなのはちゃんを『ちゃんと』助けてあげたいの。それは、私も同じ。知ってしまった以上、何としてでも助けたい」
◇◆◇◆◇
一方の、銭湯へと向かう車の中。なのははいつかのテンションと同じ状態にあった。
(フェイトちゃんとお風呂‥‥‥フェイトちゃんとお風呂‥‥‥エヘヘ)
もう丸っきりデジャビュである。今のなのはの頭の中には、『フェイトとお風呂を回る事』しか頭に無い。口元を緩ませ、邪な思考一色なのが丸分かりな表情を晒している。
「あー、なんか前にも見たわね、アレ。フェイトも言うことはキッパリ言わなきゃ駄目よ?」
なのはの惨状に呆れながら話すアリサに、 フェイトはフルフルと小さく頭を横に振る。
「このくらいなら良いんだ。なのはも幸せそうだし」
「ハァ‥‥‥フェイトはなのはの事甘やかし過ぎよ?全く‥‥‥」
「でも」と言いかけ、フェイトは言葉を飲み込む。まさか、『10年後になのはが死ぬかも知れないから』とは言える筈もない。俯いて、誤魔化すように窓の外に視線を移す。
(ヴィヴィオの未来でもまだ、なのはを救えて無い。このままじゃ‥‥‥。私が、身代わりになってでも‥‥‥)
そんな事を考えていたフェイトだが、突然上空に魔力を感じて思わず窓から上を見上げる。だが、一見何も無いように見える。
《やぁ、フェイト。驚いたかい?上からで失礼するよ》
《ロッサ!?此処で飛んだら駄目だよ!》
窓を開けて身を乗り出し上を確認するが、フェイトの視界にはロッサの姿は捉えられない。
《姿は消してるから大丈夫だよ。それよりフェイト。ちょっと会わせたい人物が居るんだ》
アリサとすずかに、「フェイト、何してんのよ!」「危ないよ、フェイトちゃん!」と慌てて車内に引き戻され我に返りながらも念話を続ける。
《会わせたい人って?》
《ああ。湖の騎士、シャマル『先生』だよ》
《‥‥‥どういう事?》
理解できず、その表情に疑問の色が浮かぶフェイト。なのはに不思議そうに見られているが、それを気にする隙は無かった。ロッサの言葉に驚き、思わず立ち上がろうとしてシートベルトが食い込む。
《彼女も、君と同じだ。きっと力になってくれるよ》
《それって!!》
ロッサの暗躍もあって、遂に未来組が動き出します。
今回は銭湯まで辿り着けず。ごめんなさい。肌色回は次に持ち越しです。