An indomitable spirit in my heart   作:アイリスさん

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現実を見つめて

 

「ヴィヴィオちゃん?」

 

「‥‥‥はい」

 

ヴィヴィオの表情は、暗い。原因は忍にも分かる。『なのは』が急に居なくなった事だろう。かと言って、果たしてその理由を話しても良いかどうか。辛そうなヴィヴィオは見るに耐えないが、話したら一層落ち込む可能性もある。

 

「その‥‥‥大丈夫?」

 

「‥‥‥はい」

 

忍の言葉にも、ヴィヴィオは沈んだ表情のまま返事を返しただけ。暫く沈黙が続き、やがてヴィヴィオは立ち上がる。

 

「ヴィヴィオちゃん‥‥‥?」

 

「ちょっと‥‥‥散歩してきます」

 

ヴィヴィオが力無くそう答えて、俯いて外へと出る。どう声を掛ければ良いものか悩む忍は、置いていかれたクリスに気が付く。

 

「この子まで置いていくなんて‥‥‥」

 

忍はクリスを抱き上げ、暫し見つめる。

 

「‥‥‥貴方は、何処まで知ってるの?」

 

忍の問い掛けに、何やら両手を動かし必死に伝えようとしているクリス。だが、忍にそれが理解できる筈も無い。少しの間悩み、「そうだ」と閃いて、クリスをチョコンとテーブルに座らせる。

 

「幾つか質問するから、イエスは右手、ノーは左手、分からない時は両手を挙げて貰えるかしら?」

 

成る程と納得したようで、何とも愛らしい仕草で右手を挙げるクリス。「うん」と満足そうに頷いて、忍は質問を始めた。

 

「じゃあ、先ず。貴方はヴィヴィオちゃんのデバイス、これは間違い無いわね?」

 

クリスはピッ、と右手を挙げる。それを確認して、続ける。

 

「次に。貴方のマスター、ヴィヴィオちゃんの母親は、なのはちゃん。これは?」

 

迷う事無く右手を挙げるクリス。「そっか」と呟いて、忍は肝心の質問を始める。

 

「貴方は‥‥‥フェイトちゃんとは会った事はある?」

 

挙がったのは、左手。忍の表情は曇る。

 

「‥‥‥つまり、フェイトちゃんは居ないのね?もしかして、亡くなってるのかしら?」

 

遠慮がちにだが、クリスは右手を挙げる。悲しそうな表情を見せて「そう‥‥‥」と呟く忍。

 

「フェイトちゃんが亡くなった時の事、何か知ってるかしら?」

 

悩んだ挙げ句、クリスが挙げたのは両手。忍は(なのはちゃん、あんまり話してないのね。それはそうよね)と内心で納得しつつ、「ふぅ‥‥‥」と息を吐く。

 

「そっか。ありがとう。それから‥‥‥一つ約束してくれるかしら?フェイトちゃんが未来で亡くなってる事は、今のフェイトちゃんとヴィヴィオには内緒にして。貴方もマスターに嘘つくのは本意ではないでしょうけど、お願い」

 

動かずに聞いていたクリスは、先程迄よりキリッとした表情で右手を挙げる。その姿に満足し、忍は立ち上がる。

 

「ありがとう、良い子ね」

 

再度クリスの頭を撫で、忍は部屋から出る。真っ直ぐ外に向かって歩く忍を、ファリンが呼び止める。

 

「御嬢様、お出掛けですか?」

 

「ええ。ちょっと‥‥‥ね。それよりファリン、すずかの方は?」

 

「はい。ノエル姉様が密かに後を追っているので大丈夫だとは思いますが‥‥‥心配ですね」

 

一瞬瞳を閉じ、再び歩き出す忍。

 

(あの子‥‥‥どう見ても自分の力に気付いたわよね‥‥‥)

 

妹の事は心配ではあるが、今はハラオウン家。フェイト達の事だ、きっと何とかしてくれる筈。そう信じて、忍は自身の出来る事に専念する事とした。目的地は‥‥‥‥‥‥。

 

(さてっと。それじゃ、私は頑張らないとね)

 

◆◇◆◇◆

 

同時刻、ハラオウン家。

 

「すずかさん、これから話す事は、すずかさんにとって受け入れ難い事かも知れません。辛い現実かも知れません。それでも‥‥‥真実を知りたいと思いますか?」

 

リンディはいつもの穏やかな口調で、しかし真剣な眼差しですずかを見る。すずかは迷っているようで目は泳ぎ、スカートの裾を掴む手は震えている。

 

「すずかさん、やっぱり止めておきましょうか?」

 

かなり迷ったようだが、すずかは決心をつけたようで、大きく深呼吸。リンディに決意を秘めた瞳を向ける。

 

「‥‥‥いえ。リンディさん、お願いします」

 

「では、すずかさんの力について、詳しい話はノエルさんから」

 

リンディの言葉の後に現れたノエル。すずかは「‥‥‥知ってたの?」と口にして、驚きを露にしている。

 

「はい、御嬢様。今まで黙っていて申し訳ありません。僭越ながら、私が説明させて頂きます」

 

申し訳無さそうにそう話した後、語りだしたノエル。すずかの、月村家の家系や吸血鬼としての力、忍やすずかの事について。

 

全てを聞き終え、すずかはどう受け止めて良いか分からない様子。その表情は暗く、今にも泣き出しそうである。

 

「私‥‥‥やっぱり‥‥‥」

 

堪えきれずに声をあげ当に泣こうとしたすずか。後方で見守るように聞いていたフェイトが、後ろからすずかを抱き締める。

 

「‥‥‥フェイト、ちゃん‥‥‥?」

 

「うん。すずかはすずかだよ。みんなと少しだけ違う力を持ってるだけ。私やなのは、クロノ達とそんなに変わらないよ。だから、大丈夫。それに‥‥‥もしどうしても血が吸いたくなっちゃったら、言って?ほら、私なら1度すずかに吸われてるし、大丈夫だから」

 

「‥‥‥あり‥‥‥がとう‥‥‥ごめ‥‥‥んね」

 

嗚咽を漏らしその場で泣きじゃくるすずかを、フェイトは暫くの間そのまま抱き続けた。

 

◆◇◆◇◆

 

「落ち着いた?」

 

「うん。ありがとう、フェイトちゃん」

 

涙を拭い、微かだが漸く笑みを見せるすずか。

 

「吸血鬼なんて、ずっとお伽噺の世界のものだと思ってた。でも、私やお姉ちゃんがそうだったなんて‥‥‥」

 

複雑な表情のすずかに、黙って見ていたノエルが更に追い討ちを掛ける。

 

「今だから白状しますが、毎日召し上がられるお食事には、忍御嬢様とすずか御嬢様の分だけ血が混ぜてあります」

 

「‥‥‥へっ!?」

 

すずかが驚いたのも無理は無い。そんな血が混ぜてある事など知らなかったし、全く気付かない程自然な味付けだった。

 

「‥‥‥そっか。だからお弁当のある学校にしたんだ‥‥‥」

 

聖祥小の他にも、すずかの家から通える私立はある。よくよく考えれば、その中で給食でないのは聖祥のみだ。

 

成る程と納得した所で、新たな不安がすずかの頭を過る。もう知っているなのはは兎も角、アリサ。

 

「アリサちゃん、本当の事知ったら‥‥‥私の事嫌いになっちゃうかな‥‥‥」

 

「大丈夫だよ、親友だから」

 

すずかと向き合い、両手を握り笑みを向けるフェイト。その笑顔に「‥‥‥うん」と答え、すずかはぎこちない笑みを浮かべた。

 

 

 

その二人の様子を、少し離れ見ているリンディとノエル。二人もホッと胸を撫で下ろしていた。

 

「どうなるかと思いましたけど‥‥‥大丈夫そうですね」

 

「はい。リンディさん、ありがとうございます」

 

◇◆◇◆◇

 

海鳴某所。忍は辺りを慎重に見回し警戒しながら、念話を送る。

 

《シャマル先生、大丈夫でしたか?》

 

《ええ、大丈夫。リーゼ姉妹には気付かれてないわ》

 

いくら二人でも、直接会うのはリクスが大きい。会話は、各々忍がビルの三階、シャマルが一階からの念話。

 

《私がフェイトちゃんに聞いてる未来からは、かなり変わって来ているみたいです。ですので‥‥‥そちらに管理局の情報を逐一流します。上手く彼らの追跡から逃げて、何とかはやてちゃんを救ってあげて下さい》

 

《忍さんは、大丈夫なの?そんな事して見つかりでもしたら‥‥‥》

 

忍はつまり、情報の横流し、スパイをしようという訳である。只でさえ、予定されていた未来と変わり過ぎている。もしもこれが行きすぎて、はやてが救えない未来になったりでもしたら笑えない。

 

《上手くやりますよ。心配なさらないで下さい。連絡は‥‥‥今私が居る場所に、携帯を置いておきますので、メールで》

 

《分かったわ。忍さん、本当に気を付けてね?》

 

話を終えて、携帯電話を目立たないように隠し、魔力を込める。普通の人間にならば見付からないだろうが、シャマルなら魔力を辿って見付けられる。

 

(これで良し、っと。‥‥‥すずかの方は大丈夫みたいだし、後は‥‥‥)

 




期せずしてフェイトとすずかの回となってしまいました。わざとじゃないです。フェイ×すず、な展開にはなりません。決してフェイ×すずにはなりませんです。大事なことなので2回言いました。
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