An indomitable spirit in my heart 作:アイリスさん
「‥‥‥シャマル先生」
「聞きたい事が沢山あるんだけど」
深夜。探査妨害を展開。万が一にも追跡などされないよう慎重に慎重を期して落ち合った二人。先に話を切り出したのは、分からない事だらけのシャマル。
「フェイトちゃん、変な聞き方になっちゃうけど‥‥‥これは現実なのよね?」
「‥‥‥はい」
フェイトは瞳を逸らし、申し訳無さそうに答える。「そう‥‥‥」と一言発して困惑するシャマルの様子に、フェイトは下を向いたまま。
「ごめんなさい、シャマル先生。私の‥‥‥私のせいなんです」
「どういう事なの?」
フェイトは俯き、表情を隠したままで、ゆっくりと語りだした。なのはを死の運命から救う為にジュエルシードを使い過去へと来た事や、ヴィヴィオやシャマルがそれに巻き込まれたであろう事。
「私のせいで‥‥‥」
シャマルを見上げたフェイトの瞳は、必死に堪えている涙で潤んでいる。真剣な眼差しで聞いていたシャマルは暫し考えて、フェイトに微笑み掛ける。
「そんな顔しないで、フェイトちゃん。なのはちゃんを助けられるかも知れないんでしょ?今度は、なのはちゃんを死なせずに済むかも、知れないんでしょう?」
「‥‥‥でも」
尚も辛そうにして視線を外したままのフェイト。シャマルは一度「すぅ」と大きく息を吸い込んで、頬を膨らませ声を張る。
「フェイトちゃん!フェイトちゃんがそんなでどうするの!態々過去までなのはちゃんを救いに来たんでしょう!」
フェイトは驚き漸く顔をあげる。「だから‥‥‥みんなで頑張りましょう、ね?」と笑顔に戻ったシャマルに抱き付いて、声をあげて泣き始めた。
◆◇◆◇◆
「私はいざとなったら何とかするけど‥‥‥フェイトちゃんは大丈夫なの?」
やっと泣き止んだフェイトにシャマルが問い掛ける。シャマルとフェイトでは、立場が全く違う。例えばこの現場を他の騎士に見付かったら、シャマルなら『フェイトは局内の内通者で味方』とか言い訳もできるし、最悪でもフェイトの軟禁くらいで済むかも知れない。だが、フェイトはそうはいかない。局に見付かれば『敵側の内通者』と見なされるか、若しくはシャマルを逮捕しなくてはならなくなる。そうなれば、はやての命を助ける事は極めて難しくなるばかりか、保護観察中のフェイトが服役しなくてはならなくなる可能性もある。
「今のところは大丈夫です。事実を知ってるのはアコース査察官と忍さんくらいですから」
「忍さん‥‥‥?そうそうフェイトちゃん。忍さんが魔導師になってるのは一体どういう事なの?」
シャマルがそう思うのも無理はない。彼女もまたヴィヴィオ同様、フェイトに『引っ張られた』一人。つまりはフェイトにとっての『一週目』の人物である。
「私が過去に来た事で、歴史が変わってしまったんです。本来未来に進むにつれて枝分かれしていく筈の歴史が1つに纏まってしまっていて‥‥‥」
「‥‥‥フェイトちゃん、理屈としては理解はできるけど、どうしてそう思うの?」
「え?だって‥‥‥」と答えようとして、フェイトは思考停止し言葉に詰まった。確かに誰かにそう教わった筈なのだが、肝心の『誰か』が霞が掛かったように思い出せない。そもそも、『未来に向かうにつれて枝分かれしていく』などとどうして分かるのか。必死に記憶を辿るが、やはり思い出せない。
「それは‥‥‥確かに誰かに教わったんですが‥‥‥」
「それは一先ず置いておきましょう。つまり、未来は変えられるって事よね?‥‥‥私達の頑張り次第で」
フェイトは「へっ‥‥‥?」と声をあげ、ポカンとしてシャマルを見る。そのシャマルの表情には、決意の色が滲んでいる。
「フェイトちゃん、何とか頑張りましょう。あんな‥‥‥最悪な結末を迎えない為に!」
すっかり自信を失っていたフェイトの瞳から涙が溢れ、希望の灯火が灯る。フェイト一人では無理かも知れない。だが、こうしてシャマルも、忍も。それにヴェロッサもいる。時間だってまだまだ残っている。
「そう‥‥‥ですね。希望はある‥‥‥なのはを、今度こそ死なせない‥‥‥!」
右拳を握り締め、フェイトは再度決意して涙を拭う。微笑み掛けたシャマルと向き合い、静かに頷いた。
◇◆◇◆◇
「はぁ‥‥‥‥‥‥はぁ‥‥‥‥‥‥はぁ‥‥‥‥‥‥」
『ヴィヴィオ!しっかりして、ヴィヴィオ!』
ヴィヴィオは公園のフェンスに寄り掛かって座り込んでいた。意識はあるが、焦点は合っていない。
(身体が‥‥‥重い‥‥‥)
ボーッと見ている視線の前方から、ヴィータが近付いてくるのがぼんやりと見える。立とうにも、身体に力が入らない。
「手こずらせやがって。魔力、貰うぞ」
ゆっくりとヴィータが迫るが、今のヴィヴィオにはどうする事も出来ない。やはりヴィータとの差は大きかった。善戦はしたものの、後半は防戦一方となり、防ぎ切れずに被弾。ヴィータの破壊力にやられ、もうまともに動けそうもない。
『ヴィヴィオ!だめだよ、起きて、ヴィヴィオ!』
『なのは』の声は聞こえているが、それに答えるだけの気力も残っていない。
(視界が‥‥‥霞‥‥‥んで‥‥‥)
その瞼がゆっくりと閉じられて、ヴィヴィオは意識を手放す。大人モードも解けてしまい、「スゥ‥‥‥スゥ‥‥‥」というヴィヴィオの静かな呼吸が聞こえる。
『ヴィヴィオ!』
『なのは』は唇(にあたる部分)を噛み締めヴィータを睨む。今の『なのは』に何が出来る訳でもないが、何もしない訳にはいかない。
『何か‥‥‥何か策を‥‥‥』
‥‥‥と。突然、焦る『なのは』の視界が遮られる。驚く『なのは』の瞳に映っていたのは、紫のロングヘアーの後ろ姿。
「やっ‥‥‥やめて!ヴィヴィオちゃんにこれ以上酷い事しないで!」
両手を一杯に広げ、ヴィータとの間に割って入ったすずか。両足はガクガクと震え、声にも恐怖心が滲み出ている。
ギロリとすずかを睨んで「退け。魔力の無い奴に用はねえんだ」と吐き捨てたヴィータが、何かに気付く。
「いや‥‥‥お前、魔導師か?丁度いい。お前の魔力から貰うぞ!」
言うなりすずか目掛けてヴィータが突っ込んでくる。アイゼンが降り下ろされて、すずかは恐怖の余り思わず目を閉じる。
だが、すずかには当たらなかった。「ガキィィン!」という音が響き、すずかを覆う不可視だった結界が現れる。
「‥‥‥えっ!?えっ!?」
結界を纏う張本人、すずかは事態を理解出来ず驚くのみ。ヴィータも驚きはしたものの、今度は冷静に距離を取ってカートリッジを炸裂させる。
「テメェ‥‥‥これで墜ちろ!『ギガント・シュラーク!!』」
巨大化したアイゼンがすずかに迫る。その結界とアイゼンがぶつかり、辺り一帯に轟音が響き渡る。
「こいつ‥‥‥硬ぇ‥‥‥このォ!!」
更に魔力を込めたヴィータの一撃が、遂にすずかの結界を破壊。「バリィィン」という破砕音が響いたのと同時に、すずかに向かってそのままアイゼンが降り下ろされる。
だが、そのアイゼンすらもすずかには当たらなかった。いや‥‥‥。
「嘘だろ‥‥‥ギガント・シュラークを受け止めるなんて‥‥‥」
ヴィータが驚いたのも無理は無かった。先程までの反応がまるで嘘のように、すずかがアイゼンを受け止めていたのだ。しかも、軽く片手で。
「フフ‥‥‥フフフ‥‥‥悪い子にはお仕置きしなきゃだよね?あんまり血は美味しくなさそうだけど」
まるで別人。その瞳に狂気を湛え、血のような赤い魔力に覆われ、その口元には鋭く尖った牙。鎖から解放された吸血姫は漆黒の翼を拡げて、一瞬のうちにヴィータとの距離を詰める。
「なっ‥‥‥!」
驚き動きの停止したヴィータの視界に、赤い魔力の巨大な柱が映る。
「お仕置きの時間だよ?」
ニヤリと牙を覗かせ、すずかが巨大な赤い剣を降り下ろし、ヴィータは為す術もなくその直撃に飲み込まれた。
◇◆◇◆◇
「フェイトちゃん‥‥‥何か変よ?妙な魔力を感じるわ」
先に気付いたのはシャマル。フェイトは直ぐに事態を理解して、シャマルの手を引き走り出した。
「フェイトちゃん、何処に行くの!?」
「すずかの家へ!ファリンさんならすずかを止める結界を作れる!」
額に冷や汗を流しながら、フェイトは急ぐ。忍もノエルも不在。すずかを止めるにはファリンの手を借りる以外に方法が無い。
「どういう事なのフェイトちゃん!?」
「説明は後です!シャマル先生、急いで!」
吸血姫すずか再覚醒。ヴィータにレー○ァテインが炸裂。密会していたフェイトとシャマルに波乱の予感です。