An indomitable spirit in my heart   作:アイリスさん

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戸惑い

 

翌朝。ヴィヴィオは目覚める。寝起きは良くない。何時もなら早朝ランニングからとっくに戻って、シャワーを浴びている時間である。

 

「‥‥‥ふわぁ‥‥‥」

 

大きな欠伸をして、ベッドから降りる。寝惚けていて理由がピンと来ないが、違和感を感じる。

 

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥あれ‥‥‥?」

 

まだ眠い目を擦りながら、やっと違和感に気付く。何時もならベッドから降りると『おはようヴィヴィオ』と声を掛けてくれる『なのは』からの反応が無い。

 

「なのはママ‥‥‥?」

 

勿論、反応はある筈もないのだが、ヴィヴィオに分かる訳はない。何処かに出掛けているのかと思い、ヴィヴィオは『なのは』の魔力を探す。

 

《‥‥‥なのはママ?何処?》

 

念話にも、返事は無い。すると部屋の隅から、おずおずと姿を見せる影。

 

「‥‥‥あれっ?兎の‥‥‥ヌイグルミ?」

 

ヴィヴィオは良く覚えている。あの時‥‥‥JS事件当時にヴィヴィオが保護され運ばれた聖王教会附属病院で、なのはがプレゼントしてくれた兎のヌイグルミ。それと同じ姿のものが、ヴィヴィオの目の前で動いている。懐かしくなって手を伸ばす。

 

「怖くないよ、おいで?」

 

フワフワと飛んでヴィヴィオの胸に抱かれた兎のヌイグルミ。その頭を撫でていたヴィヴィオは、何故かヌイグルミの名前が「クリス」に思えて仕方無い。

 

「あなた‥‥‥クリス、だよね?」

 

クリスは首を傾げる。どうやら話せるようには出来ていないらしい。だが‥‥‥。

 

「やっぱり。なんだかね?私、あなたの言いたい事分かるんだ。ねえ、なのはママ、何処に行ったか知らない?」

 

再び首を傾げるクリス。小さな手を広げて何やらアピールしているのを見て、何となくだがやはり言いたい事を理解するヴィヴィオ。

 

「‥‥‥え?分からないって?そっか‥‥‥‥‥‥あれ?」

 

またしても、違和感。否、それは正しい表現ではないだろう。何故なら‥‥‥。

 

「何で?あなた‥‥‥私のデバイス‥‥‥?え?あれ?」

 

理由は全く分からない。ただ、理解出来た。目の前の兎型デバイス『クリス』は、間違いなく自身のデバイスである。

 

「きっと、なのはママもすぐ出てくるよね?」

 

朝食に向かおうとクリスと共に部屋を出ると、丁度ファリンが迎えに来た所だった。

 

「おはようございます、ヴィヴィオ様」

 

「おはようございます、ファリンさん。あの‥‥‥なのはマ‥‥‥『クリス』見ませんでしたか?」

 

表情が一瞬曇り、「いえ、見ませんでしたよ?」と答えるファリン。

 

「そうですか‥‥‥」

 

「ごめんなさい、ヴィヴィオ様」

 

ファリンは『なのは』が消えた理由も勿論知っている。忍に口を止められている為、話せない。話せる訳が無い。なのはを救う為とは言え、ヴィヴィオにとって大切な母親、フェイトがその命を投げ出したと知れば、どうなるか。ヴィヴィオの悲しみは計り知れない。失意に沈むのは容易に想像できる。

それに。フェイトにもこの事実を知らせる訳にはいかない。忍は、勿論フェイトも何とか救いたい。故に、フェイトにその手段を‥‥‥フェイトがなのはの身代わりになるという手段を知らせる事は出来なかった。

 

そうして朝食を取るためテーブルに就くヴィヴィオ。同席しているすずかは、少し沈んでいるように見える。

 

「おはようございます、すずかさん」

 

「おはよう、ヴィヴィオちゃん。あの‥‥‥」

 

すずかは何かを言い掛け、言葉を飲み込む。忍はといえば何時もと変わらないように見えるが、何処かぎこちない。「お姉ちゃん、あの」と言い掛け、やはり言葉を飲み込むすずか。

 

「すずかさん?」

 

「何でもないよ‥‥‥」

 

少し気まずい朝食を終え、走りに出る。海鳴公園に着くと周囲を見回す。誰も居ないのを確認して、クリスを掲げる。

 

「‥‥‥大丈夫だよね、クリス?『セーット、アーップ』!」

 

真剣そうな表情を見せるクリスと共にセットアップ。虹色の光に包まれて、大人モードに変わるヴィヴィオ。

 

「‥‥‥ふぇ?」

 

間抜けな声をあげる。つい昨日までは、なのはと同じセイクリッドのバリアジャケットだったのに、今のものは『ゆりかご』に居た時の、聖王モードの時のバリアジャケットと色違いではあるがソックリなもの。

 

「あれ?なんで?」

 

デバイスが違うからかな、と無理矢理納得しつつ、身体を動かし始める。そうしているうちに、なのはの魔力が近付いてくるのに気付く。

 

「なのはマ‥‥‥‥‥‥なのはさん‥‥‥」

 

一瞬『なのは』かとも思ったが、現れたのはこの時代のなのは。

 

「あれ?ヴィヴィオちゃん、バリアジャケット変えたの?」

 

「え?あ、はい‥‥‥」

 

「あれ?クリスは?今日は一緒じゃないの?」

 

不思議そうななのはの前に、兎のクリスが『自分がクリスだ』と言わんばかりに主張している。なのはには理解出来ていないが、クリスを掴み抱き締めている。

 

「この子可愛い~!この子もヴィヴィオちゃんの!?」

 

「‥‥‥うん」

 

ヴィヴィオはなのはに複雑な表情を向ける。自分だって、よく分かってはいない。唯一つ言えることは、どうやら『なのは』はこのクリスと入れ替わるようにして居なくなってしまったらしい、という事だけ。

 

(なのはママ‥‥‥ずっと一緒だって言ったのに‥‥‥どうして‥‥‥)

 

元の時代に帰れば生身の、生きている『なのは』と会える訳なのだが、今のヴィヴィオにそれを理解する事は出来なかった。

 

◆◇◆◇◆

 

その頃、ハラオウン家。

 

「ピンポーン」とインターホンが鳴り、フェイトは身体を起こす。

 

「フェイトちゃん、すずかちゃんだよ?‥‥‥どうする?」

 

まだ身体には包帯。エイミィも、出来ればフェイトには良くなる迄はゆっくりさせたい所。

 

「うん、行くから。少しすずかに待っててもらって」

 

フェイトは重い身体を引き摺るようにして、玄関へと歩く。ガチャリ、と扉を開けると、沈んだ表情のすずかが立っていた。

 

「フェイトちゃん‥‥‥」

 

「すずか、どうしたの?」

 

すずかは黙ったまま。その瞳の涙を必死に堪えている。

 

「あの‥‥‥フェイトちゃん‥‥‥」

 

「外は寒いからあがって、ね?」

 

何となくだが事態を察して、すずかを中へと入れる。恐らくだが、すずかの目的は‥‥‥。

 

悲しそうな、泣きそうな表情のすずかを自室に通す。一先ずすずかを座らせて、フェイトはベッドに座る。

 

「ごめんね、ちょっと調子悪くて身体が重くって。ベッドに座っ‥‥‥」

 

すずかの「フェイトちゃん」という言葉に遮られる。そうして深々と頭を下げて、遂にすずかはポロポロと泣きはじめた。

 

「ごめんなさい‥‥‥ごめんなさい‥‥‥」

 

か細い声で謝るすずかに、覚悟を決めて「どうしたの?」と訊ねる。帰ってきた答えは、想像通りのもの。

 

「ごめんなさい、フェイトちゃん‥‥‥私のせいで‥‥‥ごめんなさい‥‥‥」

 

魔法を間近で見てその存在を認識してしまった為だろうか。すずかは、昨晩の事を覚えていた。ヴィータを一方的に攻撃して打ちのめした事や、フェイトをボロボロにした事。それに‥‥‥あの事も。

 

「フェイトちゃん‥‥‥私、怪物なのかな?生きてちゃいけない、化け物なのかな?」

 

一瞬固まったフェイトだが、すずかを抱き寄せ、我が子を‥‥‥ヴィヴィオを諭すように、静かに話す。

 

「ううん、違うから。すずかはすずかだよ?みんなと少しだけ違うかも知れないけど。怪物なんかじゃない。私やなのは、アリサの親友の、すずかだよ?」

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

所変わって、再びエルトリア。ユーリが煎れてくれた緑茶を啜りつつ、海鳴温泉饅頭をつまむディアーチェとアミタ。

 

「ふぅむ。戦闘機人‥‥‥」

 

「そうです。つまりは、私達のようなギアーズみたいなものです」

 

「それなら何とかなるやも知れぬが‥‥‥それと‥‥‥何だったか」

 

顎に手を当て考え込むディアーチェ。アミタの「ストライクカノン、ですか?」という言葉に「うむ」と一言答えて再び考え込む。

 

「管理局の法律ギリギリの兵器らしいですよ?JS事件当時に使えたのは私達の世界線だけみたいです」

 

「‥‥‥全く、我らの世界線は何処までイレギュラーなのだ。‥‥‥兎も角、どうにか出来そうなのは今の所そのくらいという事か‥‥‥さて、どうしたものか」

 




自身の呪われた力に気付いたすずかと、急すぎる変化に着いていけないヴィヴィオの回。

ディアーチェとアミタの出す結論は‥‥‥。
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